011-702-3411

営業時間:月~金 9:00~18:00

同友会は、中小企業の繁栄と、そこで働く全ての人の幸せを願い、地域社会の発展のために活動しています。

【71号特集2】社員が幸せになるための会社づくり

2023年01月26日

社員が幸せになるための会社づくり
―会社の成長は社員満足から―

 

㈱オーザック 取締役副社長 岡崎 瑞穂(広島)

 

 バブル崩壊後、経営難が続く中、経営理念の「社員の幸福の実現」をぶれることなく追求したオーザック。夫である社長(現会長)とともに同友会理念を共有し、実践し続けた成果を報告します。

 


 

 当社は1945年、夫の父が創業した溶接加工の会社でした。1989年に夫が2代目社長となり、現在は建築、橋梁機械に装着する各種吊り具を製造しています。

 

 私は短大卒業後22歳で結婚し、長女を出産した後、会社を手伝うようになりました。今年4月に事業承継し、夫は会長となりました。私は経理を経て、今は副社長として主に社員教育や職場環境改善、採用を担当しています。

 

経営指針との出会い

 1990年、社長が同友会へ入会しました。翌年社長のフォローをしたいと考え、私も会員になり、共同求人活動に参加します。

 

 当社は社員の働く環境を重視しようと、1991年に冷暖房完備、コンピューター制御の機械を設置した新工場を建設したばかりでした。それまでは休日は法スレスレ、賃金はなりゆき任せで社員から不平不満が続出していました。また就業規則も会社にとって都合のよいものだったため、社員を守るための就業規則へと変えていきます。こうして社内改革に取り組んだ結果、新卒採用も進み、社員の平均年齢は54・5歳から32歳まで下がりました。

 

 ところがせっかく採用しても退職者が出るのです。先輩会員に相談すると、経営指針の成文化を勧められました。社長は直ちに経営指針をつくり全社員に配布しましたが、ほとんど読んだ形跡がありません。ショックでしたが経営指針は社員と共につくらなければならないことに気づき、社内で経営指針作成委員会を立ち上げました。社員と作成した経営指針や社員マニュアルは、今では社員共育の教科書となっています。経営指針は成文化し継続して実践することが、とても大事だということを経験しました。

 

 

この会社の将来が見えない~最初のターニングポイント

 1993年には経営計画書をつくりましたが、実は11年間社長の引き出しに入ったままでした。2004年、ある社員が「わが社の将来が見えません」と会議で発言し、驚きました。彼は会社にいたいけれど、先が見えなくて不安だったのです。社長は社員が不安であることに気づかず平気でいたことを反省し奮起して、利益目標から売上目標、経費、人員まで網羅した中期経営計画を創業60周年の時全社員に発表しました。計画実現のための方針や戦術は、部門長が社員と一緒に考えることで、社員も進むべき道が見えてきました。まさに社員の一声が会社を変えたわけです。

 

 当社の経営指針に「顧客感動の追求」というフレーズがあります。「お客様は感動があるからリピーターになってくれます。経営者は工場や事務所、機械、パソコンなど『舞台』を提供し、そこで演じるのは皆さんです。拍手喝采かブーイングかは皆さん次第です」と社員に言っています。どうしたら喜んでいただけるか。サービス業の視点で、営業部はカタログ製品の見積もり時間を30分以内にするためオンライン化を実行し、ゼロ分にしました。IDとパスワードをお客様に渡すことで、当社のホームページから直接在庫閲覧ができるようになり、電話でのやりとりがなくなりました。


 またオリジナル製品の見積もりは24時間以内に、特殊製品は工程写真をメールで送り契約日より1日早く納品するなどの取り組みに注力しました。その結果、前期は新規顧客獲得目標20社以上に対し、昨年度は39社、そのうちWeb受注は23社からありました。

 

社員は家族~第2のターニングポイント

 実は1991年のバブル崩壊の時、当社は新社屋を建てたばかりで、年間売上高を超える借入れがありました。売り上げが6割減る中、借入利息だけで年間3千万円、手形割引手数料を入れて毎日9万円という高い利息を払い続け、資金繰りは悪化。ついに銀行から貸し渋り、貸し剥がしが始まりました。個人の預金も銀行に押さえられました。さらに取引先の一部上場会社から会社更生法手続き開始の通知が届き、1千5百万円の不渡りがでます。

 

 銀行からはリストラを勧められましたが、縁あって私たちと一緒に働いている社員には家族がいます。私たちは決してリストラはしない、皆さんの生活は絶対に守ると社員に言い続けました。追い打ちをかけるように、社長の右腕だった工場長が病気で亡くなり、また入社まもない社員が死亡事故を起こすなど、当時の社内はモチベーションが下がり、沈んだ雰囲気になっていました。

 

 ある日、工場長が部下を叱れないと相談に来ました。「もしもその部下が自分の息子だったらどうする?」と聞くと「叱ってでもやらせる」と言うのです。ここで気づいたことは、社員を家族だと思わないと会社はうまくいかない、ということです。社員は本当の家族よりも気を遣わなければならない、かけがえのない家族でありパートナーであると気づかされました。これがターニングポイントの2つ目です。

 

 顧客満足は社員も幸せでないとつくり出すことはできません。不平不満ばかりの社員がお客様を喜ばせることはできませんし、顧客感動には導けないことに気づきました。ですから経営者にとって究極の顧客は社員だと常に思っています。それからは、課題が出てくるたびに「家族だったらどう対処するだろう」と考えるようになり、いろいろな事が前へ進み始めました。

 

