【70号特集1】激動の中進化し続けるEVENTOSの挑戦
2022年02月10日
激動の中進化し続けるEVENTOSの挑戦
(株)EVENTOS 代表取締役 川中 英章(広島)
EVENTOSは2020年11月、地域経済への影響力を見込める成長性と共に、地域経済の中心的な役割が認められ「地域未来牽引企業」(経済産業省)に選ばれました。コロナ禍の大きな波に見舞われている今だからこそ、経営指針の成文化や実践が求められています。川中氏の実践から「人を生かす経営」のヒントを学びます。
私は神戸の大学を卒業後、故郷広島に戻り、私立大学の職員として就職しました。しかし、ベテランばかりの職場になじめず、すぐに退職しました。何かを極めたこともなく「これをしたい」という目標もない私でしたが、「若い人の力をすぐ発揮できる職場をつくりたい」という想いだけはありました。バブル絶頂期の1988年、27歳の時に、広島でイベント会社を創業しました。
最初は大手広告代理店の下請けの、さらに下請けとして走り回りましたが、思うように稼ぐことができません。何とかお金を回すために、自社で料理の提供を始めます。引き抜き採用でプロの調理師を雇ったものの、飲食業の経験がない私と、彼らとの人間関係が上手くいきません。
一所懸命売り上げを上げるほど赤字が増え、20世紀の終わりに限界がきます。60人いた従業員が最後は7人に減りました。
新卒採用で気づいた経営姿勢の弱さ
多くの離職者を出したことで、EVENTOSは危ない会社だという噂が広まります。今までのように引き抜き採用ができなくなり、やむなく新卒採用を始めました。
ある日、レストランのカウンターによく座る方が名刺を差し出し、「同友会で勉強しないか」と誘われます。「勉強」の意味を理解していなかった当時の私は、採用のノウハウが学べると思い、2004年に同友会へ入会しました。
同友会の合同企業説明会で初めてブースを持ったのは2007年、リーマンショックで就職難の最中でした。一日に1000人もの学生がブースを訪れ、80人の学生が会社訪問にやってきました。「これはいける」と思いましたが、1カ月後の入社試験に来たのはたった6名。挨拶もしない社員のマナーの悪さから、当社の雰囲気が伝わってしまったのでしょう。同友会に相談し、結局入社試験にやってきた6名全員に内定を出しました。
とは言え、私は自分が語った自社のビジョンをきっかけに入社してくれた6名のことが愛おしく、「何とかこの子たちを守っていこう」と決意しました。しかし、地獄は4月1日から始まったのです。新入社員に「背中を見て盗め」と言い続ける職人たち。新入社員研修で基本的なマナーを覚えてきても、「そうじゃない」と既存社員は怒るのです。何かするたびに怒られる職場で、最後まで残ってくれた人が一番の被害者になってしまいました。
新卒採用を通して気づいたのは、自分の経営姿勢が弱いのだということです。「いい子に入って欲しい」と思っていましたが、「いい人材」とは何かが分かっていなかったのです。経営理念にある「新鮮でワクワクする」を私が語っても、社員一人ひとりのとらえ方が違うがゆえに、皆勝手なアドバイスを新入社員にしてしまいます。
ここでようやく、社員が育つための風土づくりとして「経営指針」が必要なのだと気づきました。自分の経営姿勢について猛反省し、新卒採用を始めて2年目から、経営指針づくりに真剣に取り組みました。
コロナ禍でマルチワークに挑戦
私の会社は飲食のなかでも「パーティ屋さん」です。本業のケータリングの仕事が65%を占め、レストランなど一般的な飲食業の割合は35%程です。ケータリングは入社式、経営指針発表会、送別会などの社内行事やウエディングを主としており、大手貸し会議場とウエディングプランナーが私たちの主要なお客様です。
この本業の売り上げが、新型コロナウイルス感染拡大により、2020年の春先に95%ダウンしました。ウエディングは次々とキャンセルされ、貸し会議室は一件も予約がない状況です。レストランの売り上げも70%以上ダウンし、感染状況に左右され、仕入れた食材の廃棄を繰り返すばかりです。「営業したい」と思えば思うほど赤字額が増えていき、4月と5月で1000万円を超える赤字が出るころには、社員から「うちの会社、大丈夫ですか」と不安の声が聞こえてきました。いくら給与保証があっても、先が見えない不安は誰もが感じていました。
コロナ禍に振り回されるなか、「どんな時代でも生き抜く力を身に着けることが本来の社員教育」という同友会の教えを思い出しました。これを当社の課題ととらえ、社員全員が集まり、毎日8時間、20日間の勉強会を行いました。徹底的に理念と方針を学び、当社の強みや弱みを皆で考えました。社員の不安を解消するため、倒産の仕組みについてもしっかりと学びました。
