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【71号特集4】外国人財の活用

2023年01月12日

外国人財の活用
―外国人財採用で会社が変わる、地域も変わる!―

 

㈲河村工業 代表取締役社長 河村 悦郎(七飯)

 

 2016年に函館支部政策委員長に就任。人財不足解消のために外国人財の雇用を活動の柱に据えます。同友会にいたからこそできた外国人財雇用のための独自モデルの構築や海外進出についての実体験を語ります。

 


 

 当社は1984年に創業した社員数10名のとても小さな会社です。この一地方の零細企業の社長が、内閣官房や外務省から認知され、日本の未来のために対等に議論し、世界進出を果たすまでの実録をお話しします。

 

 

 

政策委員長就任と難民の受け入れ事業への道のり

 2016年、私は函館支部の政策委員長に就任しました。ところで、皆さんは政策委員会が何をしている委員会かご存じですか。結論から言えば、同友会の三つの目的のうちの「良い経営環境をつくろう」を達成することが政策委員会の目的です。当時の函館支部会員数は約600社で、道南地域の中小企業数の約10%が同友会の会員となれば、その発言力は無視できません。1社では実現できないことも皆で集まり、社会に働きかけていくことで経営環境を改善することができます。これこそが政策委員会の役目です。

 

 私が委員長に就任した時に、活動の柱を決めるため、まず外部環境分析を行いました。その当時の大きな問題は「ジンザイ」不足で、委員会で出た解決策は「女性のさらなる進出」「高齢者雇用」「UIJターン」「障がい者雇用」「外国人雇用」でした。その他の解決策と比較し、当時は外国人についての施策がほとんど無かったため、私たちが施策をつくる意気込みで今後の企業発展のカギとなる「人財」として外国人雇用に取り組み始めました。

 

 人財不足に困っている会員企業に、職業探しで困っている在住外国人を紹介し、その過程で出てきた課題を政策提言として落とし込み、自治体に提言することで経営環境を改善する。これが、2016年から今に至るまで一貫して函館支部の政策委員会で取り組んでいることです。

 

 その中で、2016年10月に第三国定住難民支援事業を知りました。第三国定住難民とは、今の政権下で人権が守られず難民となった方が、その先でも立場が守られない時にさらに他の国(=第三国)に移動する方のことです。この時に初めて難民の存在を詳しく知りました。在留資格の種類によってはできない業務もありますが、難民はいわば政府お墨付きの外国人のため、日本人と同等の業務をすることが可能です。しかし、その家族まで受け入れるにはハードルが高く、当時はほとんど都心部のみで受け入れていました。これを地方に展開させる方法について、日本政府も悩んでいました。

 

 そこで同友会が「就労支援」、北海道国際交流センターが「生活支援」、北海道教育大学が「教育支援」、函館日本語教育研究会が「語学支援」で連携し、難民受け入れをサポートする「函館モデル」の作成に取り組みました。2017年に内閣官房から担当参事官が来函し、会員企業を訪問しました。さらに臨時政策委員会にて意見交換、誤報ではあったものの、北海道新聞の一面に取り上げられました。盛り上がりましたが、受け入れ環境などの問題で最終的な受け入れには至りませんでした。

 

 少しトーンダウンしてしまい、これから委員会として何をするかを話し合いました。その中でせっかくつくりあげた函館モデルを活用するため、2018年4月から北海道教育大学函館校との共同事業を始めました。大学生が関わったことで、色々な可能性が生まれました。例えば、ロシア人の方の就職支援の際に、その方をもっと知るため、学生たちの発案でロシアの郷土料理であるピロシキをつくる料理教室を開きました。初めは私自身も日本人と外国人とを線引きする考えがありましたが、一緒に接するうちに、違いをカウントするより、同じことをカウントする方が遥かに多いことに気づきました。

 

 

外国人財と会員企業のマッチングを最大化する条件

 多くの外国人と話をする中で、外国人財と会員企業が上手くマッチングする条件が導き出されました。外国人にとっては「自己実現に資する就職ができるかどうか」、企業は「採用が自社の課題解決に資するか」ということです。この2つが成立して初めて、長く働ける環境が整います。

 

 「本当にしたいことは何か」「夢は何か」について膝を詰めて話し合い、企業が抱えている問題に対してこの人を採用することでどのようなキャリアパスが描けるのか、問題解決につながるのか。この2つの対話がとても大事だということに気づきました。その地域で生活している以上、何らかの仕事に就いている外国人の方がほとんどです。しかし、その仕事に満足しているかというと、私が聞いた方の半数以上の答えはNoでした。

