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同友会は、中小企業の繁栄と、そこで働く全ての人の幸せを願い、地域社会の発展のために活動しています。

【70号特集3】教育の本質とは何か

教育の本質とは何か
―同友会運動における社員教育活動の実践から考える―

 

中小企業家同友会全国協議会 顧問 国吉 昌晴(東京)

 

「社員教育の必要性は感じているが、どこから手をつけていけばよいかわからない」。経営者の切実な悩みから北海道同友会の社員教育活動と共同求人活動は出発し、全国に広がっていきます。半世紀にわたる同友会運動の実践から、共に育ちあう教育の本質について考えます。

 

中小企業経営者の悩みは「人」の問題に帰結する

 

 私が北海道同友会事務局に入局した時は、創立3年、会員数は220名くらいでした。


 例会の経営体験や会員との会話を通じてよく聞かれたのは、「若い社員が採用できない」「新卒を採用しても定着しない」「社員が思うように育たない」「コミュニケーションが悪く、社長の意図が伝わらない」という声です。中小企業経営者に共通した悩みは「人」の問題であることが判ってきました。


 北海道同友会では、そうした会員の悩みに応えようと1970年の上級幹部教室を皮切りに、中堅幹部、営業マン、女子社員マナー研修も行っていきました。


 同友会の行う社員研修会はプロのコンサルタントには頼らず、原則として講師を会員、事務局員が担当します。どんな社員に育ってほしいのか、自社の体験も交えながら事前打ち合わせを徹底して行い研修に臨みました。結果として、研修会が社員と経営者の“共に学び育ちあう場づくり”になっていきました。

 

並行して共同求人活動に着手

 

 共同求人活動は、1972年に開始しました。当初は北海道新聞に共同で公募広告を出し、合同企業説明会の形式を取り入れました。次いで、高校の進路指導の先生方を訪問。次いで高校教員との懇談会を開催し、さらに対象を短大、専門学校、大学へと広げていきました。


 学校訪問を重ね、先生方との懇談で学んだのは、道内中小企業では新卒者を受け入れる条件整備が不十分であったことでした。就業規則、賃金規定、退職金規定等の社内諸規定が整備されていない、自社の特色をアピールする経営理念やビジョン等がない。どこから手をつけていくべきか明確になりました。


 さらには、新卒者が育つ社内環境、社内の教育体制づくりの整備が並行して行われることが求められました。70年代は、「労使見解」に基づく経営指針づくりが全国的に始まるのですが、同友会のめざす企業づくりが、人材の採用と教育の面から拍車がかかったといえるでしょう。

 

1972年8月18日 共同の求人広告を新聞に掲載
1970.11.13.第1回上級幹部教室で講義する岡村勇氏(ダイヤ冷暖工業社長、当時)

 

各種社員研修の実践と向き合い学んだこと

 

 北海道同友会では、報告する内容について、社員教育委員会はもちろん、事務局内でも大いに議論して煮詰めました。その内容を要約すると次のようになります。

 

⑴ 新入社員研修
 社会人としての心構え、働くとは何か、会社という組織の理解、働くことに誇りと喜びを持ってもらうことが狙いです。概略は以下の内容でした。


①社会人とは何か(自立をめざす第一歩。自立と自己責任。社会人のルール)
②働くということ(人間の成長と労働の役割。人類は200万年かけて成長を続けてきた。労働と社会参加。一人は万人のために、万人は一人のために)
③仕事の楽しさは自分でつくるもの(仕事を早く覚えるコツ。人と人とのかかわりを大切に。自己学習の目標を持とう。積極的挑戦こそ期待される)
④会社はどのように成り立っているか(会社という組織とは。会社にとってのお客様とは。貴方の会社のお客様は誰ですか)
⑤企業人として大切なこと(企業及び企業人に問われていることは何か。経営理念の大切さ。社員一人ひとりの自覚的行動が求められる)
⑥かけがえのない人生を誇り高く(君の人生は君がつくる)

 

