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【70号特集2】ワクワク経営で会社を変えた!

2022年02月08日

ワクワク経営で会社を変えた!

 

相互交通(株) 取締役社長 諏訪部 利夫(函館)

 

道南のタクシー業界の売り上げは新幹線の開通年を除き、毎年減少の一途を辿っています。宮城から着任し、状況を危惧した諏訪部社長は経営の立て直しに経営指針を取り入れます。「かつては社長と社員との間に距離があった」と語る諏訪部社長。それを克服した、社員がワクワクする経営とは一体どんな経営なのでしょうか?

 


 

 当社は函館市でタクシー業を営んでいます。1940年に創業し、現在は北海道交運グループの一角を担っています。197台の保有車両数は、函館市内で登録されているタクシーのうち3分の1に相当します。私自身は函館の相互交通だけでなく、仙台市に拠点を置く平和交通の社長も兼任しており、宮城同友会にも籍を置いています。

 

 

バブル景気後の後悔

 

 私は高校卒業後、公務員として関係機関の電算化を行う仕事をしていました。その後30歳の時に、東北三和コンピュータという会社を起ち上げます。健康診断のシステム導入から始めましたが、当時のバブル景気を追い風に、業績は拡大し続けます。やがてゴルフ場のシステム開発・導入なども手掛けるようになり、ますます売り上げは増えました。起業するための借入金が3000万円程ありましたが、わずか1年でそれを完済できたばかりでなく、設立から6年で売上5億円を達成しました。


 順風満帆な経営状況に私は有頂天となり、毎日のように仙台市の歓楽街に繰り出しては派手な飲食をしていました。周りから厳しい言葉を掛けられることもありましたが、当時の私は全く耳を貸さず、初心や基本を忘れ、経営を軽く考えていたのです。


 そしてやはり、そんな時代はいつまでも続くわけではありません。やがてバブルも崩壊を迎えます。それまで絶好調だった会社経営ですが、多額の売掛金が不良債権と化します。銀行の貸し剥がしにもあいました。5年ほどは赤字を出しながらも何とか経営を続けてきましたが、このままでは限界がくると判断し、負債を整理した上で、当時の専務に会社を譲ることを決めました。借入金整理のために自宅を売却しても足りず、当時46名いた社員を10名まで削減せざるを得ませんでした。


 社員への退職勧告ほど苦しいことはありません。退職してもらった社員のことが頭から離れず、3年ほどは仕事が手につかない日々が続きました。「一緒に会社を大きくしてきた仲間に対して、二度とこんなことをしてはいけない」。強くそう思ったのでした。

 

かつて幽霊会員だった私

 

 30歳の時に起業した私ですが、36歳の時に縁があり、宮城同友会青葉支部に入会します。


 その後、宮城同友会で第11期経営指針を創る会に入会し、1年間学びました。さらにその翌年には第2期同友会大学に入学します。


 しかし、バブル崩壊以降は半ば幽霊会員といった有様でした。その後、会社を譲った私は北海道交運グループに入社し、宮城県にある平和交通というタクシー会社に所属しました。この時も変わらず同友会の会員企業でしたから、当時の代表理事からも応援いただき、新しい事業などにも取り組んでみました。しかし、幽霊会員であったことから同友会を退会することになります。


 61歳で相互交通の社長として着任をした際、北海道同友会函館支部に入会しました。その後、平和交通に戻った時に宮城同友会に再入会しました。今では2社の社長を務めていますので、北海道と宮城の両方でお世話になっています。


 こうして、幽霊会員や退会などの紆余曲折を経て今の私があります。

 

社員と思いを共有する

 

 当社の経営理念は「人を愛し 地を愛し 社を愛す」です。


 相互交通に着任した初日に私を待っていたのは、直立不動の社員の姿でした。社員との距離をものすごく感じたのを覚えています。


 このような社風では経営状況の悪化も他人事として捉えてしまい、社員の危機感や行動にはなかなかつながりません。それどころか「売り上げの減少は業界全体の傾向だから仕方ない」という雰囲気さえありました。社員に理念や目標を伝えきれていない状況だったのです。


 また、北海道同友会へ入会後初めて参加した例会の場で、同友会役員の方と挨拶をする機会がありました。するとその方は、「相互交通の乗務員は態度が悪いので、私は絶対に乗らない」と言うのです。また、別の役員からは「相互交通という会社は大変だよ」と言われました。それまで社員からは「相互交通は保有台数が多く、当社なしでは函館のタクシー業界は成り立たない」と聞いていました。社内の声と外からの評価はこんなにも違うのかと愕然としました。


 会社を何とかしなければと思った私は、「まずはやってみよう」という考え方を浸透させることに注力しました。何事もまず取り組まなければ結果は出ません。取り組んだうえで上手くいかなければやめるか、やり方を変えれば良いだけです。やって失敗した方が次につながるということを社員に説き続けました。


 また、「スパイ大作戦」という名で、お客様にタクシークーポンを配りました。クーポンを使ってタクシーを利用されたお客様にアンケートを取ったのです。外から見たありのままの会社の姿を把握しようと試みました。


 こうして社員と思いを共有しようと取り組みを続けていたのですが、ある時、社内改革の責任者に任命していた営業課長が末期の癌で入院することになってしまいます。彼には当時専門学校に通っていた子どもがおり、働けないことによる経済面での心配がありました。私は彼に入院中の給与を補償することを約束しました。そのことを話した時の彼の奥様の安心した顔が忘れられません。


 翌日、社員にこの話をしたところ、なんと拍手が沸き起こり、課長が残している仕事を皆でやり切ろうとなったのです。初めて相互交通に一体感が生まれた瞬間でした。

 

