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【71号特集4】人が集まってくるのは未来を語れる経営者

2023年01月12日

人が集まってくるのは未来を語れる経営者
―おひとり様も楽しく暮らせる美瑛の街づくり―

 

㈲良栄・PLAN 代表取締役 佐々木 良榮(美瑛)

 

 観光に頼らず、逆転の発想で街と企業が活性化する。外部から人や企業を呼び込むのではなく、暮らす人の視点で街づくりを始めたら、自然と人、モノ、お金が集まってきました。経営者として今まで培ってきた人脈とノウハウを使い行動することで、生まれ育った地域への恩返しをしたいと、佐々木社長は未来を語ります。

 


 

 私は美瑛町生まれです。父方の実家は祖母が1940年から営む旅館業でした。当時の美瑛町は今のような観光地ではありません。一般のお客様は少なく、ダムや橋など大きな工事に関わる長期滞在のお客様が宿泊する旅館で、住みこみの仲居さんもたくさんおりました。

 

 女将である母は、積極的に母子家庭の女性を雇用しており、旅館内でそのお母さんや子どもたちと本当の家族のように育ったため、私は小学校3年生まで母親が誰か知らなかったほどです。

 

 父はダムや橋を設計する土木建築技師でしたが、仕事で東北のある町へ行った際、1軒しかない喫茶店が大流行しているのを目の当たりにし、これは美瑛でも儲けられる!と思い、脱サラを決意して、1961年、旅館の一部を改装し、美瑛で初めての喫茶店「すずらん」を始めたのです。

 

家業の跡継ぎから経営者へ

 子どもの頃からデザイナーになることが夢だった私は、札幌の専門学校に進みました。まもなく卒業という時に、両親は旭川市に2軒目の飲食店をオープンさせようとしていました。ところが借金をして土地と建物を買ったとたん、経営するはずの母が病気になり、私はやむなく実家に戻り、22歳でいきなり家業を継ぐことになりました。

 

 22歳で経営者になった私は、若くて馬鹿にされたくないという思いから、昼間のバイトさんと歳を合わせ6歳もごまかしてママ業をしていました。可愛い制服をつくり、曜日変わりで学生アルバイトを雇いました。昼は主婦のたまり場、夜は真向かいの旭川医大のドクターや学生で賑わい、お店はいつも満員でした。バブルの時代も味方し、1年半で借金を返済できたところでお役御免となりました。

 

 ようやく念願のアパレル会社に就職した私は、20年間勤めたのち、2003年にデザイン会社㈲良栄・PLANを設立しました。前職のアパレル会社では、百貨店に商品を卸しても定価で売れる品は僅かで、時間が経てばどんどん値引きされ最終的には大量に返品されることを経験していました。それを見越して衣装に特化した商売をと、当初はよさこいソーラン祭りの衣装などを中心にデザインし、店舗は持たずWebのみでの販売を行いました。衣装だと値引きも返品もなく、またWebでの注文生産は先に入金があり、資金繰りの面でも助かりました。実店舗販売ではまず営業係が窓口ですが、Webでお客様とデザイナーが直接じっくりと打合せができることが新鮮で画期的だと、メディアにも何度か取り上げられました。

 

1961年にオープンした「喫茶すずらん」1号店

 

「ようやく世の中が私たちに追いついてきましたね」

 2008年の旭山動物園グッズコンテストでグランプリを受賞した当社のオリジナル商品「手ぬぐるみ」があります。

 

 日本手ぬぐいを切ったり縫ったりせずに、畳んでも広げてもペンギンやシロクマなどの柄と形になるというものです。動物園グッズの他に、北海道の動物、野菜シリーズもあります。開発時からの方針で、この「手ぬぐるみ」は販売される地域のB型就労支援施設で製作しています。地域内で障がい者の就労を応援するという仕組みにし、経済にも還元させたいと考えたからです。手先を動かすことは知育や認知症予防にも役立つと言われており、私はこれを感性教育ツールとしても提案しています。まさに今求められているSDGsにマッチした商品です。

