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【71号特集2】新卒採用の視点で考える、魅力ある企業づくり

2023年01月26日

新卒採用の視点で考える、魅力ある企業づくり
―入りたい、入って良かったと思ってもらえる会社をめざして―

 

㈱恒栄工業 代表取締役 上原 伸也(札幌)

 

 新卒採用ゼロの危機から、魅力ある企業づくりへ。労務改善や様々な制度を構築実践、今の若者に魅力的で、かつ活躍できる人材を育てる会社づくりに取り組んだ上原氏の実践から、人を生かす経営を学びます。

 


 

 当社は1978年に父が創業した設備工事会社です。私は大学卒業後銀行に入りましたが、2007年、後継者として恒栄工業に入社しました。

 

 父は継続・成長・発展と環境適応が経営において重要と考えており、私はそれを引き継ぐことが使命と思っています。しかし当時のわが社は、長時間労働は当たり前、休日出勤もおかまいなし、会議などは勤務時間外にやることが暗黙のルールになっていました。私はそのことに後ろめたさを感じていたにもかかわらず、いつの間にか誰よりも働いて「そういうものだ」とすっかり順応してしまっていました。

 

 当社の経営理念には「豊かさ」という言葉が出てきます。創業後早い時期に経営理念や指針をつくり、年度計画をもとに業務を遂行する等、真面目に経営に取り組む会社ではありましたが、あの頃を振り返ると、時代に合わせた「豊かさ」のブラッシュアップが必要だったのだと思います。

 

外部環境の変化~新卒採用改革元年~

 採用し続けることは企業が生き残っていくための必須条件です。当社は特に新卒採用に力を入れています。募集している職種は施工管理職(=現場監督)で、主に大学や専門学校で学んだ人が対象です。それまでの採用活動は、夏休み頃に担当者が学校訪問を行い、同友会の合同企業説明会に参加する程度でした。しかし年々学生は来てくれなくなり、年によっては年度末ぎりぎりに採用が決まるような状況で、2015年はいよいよ新卒採用がゼロになりました。

 

 そこで何とか新卒を採用したいと思い、共同求人活動に参加しました。最初に出席した行事は学校の先生方との懇談会です。そこで初めて、自分の新卒採用現場のイメージと先生や学生の状況が大きく隔たっていることに気がつきました。ある先生曰く、「昔は頑張れば報われた。でも今の若者は自分たちの親世代の状況を肌で感じながら、果して頑張って報われるのかと、未来に希望を持てずにいる」と。

 

 学生を取り巻く環境は大きく変わっており、少子化や教育問題など本気で勉強しなおさなくてはと痛感しました。と同時に、当社の社風や方向性に合わせて改革していくためにどうしたらいいかを真剣に考え始めました。

 

 共同求人委員会とそのメンバーは環境の変化を敏感にとらえていたので、委員会に入り学習会に欠かさず参加しました。進んだ取り組みをしている会社を訪問しては話を聞かせていただき、当社に合った働く環境改善の糸口を探しました。

 

まず働く環境改善から

 改めて振り返ると、財務が安定し社員間の仲が良い社風が当社の強みでした。若者が採用できない事態を受けて2016年から、採用は全社員の総力でと総員採用に舵を切ると同時に、数年かけて考え続けてきた働く環境づくりのアクションプランを実行に移していきました。

 

 自社改革の方向性が見えたころ、採用したい大学の先生に「当社の現状と課題はこうで、来年からこう変えていく予定で進捗は毎年報告させていただきます」と説明に行きました。そのかいあって2018年、先生の紹介で大卒を一人採用することができました。

 

 優秀な若者で、どうして当社に来てくれたのか本人に聞くと「建設関連会社を回ったが、労働環境について説明してくれるところはどこもなく、恒栄工業だけが、トップがあきらめなければ環境は毎年少しずつよくなっていくと話してくれたので入社を決めた」と語ってくれました。これ以降建設業界の残業規制が厳しくなるので、たまたま早めに手を打ってきたことが功を奏したという感じですが、取り組みをしていなければそれもなかったと思います。

 

 一方、もし彼が数年のうちに辞めてしまったら先生を裏切ることになってしまうのはもちろんのこと、総員採用ムードの会社全体の士気にも大きく影響するので、この改革を絶対に成功させなければというプレッシャーはより強くなりました。

 

 

定着化と成長支援~わかりやす化と共通化~

 先代の時から当社には委員会制度があります。社内親睦・社内報・車両管理等々、全社員が部署も年齢も問わず5つの委員会に所属し、目的に対して話し合いながら活動するなど、横断的なコミュニケーションの場になっています。こうした元々ある社内風土を生かした上で、定着化に向けて研修の充実と制度の見える化・共通化を図りました。

 

 新人教育では技術研修を充実強化しました。今までは入社後1~2週間はいろいろな部署を回り、何時間か話を聞いて後は現場任せでしたが、基礎研修・技術研修・CAD研修など、数カ月かけてきちんとやることにしました。7月から現場仮配属にしますが、必ず夕方5時に帰社してもらい部門長に直接1日の報告をさせ、1日1回はコミュニケーションを取るよう工夫しました。また技術研修だけではなく、社会人基礎力アップのため読書感想や目標設定研修なども行っています。 

 

 制度の見える化・共通化としては、明文化されていないたくさんの事項を社員に出してもらい、制度化すべきか否か一つひとつ整理し改善してきました。オフィスリニューアルを機に社内資料も図面もシステム化、データ化し、どこにいてもデータにアクセスできる環境を整えフリーアドレスを実現。さらには、たくさんできた手順書もポータル化し、探しやすくしました。このような取り組みで、多少の退職はありつつも確実に在籍者が増えてきています。

 

現場のようす

 

若者の最大の試練!

