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同友会は、中小企業の繁栄と、そこで働く全ての人の幸せを願い、地域社会の発展のために活動しています。

今日における中小企業の経営課題

 

この論文は、『21世紀型企業づくりをめざして 中小企業の経営課題―時代の流れ、体制固め、人育ての核心に迫る―』(〈編集・発行〉一般社団法人北海道中小企業家同友会)より抜粋転載したものです。

 

はじめに

 この不況、当初これ程長期化すると予想した人は多くありませんでした。経済の国際的な牽引車をもって任ずるアメリカ・ドイツ・日本。その中でもバブルが弾けたとはいえ、政治も経済も日本が一番安定しているから、少なくとも93年の春頃から景気は徐々に回復するだろうと、見られていました。


 ところが実際には、時が経つにつれ不況感は東京・大阪・名古屋などの大都市から、次第に地方都市に及び、いまでは「売れなくなった」、「儲からなくなった」の声が日本のすみずみから、悲鳴混じりで聞こえてきます。大企業は、血も涙もない人減らし合理化をやり、それが「リストラ」だと平然としています。中小企業は、地域と共に歩み続けてきた経営ですから、そう簡単に首切りなどできません。また、安易な業務縮小は、長い目で見て企業のためになるとは限りません。

 

リストラ5つの基本

 私たちは、この経営環境をどう考え、どう対処すべきなのか、直面している現実を踏まえ、対応策について様々なかたちで論議を重ねてきました。その結果、中小企業のリストラは次のことが大切だと確認されました。


 第1に、労使が経営環境の変化を正確に認識すること。
 第2に、商品・技術・サービスを顧客のニーズに合わせ、他社にはない特有のものを創り出す。
 第3に、社内体制を、攻勢的に切り替え、営業・現場第一主義に徹し、ユーザーのありがたさと厳しさを全社員に実感させる。
 第4に、地域の特性を知り、潜在する可能性を発見し、住民みんなのために貢献する。
 第5に、以上のことを効果的に進めるためには、労使が共に人間としての成長に努める。


 これは、私たちが導きだした結論ではありますが、要約だけでは具体性に欠け、理解しにくいかと思いますので、もう少し分かりやすく踏み込んでみたいと思います。

 

バブルの崩壊と消費者心理

 「バブルが弾けた」と言われていますが、土地と証券のバブルだけでざっと700兆円位と試算されています。これを国民一人当たりに換算すると約580万円、4人所帯なら約2320万円に相当します。もちろんそれは、特別にお金を持った人たちだけの話ですから、当事者のダメージはもっと多額になります。しかし、話を分かりやすくするために次のように想像してみて下さい。


 家計を切り盛りしている若い主婦が、自分のヘソクリ40万円を元手に証券マンに運用を任せていました。「奥さん、いま売れば610万円にはなりますよ」と言われ、ひそかにほくそ笑んでいました。だから、お父さんが貰ってくる給料もボーナスも気楽に使っていました。ところがある日、証券マンから電話があって「相場が下がって、いま売るとなれば30万円位です」と言われたとしたらその主婦は慌てるでしょう。「子供もまだ小さいし、なにかあっても610万円あれば当座はしのげる」と安心していたのですから。しかも、トラの子のヘソクリが10万円も減ってしまったのです。新聞やテレビもしきりに、大企業が「どんどん人減らしを始めた」、「ボーナスも去年より少なくなるだろう」とか「企業の倒産が暮れから春先になってもっと増えるだろう」などと、連日のように報道しています。所帯をやりくりする主婦としては穏やかではありません。当然財布のヒモを締めます。生活費や教育費はそれ程切り詰められませんので、なるべく安いもので我慢する。旅行・レジャー・グルメ道楽などは当分見合わせる。周りを見てもみんなが地味な暮らしをするようになったので、引け目を感じることもない。むしろ、「これが私たちらしい生活のペースなんだ」と、納得しほっとしたような気持ちになっている。いまの消費者心理はこんな状況になっています。だから、日常の生活用品は売れるけれども、値段が高い物は売れなくなっています。昔から言われてきた「分相応の暮らし」が、すっかり庶民の暮らしに浸透したかのようです。

