【71号特集3】ピンチをチャンスに変えたリブランディング戦略!
2023年01月20日
ピンチをチャンスに変えたリブランディング戦略!
―創業98年企業の〝不易流行〟―
㈱やまもく 代表取締役 山口 雄大(札幌)
2007年に事業を承継した山口氏は、会社の将来を切り開くため地域№1工務店をめざして小さな行動を積み重ねていきます。そして経営を立て直した2018年、ある思いからリブランディングに着手。〝やまもくSDGs宣言〟を策定するなど、創業100年に向け変革を断行してきた3代目経営者の実践報告です。
当社は1924年に、徳島県出身の祖父が滝上町で木工場を設立したのがはじまりです。当時は木材を製材し、職人に販売していました。そして1944年、札幌の住宅需要を見込んで南6条西10丁目に事務所を構えます。広い通りに面した土地で、馬車で資材を運んでいたそうです。1948年には札幌で初めて土地付建売住宅を販売し、1955年に山口木材㈱を設立。2006年に愛称の「やまもく」へ社名を変更し、今年創業98年目を迎えました。
事業承継と葛藤の日々
私が家業を継いだのは、2007年の母の葬儀の際、葬儀委員長が「息子さんが後を継ぐ」と挨拶したことがきっかけです。まったくその気がなかった私はただ驚くばかりだったのですが、それが母の願いなのかもしれないと思い、当時2代目であった父からの事業承継を決断しました。
新卒で車の法人営業をしていた私には建築の知識がなく、まずは顧客へ挨拶回りをしたところ、「今さら来たのか」とお叱りを受けました。当社にはアフターフォローの概念がなかったのです。さらに当時はリフォーム詐欺が社会問題化し、消費者の警戒感から建築会社が次々と倒産していました。会社の将来のみならず業界の見通しもつかず、不安ばかりが募りました。
追い打ちをかけるように債務超過が判明します。まさに倒産一歩手前で踏みとどまっている当社には、大型物件を受注できる資金がないうえに当然融資も受けられません。8名いた社員は半数が退職してしまいました。とにかく自分が何とかしなければと、まずは簿記を学ぶことからはじめました。6時半に出社して夜は11時まで働き、家では経営に関する本を読み漁るなかでピンときたのがランチェスター戦略でした。いまの自分にはこれしかないと思い、札幌支部会員の西谷常春氏(ランチェスターマネジメント 代表取締役)のもとに4年間通いました。
八軒地域№1工務店をめざす
ランチェスター経営をベースに取り組んだのが、会社がある八軒地域№1工務店になることです。「地域密着№1工務店」を社是に掲げ、業務規則集をつくり朝礼で読み上げる習慣をつけました。2009年に№1エリアに決めた地域を対象に、調査を兼ねて全社員でポスティングをしたところ、地域シェアはたったの4・5%。愕然としましたが、自分の会社の立ち位置を客観的に把握することができました。まずは当社の存在を知ってもらうために、2010年から自社で制作した広報紙「やまもく通信」を毎月発行し、№1エリアへポスティングしました。
しかし広報紙を配っても、最初の1年間は何も反応がありませんでした。それでもやれることからやっていこうと、月2回の町内のごみ拾いをはじめ、オリジナルステッカーを悪質な訪問営業の魔除けとして玄関に貼ってもらうよう、お願いして歩きました。さらに毎年1月の閑散期には、工具で直せるものは無償で修理をする「道具箱訪問」を実施しました。年に一度の「やまもく地域感謝祭」は当社の敷地に出店が並び、餅まきなどのイベントを企画しています。毎年やり続けることで、コロナ前には約500名が来場するまでになりました。
そのかいあってか、2011年から少しずつ電話が鳴るようになりました。一方、年3回実施していた顧客訪問が難しくなり、アフターフォロー専任の女性パート社員を採用しました。お茶飲み友達のような関係になることを目的に、現在は2名体制で訪問活動を行っています。
2012年からは工事の際に外に掲げる近隣挨拶に社員の自己紹介を載せ、工事後は担当者直筆のお礼状を送付するなど、他社との細かな差別化を徹底しました。2014年には事務所1階の倉庫をショールーム兼コミュニティスペースに改装し、楽しい家づくりができるスペースという意味で「TANOSIE(たのしえ)」と名付け、当時は珍しかった来店型店舗にも挑戦しました。
これらの地道な取り組みを続けた結果、2019年3月には30・5%のシェア率に到達。近所のコンビニで声を掛けられることもあるほど、地域で認知されるようになってきました。承継時に8千万円だった年間売り上げは、2億円にまでなりました。社員と積み上げてきたからこそすべての活動が連動し、達成できたと思っています。
この取り組みは業界新聞にも取り上げられ、大手建材業代理店の顧客満足度アンケートで全国3位を達成することができました。地域清掃活動と地域感謝祭の取り組みは2020年に町内会から推薦され、札幌市から札幌市民憲章実践者表彰を受けました。債務超過を脱し、自己資本比率は25%までになりました。
社内を変え、社風を変え、自分が変わる