⑵ マナー研修
 マナー研修というと、お辞儀の仕方など、形を教えるスタイルが一般的でしたが、本来マナーとは何だろうかと、改めて事務局内で話し合いました。


「manner」を辞書で引くと、①方法、やり方②態度、様子③行儀、作法④風習、慣習⑤流儀、様式とあります。一方文節で区切ると、「man」+「ner」となり、「man」は人や男性という名詞の他に、「要員を配置する」という動詞としても使われます。そこで、マナーの語源は「必要な人を手配する人」という意味もあるのではと思いを巡らせました。そんな大事な役割を担うのは人間として規範になる人だろう。やがてその振る舞いやあり方を指す言葉に転じたのではないかと考えたのです。


 このような議論を経て北海道同友会では、マナーとは「その時、その時代、その社会(環境)で要求される人間としての社会的行為のありよう」と意訳しました。


 マナーの実技応対編・電話編というテキストも自前で作成しました。経営者と事務局員が講義を担当し、参加者は接客応対と、模擬電話を使った電話応対のロールプレイングを行う。学んだ成果と実践の決意をレポートにまとめるという研修スタイルが定着していきました。


 マナーの実践で大切なことは、形式と中身(意味、理由)の統一であり、最終的には教養の問題です。教養とは、「相手の立場に立てる本質的な思いやりの心根」。マナーとは人間の生き方そのものであることを伝えていきました。
 同友会内では70年代の終わり頃から、「教育」を共に育つ「共育」と置き換えて、本来の意味を表現する方向が全国的にも広がっていきました。

 

2021年4月2日 札幌支部新入社員研修会

 

同友会大学の開設~そのねらいと意義

 70年代はオイルショックに始まり、低成長時代へと突入していきます。時代の変化に対応できる強じんな体質の企業づくりが求められ、人材の確保と育成のために社員教育活動と共同求人活動が全国的にも広がりつつありました。


 北海道同友会では、高度で総合的な学びあう場として同友会大学の構想を温めてきました。しかし恒常的に進めていくためには会の厚みが必要と考え、実際に開設したのは1981年。札幌地域の会員数が1200名に達した段階でした。


 第一期生の募集要項では、同友会大学の人材育成の目標として次の4点を掲げています。

 

同友会大学がめざす真の人材

 

①情勢を的確に把握できる科学的な認識力と分析力を持つ(大局観と科学的分析力)
②自己の専門分野における卓越した力はもちろん、総合的な能力に富むこと(専門性と総合能力)
③困難をおそれぬ不屈の情熱と科学的な愛情に裏打ちされた指導力の持ち主である(情熱と組織指導力)
④絶えず謙虚に自分の成長を心がける人(謙虚さと自己啓発力)


 この目標は、同友会大学(全30講)を運営する役員、事務局にも常に問われており、受講生との「共に育ち、共に学びあう」関係づくりの命題でもあります。


 開設40年を経て、同友会大学卒業生は第69期(2021年)までで2671名となりました。卒業生の皆さんは企業の幹部、リーダーとして活躍されており、地域社会における重要な支え手でもあります。同友会の理念の一つである「国民や地域とともに歩む中小企業をめざす」力強い実践者なのです。

 

2021年9月15日 コロナ禍で行われた第69期同友会大学卒業式。卒業生のうち約半数がZoomで参加。

 

同友会の社員教育の理念を社会に広げよう

 

 1957年に日本中小企業家同友会(現・東京中小企業家同友会)が創立されてから64年。その前史も含めると同友会は74年の歴史があり、中小企業家による自主的、民主的な運動として発展してきました。その根幹ともいえるのは「人間尊重の企業づくり」です。


 1983年に北海道で開催された中小企業家同友会全国協議会(中同協)第15回総会の総会宣言は、それまで培ってきた同友会の教育理念を整理し、社会に広めていくことを呼びかけました。


 「教育宣言」とも言われるこの宣言の要点は、①新しい時代にふさわしい労使の信頼関係をつくることが社員教育の基本。②「共に育ちあう土壌づくり」という社員教育の理念を企業経営から家庭、学校、社会における教育と結合して“人間が人間として息づく”環境を共につくり上げていこう。③中小企業はこれからの時代をになう人間を育てるための“たよれる学校”としての誇りと自覚をもち、社会的責務を果たそう、とまとめています。