 

庶民の目覚め

 振り返って見ると、途中で多少のデコボコはありましたが、60年代以降の日本は、順調な経済成長を遂げてきたかのように見えます。しかしそれは、大量生産と大量消費に支えられた、いわば「数値上の増量経済」とも言うべきものでした。また、政・財・官の強力な癒着によって、国家財政を極限まで食いつぶし、限られた強者のみが思うがままに利権を貪った繁栄とも言えましょう。


 それに引きかえ一般の庶民は、しゃにむに働かされ、消費を強要され、レジャーに追いたてられ、不安が募る一方の「見せかけの繁栄」でもありました。


 1945年8月、忌まわしい戦争が敗戦で終わった時、失意のどん底におかれた当時の日本国民は、「戦い敗れて山河あり」と、自らに言い聞かせ、戦には負けたけれども、豊かな自然が残っているから、これから汗水流して頑張れば、再び平和な暮らしが取り戻せると祖国の復興を心に期しました。あれから54年、日本の現状は「経済繁栄あれど、民孤独にて、あてどなく荒野をさまよう」ような状態に陥っています。


 「消費意欲の減退が不況を長引かせているんだから、不況を大げさに騒ぎたてるな」と、言う人もいます。しかし、日常の暮らしに必要なモノは売れています。スーパーやコンビニエンス・ストアーの来店客数は、それ程減ってはいません。お客様が不必要に高いものを買わなくなっただけなのです。見方を変えれば、はしゃぎ過ぎの暮らしから脱却しようと、多くの人びとが堅実な生活に戻ったと言えるわけです。だから、現在の状況は“不況”ではなく“普況”だと考えて対応すべきだ、との意見が出ています。

 

ニーズの潜在化、多様化

 このところ札幌近辺では、業種や企業の大小を問わず、ピーク時と比べると売上げがなんと平均で約15~20%程落ち込んでいると言われます。当然利益も減っています。しかし、人件費をはじめ諸経費の節減には限度があり、自己努力の限界に突き当たり、危機感を深めています。この不況をどう乗りきり展望を切り拓いて行くかが、中小企業のさし迫った緊急課題になっています。


 消費者の動きは、①当面なくてはならないものを、②なるべく安く、③手っ取り早く、④シンプルで長持ちするものを、の傾向を強めています。ひと頃のファッション性が大きく後退しています。それでひとまず、品物の必要性や使い勝手をじっくり試し、これからの長期的な生活設計とのかかわりで買い替え構想を練りあげて行きます。


 このところ、わが家では台所の改造をはじめ家電製品の買い替えが相次ぎました。冷蔵庫・炊飯器・居間の照明器具。どれも10年から20年使い続けてきたのですから当然です。我が家の主婦は41年勤続のベテラン。幸いわが家の資金繰りはそれ程苦しくはありません。どんな新製品にお目にかかれるのかと思っていたら、3つ共に、「前より機能が単純で安いもの」に変わっていました。むろん生活にはなんの不自由さも感じません。


 カタログを見ても、店員さんの説明を聞いても、「新しい型式のほうが良い」とはいうが、どれも余分なものがくっついていて値段が高い。我が家の生活実態を詳しく聞き、家まで来てきちんと説明してくれたお店は一軒だけだったそうです。今後おそらく、家電製品は家内のお気に入りになったその店から買うことになりそうです。「誠実で、私の立場になって考えアドバイスをしてくれたし、近いから」と言うわけです。そのお店は、これから続出するだろう我が家の家電関係の潜在需要を、先取りした気配です。


 以上卑近な例で恐縮ながら、要は、新しい商品も技術も、お客様が自分の本音を洗いざらいさらけ出して相談を持ちかけたくなるようなサービスが決め手の時代になったということです。

 

積極的なサービス体制を

 人間、自分をすべてさらけ出すにはなかなか勇気が要るものです。気が張らずにいろいろ話し合っている中で、いつしか本音で話をしている自分に気付くことがあります。①競合する利害関係がない、②お互いに相手のことを考え好意的である、というのがその条件です。


