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【71号特集3】BCPは成長戦略!

2023年01月20日

BCPは成長戦略!
―経営視点で捉える事業継続―

 

㈱賀陽技研 代表取締役 平松 稔(岡山)

 

 BCP(事業継続計画)と同友会活動は親和性が高い。そう気づいた平松社長は、経営視点を取り入れたBCPを策定し、活用しています。

 


 

 当社は岡山県の吉備中央町(旧賀陽町)という山間部で、精密金属プレス加工業を営んでいます。強みは金型の設計から薄板小物の試作・量産まで一貫生産が可能な点です。

 

 賀陽技研の前身は、1973年に先代である父が創業した富士電機工業というプレス加工の会社です。その後、紆余曲折を経て、分社する形で2012年に現在の会社が誕生し、私が代表に就任します。6千万円の借金からのスタートでした。創立時11名だった社員も、現在は40名を数えるまで増えました。同友会への入会は分社前の2010年です。2012年に経営指針成文化研修を受講していますので、奇しくも人生の節目が重なった年でもありました。

 

 本日は、「BCPは成長戦略」をテーマに当社の実践を交えながら報告します。BCP(Business Continuity Plan)は一般的に「事業継続計画」と訳されますが、決して防災計画ではないということをまずお伝えしたいと思います。

 

事業継続計画(BCP)とは?

 当社がBCPに取り組んだきっかけは、2008年のリーマンショックに遡ります。当時は本当に仕事がなく、午前中しか工場が稼働しない日が半年ほど続きました。独立後、会社の知名度をどう上げようかと悩んでいた時期に出会ったのが、岡山県産業振興財団が開催したBCP実践塾でした。岡山県は元来地震が少ない地域です。

 

 この実践塾は、あえてこの地でBCPに取り組む姿勢を示すことによって企業イメージを上げることも意図に入っていたようで、創業間もない自社の知名度を上げる目的でまず参加したのです。実を言うと、防災対策でも事業継続の計画でもなく、マーケティングの手法と勘違いして飛びついたというのが、私がBCPに出会うきっかけでした。

 

 その実践塾の中で学んだことは、事業継続とは自社設備の復旧ではなく、納品先への供給を止めず、それを念頭に計画を立てるものということです。この話は、私の中で『労使見解』の「経営者である以上いかに環境が厳しくとも時代の変化に対応し、経営を維持し発展させる責任がある」の一節と結びつきました。これを機会に経営者としてもっと本気で取り組まなければと強く感じました。

 

 事業継続を脅かす事態に企業が遭遇したとき、顧客を失わず経営を維持し発展させることができるか、これを前提に重要業務を復旧させるために必要なもの、優先度が高いものを目標時間内に復旧できるよう、具体的な方策を策定しました。

 

 

学んでいたから行動に移せたBCP

 当社の事例として「お互い様BC連携」というものを新潟県の同業2社と組んでいます。災害時、互いの工場を貸し合い、工場が復旧した時にはその仕事を必ず元の企業に戻すこと、委託で作業し納品している間は、品質の責任自体は元の企業が受け持つことを文書にし、締結しました。これをもとに自社では演習も行い、いざというときの備えにしています。

 

 火災BCP訓練をした時には工場が全焼するという設定で、15分以内に事業継続に必要なものを運び出すことをミッションとしましたが、結果は15分以内に運び出すことはできませんでした。実は失敗することが目的であり、その後の反省会では、①情報の見える化(3S)②社員が経営環境の緩やかな変化に備える③社員の意識改革(新事業やイノベーションへの挑戦)の3点を確認することができました。そして、中小企業ならではの課題である属人的な仕事のやり方だと事業が継続できないことを確認し、勤務体制の見直し等にもつながりました。

 

 また、2018年の西日本豪雨災害では当社の外注先も被災し、納品に支障が出る可能性がありました。手を尽くした結果、多少の損失はありましたが納期には間に合いました。その過程でBCPを策定してよかったことは、①何をすればいいのか、基本的なところに迷いがなかった②代替生産先をすぐに探して対応できた③社長の的確な指示で担当者がパニックにならず済んだ。以上の3点が挙げられます。