飲食業に欠かせないコックという仕事は、お客様がいないと生まれません。しかしコロナ禍で調理の仕事がなくなった時に、コックでもほかの部門を間接的に担うことができる仕組みをつくりました。彼らは調理の仕事ができない間、商品開発や今まで後回しになっていた仕事の精査、雇用調整助成金の申請などに取り組んでいきました。コロナ禍を契機に、「正社員はひとり三役、パートさんは二役を担う」という、いわゆるマルチワークへと、本質的な理解へつながったのです。
しかし、マルチワークになじめなかったベテランコック3名が今回、退職してしまいました。彼らベテラン技術者の意識改革ができなければ、本当の意味でのありがとうが生まれる会社になれないと、長年の課題として感じていました。先延ばしにしてきた曖昧な経営が、今回の彼らの離職を招いたのだと反省しています。
10年ビジョンを前倒し
当社の企業理念は「より良い明日へ 幸福の追求」です。今日よりもさらに良いやり方はないか?もっとできることはないか?と常に追い求めています。私自身は60歳を迎え、承継の準備を進めていますが、この会社である限り、経営理念は変えても、企業理念は変えてほしくないと考えています。経営理念の上に企業理念があり、企業理念の前にまず個人の理念があるはずだからです。
2018年に考えた2028年までの第2期10年ビジョンでは、「地域になくてはならない会社」をめざし、①同業他社の目標にされるファーストカンパニーになり、業界をけん引すること②かっこいい仕事をつくること(パーティープランナー)③働き方にやさしい企業になる。この3つを掲げています。
私は同友会で学ぶなか、業界の非常識に取り組むことで仕出し業界の課題を解決したいと思うようになりました。⑴本当のできたてを出せる仕出し屋になること⑵注文を当日でも受けられるようにすること⑶お客様が献立を組めるようにすること。この3つを解決したいと思い、10年ビジョンのなかで方針に掲げてきました。業界内で問題視されていないことを問題ととらえ、解決していく企業になることが、市場縮小の中で生き残っていく唯一の道だと考えているからです。
今回のコロナ禍で、改めて社員とともに自社の現状を見直したとき、「独自性」や「強み」が薄いことに気が付きました。時代に左右されない強固な経営基盤をつくるために、10年ビジョンの実現に向けて、かねてから進めていた開発商品の販売と、移動キッチン構想を、計画を前倒しして着手しました。
2020年8月に完成した走るキッチン「パーティー宅急便」は、100名分の料理を提供できます。宮城同友会の会員に製作して貰ったキッチンバスが実現したことで、コロナ禍で避けなければいけない「密」への対策も取りつつ、屋外バーベキュー事業も始めました。歩みを止めずにチャレンジすることが、新たな事業づくりにつながったのです。
「なぜ飲食なのか」に応えるために
飲食業界=「ブラック」というイメージが定着し、正しく理解されていないことも長年の課題でしたので、新卒採用を始めてからは内定者の家庭訪問に伺い、親御さんの前で30分程の経営指針発表会を行うようにしました。
ある家庭を訪れたとき、「なぜうちの娘は大学まで出たのに飲食なのだろう?」と聞かれました。とてもショックでした。本人は私たちと一緒に頑張りたいと思っていても、家族の理解はなかなか得られません。これをきっかけに、飲食業界を「いい仕事だね」と言われるような職業にしたいと思うようになったのです。
現在、社員が働きやすい職場づくりの一環として、「パーティープランナー」という仕事をつくろうと取り組んでいます。たんなるケータリングサービスにとどまらず、イベントを企画したお客様と一緒に、会場で流す動画や画像の作成など、イベントの準備を行っていくのです。会社の行事のときには必ず呼んでいただけるような「集いの専門店」としての仕事です。飲食業界では難しかったストックビジネスをつくることで、先の予定が立ち、「より良い」を追求することに集中してもらいたいのです。
今後を担う人材育成のために、見習いたい先輩の存在をつくることにも取り組んでいます。資格支援制度を設け、自分自身で人生設計ができるよう、キャリアステップの見える化や評価制度の整備を行いました。70%を占める女性社員のために、常勤ができなくても、また部下を持てなくても活躍できるキャリアステップもつくっています。
同時に、人材育成のためには、経費が必要であることを説明しています。理念に掲げている事柄を達成するために必要な経費を、わたしたちは「理念費」と呼んでいます。当社では貸借対照表や損益計算書を社員に公開します。自社の経費の使い道を社員と共有することは、理念の浸透につながると考えているからです。
新入社員に新規事業を任せる!