社会性、科学性、人間性に沿った取り組み

 

 ひとたび一体感が生まれると、その後の社内改革はスムーズに進みました。当社は経営理念に対して社会性、科学性、人間性の3つの観点に沿った取り組みをそれぞれ行っていますが、これを始めたのもこの頃からです。


 科学性では、他社に先駆けてキャッシュレス決済や配車システム、身体の不自由があっても利用しやすいユニバーサルデザイン車両「ジャパンタクシー」を導入しました。


 社会性ではSOS救援タクシーや傘貸しサービスなどに取り組みました。SOS救援タクシーとは登下校時に学校周辺を車両でパトロールし、万が一の場合、児童を車内に保護するサービスです。これは、2018年5月にあった新潟での痛ましい事件を決して繰り返してはならない、と思いついた見守り活動です。当社の近くには小学校があります。何かあった時には当社のタクシーを頼ってくださいと校長先生にお話しし、先方から提携を申し出て頂きました。

 

SOS救援タクシーの出発式。小学生が救助を求める練習中


 また、災害時に備え、発電機も導入しました。タクシーは災害時に唯一動くことができる公共交通機関です。胆振東部地震でブラックアウトに見舞われた際も、当社は明かりを消さずに営業を続けることができました。


 続いて人間性です。25年の勤続表彰や給与アップだけでなく、社員間の交流事業を始めました。私自身の宮城での勤務経験を生かし、東北のご当地料理である白石温麵や山形芋煮のパーティーなど、乗務員と鍋を囲むようなイベントも企画しました。


 当社ではこのようにして、科学性、社会性、人間性の3つの観点に沿った取り組みを30ほど行っています。

 

社員のご家族も交えての白石温麵会

 

「相互さんのタクシー、変わったね」

 

 これらは会社の売り上げに直接結びつくものではありません。しかし、続けていくうちに社員の意識は確実に変わってきました。「社員のことを考えてくれる会社だ」「社会に貢献している会社だ」という声が聞かれるようになったのです。


 社員の意識や雰囲気が変わると、お客様にも伝わります。「相互さんのタクシー、久しぶりに乗ったけど何だか変わったね」「今日の運転手さん、会社を自慢していたよ」という嬉しい声を頂くようになりました。


 この状態でなら、さらに高い目標にも挑戦できると考えた私は、注文配車率60%をめざすことにしました。注文配車率とは、お客様から会社に電話をいただいて配車する割合です。地域の皆様に愛され、信頼されていることを示す一つの指標でもあります。それまで当社では、60%は一度も超えたことのない目標でしたが、順調に伸ばすことができ、達成にこぎつけました。


 続いて売り上げの前年超えをめざします。市内のタクシー業界全体が苦戦し、各社ともに前年割れとなる中で、こちらも前年超えを達成することができました。


 会社が上手く回ってくると、同友会の仲間から「どのように社内を変えていったの?」と聞かれることがあります。私は「経営指針の実践による社内の一体化のおかげ」と答えています。


 経営者と社員はある意味で相反する立場です。雇用する・される、指示を出す・受ける…それを情報開示やコミュニケーション、お互いの能力を認め合うことから継続的に実践していくことで、目標に向かって進んでいく統一された組織をつくり上げていきます。会社が一枚岩であればあるほど、目標達成は容易になります。当社が注文配車率などを達成できたのも、社内の一体感があったからこそです。そしてそうなるためには、まず会社の羅針盤となる経営指針が必要なのです。

 

 

同友会には本音で向き合える仲間がいる!

 

 長野県上田市の安楽寺には、「本気」という教えがあります。「本気ですれば大抵のことができる 本気ですれば何でもおもしろい 本気でしていると誰かが助けてくれる」というものです。本気でなければ周りは動いてくれません。私は本気で物事に取り組めているかを判断するときには、「誰かが助けてくれる」ということを基準にしています。


 同友会には本音で付き合うことができる異業種の仲間がいます。一般的に、人とのコミュニケーションは無用な摩擦を避け、それでいて自分の考えを伝えることが重要です。しかし、本音で学び合う仲間同士には、時に厳しい意見やアドバイスも必要です。「コロナ禍で売り上げが落ちてしまったよ」「どの業種も厳しいよ。仕方がない」と慰め合うだけの会話では気づきが生まれにくいものです。


 一方、本音のアドバイスからは、自分の視野の外からの新たな気づきが得られます。「自社ではこう取り組んだが、あなたの会社ではどう取り組みますか?」「なぜ取り組めないのですか?」厳しく耳の痛い話です。しかし、ここに同友会の良さがあり、経営者としての真の気づきがあるのです。今日お話したことも、本気で取り組んでいたからこそ、仲間や社員、地域、お客様に助けてもらった出来事ばかりだと思っています。


 当社では、外部のアドバイスを受けながら企業の憲法とも言える経営理念をつくり、社員とワクワクしながら10年ビジョンを語り合ってきました。科学的に自社を分析し、経営方針で事業の方向性を定め、社員と共に経営計画をつくり上げてきました。経営者の本気度があがらなければ、社員からの共感は得られず、実践につながることはありません。


 経営者にとって最も必要なのは、同じ方向を向くことができるような目標・理念を本気で策定し、それを社員と共有し、実践していくことなのだと思います。


(2021年2月25日「函館支部 噴火湾地区会2月例会」より 文責 末武航幸)

 

相互交通(株) 取締役社長 諏訪部 利夫(函館)

■会社概要
設  立:1940年
資 本 金:8,400万円
従業員数:465名
事業内容:タクシー業

https://hk-grp.or.jp/sougo/