同友会の社員教育の考え方
1995年5月9日 発行
『北海道同友 第27回定時総会特集号』より転載
今、様々なところが社員教育をやっており、その考え方を整理すると次のようにまとめることができます。
① 人間を極限状態にまで追い込み、思考を停止させて、ある行為を強制的にやらせる「特訓」の類です。これはとうてい教育とは言えず、人間を獣のレベルまで押し下げて、ムチで調教するようなもので効果も持続しません。
② 人間を興奮と催眠状態にし、おだてて自信をつけさせ、マインドコントロールする「自己啓発セミナー」の類です。しかし、このやり方では知的な力が蓄積されず、激動の時代を生き抜く確かな人間力が養われません。
③ いわゆる「マニュアル教育」です。「マニュアル」はわかりやすく作られていますので、一見速効性があるように錯覚します。しかし、人間は育った環境も違い、個性的で多様な存在です。同じ人間であっても、気分感情は常に変化しています。ですから、人間を相手に商売をしている限り、万人に通用する完全なマニュアルなど作れるはずはないのです。マニュアル教育の部分的・一時的・段階的な効果を認めつつ、その限界性もきちんと押さえておくことが大切です。
④ 人間を歴史的かつ科学的にとらえ、科学的認識力を高め、中小企業で働く意義と人生とのかかわりをしっかりと理解し、人間としての誇りにかけて自ら成長していく力を育てる教育です。同友会の社員教育は、基本的にこのような考えに立っています。
この教育理念は、人間を社会環境から切り離し、心や精神のあり方を一面的に強調する宗教的・道徳的な教育とは違います。心や精神のあり方を一面的に強調する教育は、人間を社会的存在として科学的にとらえておりませんので、結果としてあまり効果は期待できないでしょう。
以上の4つの社員教育の考え方を大きくわけると、2つの流れがあることがわかります。ひとつは、基礎的学力を軽視し、知性を豊かに育てる視点を欠き、感情や感覚面を特別に重視する流れです。第2は基礎的学力や科学的認識力を重視し、豊かな知性をベースに豊かな感性を育てようとする流れです。「できないのも個性のうち」とし、「関心・意欲・態度」を一面的に重視し、「基礎的学力」を軽視する「新学力観」が学校教育の中に広まりつつある現在、人間として確かな未来を保障するものは何かをしっかりと見定めなければなりません。
「学習権とは、読み書きの権利であり、問い続け、深く考える権利であり、想像し、創造する権利であり、自分自身の世界を読みとり、歴史をつづる権利であり、あらゆる教育の手だてを得る権利であり、個人的・集団的力量を発達させる権利である」と謳う「ユネスコ学習権宣言」はそのための指針です。今後とも、この「学習権宣言」を基本にすえた社員教育をすすめてまいりたいものです。