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【71号特集2】社員による自発的なES・CS活動はなぜ実現できたのか?

2023年01月26日

社員による自発的なES・CS活動はなぜ実現できたのか?
―小さな自信と大きな成長 2:6:2の6が動けば会社が変わる―

 

UDトラックス道東㈱ 代表取締役社長 金尾 泰明(帯広)

 

 会社に関するアンケートを取ると必ず期待の上位に来る「風通し」。しかし、その言葉は抽象的で、それだけでは社員とのギャップを埋めることができません。「結果を求めず」「否定をせず」「気づきと行動」に特化したUDトラックス道東流のES(従業員満足)・CS(顧客満足)活動が会社の社風と社員の意識をどう変えてきたか。金尾氏の報告から学びます。

 


 

 当社は埼玉県上尾市にあるUDトラックスという自動車メーカーのディーラーです。1971年に設立し、今年51年目。本社は帯広市で釧路市・北見市に支店があり、その他3営業所で道東一円をカバーしています。私は2011年に父から事業承継し、代表取締役に就任しました。

 

 

壊れてしまった社風を一からつくりなおす

 「社風」とはなんでしょうか。私は「風」と入っている以上、自然の風と同じで社風は安定するものではないと考えています。最高の空気だと思っていた部署が一カ月後には最悪の状態になっていることもあります。決してエアコンのようにボタン一つで良い状態になるわけでなく、一人ひとりが意識しないと良くならないものだと社員に伝えています。

 

 当社がES・CS活動を始めたきっかけは、変わらざるを得なかったからです。当社は1994年に87億円と売り上げのピークを迎え、その後一度も上がることなく右肩下がりを続けます。一時は47億円とピークの半分ほどまで落ちました。私が代表に就任したのは、気合と根性だけでなんとかそれを脱したタイミングです。経営者も社員も、会社全体が疲弊していました。残業は当たり前、整理整頓も行き届かず、挨拶すらできないような状態で社風のことを考える余裕はありませんでした。

 

 代表に就任したことで何か変えたいと「自主・自立・自由」を大事にするという方針を掲げることを社員に伝えましたが、評価・反応は散々。「社員に自立を求める前に何か変えようとしたことがあるのか」「毎日夜中まで働かせておいて自由もなにもあったものか」「経営陣から自主的に物事を考え、変えていく姿を示せ」と、蓄積された社員の本音が噴き出しました。それも当然です。私は代表就任以前から役員でした。

 

 それまで役員として何ひとつ行動しなかった人間が、社長になったからといって突然信頼を得られるわけがありません。2年ほどまったく信頼が得られず、どうしていいかわからなかった私は精神的にも限界を迎え、全社員が集まる組合大会の場で突然無記名のアンケートを取ることを宣言。社長批判、上司批判、会社批判なんでもありで、とにかく思っていることを書いて出して欲しいと伝えました。

 

 数週間後、凄まじい内容を見ることとなりました。部下を見ようとしない上司への不満や変わろうとしない経営陣への批判、「こんな会社、世の中からなくなってしまえ」と本気で書かれました。アンケートは役員全員に共有し、社員との関係性を一から見直すことを決心しました。

 

 

ES・CS活動のスタート

 そのような経過があり、当社の改善活動は2012年からスタートしました。コンセプトは「自由で大らか」「小さな違和感を大切にしよう」です。大きな挑戦をして頭を悩ませるよりも、「小さなことに気づき、とにかく行動に起こすこと」を大事にしました。

 

 具体的には、簡単な報告様式を用意し、日々の仕事で「こうしたらより良くなるのでは」と気づいたことを気軽に提案・報告してもらいます。報告された内容は社内報などで社内に共有します。そして、出された報告すべてに対してギフトカードを贈ります。これを日常に落し込むには、3つのポイントがありました。

 

 1つはとにかく簡単に報告できること。予算も効果も一切聞かず、内容に対して比較も優劣も付けません。報告様式もA4・1枚のシンプルなものを採用しました。評価とは無関係であることも徹底し、とにかく出しやすいことを大事にしました。2つ目は職場・上司の説得です。日本の上司はとにかく褒めるのが苦手です。小さな気づきと行動を大事にしたかったため、どんな小さなことでも褒めることを大事にしてもらいました。もちろん上司の評価とは無縁であることも徹底しました。


 また、提案を出してくれた社員に対して、ごく少数ですが皮肉を言ってしまう人がいることがわかりました。その結果、人と違うことをやって職場で浮いてしまうよりもやらない方がいい、「やったもん負け」の感覚が広がっていました。そういった同調圧力をなくすことが、今となっては最大の壁だったと思います。根気よく説得し続けましたが、変化を感じられるまで2年程かかりました。

 

 3つ目はとにかく待つこと。「難しいことに価値がある」と信じて、社員のためにハードルを上げてやることも自分の仕事だと思っていましたが、一度壊れてしまった社風を変えるにはまず自分を変えるしかありません。何年かかっても、自発性が育ち成果が出るまで信じて見守ることを心に決めました。

 