 

 翻って①代替先がいざというときに見つかる保証がない②再開が遅れると顧客を失う可能性が高い③会社に来られない社員がいる、という課題も見つかりました。そして経営者として、いの一番に行ったことは、もしもの時に備えて資金ショートを防ぐため金融機関に赴き、短期借入金の増額を依頼することでした。BCPを学んでいたからこそ行動に移せたのだと思います。

 

 BCPは、社員教育にも活用しています。演習において、会社の突発的な危機下でどう行動するかをグループ討論します。それを若手のリーダーに任せることによって、会社全体のことを真剣に考えるようになり、ひいては事業後継者の候補として育ってくることも期待できます。

 

BCP社内演習のようす

 

同友会と事業継続計画

 BCPと同友会の精神は非常に親和性が高いと常々思っています。私が入会して経営指針書を作成した時期と、BCPに取り組んだ時期はほぼ同時期でした。西日本豪雨災害で経営者が会社に戻れなくても、社員が自主性を発揮して乗り越えてきた会員の事例を聞いた時、まさに自主・民主・連帯の精神だと感じました。そして、例会でテーマに上がる中長期計画や同業もしくは異業種との連携、新事業とイノベーションもBCPに関連していると私は考えています。

 

 経営指針成文化運動も、ぜひBCPの考え方を取り入れて作成することをお勧めします。災害に関わらず突発的な事態で事業継続が難しくなった時、重要な業務以外に携わる社員の雇用を守るためです。また、自社の10年ビジョンの設定や、到達するための中長期計画はどうしても目先の業務に追われ、計画がブレやすくなります。

 

 そこに危機に対応する考え方を取り入れることによって、自社の収益の柱を複数用意する、または計画することで解決が図られると思います。当社では、主力のプレス加工の他にまだ利益ベースには乗っていませんが、将来的に第2、第3の柱にするために取り組んでいる事業があります。

 

BCP的考え方を経営に活かす

 BCPは、「現在の事業が止まる危機が訪れた時、どう行動するかを計画するもの」です。復旧計画ではありません。優先して行うことは顧客離れを防ぐために、情報を発信することです。いつまでに、どこまで復旧可能かを知らせます。そして、再開投資の回収や、そもそも再開できない場合はどうするかを想定します。ここに事業計画の練り直しや、新規事業への取り組みが入ります。

 

 BCPには定型のフォーマットが実はありません。当社では、被害を①現地で復旧可能な軽微なもの②「お互い様BC連携」を活用し、その後現地で復旧が可能な甚大なもの③アウトソーシングに頼る壊滅的な被害の3段階に分類。事業継続に関わる業務の復旧が72時間以内にできるよう、それぞれ準備をします。

 

 これは製造業の考え方ですが、他業種では「もしも仕入先から供給が突然できなくなったら」「もしも顧客からの受注が突然なくなったら」と最悪の状況を想定し、こういった場合でも自社は事業継続可能かということを考えてもらえたらと思います。

 

 中小企業のBCP担当者は経営者です。当たり前ですが経営者の仕事は会社を持続発展させることです。中長期的なビジョンを持ち、社員教育、後継者の育成、自社の強み・弱みを把握する。以上はBCPの策定と運用の中でリンクしています。私たちは経営の視点を入れて顧客満足、社員の幸せ、社会的な存在を考えていく必要性があります。私も経営者の責任を果たすため、積極的にBCPに取り組み、どのような危機に対しても立ち向かっていきたいと考えています。

 

(2022年10月7日「第37回全道経営者〝共育〟研究集会with全道青年部・後継者部会交流会in札幌」第16分科会より 文責 山地 一)

 

㈱賀陽技研 代表取締役 平松 稔(岡山)
■会社概要
設  立:2012年
資 本 金:1,000万円
従業員数:36名
事業内容:製造業(金属プレス加工・金型製作・板金試作制作)