 ちょうどその頃、私の父が心臓病で亡くなりました。夜中に発作を起こし、一番辛いのは自分なのに、看病する母を労わりながら息を引き取ったそうです。父と母の生き様を通して、両親が私に「自分のことばかり考えないで、周りの人のことを考えながら生きなさい」と教えてくれたような気がします。同時に、同友会で学んだ「人間尊重の経営」が腹に落ちた瞬間でした。本当に社員を幸せにするために何をすべきか、背中を押され、変化の速度が上がりました。

 

仕事と家庭の両立支援

 当社の男性管理職には子育て支援という発想はなく、女性社員が結婚や妊娠で退職しても補充するという姿勢でした。社長が「経営理念に立ち返ろう」と投げかけ、実現したのが育児休業制度やキッズルームの設置です。キッズルームはパパやママが会社を休めない時や夏休みには、子連れで出勤できるようになりました。

 

 最近はリモートワークが進んだため、製造部以外は子どもが休んだ時はリモートワークができるようになりました。当社の在宅勤務制度はコロナ前から始まっていました。きっかけは2017年、結婚で遠くへ行くけれどオーザックを辞めたくないという社員の要望で始まったのです。2020年には新型コロナウィルス感染防止で在宅ワークが浸透し、2021年には子育てや介護などを踏まえた働き方として広がり、2022年には生産性向上のための業務スタイルとして進化しました。例えば生産管理部は女性4人のうち2人は育休で休職中。あとの2人は在宅勤務と通常出勤併用のハイブリッド型業務スタイルを選択しています。

 

 また定年後も継続勤務が可能で、通常の有給休暇の他に有給で「育孫休暇制度」や「地域活動休暇制度」などが利用できます。その他「子育て手当(中3まで毎月5千円/人)」「妊娠・育児中の短時間勤務・時差出勤制度」など、社内会議で議論しながら数々の制度づくりを進めました。気づいたことは、制度が整っても取り入れる風土がなければ、制度は生かされないということでした。

 

 

失敗からの成長~第3・第4のターニングポイント

 2012年から社員待望の完全週休2日制にしました。事前に社長は「1年後に生産高が落ちたら元に戻す」と社員に伝えました。案の定、1年後には目標の8・5%に対し5%しか生産性は上がらず、週休2日制の中止を朝礼で伝えました。

 

 数日後、製造部の部長が社長の所へ来て「僕たちの体は週休2日制に慣れてしまって、もう戻れません。もう1年猶予をください。工夫して生産高を上げます」という申し出があり、再度計画書が出されました。これなら行けるとGOサインを出し、見事に8・5%を上回る12%アップとなりました。ここで学んだことは、頭ごなしに無理だと言ってしまうのではなく、社員に失敗させることも大事だということです。3つ目のターニングポイントです。

 

 こうした経験を通し、社員は自分たちで考え失敗から学ぶことで、失敗しない方法を考えるようになりました。昨年度売り上げは減りましたが、利益は過去最高でした。彼らが、自分たちで考えるようになったからこその結果です。

 

 10年前に独立した社員がいます。当社の生産管理システムは、一日480分の負荷を入れ、仕事内容がわかるようになっています。その社員は独立すると言った日から「僕の分の負荷時間は700分にしてください」と言ってきました。独立は最高のモチベーションアップでした。社長は「今までは何だったのか!」と腹を立てたものの、冷静に考えてみれば、社員の潜在能力を引き出せなかったのは経営者の責任だと気づきました。それからは、社員の潜在能力をいかに引き出すかが私たち経営陣の課題となりました。これがターニングポイントの4つ目です。

 

コロナ禍に負けない

 2020年、コロナ禍が始まった頃、社長は直ちに社員へ声明を出しました。「コロナでどんな状況になっても、会社が存続する限り、皆さんの生活は保障します。給料も下げません。安心してください」。リモートワークを強化し、チャットツールの導入や在宅ワークの社員へのスマホによる内線化を進め、お客様からの電話の取り次ぎをスムーズにしました。また事務所のフリーアドレス化、リモート営業、Web販売の強化などは、コロナが後押ししたと言えます。

 

 一方、雇用調整金は使いませんでした。仕事がない時もありましたが、だからこそできる仕事は何かを各部署で考え、取り組みました。資料の整理や新しい技術への挑戦など、日々の仕事で後回しになっていたことに取り組んだのです。

 

 直接営業に行けないため、ホームページを刷新し自社の強みを打ち出しました。ホームページを強化したことにより、新規のお客様からの受注が入るようになり、昨年は7割が Webからの新規のお客様で、中にはJAXA(宇宙航空研究開発機構)など過去になかった分野からも来ました。

 

経営者の役割

 若い人が来る会社にしたいという思いで始めた同友会活動ですが、経営指針と出会い、社員共育、社員満足、社員のやりがいや働きがいと、同友会が経営者と社員を大きく成長させてくれました。経営者の役割とは、まず経営指針の成文化であり、社員の潜在能力、やる気を引き出すこと、社員が成長するチャンスの提供、社員自らが考える場の提供、最後に社長にしかできない仕事をすること、脱プレイングマネージャーです。

 

 社員が幸せでなければ会社は成長しません。働きやすい職場を提供することが経営者の大切な仕事であり、突き詰めて言えば社員こそ究極の顧客なのです。社員満足を追求していけば、会社は良くなっていくと思います。そんな経営実践を社員と共に進めて参ります。

 

 

(2022年10月7日「第37回全道経営者〝共育〟研究集会with全道青年部・後継者部会交流会in札幌」第5分科会より 文責 細川 恵子)

 

㈱オーザック 取締役副社長 岡崎 瑞穂(広島)
■会社概要
設  立:1969年
資 本 金:3,000万円
従業員数:44名
事業内容:ワイヤロープ用ロープ端末金具、調整及び連結金具、産業機械用吊り具等の設計及び製造販売