【70号特集4】いまさら聞けないSDGsって何?
2022年02月05日
いまさら聞けないSDGsって何?
―オホーツクビジョンとの関係にも触れて―
(株)知床グランドホテル CSR活動担当チーフ 村上 晴花 (斜里)
大幸建設(株) 代表取締役社長 佐々木 雄一 (北見)
世界各国で取り組まれている「持続可能な開発目標(SDGs)」。会員企業2社からの実践事例を紹介します。SDGsを正しく理解し、自社での取り組みのきっかけづくりにつなげ、支部で取り組んでいるオホーツクビジョンと併せて、グローバル、ローカルな視点でのビジョンについて考えます。
【報告1】 村上 晴花
北こぶしリゾート(㈱知床グランドホテル)は、1960年に5部屋で開業した桑島旅館からスタートしました。1988年に現在の㈱知床グランドホテルに組織変更し、2020年には創業60周年を迎えることができました。
現在は、知床ウトロ地区において宿泊施設を3カ所運営しています。ここまで事業を継続できたのは、知床の自然のおかげです。知床は1960年の『知床旅情』のヒットで一躍有名になり、2005年には「世界遺産」に登録されました。しかしながら「毎年流氷が小さくなってきている」、「サケが帰ってこない」という話は皆さんも聞いているかと思います。私も痛いほど耳にしています。このような環境の変化が私たちの身近なところにもやってきているのが現状です。
当社はホテルを運営する上で、地域のために、そして人のためにできることをSDGsに当てはめて精力的に取り組んでいます。
ヒグマとの共存「クマ活」
北こぶしリゾートの企業理念は「知床の観光と共に歩み続け、地域の発展、会社の永続、職員の幸福を目指し限りなく挑戦する」です。これからも知床の観光と共に歩み続けるためにはどうしたらいいのかということを真剣に考えました。そこで知床の自然保護を担っている知床財団の皆さんに知恵を借り、パートナーシップとしての取り組みがスタートしました。知床財団の皆さんとお話をする中で出てきたのがヒグマ対策への協力でした。
特に今年は札幌の住宅街にもヒグマが出没したのは皆さんもご存知だと思います。市街地にヒグマが出没し、4人の方が怪我をされました。市街地に出没した熊は大抵駆除されてしまいます。それは知床でも同様です。また、知床には年間100万人ものお客様が訪れると言われています。その方々とヒグマとの間に毎年数件の軋轢が起こっています。
ヒグマは北海道の自然を代表する動物です。特に知床ではクルーズ船に乗ればヒグマを観ることができるので、観光資源として活用されている面もあります。市街地に出没してしまうヒグマが駆除される現状をどうにかして改善できないのかと考えた結果、「クマ活」が始まりました。「クマ活」とは北こぶしリゾートのホテルスタッフが中心となって行っているヒグマとの共存をめざす活動です。「クマ活」の具体的な活動を3つ紹介します。
1つ目は草刈りです。生い茂ったヤブを減らせば見晴らしが良くなり、ヒグマが誤ってヒトの生活圏に入ってくることを防ぐことができます。
2つ目はゴミ拾いです。道端にあるゴミ、特に食べ物に関わるものは、ヒグマをはじめとする野生動物の興味の対象となり、路上や町へ誘引する原因となってしまいます。そのようなゴミを除去するべく、有志でゴミ拾い活動を行っている「知床ゴミ拾いプロジェクト」と協力し活動をしています。
最後に普及啓発です。北こぶしリゾートに宿泊のお客様に向けて、知床のヒグマ問題に関する話をスタッフトークとして聞いていただいています。また活動内容を理解してもらうためのグッズ販売も行っています。
「クマ活」のコンセプトは、「おしゃれ、楽しく、わかりやすく」です。草刈りやゴミ拾い活動は見る人によってはとても地味な方法かもしれません。しかし、みんなで汗水流しながら地域のために何かをすることは大事だと思っています。参加しているホテルスタッフが自発的に「クマ活」に取り組み、私たちが行っている活動が素敵だと感じ広めてもらうためには、この3つのコンセプトが必要不可欠です。参加者がやりがいを持って取り組むことにより、他のスタッフや地域住民の方々にもじわじわと「クマ活」が広がり、活動も盛り上がっていくのではないかと考えています。
SDGsの取り組み
さて、これらの活動はSDGsのどれに当てはまるのでしょうか。私たちは、次の3つになると考えています。
「目標4 質の高い教育をみんなに」「目標11 住み続けられるまちづくりを」「目標17 パートナーシップで目標を達成しよう」です。
「クマ活」はSDGsに取り組むために始めたものではありません。「クマ活」を始めると決めた後に、SDGsに落とし込んでいきました。活動内容に関してヒグマを守ることは、「目標15 陸の豊かさも守ろう」にも当てはまるのではないかと悩みました。しかし、私たちがホテル業としてできることを考えると、自然を守るということよりも普及啓発活動や、お客様・従業員に知床の自然への理解を深めてもらうこと、それを世界に誇れるこの場所を守っていくことにつなげていくことが大事ではないかと考え、4番と11番の目標を選びました。17番の目標は知床財団、地域に関わる皆様とパートナーシップを結んだことによって選びました。