 

 当社では、設立した2003年からテレワークを行なっていました。スタッフは旭川、札幌、恵庭の各自宅でサンプル縫製、型紙作製などをしています。必要に応じて対面で打合せもしますが、モニターを2台置いての打合せは隣に人が居る感覚とほとんど変わりません。先日社員に「社長、ようやく世の中が私たちに追いついてきましたね」と言われました。夫が転勤しても、介護をしながらでも働けるお陰で、創業時からのメンバーは誰も辞めていません。本当にありがたいことですが、全員同じく歳をとってしまうことがデメリットです。

 

「手ぬぐるみ動物」の手ぬぐいと完成形

 

喫茶「すずらん」の再開

 2015年に父が病気になり、母も老々介護の状態となっていたため、これを期に美瑛に会社を移し実家に戻りました。また少しでも父に元気になってほしいという思いから、父が経営していた喫茶「すずらん」2号店(1号店の隣に移転した店)を再開しました。するとあっという間に噂が広まり、昔の馴染みのお客様が懐かしがり、皆戻ってきてくれました。父も本当に喜び、再開してよかったと思いました。それから、1年もたたずに父は亡くなりましたが、せっかく集まる場所ができたと言ってくださるお客様に、再び店を閉めるのは申し訳ないと思い、1号店のあった場所を3号店として改装し、姪が営業してくれることになりました。姪が店長になったことで、新たな若い顧客がつき3世代が集まる店になりました。

 

 私が美瑛町でまちづくり委員と移住定住協議会の副会長を務めていることから、移住者も私に相談したいと来店するようになり、また自分の夢を叶えようと仲間づくりを求める女性も集まるようになりました。現在17名でそれぞれサークル活動を始めています。非公式ですが美瑛女性部、略して「美女部」です。美女部での相談には同友会の人脈を使い、人と人をつなぎました。ここで聞く困りごとや要望は、町の人が今必要としていることなのだと感じます。美女部は町づくりにも積極的に参加しており、昨年できた移住定住協議会には美女部全員が所属しています。

 

1号店を改装、3号店としてオープンした「喫茶すずらん」

 

おひとり様の危機感から

 また、私は美女部の仲間と新たな会社「びえいデザイン室有限責任事業組合」を設立しました。メンバーはUターンしてきた私、ずっと美瑛町に住んでいる写真館の3代目、観光協会の係長、千葉から移住してきたプログラマーでライター、東京から美瑛の農家に嫁いだグラフィックデザイナーの5人です。皆で、今ここで起きていること、これから起こるであろうこと、こうありたいと思うことを話し合う中で、様々なイノベーションが起きました。美瑛の内側からと移住組の外側から見る視点が強みになります。

 

 びえいデザイン室の5人は、おひとり様の私以外既婚者ですが、私を含め4人に子どもがいません。親の介護をしている人や見送った世代ですが、自分の時は誰が日常の助けをしてくれ、どのように老いていくことが理想なのかという危機感が同じでした。私の母は、昨年亡くなる前日までトイレも自分で行けましたし簡単な食事の支度もできました。でも、私がそばにいなければ施設で暮らさなくてはならなかったと思います。元気でも、ゴミ出しや除雪、買い物に行けないとやはり一人では暮らせません。誰かの少しの介助があれば、自分の家で自分らしく暮らせるかもしれない。しかし親族がいなければ、他人とつながるしかない。少子高齢化のいま、今後の暮らし方は、大きく変わっていくと思います。

 

 3世代が集まる喫茶「すずらん」では、様々な「助けあい」が行われます。一人暮らしの年配女性から「模様替えをしたいけれど、タンスを動かすことができない」と聞くと、カウンターの隣に座っている若者に「手伝ってあげて」と頼み、そのお礼はすずらんでの「ランチとコーヒー」、これで契約成立です。

 

