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【71号特集1】後継者のやるべきことってなに?

2023年01月26日

後継者のやるべきことってなに?
―わたしの事業承継より―

 

㈱工営舎 代表取締役 大関 一(札幌)

 

 良い後継者とはなんでしょうか。良い経営者とは違うのでしょうか。後継者が継ぐ「事業」とはなんでしょうか。後継者がやるべきことはなんでしょうか。後継者の視点で見た事業承継について、大関社長の経験から学びます。

 


 

 当社は、1985年2月に札幌の建設設備会社が自社のメンテナンス部門を100%出資して分社化したのが始まりです。事業内容は、商業施設や工場などの建築設備・プラント工事事業のほか、環境エンジニアリング事業、そして商業ビルや集合住宅などのメンテナンス事業の3つの柱で展開しています。

 

 設立時の代表には、親会社の社員だった父が就任し、技術力を活かした提案営業とアフターメンテナンスで事業を拡大しました。1991年に親会社のビルから現在の所在地である白石区へ移転し、1999年には親会社から自社株をすべて買い取り、名実ともにオーナー経営者になりました。

 

工営舎の事業承継

 父が社長に就任したのは私が11歳の時でした。会社勤めの父の背中を見て育った私には「父親が経営者」だとか「いずれ父の跡を継ぐ」という考えは希薄で、自分の好きな道に進みました。東北大学大学院を修了し、一度就職、その後イギリスの大学へ留学しました。

 

 父は、100%株主になった1999年頃には、事業承継を考え始めていたようです。当初は社員への事業承継を模索していましたが、決断するに至りませんでした。一方私は、2006年に帰国した頃には、父の会社を継ぐことに興味を持ち始めていました。そのタイミングで父から承継を打診され決意を固めた私は、翌年33歳で当社へ入社します。2014年には、工営舎の全株式を私が100%取得し、工営舎の経営権を承継しました。

 

 そして、2019年からは父と私の2名代表体制へ移行し、2021年、私が2代目社長に就任しました。経営権の移譲は比較的順調でしたが、実際の経営の承継には時間がかかりました。

 

後継者の役割とは

 私は、入社した2007年以降「後継者の役割とは?」「経営者と後継者と社員の違いとは?」「よい経営者、良い事業承継とは何か」と自問自答してきました。

 

 その結果として、私が考える後継者の視点から見た事業承継のポイントは2つあります。1つ目は、事業の目的を明確にすることです。なぜ事業をしているのか。そして先代社長と自分の違いは何か。その違いは埋められるか、埋めるべきか。重要なことは、自社が蓄積してきた歴史を否定せず、自らの事業は何かを考えることだと思います。私も以前は「父が創業した建設設備業を続けることが事業承継」と単純に考えていました。しかし経営者として自社の事業をどのように展開するかは、後継者自身が判断して決断しなければならないと気付きました。

 

 もう1つは事業承継の具体的な手段です。株式をはじめ資産と資金、社員、ノウハウや知的財産、顧客、信用など、事業を継続するために必要な要素を棚卸して、重要度の高いものから優先順位をつけて引き継ぐということです。「事業を継続するのに欠かせないもの」「いま必要なものと将来必要になるもの」という切り口も重要です。場合によっては引き継ぐものを取捨選択する必要があるかもしれません。どちらのポイントも後継者は承継前に考えておくべきだと思います。

 

 また、社長になると既存社員と私の関係性に変化が生じました。私は組織風土の変革が必要と考え、積極的な新規採用や社員育成のためのジョブローテーションを試みました。その結果、古参社員の中には新しい取り組みになじめずに退職する社員も出てしまいました。

 

 しかし、事業を継続させるためには当社の強みである技術力は大切にしつつ、変化する外部環境に合わせて組織のあり方を変える必要性があると考えています。今は代表者交代で顕在化した問題点を解決しようと経営を前へ進めています。そして、そのことが私と社員の共通認識になり、日々の経営に落とし込める組織体制になったときに、初めて「事業を承継した」と言えると考えています。

 

 

事業承継後の1年は、後継者時代の10年以上に匹敵

 社長に就任して感じることは、後継者とは「責任と発言の重さが違う」ということです。社内外を問わず発生する問題のすべては社長の責任です。自分が思う以上に社員は社長の言動を見ています。書類の回覧順を変えるだけでも、社員は想像以上の反応を示します。自分の言動が多くの社員に影響を及ぼし、会社の向かう方向性や組織風土にさえ影響を与えると実感しています。