 

同友会における社員教育

 これまでの社員教育活動の実践と蓄積を踏まえて、中同協社員教育委員長で、北海道同友会専務理事であった大久保尚孝氏(故人)は「同友会における社員教育」という小論を1984年に発表。同友会の社員教育はどのような研修会であれ、次のことを追求したいと、5つのポイントを提示しました。


 ①お互いに現代に生きる人間としてどう生きたらよいのか。②現在の内外情勢はどのように変化しようとしているのか、何故なのか、どうすれば多くの人々が望む方向に変えることができるのか。③中小企業の地域社会に果たしている役割をしっかりと認識する。④働くことと生き甲斐との関係をつかんで、働きながら学ぶことの意味を知る。⑤経営者と従業員が共に学び合いながら、高次元での労使の信頼関係・団結を確立する。


*「同友会における社員教育」 大久保尚孝(中同協刊『持続可能な企業と地域のために─共同求人・社員教育活動のすすめ』所収)

 

教育学者から学ぶ

 

北海道同友会の各支部で講演された故・大田堯氏

 同友会の社員教育活動は、同友会運動に理解の深い教育学者や研究者の助言を得て、深化していきます。その典型となる大田堯先生(故人・東大名誉教授、元日本教育学会会長)との関わりを紹介します。


 大田氏は1985年に中同協第1回社員教育活動全国研修交流会で基調講演をされました。テーマは「教育とは何か~学校・社会・企業すべてに共通する人育ての本質」。大田氏は、①現代の若者の生育環境はどうなっているか、②人間とはめあてを持ち、主体的に生きる動物であること、③同友会が行う社員教育への期待について熱く語られました。

*中同協刊『共に育つ(新版)1』所収

 


 その後大田氏から30年余にわたり学んできた特徴点は、おおよそ次のようなことでした。

⑴ EDUCATIONを「教育」と訳したのは誤訳といえるのでは
 「EDUCATION」という言葉本来の意味、語源は「教える」ではなく「(持ち味を)引き出す」ということ。同友会は教育を「共育」と置き換えているが、その方が近いと言える。

 

⑵ 教育問題は生命問題
 生命は自らを最優先で守ろうとする「自己中心」であるが、同時に他のもの(太陽、水、食物、集落等)に支えられる「他者依存」によって生きている。


 生命は、自己中心と他者依存という矛盾を抱えながら、例えば脳は他者の情報を受け止め、自分の持つ情報と折り合いをつけ自分なりの蓄積をはかる。その成果が学習となる。


 一人ひとりの学習は生存そのものであり、それを助けるのが教育といえる。教育とは教えるのが主体ではなく、情報の学習を介添えしていくことである。


 人間社会の文化として学習が培われてきたのであり、生存権としての学習権を社長も社員も持っていることになる。お互いに高めあっていく。まさに共育なのです。


*晩年、大田氏は人間の成長を特徴づける表現として、“ちがう、かかわる、かわる”ということが大切といわれました。
 誰もがユニークな自分自身(ちがい)を認識し、相互に認め合い、学びあい、援けあい、当てにし当てにされる関係(かかわる)がつくられ、内在する自らの力で自らをかえていく、成長、進化(かわる)させていく、ということです。

 

⑶ 経営の人間化への期待
 中小企業もマネー第一主義に巻き込まれており、ここで人間優位の価値観に立つことは容易ではない。本来、労働の成果が社会に喜ばれ、感謝されて労働者は生きがいを得ることができる。儲け第一主義の経営では労働はコストとしてしか評価されず、その人の価値を全面的に評価し、能力が全面開花する職場にはなりえない。その人の輝かしい出番を用意してあげるのが経営者=演出家の役割。


 石川啄木のうた「こころよく我にはたらく仕事あれ それをし遂げて死なむと思ふ」は、理想の仕事を求める心をよく表している。

 

⑷ 公平・公正な教育行政と政治のあり方について発言
 大田氏は、歴史学者の家永三郎氏が教科書に広島や空襲の写真を載せようとして不合格にされたことを不当として提訴した「家永訴訟」を、原告側の証言者として30年余闘い続けました。氏自身の戦争体験に基づき、正しい歴史観を教育の場で伝えることの大切さを信念としていたからです。