 当初、社員の中では疑わしい雰囲気もありました。それまで一切社員のことを見てこなかった社長が、突然なにか褒めたいからなんでも出してくれと言ってくるわけですから。1年目の報告は15件。6拠点150名で、1カ月に1件あるかないかですから決して多くありません。2年目は25件、3年目は32件、4年目は38件と件数もあまり増えず、受け入れられているのかどうか不安な日々が続きました。出されるものも5Sが中心で当たり障りのないものでした。1冊目の事例集を発行し、嬉しく思う場面もありましたが、続けるかどうか迷う場面も少なからずありました。

 

社風の支えのよりどころとなった1冊目のCS・ES事例集(2012年~2015年)

 

突然の変化、「効率化」「見える化」「共有化」へ

 4年目に突然、目に見えて変化が起きました。それまでの5Sばかりの報告の中にチラホラと「効率化」につながる事例が見えるようになり出し、5年目からは「定置化」や「見える化」の事例がぐっと増えました。件数も5年目は63件、6年目には100件を超えました。なぜ突然変化が起こり始めたのかはわかりませんが、本当に「小さな気づきと行動で良い」ということが社員に伝わり、安心して改善活動に取り組めるような空気に変わってきていたのかもしれません。

 

 7年目からは、社員も効果を実感し始めました。以前は残業あってこそ会社の業績はあがるという考え方でしたが、残業時間が減っているのに会社の業績が上がっていることに気づき始めたのです。ここでは会社もかなり頑張りました。改善活動を7年続けたからといってそれだけで魔法のように業績が上がるわけではありません。人間というのは現金なもので、取り組みの成果を実感し始めても、結果的に数字が悪くなっていればとたんに持続力を失います。この時期は社員全員で起こり始めた変化をなんとか軌道に乗せるために、経営陣が一丸となり1円でも前年度の業績を超えようと頑張りました。

 

 この頃からは効率化や見える化など社内のことだけでなく、「お客様のためにもっとできることがあるかも」という視点の広がりも感じられました。一方で5Sなどの小さな気づきの事例も変わらずありました。それがあることで、大事にしたいコンセプトがずれていないか再確認できたのです。

 

 現在は仲間がせっかく考えたことだからまずは真似してみようという「共有化」の考えに変わりつつあります。社内ではTTSP【徹底(T)的(T)にすぐ(S)パクる(P)】という言葉を使っています。仲間であると同時にライバル心もあるかもしれませんが、新しいカルチャーをつくる上では頭を空っぽにし、まず真似てみることは全く恥ずかしいことではないと社員に伝えています。学び合う文化がさらに育って欲しいと思っています。

 

 もうひとつ嬉しい変化がありました。昨年、新しい福利厚生を導入するにあたり、社内のコミュニケーションについて無記名アンケートを実施しました。同僚や部下とのコミュニケーションは約8割、上司とのコミュニケーションについても約7割の人が「円滑」もしくは「やや円滑」であると答えてくれました。どちらも29歳以下の社員に絞ると、より高い割合で肯定的に捉えてくれていることもわかりました。12年前の職場風土を考えると嬉しく思うと同時に、ここまで変わってくれて本当に有難いと思います。

 

 

2:6:2の6が変わると会社が変わる

 こうしてできた新しい社風が業績を良くしたか気になる方もいると思います。社風だけでなく、あらゆる制度や仕組みを見直して会社を変えてきた結果だと思いますが、売り上げは2012年の56億円から2022年は81億円に、残業時間は半分ほどに減少しました。当社は車屋です。車輪の片方が業績、もう片方が社風だとするとES・CS活動は社員全員の小さな行動と勇気でその両輪をやさしく後押しする追い風になりました。やってよかったと間違いなく言えます。

 

 2:6:2の法則をご存知の方もいるでしょう。会社だけでなく様々な集団に言えるとされている定説で、企業で想定すれば数字をつくれる優秀な2割と普通の6割、それ以外の2割に社員は分けられるという内容です。多くの人は優秀な2割かそれ以外の2割に目がいきがちですが、6割の普通の人に目を向けることが大切です。私はこの6割の人は「パフォーマンスは高いが自分を表現するのが少し苦手な人」だと捉えています。実際に当社のES・CS活動であがってくる報告のほとんどがこの6割の人からのものです。

 

 「普通の社員」とはなんでしょうか。会社が彼らに目を向けず、勝手にレッテルを貼り、ひとくくりにしてしまっていただけではないでしょうか。機会を与えられていなかったのではないでしょうか。今の当社の社風は、普通の社員の小さな勇気がつくったものです。会社を大きく変えるきっかけとは、そういった小さな勇気が生む小さな変化と成長の積み重ねなのです。当社もまだ変わっている最中です。

 

劇作家・井上ひさしさんの遺した言葉に、


 むずかしいことをやさしく
 やさしいことをふかく
 ふかいことをおもしろく
 おもしろいことをまじめに
 まじめなことをゆかいに
 そしてゆかいなことは
 あくまでもゆかいに


があります。この言葉のように難しいことをやさしくして、やさしくしたことをもっともっと深く考えて、さらにおもしろいことを考えていけるような会社へと一歩ずつ歩み続けたいと思います。

 

 

(2022年8月9日「とかち支部8月例会」より 文責 村上 建)

 

UDトラックス道東㈱ 代表取締役社長 金尾 泰明(帯広)
会社概要
設  立:1971年
資 本 金:8,000万円
従業員数:152名
事業内容:トラック、フォークリフト、マテリアルハンドリングなど、物流に関わるあらゆる商品を取り扱うディーラー。