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【70号特集1】社員の恩返し精神で業績回復!

2022年02月10日

社員の恩返し精神で業績回復!
―緊急事態宣言で気づく経営指針の大切さ―

 

(株)アングル 代表取締役社長 小原 隆介(苫小牧)

 

世界を脅かす新型コロナウィルス感染症の影響で売上減少から一転、社員と共に業績回復を実現し、前進する会員企業の実践から学びます。

 


 

 当社は1938年、私の祖父である小原正男が「小原時計店」として樺太で創業しました。その頃は店舗を持たずに時計の電池交換や修理を営んでいました。戦況の悪化で小樽に疎開し、その後千歳に移転。苫小牧・札幌に進出したのち1976年に「㈱オバラ」に組織変更をしました。1980年には函館・恵庭、1988年には岩手県に進出しました。2009年に3社に分社したうちの一つが当社、「㈱アングル」です。


 私は1991年に入社し、各地の店長を経て2008年から本社に勤務しています。

 

人を生かさない経営

 

 分社後5年は順調でしたが、経営に関しては即効性を求めるあまり、トップが決断して社員に指示・命令を繰り返していました。


 当時行った社内風土調査では、「社員の意見・判断を受け入れる組織風土である」の質問に対し「YES」の回答が全社員中わずか3割。その当時の取締役にも「意見を言っても否定される。考えるのをやめてしまった」と言われました。とても本音の意見を自由に言い合える環境ではなかったのです。同友会では「人を生かす経営」と言われていますが、当社は「人を生かさない経営」になっていたのです。
 さらに「技術だけはしっかり身につけよう」と育てた社員も、給与アップを条件に次々と大手の同業他社に引き抜かれていき、2014年度には大きな赤字を出してしまいます。


 「このままではいけない。社歴が長い社員の経験や知恵を生かし、自己実現を叶えられる会社にしたい」と、不安を抱えつつも、2015年に社長就任を引き受けることにしました。

 

戦況の悪化で小樽へ疎開

 

どんどん恥をかこう!

 

 就任時には売り上げも利益も少しずつ上がりはじめましたが、満足できる業績ではありません。コンサルタントにも来てもらいましたが、どうもしっくりきません。そんな時、同友会の先輩会員から経営指針研究会に誘われました。


 「小原君、なにやっているんだい? 経営指針やらないのかい? 私は経営指針をやって業績がすごく上がったよ!」「自分の代で終わりだと思っていたけど、後継者を探したいと経営指針をやって教わったよ!」。このような経験談を聞き、「自分も利益を出さなければ」という焦りもあり、2018年、藁にもすがる思いで「第10期経営指針研究会」に参加します。


 研究会で様々な勉強をするうちに、経営に関して人に相談できない自分に気が付きました。なんでも自己完結して結論を出してしまう自分を掘り下げていくと、否定される恐怖や弱みを見せたくないというプライドが原因でした。本音で語り合う会社をつくるために、なんとかここを克服したいと思い、これからは自分をさらけ出していこう、どんどん恥をかこうと決め、経営指針の成文化に取り組み始めました。


 研究会を修了した頃、幸いにも利益が少しずつ上がってきました。当時の社内風土調査でも、今までの体質の改善が見えてきました。こうして「人を生かさない経営」から、「人を生かしはじめた経営」になれたと思ったのもつかの間、2020年のコロナ禍で一変します。

 

経営指針に里帰り

 

 緊急事態宣言発令にともない、出店していた苫小牧の商業施設から休業要請が出されます。休業により、該当する店舗で一カ月に800万円ほどあった売り上げを喪失した他、大規模な展示会も中止となり、2200万円の売り上げもなくなってしまいました。さらに固定経費として一日70万円が飛んでいき、3~5月の当期利益は前年対比で軒並み下がってしまいました。


 どこまで続くのか不安でしたが、経営指針で学んだ「経営者の責任」(『労使見解』)の一文を思い出しました。「いかに環境が厳しくとも、時代の変化に対応して、経営を維持し発展させる責任があります」。コロナ禍においても最低限、経営を維持しようと決めました。
 まず資金ショートを想定し、支払いの優先順位を考えました。金融機関、仕入先、租税公課とありましたが、まずは現場を守ってくれる社員の給与を最優先にしました。それでもパート社員の勤務時間短縮や、もちろん自分の給与を下げた上で、社員の給与を減額しました。力不足でそれしか思い浮かばなかったのです。


 社員へ電話や面談で経営状況を説明しましたが、その時期の社内風土調査では「今の給与・評価制度を理解・納得している」の項目が、過去最低の回答になってしまいました。説明を尽くしたつもりでしたが、納得できなかったのでしょう。本当に申し訳なかったと思っています。さらにこのままの売上減で赤字はどこまで増えるのか、経費削減によって赤字はどこまで減らせるかを算出するものの、先が読めず悶々としていました。そこで改めて経営指針に里帰りし、作成項目に沿って考え直すことにしました。

 

お客様に恩返しをしよう!