 ビジネスでも、本当にお客様の立場になって相手の要求を聞くことができれば、どんなことをしてあげれば良いかが分かってきます。①商品の選択サポート、②搬入と取り付け、③性能の説明と使用上の注意、④定期的な声かけ点検、⑤潜在ニーズの引き出し、これは、どんな商売にも共通するサービスの流れであり心掛けです。


 問題は、「それは営業課の仕事」だとか、「いや工事課だ」とかと、忙しさにかまけて責任のなすり合いをしているうちに、結果としてお客様不在になってしまうことなのです。中小企業は人が有り余っている会社など一社もありません。だから、全員が営業マンであり、工事課員であり、サービス係なのです。


 昔私はほんの少しバレーボールをやったことがあります。6人制のバレーボールは、全員がレシーバーであり、アタッカーであり、コート全部が自分の守備範囲です。9人制は、前衛、中衛、後衛と分かれ、それぞれに役割がほぼ決まっています。前衛はノッポでなければならないし、後衛はむしろ敏捷なチビのほうが良いのです。私はチビですから後衛要員でした。そして思うことは、「9人制は大企業」、「6人制は中小企業」の組織的機能に似ているのではないかということです。つまり大企業は9人いるから、分業でもやっていけるけれど、中小企業は6人しかいないのです。だから全員がアタッカーであり、レシーバーであり、セッターでもあらねばならず、各自が名サーバーでなければ勝てないのです。しかも、高度な試合は、千変万化のスピード攻撃と微妙なオン・ザ・ラインのボールを、どう的確に捌くかが決め手です。


 現在の中小企業を取り巻く経営環境は、経理、総務、企画などと部署の名前にこだわらず、全員が積極的に外に出てお客様に接して徹底してその声を聞くことが求められています。企業間のせめぎあいは、従来の業種、商圏、を超えて激しく展開されています。ボーダレス(境目がない)時代と言われるゆえんです。まさに、商売の苦労を現場で体験してみることは、現代を一人前の大人として生きる上での必修教程と言ってもよいでしょう。


 従って、いま中小企業は、それぞれの仕事はとことん責任を持って早くやり遂げ、余力はすべてお客様との接触に使うように、体制を切り替えるべき時なのです。そこから、お客様との信頼関係が構築され、社員みんなが「苦楽を共にする仲間」としての強い絆も生まれます。

 

地域と共に歩む中小企業

 中小企業の誇るべき特性は、地域の必要に応えて生まれ、地域の人びとに支えられて成長してきた点にあります。さらに、労使が共に同じ地域を愛し共に暮らしていることです。


 過日静内で、ある回転寿司屋さんに案内されご馳走になりました。そして、あまりのおいしさに驚きました。私は仕事柄、札幌や東京の回転寿司屋さんには随分お世話になっています。でも正直言って、「おいしい」と思ったことがありません。簡便で安いからと諦めていました。ところがそれは早トチリであって、回転寿司屋さんでも、誠意と工夫次第でおいしい寿司がお客様に提供出来るんだと教えられました。


 遠方からの一見の客が主な大都会では「簡便・安価だ、文句あるか」でも、なんとか商売を続けられるでしょう。でも、日頃から鮮度の良い魚介類を食べ慣れている静内では、地元の人が「うまい」と感じてくれなければ、お寿司屋さんは商売がやっていけません。長距離トラックの運転手さん、観光客も大切なお客様でしょうが、地元での人気や自慢が口から口へ伝わって、外部からのお客様も立ち寄ってくれるわけです。


 どんな商売であれ中小企業は、地域の人びとの要求に応えて行かなければなりません。労使が共に汗し、共に喜び、共に感動を味わえる人間の集団であってこそ信頼が得られます。地域の暮らしを支え、人を育て、文化を創造するセンターとしての役割も大事です。だからこそ同友会は、「地域と共に歩む」姿勢の大切さを訴えてきたのです。

 