 2006年、第一次安倍内閣の下で教育基本法が改定された時は、反対の立場で論陣を張りました。中同協も、本郷利武社員教育委員長が「教育基本法改正に思う─教育についての本質的論議を」の談話を発表して拙速主義を批判しました。


 2013年、特定秘密保護法案が国会に上程された時も、大田氏は戦前の治安維持法時代を生きてきた者として「知る権利は自分の頭で考える生きる権利そのもの。それが統制されると教師は委縮し、被害者は子供たちになる」と危機感を表明(朝日新聞2013年12月6日号)。中同協も、鋤柄修会長が「特定秘密保護法への疑問」との談話を発表します。


 戦争のない平和な社会を願い、未来の担い手である子どもたちの成育環境を整えることに心血を注いできた大田氏の信念の一端をうかがい知ることができます。

 

2019年6月25日 同友会大学同窓会 共育パネルディスカッション

 

人間が人間らしく生きる社会づくりを

 

 永年にわたる私たちの運動が実り、2010年に「中小企業憲章」が閣議決定されます。政府の取り組みを定めた「行動指針」の第2項(人材の育成・確保を支援する)では、中同協のパブリックコメントの意見も取り入れられ、次の記述となりました。


 「中小企業の要諦は人材にある。働く人々が積極的に自己研鑽に取り組めるよう能力開発の機会を確保する。魅力ある中小企業への就業や起業を促し、人材が大企業信仰にとらわれないよう、各学校段階を通じて健全な勤労観や職業観を形成する教育を充実する。また、女性、高齢者や障害者を含め働く人々にとって質の高い職場環境を目指す」。


 同友会は、中小企業憲章とあわせ、地域にあっては、中小企業振興基本条例の制定を呼びかけてきました。条例に基づく様々な施策の中には、教育機関との連携も含まれます。


 学校教育の中で、企業の99・7%を占める中小企業に対する理解を広げていくことは重要です。各地で地元企業でのインターンシップも行われています。徳島同友会のように、小中高の新任教員を対象とした研修を受け入れる同友会もあります。受け入れ企業の社員教育の内容や教育(共育)力の高さもまた問われることになります。

 

同友会運動の将来展望における共育運動の位置づけ

 

 中同協は、2019年に設立50周年を迎え、同友会運動の将来展望(10年ビジョン)を発表しました。冒頭の文章では、教育(共育)運動の大切さが盛り込まれています。

 

1.一人ひとりのすばらしさが発揮できる企業づくりをすすめます
 私たちは、地域社会になくてはならない企業、社員が生きがいと働きがいを感じ、能力が発揮できる企業づくりをすすめ、豊かな社会を築きます。


 そのために、私たちは経営者に要求される総合的な能力を身につける努力を重ねるとともに、社員を最も信頼できるパートナーと位置づけ、労働環境を整備し、生産性の向上を図ります。


 また、すべての中小企業家が「人を生かす経営」に基づいた経営指針の成文化と実践に取り組める環境を整え、地域においては、教育機関や行政などとも連携して、活力ある中小企業の姿が見える活動を通じて人材育成に寄与します。

 

むすびにかえて

 

 人間の限りない成長をめざし、人間が人間として育ちあう環境づくりを進めること。そのためには、一人ひとりが持つ潜在能力、可能性を引き出し、そのすばらしさを認め合い、自主、自力での成長を援けあう関係づくりを構築していくことです。
 教育(共育)環境づくりは、あらゆる人間集団のもとで求められます。家庭、学校、職場、団体、地域、国家、さらには国家間、地球規模で行われることが、人類の永遠の平和と繁栄を築く基礎となるのではないでしょうか。


(2021年7月21日「第69期同友会大学」第28講より)

 

【講師プロフィール】
1943年美唄市生まれ。1972年北海道中小企業家同友会に奉職、74年より事務局長。1984年に乞われて中小企業家同友会全国協議会(中同協)に転じ、中同協事務局長、専務幹事、副会長を歴任。2015年より現職。