【71号特集2】ソーシャルファーム(障がい者も健常者も共に働ける会社)をめざして
2023年01月26日
ソーシャルファーム(障がい者も健常者も共に働ける会社)をめざして
―人が生きる経営実践―
NPO法人ワークサポートフレンズ/ピリカ㈱ 理事長/代表取締役 亀海 聡(比布)
亀海氏は京都同友会にて自らの三命、宿命・運命・使命を振り返り、「これから自分は何をするか」を考えた時、「障がい者と健常者、ともに働けるソーシャルファームをつくろう」と思い立ちます。人間尊重経営とはなにか、人が生きる経営から障がい者雇用を考えます。
私はNPO法人ワークサポートフレンズの理事長と同時に、ピリカ株式会社の代表取締役も兼任しており、今回のテーマにも入っているソーシャルファーム、社会的企業をめざしています。今日はそのソーシャルファームと全道障害者問題員会が掲げる「人が生きる経営」について話していきたいと思います。
目を輝かせて働く姿
私は京都の大学に進学し、1999年に京都市内の精神科病院にソーシャルワーカーとして就職しました。そこは他の病院では対応困難と断られるような患者さんばかりの、いわば最後の砦のような病院でした。実は日本の精神科病院の平均滞在日数は、300日弱と世界第一位です。病床数も世界一位です。他の国々は1952年の向精神薬の開発により、1960年ぐらいから精神科病院をどんどんなくしていったのですが、日本は逆に民間病院を増やし、患者さんたちを閉じ込めていきました。医療の名のもとに、自由が奪われてしまった患者さんが沢山いたのです。
そんな入院患者さんたちを地域に戻すため、不動産業者と協力して生活保護や年金の手続きを行い、アパートへ退院させることが私の仕事でした。退院後はアパートからデイケアに通うことになるのですが、当時の精神医療の風潮として、精神障がいの方は働かせてストレスをかけるべきではないと考えられていた時代でした。デイケアでも作業などをしてもらうわけではないため、利用者さんたちは何もせず、ボーッとして時間が過ぎるだけの状態でした。
1999年の秋、あるハンバーガー店から搬入の仕事をもらうことができました。障がい者に理解のある方が店長でした。業務内容は週3回、6人程度のシフト制でした。利用者さんの中には調子が悪いと出勤できなくなる人もいるため、私がシフト管理を行い、仕事に穴を開けないよう工夫しました。私がそこで見たのは、利用者さんたちが目を輝かせて生き生きと「働く」姿でした。何もしていないときと比べ、目の輝きが違ったのです。しかし、デイケアスタッフからは「生活保護をもらっているのに、なぜわざわざ働かせるのか」と責められました。
重度の知的障がい者を多数雇用する日本理化学工業の大山泰弘会長が言われていた言葉があります。①人に愛されること②人にほめられること③人の役にたつこと④人から必要とされること。この4つが「人間の究極の幸せ」であり、これは働くことで得られるものだということです。この言葉が私の腹に落ちました。人は、社会とのつながりがなくなると、自分の存在意義を感じにくくなります。特に精神疾患の人は自分に自信が持てず、自己肯定感がすごく低い人が多いため、仕事をして自信をつけていくと、だんだん元気になるのだと感じています。
ハンバーガー店の仕事は5年後、事情により続けられなくなりましたが、2008年に「障害者自立支援法」ができ、私は「ヒューマンプラス」という精神障がい者を対象とした就労移行支援事業所を立ち上げました。当然ですが、日中働いて活動すると夜はしっかり眠れるというリズムができますので、睡眠薬も減らすことができ、皆さん元気になっていきます。最低限の基礎体力をつけることも一般的な生活をするうえで必要なことですし、私自身は働くことは治療とイコールだと思っています。
「人間尊重の経営」を追求する中小企業経営者たち
就労移行支援事業所は、入所者を2年で卒業させなければいけない決まりがあるため、私は精神障がいの人たちへの理解を求めようと、京都同友会の障害者問題委員会(現IS委員会)に顔を出すようになりました。率直な感想として、中小企業の社長さんたちが障がい者雇用について本気で考え、議論していることにすごく驚いたことを覚えています。
なぜこんなに熱心なのか不思議に思って聞いたところ、「人間尊重の経営」「人を生かす経営」があり、その延長線上に障がい者雇用がある。そこには健常者や障がい者といった区別はないというのが衝撃的でした。すごいことを考える団体だと思い、一気に同友会にはまっていきました。
では、ここで言う「人間尊重の経営」とはどんなものなのでしょうか。命とはそもそも一つひとつ違い、かけがえのないものです。そこから自主の精神、個人の尊厳性の尊重へとつながります。続いてすべての人の命の重さは平等という考え方から民主の精神が生まれてきます。最後に一人ひとり違った力を持っているので、お互いを補い合い、支え合って生きていかなくてはならないという観点から、連帯の精神、つまり人間の社会性の尊重が出てきます。この3つが融合し、同友会で言う自主・民主・連帯の精神、人間尊重の経営が生まれるのです。
めざすはソーシャルファーム
ソーシャルファームとは、簡単に言えば「健常者も障がい者も共に働ける会社」のことです。イタリアで発祥し、現在はヨーロッパを中心に広がっています。日本では東京都でのみ条例化されています。
