011-702-3411

営業時間:月~金 9:00~18:00

同友会は、中小企業の繁栄と、そこで働く全ての人の幸せを願い、地域社会の発展のために活動しています。

【71号特集1】経営指針を学んだだけで満足してはいけない

2023年01月26日

経営指針を学んだだけで満足してはいけない
―同友会活動を通して常に学び続けることが強靭な会社作りにつながる―

 

㈱ササキ工芸 代表取締役 佐々木 雄二郎(旭川)

 

 先代社長の急逝による急な事業承継の中で出会った経営指針研究会。経営理念を基にした数々の挑戦の背景など、経営者が経営者たるために、謙虚に学び続ける佐々木社長の実践報告から学びます。

 


 

 当社は1976年、先代である父が創業した会社です。私は2002年に後継者として入社しました。しかし、2008年のリーマンショックを契機に当社の業績は悪化し始めました。旭川市内に持っていた「クラフト館」という販売店舗のテコ入れのため、2010年、私は父と相談してササキ工芸を退社、分社化した販売部門の別会社を創業し、社長として就任しました。

 

 ところがその翌年の2011年、父が60歳という若さで急逝します。私は急遽ササキ工芸に復帰し、社長に就任することになりました。事業承継はまだ先だと思っていたため経営について父に詳しく聞いたことはなく、準備不足での承継でした。「社員はついてきてくれるのか?」「取引先は継続してくれるのか?」「経営者は何をすべきなのか?」「そもそも経営とは何だろうか?」と不安が渦を巻いていました。

 

経営指針研究会で得た気づき

 そんな時に出会ったのが経営指針です。2012年、私は道北あさひかわ支部の経営指針研究会を受講しました。受講前の私は、研究会に入れば経営のセオリーが学べ、コンサルタントのようなアドバイスが貰えると期待していました。受講すれば会社が良くなり、不安から解放されると思っていたのです。ところが実際は「あなたはどうしたいの?」「あなたは何のために経営しているの?」と問われ、自分と向き合う自問自答の日々が始まりました。

 

 経営指針研究会ではたくさんの気づきを得ました。1つ目は、経営者は自分で選んだ道ということです。父が経営者だったので会社を継ぐ義務感はどこかにあったのですが、継ぐと決めたのは自分自身です。やらされたのではなく選んだのは自分だと腹に落ち、経営者としての覚悟が決まりました。

 

 2つ目は、資産がすでにある幸せです。父が残してくれた人材、人脈、信頼のおかげで、明日の経営に困る状況ではない中で引き継げたことは、非常に幸せだと気づきました。3つ目は、夢を持つことの大切さです。目の前のことに追われるのではなく、夢に向かう大切さを学びました。4つ目は、学び続けることです。経営指針をつくって終わりではなく、変化し続ける情勢に取り残されないために経営者は学び続けなくてはいけません。


 悩みを語れる仲間ができたことも大きな収穫でした。悩んでいるのは自分だけではないことに気づき、経営者同士だからこそ分かち合える仲間と出会うことができました。自分の想いを織り込んだ経営理念をつくったことで経営者としての自信がつき、理念を判断基準として新たな挑戦ができるようになりました。実を結び始めている成果をいくつか紹介します。

 

 

社員満足度優先で顧客満足度も向上

 皆さんは社員満足度と顧客満足度のどちらを優先していますか。私は社員満足度を優先しています。社員満足度の向上が良い商品づくりにつながり、ひいては顧客満足度の向上にも結びつくと考え、当社では社員満足度向上のために働く環境の改善を試みています。

 

 まずは残業の削減です。社長就任時、当社は毎日夜10時まで作業をしており、しかもサービス残業でした。先代は、その日決められた仕事は終わるまでやるのが当然という考えでした。社員は見るからに疲労が溜まっており、作業効率の低い密度の薄い時間を過ごしていました。そこで、残業をゼロにしようと提案し、いかに8時間の就業時間内で今までの仕事を終わらせるかを社員自身に考えてもらいました。業務の見直しや手作業の機械化など作業効率を高め、職場には次第に真剣な雰囲気が漂うようになり、今では月5時間程度の残業時間になりました。

 

 同時に研修を兼ねた一泊新年会を始めました。社員は分業して仕事をしているため、同じ工場にいても会話が少なく、お互いを理解していない状況でした。加えて工場勤務だと外部との交流もなく、新たな情報が入ってきません。そこで研修を兼ねた一泊新年会を実施し、企業見学と社員同士の交流を図っています。残業削減でピリピリしていた雰囲気も新年会を通して緩和されました。

 

稼ぐ力を付ける

 とは言え、働く環境を改善するには資金が必要なので、稼ぐ力の強化が命題です。現在は年商約2億円、社員数30名で、社員一人当たりの売り上げは約700万円です。生産したものは全数出荷しているので、工場の生産高=売り上げという構図です。5年後には社員一人当たりの年間生産高を1・5倍の1千万円にすることが目標です。

 