 

 「困難な曲がり角で大切にしてきたこと」という項目で、思い出したことがありました。大手の競合店が相次いで出店し、業績が低迷した際に「自社の強みは何なのか」を社員と話し合い、戦略を再構築して業績をV字回復させたことがあったのです。「そうだ、わが社は過去に幾度も社員と共に危機を乗り越えてきた。今度も社員と一緒なら大丈夫だ」と自分を奮い立たせました。


 そこで社員に正直に悩みを打ち明けました。今の置かれている状況を話し合い、改めて自社の強みは何なのか、そしていま私たちにできることは何なのかを相談しました。すると社員たちが「一緒に考えましょう!」と、オンラインで朝晩ずっと話し合ってくれました。そして、利益を出すことよりも「お客様がお店に来ない中で私たちができることは何か」を話し合った結果、「お客様に恩返しをしよう」となりました。


 目的は「お客様の笑顔をつくること」です。店舗でお客様を待つ私たちはお客様を訪問することはできませんが、電話をすることはできます。しかも営業ではなく気遣いの電話をしようと、一人一日50件~100件かけました。そして当時価格が高騰し入手が難しかったマスクを2枚同封した手書きの手紙を2622通お送りしました。


 恩返しのつもりでしたので、見返りは求めていなかったのですが、予想外にお客様からお礼の電話が289件、感謝の手紙が21件、LINEが35件届きました。手紙を見て店に足を運んでくださるお客様も増えました。「マスクが買えない中、もらえて涙が出た」、「外出できず人との接点がないので、電話が来て嬉しかった」等のお客様の声を聞き、逆に私たちが励まされました。さらにこの手紙は日本DM大賞で銅賞をいただき、社員自身が仕事を誇りに思えた瞬間だったのではないかと思います。


 これをきっかけに、社員が自らの意思で動き出しました。お客様への電話件数も増え、「今まで来店されたお客様に、感謝の気持ちを持って接客していただろうか。ただ作業していただけだったのでは」と振り返る社員もいました。何より嬉しかったのは、社内に自己啓発の文化が広がり始めたことです。


 店長は部下と積極的にミーティングをしたり、オンライン会議で販売の成功事例を共有したり、知りたいことはメーカーに連絡をして勉強をするといったことがどんどん起きていきました。コロナ対策を講じて下半期の展示会も無事開催することができ、各店長も積極的に経費削減をしてくれました。その結果、2020年度は赤字から大幅に脱却でき、過去最高益を達成することができました。

 

お客様へマスクと共に送った手書きの手紙

 

人に生かされている経営

 

 振り返ってみると不十分な部分がたくさんありますが、当社の最大の強みは「全員参加型経営」だと今は胸を張って言えます。以前は全社員のうち10%にも満たない社員で作成していた経営計画書も、全員の思いをのせて作成しています。


 当社には20の委員会があり、パート社員を含めた全社員が所属しています。中でもクレド委員会は、日本語で「信条」を指す「行動指針」をつくり、実践を広げるための委員会です。


 クレド委員会は、組織として経営者の私よりも上に位置します。もしクレドが私の下にあれば、私はカリスマ的な存在になるでしょう。しかし経営者が経営判断を誤った時、新入社員も含めた社員が「社長、これは方向性が違うのではないですか?」と言える組織でなければ、継続も発展もないと思います。


 クレドという全員に分かりやすい指標があると年齢や性別、勤続年数が違っても同じテーマで話し合えます。お客様に何ができるかを全員で試行錯誤することで、信頼し合えるチームができ、働きやすい環境が整い、おもてなしの幅を何十倍にも広げ、日本一のサービスができるようになります。クレドを通じて最高のチームをつくるということです。


 社員とともにクレドをつくっていくと、「自分が社員を生かしているのではない、社員に生かされている」と感じます。そしてこれこそが「人に生かされている経営」ではないかと思います。

 

「異見」大歓迎

 

 経営指針では「社員はもっとも信頼できるパートナー」と学びますが、ということは、「自分のことも信頼できるパートナー」と思ってもらえなければいけないと思います。スポーツのダブルス競技でも、上下に関係なく見返りを求めず、互いを信じて競います。同じように、新入社員に自分のことをパートナーと思ってもらえているか? パート社員は店長のことをパートナーと思っているのか? これからも課題だと考えています。


 さらには年齢・経験・役職に関係なく「異見」や指示ができる文化にしたい。特に会議の席というのは、みんな対等だと思っています。年齢や役職は関係ありません。「言いたいこと、反対意見どんとこい!」という意味での「異見」です。自分が反対意見を持つことで場の雰囲気を壊してしまうのではないか、という懸念を取り除きたい。社員が能動的に発信できる風土にしたいのです。


 当社には社員自身が1年後・3年後・5年後の夢を描いた「自己実現シート」があります。年間だと一人15個の夢があるので、私は毎年30人の社員450個の夢を背負い、経営をしているということです。


 社員が自己実現できる会社でなければ存続も発展もありません。「すべての社員の夢を叶える、自己実現をお手伝いするのが私の仕事なんだ」ということを改めて思います。同友会の書籍のタイトルにも『逆風をもって徳とする』という言葉がありますが、緊急事態宣言で社員が本当のパートナーだと再認識し、危機を乗り切る決め手は「人を生かす経営」だと確信しました。


 2021年度の経営計画では、執行役員という将来の幹部をつくり、世代交代に備えはじめました。これから10年ビジョン、2030年に向けて自分の夢が実現されるよう、社員と共に邁進していきたいと思います。

 


(2021年7月27日「西胆振支部7月例会」より 文責 貞廣のはら)

 

(株)アングル 代表取締役社長 小原 隆介(苫小牧)


■会社概要
設  立:2009年
資 本 金:300万円
従業員数:正社員20名・パート10名
事業内容:メガネの販売(7店舗)

https://www.anotherangle.jp/