 ある日は、小学生の子どもが五百円玉を握りしめ、一人でお店に来てパフェを注文しました。母親に「すずらんで待っていなさい」と言われてやってきたのです。ここには地元の信頼できる大人が集まっていて、気を遣わずに五百円で皆がその子を見てくれます。社会福祉は大変充実している美瑛町ですが、ほんの少し誰かの手を借りたいということが、年々増えてきています。それはボランティアでは継続が難しく、ビジネスとして成り立つ仕組みが必要だと考えました。

 

 女性の社会進出が増えてきた1970年代のスウェーデンで、働く女性のためのライフスタイルを確立するために考案されたコレクティブハウスというものがあります。日本で最初に出来たコレクティブハウスが、道北あさひかわ支部女性部「野花の会」で見学に行った東京日暮里の「かんかん森」です。普通のマンションのように独立した住居と共有スペースがあり、多世代が暮らしています。見学して驚いたのは、共有の場がすべてガラス張りで、誰からも見守りができる造りになっていたことです。

 

 子守り、大工係、農園係など、自分の得意な分野で助け合う仕組みがあり、「かんかん森」内で使用できる「もり券」という独自通貨で対価が支払われます。「かんかん森」で見学したことは、私に様々なヒントをくれました。

 

Beコインで人と人をつなぐ

 美瑛町にはすでにBeコインという地域通貨があります。カードやスマホアプリで1ポイント1円として、町内の加盟店で飲食、宿泊、買物等に使用できます。行政サービスの利用やボランティアでポイントを貯めることもできます。移住政策としても利用されており、家賃の半分をBeコインで支援したり、また子育て移住者に1万ポイントが36カ月付与されます。

 

 Beコインで「もり券」のように人と人をつなぐ構想には、環境システムとハブになる場所が必要です。そのシステム開発費はとても高額なのですが、私の構想を知った東京のIT会社がシステムを無料で提供したいと申し出てくれました。全国にネームバリューのある美瑛で成功事例をつくり、他に広めるテストケースにしようというのです。すでに町民がBeコインを使いこなしていることが強みでした。

 

 また、地域のハブになる場所づくりにと私たちがイメージした「理想のBeステーション」があります。そこには住居だけではなく、1階に町民が誰でも利用できる相談所や「すずらん」のようなカフェスペースをつくります。この構想はまだまだ難しい課題もあり、時間もかかる取り組みですが、問題をひとつずつクリアして進めているところです。美瑛町の規模で地域を変えていくには、やはり民間と行政が両輪となって進めるのが理想で、成功の鍵だと思います。この民間の部分を「びえいデザイン室」で運営したいと考えています。

 

 

 「びえいデザイン室」では、一番年上の私がいかに幸せに老後を過ごせるかを考えてほしいと話しています。それを継承していけば、後に続く人たちにも幸せな老後が待っています。私が引退したら一番若いメンバーより若い人を入れて育て、継承していくという決まりもつくっています。

 

 私は美瑛町の福祉施設の理事も務めておりますが、障がいのある人たちもこれから歳をとる私と同じで、必ず誰かの手を借りなくてはなりません。だからこそ、そんな方たちとも共生できるまちづくりが理想です。

 

 私は、これからも誰かに必要とされる限り仕事は続けていきたいですが、老後は誰かの手を借りなくては出来なくなることがあると知った時から、人生観も商売観も変わりました。生まれ育った美瑛を住みやすい町にするために行動することは、今まで経営者として培ってきたノウハウや人脈を生かせる、地域への恩返しでもあります。誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分の今を見つめ行動を起こす、最後までそんな人生を全うしたいと思います。

 

(2022年10月7日「第37回全道経営者〝共育〟研究集会with全道青年部・後継者部会交流会in札幌」第14分科会より 文責 長谷部 由香)

 

㈲良栄・PLAN 代表取締役 佐々木 良榮(美瑛)
会社概要
設  立:2003 年
資 本 金:300万円
従業員数:4名
事業内容:衣装デザイン及び製造販売、商品企画・開発デザイン、テキスタイルデザイン及び製造販売