現在の日本の法廷雇用率は2・3%ですが、満たない企業が多いのが現状です。障がい者施設では品質サービスが一般市場に劣るため、工賃が大変低い現状となっています。ソーシャルファームはその中間となり、社員のうち25~50%が障がい者になり、一般市場との売買で売り上げをつくる普通の会社です。しかし、障がい者と健常者を比べるとどうしても効率が変わってくるため、そこを補うために給与補填の制度があります。
この制度は通常の雇用の場合、健常者が働ける仕事量を100%として、障がい者は60%分しか働けないとしたら、企業は60%の給与を払い、残りの40%は国が補助金で補填するという制度です。東京都では給与補填もされていますが、ぜひもっと広まってほしいです。あくまでも私の考えですが、中小企業こそ障がい者雇用を行なっていくべきだと考えています。条例化が全国に進んでいけば、もっと障がい者雇用が進むと思います。
誰でもできる、みんなでつくる
京都では、私は「人を生かす経営実践道場」にも参加し、宿命・運命・使命の三命から掘り下げていく自己姿勢の確立に向き合いました。「何のために生まれたのですか」という宿命、「どうやって生きてきましたか?」という運命、「命を使ってやり遂げることは何ですか?」という使命。これを考えるために自分の半生を振り返り、自分の使命として出した結論が「ソーシャルファームを根付かせたい」という思いでした。
そこで私は2011年に地元北海道に戻り、6次産業と農業をやろうとピリカを起業し、同友会にも入会しました。京都で感じた「働く、体を動かすことは治療である」という経験をもとに比布町で「ピピファーム」という農業を始め、2014年にパン屋「ピピマルシェ」、2016年に「ピピカフェ比布駅」をそれぞれ立ち上げています。
2015年、私は経営指針研究会に入りました。障がいがあっても対等に一人ひとりの能力を生かせる会社を設立し、農薬・化学肥料・添加物を使わない農作物を栽培したいと考えていたからです。しかし、研究会で学ぶうちに実は真逆のことをしていたことに気づきます。一見順調に進んでいたようで、私には大事なことが見えていなかったのです。
農場は両親と弟を中心に任せていたのですが、家族が一番上で、底辺の仕事は障がい者が行なっているというピラミッド型になっていたり、農作物も父親が農薬や肥料を入れないと美味しくできないと思って使っていたりと、私の設立時の考えがまったく伝わっていませんでした。信用して任せたつもりが、実は丸投げ放任状態だったということです。研究会で学ばなければ、このことに気づいていなかったかもしれません。
その後私は結婚し、妻と共に改めて会社の基盤づくりを行いました。ピリカでは障がいを持った社員がリーダーを、その上のマネージャーには健常者が就いていますが、今後は障がいを持ったリーダーの中からもマネージャーが出てくるような動きを考えています。フレンズでは職員として支援員を配置しています。支援というと、どうしても上からの目線になりがちですが、彼らの役割はピリカの社員がうまく働けるように、下から支えることだとスタッフに伝えています。支援員は下からピリカ社員の仕事を支えていて、その下にサービス管理責任者、理事、理事長と続く組織づくりを行っています。
この時に心がけたことは「誰でもできる環境づくり」「みんなで作るみんなの会社」です。例えばアンパンやクリームパンをつくる時には餡の量を量って包むのですが、べたついたものを包むのは結構高度な技術が必要です。餡を製氷機で固めることによって餡の分量を量る必要はなくなります。固形のものを包むことで難易度が低くなるため、整形できる人数が一気に増えます。「○○さんならできる」から「誰でもできる」環境をめざして取り入れていきました。
「みんなで作るみんなの会社」は、社内で全体経営会議として月1回社員全員からアイディアを出してもらい、それをまた経営に取り入れるというサイクルを始めました。
自分のためから人のためへ
全道障害者問題委員会では、以前から「人が生きる経営」にこだわっています。東京大学名誉教授で日本教育学会元会長でもあった大田堯先生が『共に育つ1』の本で語られている中に、「人はめあてを持ち主体的に生きる動物です」と書かれています。
めあてが原動力となることで目が輝いていきます。また、人は一人ひとり違いますが、その「違い」は個々人の「持ち味」となり、それを生かせる出番をつくることで人はやる気を出すのだと先生はおっしゃっています。つまり「人が生きる経営」というのは個人が目的となる「めあて」を持つことができ、その人の持ち味を生かせる出番がある経営をめざすことではないかと私は思います。
近頃、社会全体が歪んでいっているのではないか、幸せを感じられず、孤立、孤独の社会になっているのではないかと危惧しています。私たちが望んでる暮らしというのは、人間らしく生きることや持続可能な地球環境ではないかと思います。
最近のグローバル・自由主義経済は、強者の自由で儲けるためなら何をしてもいいという感じを受けます。極論ですが、人の命までもが儲けの対象になっていると思います。それを自分のための労働から周囲を楽にしていくために働く、という方向にシフトしていくことで活力ある地域共生社会の実現をめざしていけるのではないでしょうか。そのためには同友会理念と、それに基づく同友会運動を広げることが重要だと私は思っています。
(2022年10月7日「第37回全道経営者〝共育〟研究集会with全道青年部・後継者部会交流会in札幌」第6分科会より 文責 増田 賢宣)
NPO法人ワークサポートフレンズ/ピリカ㈱ 理事長/代表取締役 亀海 聡(比布) ■会社概要 設 立:2011 年 従業員数:7名 事業内容:障がい者の就労支援 |