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【70号特集3】会社の歴史と理念を承継する

2022年02月08日

会社の歴史と理念を承継する
―思いを形に。後継者に託す理想の会社とは―

 

(株)リペアサービス 代表取締役 富田 訓司 (札幌)
         専務取締役 岩泉 賢治    

 

「社員の幸せを追求する」…経営難を乗り越え、たどり着いた理念は社員の幸せ。この理念をいかに後継者に伝え、未来を描いてもらえるか。継がせる側、継ぐ側の思いが交錯する事業承継。持続可能な経営とは?

 


 

【報告1】富田 訓司

 

 当社は2009年12月に賃貸入居者向け24時間修繕サービス業として創業しました。以前から賃貸物件のリフォーム業も営んでおり、その仕事につなげるために修繕業務を始めたのがきっかけです。


 業務エリアは札幌市内及び近郊で4万9千世帯、年間2万5千の案件に対応しています。パートを含む従業員数は30名。5名の障がい者が働いています。

 

経営理念で会社が変わる

 

 私は60歳手前で創業したため体力的なことを考え、漠然と65歳、遅くとも70歳までには事業承継したいと思っていました。しかし、2013年には資本金の3倍以上の債務超過に陥ってしまい、とても誰かに事業承継してもらえるような状況にはありませんでした。


 一度は、その辛さから会社を廃業しようと決めていました。その決心を周りの経営者に話したところ、その内の一人に「会社が辛いのは分かる。けれども今まで何のために会社をやってきたのか。経営理念はあるのか」と問いかけられました。当時の私には「理念が大事なのはわかるが、今自分に必要なのはお金だ」という焦りしかありませんでした。ただ、廃業後の生活を考え「周りに協力してもらうため」という言い訳から理念作成に取り組み始めました。
 しかし、つくるなら立派な理念にしようと思い直し、真剣に作成したのが「私達ALSグループは誠実さと優しさ更に勤勉を以って顧客・取引先引いてはグループ社員の永続的な心地良さを追求します」です。


 それまで私にとって理念とは「額縁に入れて壁に飾られ、埃にまみれているもの」で、「理念で飯は食えない」と思っていました。ただ、せっかく作成したのですから、特に何か期待するわけでもなく社員に披露しました。すると、不思議なことに少しずつ社内の雰囲気が変わっていきました。初めて「理念で会社が変わる」ということを実感したのです。


 この体験があったため、理念についてもっと学び直さなければならないと思い、様々な会に参加し、ひたすら人の経験談を聞きました。財務内容は綱渡り状態でしたが、現場に出る時間を削ってでも勉強会を優先していました。

 

社員の幸せの追求

 

 そんな時、ある同友会の会員から例会に誘われました。この例会が私の中で一生忘れられない転機となりました。


 それは規模の大きい飲食店経営者の報告でした。前年は全社員をいくつかの班に分け、4泊6日のハワイ旅行に連れて行ったという話でした。他にも一泊研修、新入社員のための2泊3日のグルメツアー等を行っており、すべて社長が同行しています。「この人はいつ『社長の仕事』をしているのだろうか」と疑問が湧くほど衝撃的でした。しかも、1年のうち2カ月は社員との旅行などで不在にしているにも関わらず、会社は見事な結果を出しているのです。そしてダメ押しのようにその社長は言いました。「私の社長としての夢は定年退職した社員に世界一周の船旅をプレゼントすることです」。この話を聞いて最初は正直、理解できませんでした。しかし、突き付けられたのは実際に社員の幸せを優先して結果を出す社長と、利益を優先して結果を出せない私という事実でした。


 そこで私は、どうせ今のままやっても上手くいかないなら、成功しているこの経営者を徹底的に真似しようと決意し、理念経営を追求することにしました。とにかく何が何でも社員を大切にして幸せにする、理念にのっとった経営をするということを誓いました。

 

理念と歴史の承継

 

 その結果、自分でも驚くほど業績がV字回復し、2020年度決算は実質無借金となりました。理屈としてはビジネスモデル目標値の到達が要因でしょうが、私の感覚では理念経営で会社が変わったおかげとしか思えません。同時に苦しい時期に支えてくれた周囲の方々への感謝が沸き起こりました。


 このような経験から、私は後継者には「理念と歴史の承継」を絶対条件にしています。「社員の幸せを追求する理念」と「周囲に支えられてきた歴史」。それが会社を存続させる絶対条件になると確信しているからです。


 2016年頃から再度、事業承継について具体的に考え始めました。まず何よりも重視したのは、社員や家族、取引業者など当社の仕事に関わる100人以上の方々の生活を守る責任です。もう一つは5年後、10年後の未来を見通すことができる経営者としての資質です。