 

 一方で社員の仕事には区切りがありますが、経営者の仕事には終わりがありません。「過去の積み重ねで現在の自社が成り立ち、現在の積み重ねが未来をつくる」と考えると、休んでいても頭の中は常に経営に思いを巡らせています。

 

 これから経営者になる後継者の皆さんに伝えたいことは「社員として成果を出す能力と社長として成功する能力とは違う」ということです。後継者としては当然みんなが納得する成果を出す必要はあるとは思いますが、周りの社員と成果を競う必要はありません。それよりも皆さんは先ほど挙げた2つの事業承継のポイントに力を入れてください。同様に、将来自分の右腕になる幹部を育成する時には、仕事の成果よりも経営の視点を持っているかどうかに着目することが重要だと考えています。

 

 また、社歴が長い社員との軋轢が生じた場合には、個人の問題ではなく「立場の違いが引き起こす出来事」と捉えて必要以上に悩まず、時には諦めも肝心です。後継者はとかく「自分はこう思う」と社内で自分の意見を貫きたくなることがあると思いますが、人の話に耳を傾けるように心がけると、自分ひとりで考えるよりもよい成果につながると思います。

 

 そして、私も含めた現経営者の皆さんには、事業を存続させる覚悟と方針が定まったら、一日でも早く承継をスタートすることをお勧めします。まずは後継者候補とじっくり話す機会を持つことです。私の場合は、帰国した際に父と腹を割って話す機会を持ったことが転機になりました。私の実感では、社長に就任してからの1年は、後継者として経験する10年以上に匹敵します。スタートが早ければ、それだけ後継者は経営者として経験を積むことができますし、万が一、想定通りに承継が進まなかった場合でも、軌道修正が可能だと考えています。

 

 

先代社長に勝る相談相手なし

 当社の事業承継が必ずしも順風満帆だったというわけではありません。それでも、入社以来実家で10年ほど過ごし、父と経営について議論したり、商売人だった祖父の現役時代の話を聞いたりと、濃密な親子の時間を過ごせたことは私には幸せな経験であり、経営者としての財産です。実は、今でも父と二人きりになると、経営上の意見が対立し白熱した議論になることがあります。しかし冷静に考えると、創業社長である父は、社内のこともお客様のことも、誰よりも熟知しています。私は「先代社長に勝る相談相手はいない」と実感しています。

 

 また、私は2007年の入社と同年に、第53期同友会大学を受講しました。卒業後には、同時期に受講した有志が中心となり、札幌支部に部会「後継者ゼミナール起望峰」が設立されました。私は2008年の発会当初から参加しています。起望峰は「後継者特有の問題解決に取り組むと同時に、次代の経営者に要求される屈強な精神力、確かな判断力、そして豊かな人間力を磨きます(規約より抜粋)」と目的を掲げて活動しています。部会員全員が主体的に運営に関わり、学ぶテーマを決めて毎月の例会を開催してきました。

 

 よく「経営者は孤独」と言われますが、後継者は時に経営者よりも孤独だと思います。後継者特有の悩みとして、社員からは経営陣の一員と見られて距離を置かれる一方で、社長からは「まだ早い」と社員扱いされ、社内での立ち位置が不明確になることがあります。そして、後継者同士が知り合う機会は経営者に比べると多くはありません。私は起望峰に参加して、同じ後継者としての視点で疑問や問題を本音で語り合い、お互いに切磋琢磨していく仲間に恵まれました。

 

 同友会では「よい経営者になろう」と言いますが、事業承継の観点からみたよい経営者とは、どのような人なのでしょうか。私は自社の経営理念を定め、事業の目的を明確にし、目的を達成するために事業を継続することだと考えます。事業を継続するためには、利益を上げて強固な財務基盤を築き、次世代の経営者を育ててバトンをつないでいく必要性があります。私も今から次の後継者育成までを視野に入れ、事業を継続していきたいと考えています。

 

 

(2022年10月7日「第37回全道経営者〝共育〟研究集会with全道青年部・後継者部会交流会in札幌」第10分科会より 文責 渡部 典人)

 

㈱工営舎 代表取締役 大関 一(札幌)
■会社概要
設  立:1985年
資 本 金:5,000万円
従業員数:11名
事業内容:既設の建築設備の設計・施工・保守・維持管理・修理・診断、環境エンジニアリング