労使の育ち合いが基本

 冒頭に、北海道同友会が要約した「リストラ5つの基本」を紹介しました。それは、ごく当たり前の経営常識とも言えます。しかし、①正しい情勢認識、②商品・技術・サービスの改善、向上、③攻勢的な社内体制の確立、④地域密着型経営、を全面的に高い水準で実現するためには、人間的総合力が必要です。まさに企業は人なりなのです。


 私たち北海道同友会は29年前に発足した際に、あの「高度成長」の終焉が近いことを予見し、いち早く自前で共同による社員教育に取り組んできました。その経験から、まず誰よりも経営者が学ぶこと、それも身近にいるお客様や社員から謙虚に学ぶ姿勢が大切だと気付きました。さらに、「教育は共育」だと確認し、その実践を呼びかけてきました。


 私たちの合言葉は、①知り合い、学び合い、援け合い、②きばらず、急《せ》かず、諦めず、③激動を良き友とする経営者になりましょう。であり、一貫してそれを実践してきました。なかでも「労使が共に育ち合う」社員教育に力を注いで参りました。


 合同入社式における記念講演から始まって、マナー教室、フォローアップ研修会、営業マン教室、現場主任・部長・新役員等の各種研修会。さらには、大学の先生方のご協力をねがって、科学的・社会的・人間的な物の見方や考え方ができる力を養う同友会大学まで、多面的に取り組んできました。


 今となれば、社員教育に力を入れることは当たり前です。しかし、29年前に経営者が行う社員教育で「豊かな人間性を育てる社員“共育”」を提唱したのは、わが同友会だけでした。

 

リストラは同友会で学んでこそ

 1969年11月22日に発足したわが北海道中小企業家同友会は、お互いに、①一時的な風潮に惑わされることなく、科学的な判断力を養い、②企業の社会性を忘れずにその責任を果たし、③人間を真に人間として尊重する社風を確立する、ことを目指して学び合ってきました。発足当時は30名足らずの会員でしたが、現在は5100名の会員を擁し、道内各地で地域の活性化に一定の貢献ができるようになりました。それは、会員の一人ひとりが友であり、教師であることを心掛け、自主・民主・連帯の精神で、援け合いながら学び合ってきた結果です。最近では「同友会で勉強しておられる経営者は、一味違う重厚感があり、安心してお付き合いができる」と、お役所や銀行の方がたから言っていただけるようにもなりました。


 私たちは、いつも現実を直視し、身近な悩みや問題を出し合い、本音でリアルに論議し、学び合ってきました。①ベース・アップやボーナスの腹づもりアンケートを基にした情報交換 ②賃金体系・労働時間の短縮を含めた就業規則の見なおし ③持株・持ち家制度の問題点 ④退職金制度とその資金面での対応策 ⑤資金調達と銀行取引の進め方について ⑥求人・教育活動を進めるための体制整備 ⑦組織と人の活かし方等など、経営に関するあらゆる問題について学び合ってきました。発表者になった方は、今までの経験や知識の総点検をして例会に臨みます。それが「何よりの勉強になった」と、経験された皆さんが異口同音におっしゃいます。


 同友会は、「学び方を学ぶ」ところといわれます。それは、同友会の例会で学んでいると、「有名人や、専門家の話にだけ価値があり、日常身の回りで起こっている事や、素人の話の中には教訓らしいものはない」と考えることは、自分自身に力量がないことなのだ、と気が付くと言うことなのです。また、自分が関心を持っていること、すぐ役に立つことだけに興味を持ち、その他の話には関心を示さないのでは、もはや世の中の変化について行けない時代なんだ、と気付かされると言うことでもあります。


 同友会が目指す3つの目的は、分かりやすく要約すると次のようになります。


①自力で良い会社をつくろう。
②現代の経営者にふさわしい人格と力量を身につけよう。
③誠実な努力が、真っ当に評価される経営環境づくりに努めよう。


 そのために、私たちは『自主・民主・連帯』の精神を大切にしてきました。そして、『地域と共に繁栄する』姿勢を堅持してきました。その結果、この不況の中でも、会員企業はおしなべて堅実に頑張っています。