 

 タグボートの船長をしていた方は、「なぜ自分たちはノーマルジョブに就けないのか」ということを訴えていました。出会った時は英語の先生をしていたのですが、自分のキャリアを活かした仕事がしたいと常々考えていたそうです。そこで、船の塗装の仕事をしている会員企業とマッチングをしました。今ではその方の下にも外国人が入り、毎日生き生きと働いているそうです。

 

 さらにある国の方からは、自分の特技を活かした安定した仕事に就きたいという相談を受けました。当時その方は生コン関係の仕事をしていました。以前は世界を相手にした輸出入の仕事をしていた方です。最終的には、コロナ禍で巣ごもり需要が増加していたこともあり、自営業としてオンラインで英語の先生をすることになりました。しかし、もう少し安定した仕事に就きたいという相談を改めて受け、インバウンドに向けた観光事業展開を検討していたタクシー会社を紹介しました。この会社は副業禁止規定がないため、オンラインの仕事も続けることができ、一石二鳥の関係を築くことができました。

 

 さて、今世界は国力増強のために高度人材難民を戦略的に受け入れています。それに対して日本は本当に逃げてきた人を受け入れてきました。そんな時、緊急事態が発生します。ある国の政府高官が、受け入れ先が決まらないため亡命できないという情報が入りました。この時私は、これまで日本ができてこなかった戦略的な高度人材を受け入れるチャンスだと思いました。そこで、臨時政策委員会を開催し、その場で受け入れを決めました。しかし、当時の入管の基準では、家族ごと受け入れるために莫大な収入が必要でした。そこで、今こそ同友会の力を結集させ、皆で雇うことはできないかと声を掛けました。結果、基本給を河村工業が負担し、海外展開をめざす企業へのコンサルティング契約料や海外に興味を持つ企業の勉強会代などを複数社が月額賃金で出し合う「函館コンソーシアム雇用モデル」ができ上がりました。

 

 その方が当社に入社したことで、海外進出の足掛かりになりました。現在はODAやある国の国家プロジェクトなど、一地方の塗装会社では考えられない仕事にも関わることができています。これは、同友会や政策委員会があったからこそ、手が届いているのです。

 

 

中小企業にとって起爆剤になる人財とは?

 これまでお話ししたような超高度人材はまず地域にはいません。しかしこのような切り口を持てば、絶対に辿り着けないような能力のある人財に辿り着くことはできます。私がいつも言っていることですが、海外進出をするには、ただの通訳ではなく、実際に会社に入り従業員となって、会社の一から十を知ることで、本当の「使節」になって伝えられることに価値があると考えています。さらに、本当に能力が高い方が多いので、一人で事業が切り盛りできる可能性が高いです。

 

 今、世界はあなたの力を必要としています。ウクライナ危機やミャンマーのクーデター、アフガニスタン崩壊などで祖国に帰れなくなった超高度人材が日本に留まっています。そのため、今がチャンスです。

 

海外をめざすバトンを

 私が海外をめざすきっかけを与えてくれたのは、2016年の函館「道研」でした。その時に眼鏡の販売を手掛けている㈱すずきの鈴木社長から、ベトナム進出の成功事例を伺いました。鈴木社長は「これから先、『中小企業だから』『うちの業種は海外進出できないから』を言い訳にして、海外進出できない企業は置いていかれる。自分は一足先に海外に出た。ぜひ皆さんも」とおっしゃっていました。このお話に胸を打たれ、自社も絶対海外に進出すると思いました。

 

 ここまでお話ししてきたことは、決して夢物語ではなく、実際に私が体験してきたことです。ただし、同友会に入り、政策委員長をしなければ、実現しなかったことだと思っています。

 

 鈴木社長から私がもらったバトンを受け継ぎ、事業を成功させたどなたかが、いつか来る20XX年にこの場に立ち、またそのバトンを引き継いでいってくれることを信じております。

 

(2022年10月7日「第37回全道経営者〝共育〟研究集会with全道青年部・後継者部会交流会in札幌」第13分科会より 文責 土田 あゆむ)

 

㈲河村工業 代表取締役社長 河村 悦郎(七飯)
■会社概要
設  立:1984年
資 本 金:300万円
従業員数:10名
事業内容:建築塗装工事