当社ではSDGsを深めるためにワークショップも開いています。参加者は社長をはじめとする役員を含め、CSR活動担当とホテルの支配人、部屋のアメニティ担当者や入社3年以下の若手スタッフも参加しています。このワークショップは2日間行い、とても面白い内容になりました。少し未来のことだけれども手が届きそうな内容の話が出ましたし、役職・性別に関係なくざっくばらんに意見交換することができました。こういった形で未来を共有することも大事にしたいのです。
世界遺産「知床」への恩返し
SDGsの取り組みとして当社が取り組んでいることは他にもあります。環境配慮型アメニティの導入やマイボトルの推進、発展途上国へのワクチン支援、そして働き方改革です。
アメニティは、これまでプラスチック製品を使っていました。その代替えとして、パッケージや製品自体が環境負荷を低減する素材を使ったものを全部屋に導入しました。
働き方改革の取り組みとしては、「訪れてよし、働いてよし、観光産業を真の観光産業にする」というミッションを掲げています。お客様に対して幸せを提供していく中で、やはり働く私たちも幸せを感じることが重要になってくると考えています。給料の底上げや公休数の増加、福利厚生の充実など、数年前から取り組み始めています。
北こぶしリゾートにとって、知床の雄大な自然はかけがえのない存在です。創業以来この地で事業を続けることができた「恩返し」の意味をこめて、私たちは世界遺産知床を守るための活動に取り組んでいます。
【報告2】 佐々木 雄一
当社は総合建設を営んでいます。私は2002年に企画管理室長として会社に戻り、2016年に代表取締役に就任しました。現在は父が会長を務め、他に不動産会社と大工が所属する会社を経営しており、3社で役員を含め28名の社員がいます。
オホーツクビジョンについて
オホーツクビジョン作成のきっかけは、2016年に開催された支部例会です。当日の講師で、地方創生プロデューサーとして活躍するストリートメディアの大森洋三社長から「地域独自のビジョンを、地域から発信することが大切だ」とアドバイスを受けたのです。そこで、政策委員会が中心となり、オホーツク支部でも地域ビジョンづくりに取り組むことになりました。
当初はオホーツク全体を対象にした「産業振興ビジョン」をイメージし、地域のSWOT分析などに取り組みましたが、議論が深まる中で、当時話題になっていた『幸福度』を尺度にしたビジョンにしようと方向転換しました。その後、支部会員を対象に4回のワークショップと4回のアンケートを実施し、2019年に完成しました。
オホーツクビジョンの目的は、オホーツク地域が雄大な自然とともに持続可能な発展を遂げ、住民一人ひとりが幸福で豊かな暮らしを営み、人生を謳歌することです。「幸福度の高い持続可能な地域社会」というビジョンを共有し、「目指す姿」を具体的にすることで、中小企業だけではなく、行政や地域全体が連携を深めることができるようにしています。『持続可能な発展を遂げ』の部分はSDGsを意識して文言を考えました。「目指す姿」は支部会員アンケートの意見から「人・地域・自然とのつながり」、「一人ひとりの豊かさ」「社会経済環境の充実」の3つに決め、それぞれの特徴に分類した19個の方針を制定しています。
アイコンで浸透を図る
完成後は、オホーツク総合振興局にも提言という形で提出しましたが、前文や方針など文章だけだと浸透しにくいという課題も出てきました。そこで、SDGsに倣い19の方針のアイコンを作成することにしました。広報の意味も込めて公募し、全国から15作品が集まりました。同友会会員のほか、外部の審査員も招いたデザインコンペを実施。支部会員でもある、トイズプランニングの井上憲吾さんが作成した現在のアイコンに決定しました。
オホーツクビジョンは19の方針から各社の取り組みに一致しているものを選び、オホーツクビジョン普及部会に申請します。許諾が下りれば、社内外に自社のオホーツク地域への考え方や貢献をアピールすることができます。SDGsのように、アイコンを使い、ホームページへの掲載や名刺への印刷など、各社で活用しています。
自社の経営をオホーツクビジョンで再定義
当社では12の方針を掲げており、その一部を紹介します。
方針「1─1地域を元気にするコミュニティーの活性化」では、社員の気持ちを尊重した交流の場を意識的につくっています。