ようやく安定した会社になったと思っていた2018年、私には新たな疑問が湧きました。なぜか社員が定着しないのです。会議の時、下を向いて発言しようとしない社員の姿を見て気がつきました。今まで私がしてきたことは目先の戦略や戦術ばかりで、その先を考えることができていなかったのです。長い歴史があっても奢らず、新しいものを積極的に取り入れる会社にしたい。そのためには社内を変え、社風を変え、自分が変わるしかありません。覚悟をもって、外部委託せず自分たちでリブランディングに取り組むことにしました。
自社の未来像を社員と共有できていなかった私は、今からでも遅くないと信じ、社員と話し合いを重ね、経営理念をつくりました。社内改革を進めるにあたっては、札幌支部青年部「未知の会」の例会の進め方を参考にしました。社員自ら会議のテーマを決めて討論してもらい、私は世話人のようにファシリテーター役に徹するのです。これを「やまもくワイガヤ会議」と名付け、月1回実施しています。
「働きがいのある会社とは?」というテーマで会議をした時は、社員から次々と意見が出てきました。資格取得応援制度があったらいい、定休日に日曜日を含めてほしいなど、それらの声を一つずつ実現していきました。意外だったのは、社長ともっと話したいという要望でした。そこで2カ月に一度個人面談を行うと、私も社員の考えを知ることができるようになりました。ワイガヤ会議で実感したのは、一つの問題に対して全員で考えると、たくさんの知恵が出るということです。今では役員と社員の会話が増え、会社の雰囲気が明るくなりました。先日は業界の全国誌に当社が掲載され、自社を我がことのように語る社員が大きく取り上げられています。
当社のリブランディング戦略
住宅建築業界では、今後は低価格でコストパフォーマンスを重視した住宅か、高価格でこだわりのある住宅を建てる企業しか生き残れないと言われています。私たちがめざすのは少数精鋭のプロ集団として家づくりに関わるスモールエクセレント工務店です。社内では「参入障壁を高める努力をしよう」を合言葉に、他社が手を出そうと思わない程の高いレベルでの差別化を目標にしています。
新築を建てる中心の20~30代はミレニアル世代と呼ばれ、彼らの価値観は大きく変化しています。彼らはデジタルネイティブで、モノ消費よりもコト消費を重視すると言われています。当社ではそのようなお客様に、真の「プロ施主」になっていただきたいと思っています。様々な情報が溢れかえっているこの時代に、お客様に正しい情報を提供し、真の「家づくり作法」を伝えることを当社の使命としています。
これらの状況を踏まえて、ブランディングの中枢を「性能×安心×デザイン」とし、暮らしのあり方が変わってもそれを支える性能とデザインを提供しようと考えました。あわせて「普段の暮らしをストレスなく、居心地良く、感じよく、面白く。」というキャッチコピーで当社の家づくりを発信することにしました。まずはブランドのイメージに近づけようと、2014年に建てたショールームTANOSIEを2018年にリニューアルし、翌年には歴史のあった自社のロゴを思い切って刷新しました。
また、ブランディングの柱の一つとしたデザイン力を強化するべく、インテリアコーディネーターを自社採用しました。配置する家具によって、家のデザインの良さが生きない場合があるからです。「本物を追求する!」という企業理念に基づき今期から家具販売店と提携し、提案から販売まで一貫して提供することが可能になりました。安心に関しては、家づくりの現場で重要なタイミングで調査を行い、お客様がスマホでリアルタイムに確認できるシステムを導入しています。2020年の民法改正に伴い、新築工事の地盤保証20年をいち早く標準化するなど差別化を進めました。
地域とのつながりを大切に、地域のために
近年、環境に配慮した考えを持つお客様が増えています。だからこそ企業もSDGsを掲げるのが大切です。当社では「やまもくSDGs」を策定し、具体的な取り組みを明文化しました。この取り組みに共感し、当社で家を建てたいと来店された方が何名もいらっしゃいます。
当社は雑誌媒体等での掲載はせず、SNSを活用してお客様にアプローチしています。今年からホームページをリニューアルすると、年間5~6件だった問い合わせが10倍以上になりました。最近ではYouTubeで予習してから来店されるお客様もいて、打合せがスムーズになってきていると感じます。また新築のお客様にはアンバサダー登録をお願いしています。ご自宅の見学会やセミナーでの体験報告を通じて当社を応援していただける心強い存在です。
一連の取り組みの結果、昨年度の売り上げは4億円に到達し粗利率は12%改善され、価格競争から脱却できました。それでも昨年のウッドショックによる資材高騰や脱炭素の広がりなど、建築会社も努力し続けなければ生き残ることができません。私には同友会で出会った、困難を一緒に乗り越えていける経営者の仲間がいます。仲間や先輩からはいつも前進する勇気をもらえます。今後も創業100年のその先を見据え、地場のナショナルブランドと言われるような、地域から愛される企業づくりを一つひとつ重ねていきます。
(2022年10月7日「第37回全道経営者〝共育〟研究集会with全道青年部・後継者部会交流会in札幌」第11分科会より 文責 山崎 直子)
㈱やまもく 代表取締役 山口 雄大(札幌) ■会社概要 設 立:2006年 資 本 金:1,000万円 従業員数:11名 事業内容:木造戸建住宅の新築、リノベーション、リフォーム |