 現場監督というのは一人前になるまでとても時間がかかります。やることは工程管理、品質管理、安全管理、原価管理などですが、いくら研修を充実させても最終的には配属先で経験し現場監督の動きを見て覚えるしかない、習得の難しい仕事だと思います。

 

 2018年、私は社長に就任し、最初の経営計画書で「社員の成長=会社の成長」という重点方針を掲げ、社員の成長のために今取り組むべきことは何で、その結果会社と社員にどのような効果をもたらすのかを図式化して社員に説明しました。またスキルの見える化が難しい施工管理職の習得すべき能力を、幹部社員に協力してもらってあえて見える化に挑戦し、成長指標としました。

 

 社員の戦力化には共育ちがとでも大事です。メンター制度のようなフォロー体制を整えたり、現場引継ぎの工夫をしました。たとえば、新人がA現場からB現場へ移るときは、それぞれの現場監督と部門長が新人の成長指標の到達度や特性を踏まえ、次の現場で伸ばすことやそのために何を経験させるか等を、明確に引き継ぐようにしました。現場のリーダーは大変ですが、単なるテコとして若手を配属しているわけではなく、彼らの成長を目的としていることを粘り強く伝え続けている最中です。成長指標を明確にしたからこそ可能になったことの一つだと思います。

 

 加えて共育ちと給与アップを連動させた制度「考課連動型成長支援制度」を取り入れました。自分はもちろん後輩の成長を行動計画に盛り込み、その行動結果を評価するものです。一般的な評価制度は結果を出す人が評価され、それができない人はなかなか評価されず、ややもすると個人主義に陥る恐れがあると常々感じていました。

 

 当社のようにせいぜい数十人で全員の顔が見える会社では、取り残される人をなるべく減らせる仕組みの方が効果が高く、また社風にも合うと考え、自分のためでも仲間のためでも目的を持った行動計画をやり切ることを評価し、成長を支援し合うことを後押しする制度を取り入れました。

 

社内ミーティング

 

考える力、壁越え体験

 社会人になる前の若者の成長を取り巻く環境は、社会情勢や家庭・教育現場の変化を背景に、今と昔では全く異なると言えます。こうした背景により最近は、自分の苦手とすることや未経験のことに向き合う力が弱く、目の前の壁を越える前に精神的にまいってしまう人が多いと感じています。苦しんで乗り越えた瞬間、自分の能力が開花するという経験がほとんどありません。

 

 これからの若者教育のポイントは、研修はしっかり行い、ルールや作業手順をきっちり整備することです。そのうえで、なぜそうした基準やルールが生まれたのかを逆に考えさせ、ものの意味や本質を考える癖をつける。この順序が今の若者に効果的なのではないかと考え、今年から月1回、私の主催で「ルールや行動規範の意味を考える研修」通称「なぜなぜ研修」を試みています。

 

 また、壁越えに必要なのは「ハードルに対峙する姿勢」と「精神的に支えてくれる人の存在」だと思います。新卒を受け入れたからには必ずハードルを越えさせ、能力が開花する瞬間を経験させたいと願っています。
 

 ある新卒入社の社員が資格を取って初めて、小中規模の現場を任されたときのことです。プロジェクトをマネジメントするのが現場監督の仕事です。今まで上司の指示の下、一つひとつのことはできていたのですが、いざ自分が現場責任者となると混乱してしまい、会社のフォロー体制に不満をぶつけるようになりました。

 

 何とか全員で支えて乗り越えることができ、その後見事な成長を遂げています。本人ももちろん頑張りましたが、社風が無ければ支え切ることもできなかったでしょうし、会社は覚悟して壁を与える時代なのだろうと感じています。本人は「あの苦しい経験は必要だった」と言っていたそうで、壁を越えた経験は何物にも代えがたい財産として、必ず彼の土台となることを確信しています。

 

永遠に続く改善活動

 私の採用手法はいたってシンプルです。①若者の外部環境を理解する気持ちを持つ②良い会社づくりに向けて頭の整理と実践③そのことを先生と学生に正直に伝え「来年また来て結果を報告します」と宣言する。私がやっていることはこれだけです。

 

 社員定着のための究極の方法は、会社の考えに共感する人を採用することです。定着率のいい会社はここを大切にしています。当社の労働環境は完ぺきではありませんし、まだまだ課題はたくさんあります。

 

 この間会社の制度をガラッと変えてきましたが、次なるステップに進むために「社員満足度調査」を行いました。この調査は自分への通知箋ですからやると公表するまでとても葛藤しました。調査結果は、後ろめたかった労働環境の満足度が5段階評価で、半分以上の社員が4以上をつけてくれ、少しほっとしました。

 

 社員にとって良い会社かどうかは、エンゲージメント(愛着)の高い会社かどうかです。その究極は、社員がほかの人に当社を紹介したいと思うかどうかが指標になると考えます。私がこれからやるべきことは、この社員満足度調査の結果をきちんと分析して差を埋め、本当にエンゲージメントの高い会社をめざすことです。

 

(2022年10月7日「第37回全道経営者〝共育〟研究集会with全道青年部・後継者部会交流会in札幌」第4分科会より 文責 鈴木 智子)

 

㈱恒栄工業 代表取締役 上原 伸也(札幌)
■会社概要
設  立:1978年
資 本 金:5,000万円
従業員数:30名
事業内容:設備工事業(冷暖房・空調設備工事、給排水・衛生設備工事、リニューアル工事、セントラルヒーティング工事、Fact・ロードヒーティング・ガス工事)