私が会社に戻った時、社内の雰囲気はおとなしく、自由に発言しにくい空気を感じました。現在は少しでも社員が発言しやすいよう、朝礼で良いこと、新しいことをテーマに、毎日輪番制で一人ひとこと発表をしています。最近は発言すること自体に慣れてきたのか雑談が生まれ、少しずつ社内の雰囲気が和やかになってきました。また、定例会議の前には、会議の全参加者にひとこと発言の機会を持つ手法も取り入れています。相手の話を聞くことは、その人を受け入れ、思いやることだと考えています。
他にも地域とのつながりを社員にも持ってほしいとの思いから、町内会やPTA役員など会社が認める地域貢献活動をすると、毎月数千円の地域奨励手当がつきます。
「1─3多様な連携と共働ができる社会システムの実現」では年2回の社会貢献活動に取り組んでいます。昨年は公園のベンチの塗装を行いました。今年は地域のゴミ拾いをする予定です。ボランティア休暇制度では、社員個別のボランティア活動に対して特別休暇も取得できます。
「1─4畏敬の念を持ちながら一人ひとりが参加する自然保護」は、建設業という特性を活かし、建物を高断熱にすることで、CO2の削減に貢献できると考えています。
また、建物の材料選定段階で自然環境にできるだけ配慮した対応ができるよう、再資源化や再使用ができる材料を選ぶ取り組みを始めました。例えば建物の外装であれば、板金の使用で解体時に再資源化でき、ゴミを減らすことができます。域内循環の視点からも、地元の職人に依頼することができます。設計事務所との連携が不可欠ですが、積極的に取り組んでいきます。
「3─2持続可能で効率的な社会基盤の形成」では私が環境問題に興味があるため、『5R』を掲げています。一般的には『3R』(リデュース、リユース、リサイクル)ですが、『5R』はリフューズ(使わない)、リペア(壊れたものを直す)を加えたものです。先ほどの方針1─4もそうですが、建設業界だからこそできることがあります。今後社内でしっかりと取り組んでいきたいテーマです。
SDGs宣言に向けて
当社のSDGs宣言は北洋銀行の支援を受けながら作成中です。現在、3つに内容を絞っている最中です。
1つ目は「幸福度の高い職場づくり」です。働き方改革により、社員が生きいきと働ける職場づくりを実践するという宣言です。
2つ目は「環境への配慮」です。事業所での環境負荷低減の推進と共に、建設時から解体時までのライフサイクルで環境に配慮した設計・施工など本業を通じた取り組みにより、地域の豊かな環境保全に貢献するという思いからの宣言です。
3つ目は「持続可能で豊かな街づくり」です。建設業として次代を見据えた高い付加価値を提供します。さらに様々なコミュニティへの社員の参画や会社の社会貢献活動への取り組みという視点からも実現をめざしたいと思っています。
この3つの宣言にふさわしい目標はどれか、社内で議論しています。既にオホーツクビジョンの方針を決めているため整理しやすく、SDGsの目標選定に良い影響を与えていると思います。
経営に必要なグローカルな視点
SDGsはグローバルな視点で取り組む持続可能な開発目標で、オホーツクビジョンはローカル(地域)を幸福度という観点から捉えています。この2つを一緒に取り組むことはグローバル×ローカルでグローカル(地球規模で考え、地域で行動する)だと言えると思います。
内容を比較すると、SDGsの「目標4 質の高い教育をみんなに」はオホーツクビジョンの生涯学習と同じ考え方であり、「目標8 働きがいも経済成長も」や「目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう」はビジョンの「目指す姿」の「社会経済環境の充実」と似通っています。「目標17 パートナーシップで目標を達成しよう」はビジョンの「1─1コミュニティーの活性化」と「1─2地域内外の新しいネットワークの形成」とも言えます。
これらの類似点は全く意図せずにこのようになりました。ビジョンは支部会員のアンケートを構造化して作成したため、会員企業の日常的な問題意識が、自然とSDGsの目標とリンクしていったのだと思います。
当社でSDGsやオホーツクビジョンのようなビジョンを生かした経営に取り組むのは、社員に少しでも広い視野を持ってほしいからです。社員が自分や自社の立ち位置を俯瞰して理解するのは非常に難しいことですが、地域があってこその中小企業です。金儲けのためだけではなく、地域の人の役に立ち、必要とされることで初めて成立します。社員には当社が地域から必要とされていると実感し、仕事にやりがいを見い出してほしいのです。
私は、人は人生の半分程度の時間を仕事に費やすので、会社というコミュニティが幸福であってほしいと願っています。この想いを社員に理解してもらえるかどうかは、これからの私の行動次第です。
(2021年9月27日「オホーツク支部9月例会」より 文責 報告1太田秀吉/報告2(一部加筆)佐藤珠実)
(株)知床グランドホテル CSR活動担当チーフ 村上 晴花
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