コロナ禍によって、これまでのお得意様に依存できない状況となり、2020年度は大きな赤字決算の見通しです。取締役3名の報酬は66%カット。固定費の削減にも努めていますが、やはり新しい仕事を開拓し、売り上げをつくっていかねばなりません。
当社では、会社の発展と社員の育成のため、そして時代に左右されない企業づくりのためにも、例年通りの採用活動を行いました。新入社員を迎えるということは、今年度の経費が増えるということです。コロナ禍で受けた打撃を考えると今期の採用は悩みました。しかし「来年の春にはきっとよくなる」という想いで採用活動を続けた結果、東京や北海道など全国から応募があり、6名の新入社員を採用しました。志を持ち、成績もよく、社会性のある学生を「コロナだからという理由で不採用にしていいのか」と考えたとき、彼らのために春までに何とか新しい仕事をつくろうと決心しました。
私は、近隣の市町村を回り「当社の事業は人を集め、地域活性化の火種を創ることができます」と営業を行いました。そこで「若者が都会へ流出し、地域に働き手がいない」「密を避けて田舎で交流をしてはどうか」等、地域の困りごとやアイディアをたくさんいただき、仕事の依頼も受けました。
以前から地域の活性化事業として、のどかな里山・吉山の野菜を使ったスパゲティーレストラン「吉山BIANCO」、地域の野菜やこだわりの食品を集めて販売する「Oishi吉山」という事業を立ち上げていました。その経験が、島根県江津市の有福温泉の再生事業に参画することに結びつきました。現在、島根同友会にも入会し、「地域丸ごとホテル事業」として過疎化の進む地域の人口増加をめざしています。地域貢献に取り組みたいという志を持つ社員たちに、この島根の新規事業を任せています。
様々な努力の結果、2020年10月に、当社は経済産業省の「地域未来牽引企業」の認定を受けました。ますます頑張れと背中を押されたように思います。この時、事業の定義を「エンターテインメント業」から「食を通した地域活性化業」へと、大きく舵を切りました。地域で食材を育て、地域のレストランや集いの場で「ほんとうの出来立て」の料理を提供する。2018年の10年ビジョンで掲げた、「From Farm To Table─農園から食卓まで」の実現に向け、新入社員とともに新たな一歩を踏み出しています。
同友会は地域の未来を保障する
当社は2028年までに、何としても外部環境に負けない強い企業になることをめざしています。この16年間、同友会の共同求人活動で、新入社員を迎えるには経営者の責任が大きいということを学びました。だからこそ、新卒採用は企業の成長を早めるのだと思います。
中途半端に経営指針の文章をつくって引き出しにしまうのではなく、社長自身の幸せのためにも、たとえ辛くても社員に伝えてほしいと思います。いずれ共感してくれる社員が一人、二人と出てきてくれるはずです。
社員と一緒に経営者が育っていくのが社員教育です。その地域で経営者自身も社員も安心して生きていける、そんな地域の未来を保障するのが同友会会員企業としての役割であると思っています。
(2021年2月22日「札幌支部 経営指針実践セミナー」より 文責 松本琴美)
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