 生産高は生産数量×商品単価なので、生産高を上げるには増産か単価を上げるかの2択です。当社は、単価を上げ、かつ生産数量も減らす選択をしました。そのためには単価を相当上げる必要があります。1日8時間の勤務で100個つくるのと10個つくるのでは1個にかけられる時間が大きく違います。生産数を落とし、より丁寧なモノづくりをすることで、より単価の高い品質重視のモノづくりにシフトすることできます。

 

 一方で、お客様が買ってくれるかどうかは別問題です。かつては良いモノをつくれば売れる時代でした。今は良いモノが世の中に溢れていて、それだけでは市場に残れません。人に伝えたくなるような価値が必要です。「ササキ工芸の商品〝でもいい〟」ではなく、「ササキ工芸〝だからほしい〟」と指名買いされるモノづくりをめざすことにしました。

 

 

ブランディングで魅力ある会社へ

 高単価でも欲しいと思える価値を提供するには、ブランディングが不可欠です。あるキーワードに対して脳内検索で1位になれば、ブランディングが成功している状態です。当社のめざすキーワードは「ちょっと高いけど欲しい」「大切な人への贈り物にしたい」です。そのために3つのプロジェクトを始動しました。

 

 1つ目は異素材加工「supernova(スーパーノヴァ)」です。木以外の素材を活用した商品づくりで、米国のデュポン社が製造するコーリアン®(※)という人工大理石を用いて、箸置き、トレイ、置物をつくっています。コーリアン®はキッチンの天板などに使われる素材で、天板を切り出した際に生じる端材処理に苦慮していると耳にしました。当社は家具製作の端材から木製小物をつくり始めたので、木加工で培われた技術との掛け合わせによる新しい商品づくりでSDGsの観点でも評価されています。

 

 2つ目は産地間協業「pirkamonrayke(ピリカモンライケ)」です。アイヌ語で「よい仕事をする」という意味です。こちらは海外展開と品質重視を意識しており、日本各地のモノづくりの強みを掛け合わせた商品をつくる試みです。京都の伝統工芸技術である透け漆塗り、箔貼り技術と、当社の木加工技術を掛け合わせました。木目が透けた漆が塗られた熊の置物やトレイ、金箔を貼った熊の置物を制作しました。木の部分は当社で制作し、金箔を貼る作業・漆塗りは京都の職人が一つひとつ手作業をしています。

 

 「supernova」「pirkamonrayke」は目を引くプロジェクトで1万円~150万円の高価格帯です。販売数量は見込めませんが話題性があり、2021年10月に発表したところメディアから多数の問い合わせがありました。雑誌掲載、テレビ番組のセットとして使用されるなど、費用を出さずに宣伝することができました。話題性のある面白い会社と認識してもらうことで3つ目のプロジェクトを広める狙いもありました。

 

左から、supernova(スーパーノヴァ)人工大理石の丸皿、pirkamonrayke(ピリカモンライケ)熊の置物、自社ブランドsasaki(2023年3月~)よりマンゴー素材の一輪挿し

 

 3つ目は自社商品と自社ブランドのリニューアルです。販売数も見込め、売り上げに貢献する最重要プロジェクトです。リニューアルに伴う価格の底上げを狙っており、現状2千円~6万円の販売価格を6千円~10万円にしたいと考えています。外部のデザイナーに協力を仰ぎ、消費者目線のデザインに切り替えました。ペンスタンドや鏡、時計、名刺入れ、靴ベラなど2023年3月のリニューアルに向けて準備中です。商品のリニューアルとあわせて、ブランドもリニューアルしました。「ササキ工芸」から「sasaki」へ名称変更し、世界を意識したモノづくりにシフトします。

 

 つくる商品が変わると会社のイメージが変わり、社員の意識にも変化がありました。お客様から高い評価を得ることで「自分たちの仕事は喜んでもらえる仕事」だと感じ、それがより良い仕事へつながり、会社のイメージもさらに向上しています。この好循環が魅力ある会社づくりへつながっています。
(※)コーリアン®は、DuPont de Nemours, Inc.の関連会社の登録商標です。

 

経営者たるために学び続ける

 私は経営理念を判断基準に新たな挑戦を続けてきました。10年後の夢は、当社の商品を手に取った人たちが、工場を見るために当社を訪問してくれることで地域が活性化することです。そして、その取り組みを通して社員が働きがいを感じ、家族や友人にササキ工芸で働いていることを誇れる会社にすることです。明日が不安な会社では全力を出すことはできません。全力を出して働ける会社を目標に、さらなる社員満足度の向上をめざしていきます。

 

 当たり前が次の瞬間当たり前ではなくなる時代ですが、外部環境のせいにして会社を潰すのは勉強不足です。経営者になるためには免許も資格もいりません。だからこそ、同友会を通してよい会社づくりをしなければならないのです。いつまでも謙虚に学べる場が同友会にはあります。皆さん、共に学びを続けていきましょう。

 

 

(2022年10月7日「第37回全道経営者〝共育〟研究集会with全道青年部・後継者部会交流会in札幌」第3分科会より 文責 門脇 由香利)

 

㈱ササキ工芸 代表取締役 佐々木 雄二郎(旭川)
■会社概要
設  立:1976年
資 本 金:1,000万円
従業員数:30名
事業内容:製造業(木製小物、木製クラフト)