 当然、親族に継がせたいという気持ちはありましたが、これらのことを勘案すると残念ながら責任を託すことができる身内はいませんでした。


 親族外への事業承継を決意した際、社内に二人の候補者がいました。まずは覚悟を確認しなければならないと思い、5年後に会社の中でどの立場にいたいのか想像してもらいました。二人とも「経営の中枢にいたい」という返事でした。そこで、本格的に後継者育成をするために、「2年間で徹底的に私のコピーになってほしい」と伝えました。会社におけるすべての判断・行動基準は「富田ならどうするか」で考えてもらい、その上で「2年経ったら自分流を出してほしい」と伝えました。

 

社内旅行にて

 

後継者の育成

 

 2年後、後継者候補は岩泉専務に絞られました。次のステップとして3つの課題を与えました。1つ目は、家族の協力を取り付けることです。社長という仕事は会社と家庭を分けられないケースがあります。まずは何よりも家族の協力を得なければなりません。2つ目は、経営者として部下の育成とマネジメントを学ぶこと。3つ目は、常に5年後の情勢や社内体制を予測し、最善の判断をすることです。年齢的に次の後継者育成をする時間も体力もなかったため、私は専務にとってプレッシャーになることは分かったうえで「3つとも解決できなければ会社を売却する」と宣言しました。


 承継するにあたって自分自身に戒めていることがあります。それは「創業者よりも後継者の方が何倍も辛い」ということです。後継者はすぐ後ろに創業者がいるので、成功すると「創業者のおかげ」と言われ、失敗すると創業者と比較されてしまいます。


 そのような中で専務には、2021年に同友会に入会してもらうと同時に、社内ではCOO(最高執行責任者)になってほしいと伝え、具体的には決裁権限を与えました。

 

理想の会社とは

 

 事業承継について、法的な手続きはまだ一切行っていません。それよりも後継者との信頼関係づくりに全力を傾けてきました。とにかく専務との会話の時間をつくり、本音ですべてをさらけ出し合いました。


 専務には、自社の歴史と理念を承継してほしいということだけは何度も伝えています。当社は障がい者も雇用しています。当社がなくなると勤め先がなくなってしまいます。雇用責任を考えると100年は続く会社をめざしたい。今後会社を継いでいく人たちには「社員の幸せの追求」という理想で続く会社にしてほしいと願っていますし、そんな会社があってもよいと私は思っています。

 

 


 

 

【報告2】岩泉 賢治

 

 私が富田社長と出会ったのは16年ほど前のことです。当時、私は不動産管理会社の社員で、社長は取引先の外装業者でした。一緒に仕事をしていて居心地のよい方でした。管理会社の社員はオーナーと入居者の板挟みで悩むことが多いのですが、いつも相談にのってくれる社長のおかげで営業マンとして楽しく仕事ができたと思います。

 

 

「自分のコピーになれ」

 

 あるとき私は本州への転勤を命じられました。その際、富田社長に「うちに来ないか」と誘われ、ほとんど迷わず入社を決断しました。これまでの感謝の気持ちがあったからだと思います。


 入社して1年が過ぎた頃、私ともう一人の幹部社員が事業計画の作成に加わることになりました。何度目かの会議の中で「5年後に社長になる意思はあるか」と問われました。急な話にとまどいましたが、意気揚々と入社してすでに40歳。転職も難しく、断る選択肢もなく「はい」と返事をしました。


 社長から早速、「自分のコピーになれ」と宿題を出された記憶があります。しかし、その時はどういう意図かわかりませんでした。その後は、経営者になるべくいろいろな勉強会に参加しました。それまではハウツーものの勉強会が多かったのですが、社長の勧めもあり、人間力を高めるような研修に参加するようになりました。徐々に自分の成長を実感できるようになったと同時に、社長との差も痛烈に感じるようになります。「こんな自分が経営者になってよいのだろうか。皆を幸せにできるのだろうか」という不安と重責に悩みました。


 そのような中、社長の計らいで、たくさんの経営者に出会う機会がありました。不思議なことに、皆さんいきいきとした表情をしています。私は社員の人生を背負う重荷はありましたが、それ以上に「経営者には、社員のままでは感じられないおもしろさがあるのかもしれない」と思うようになりました。ちょうど、取締役として経営の一角を担い、小さな案件であっても責任をもって判断できることが楽しいと感じるようになっていた時期でした。


 また、私の日課は通勤時にYouTube配信を聞くことです。ある配信者の「今日が人生で一番若い日です。だから今日からがんばりましょう」という言葉を聞き、「自分と社長の年齢は20歳以上開きがある。人間力に差があるのは当然のこと」と、受け止められるようになりました。そして、「今日からがんばれば20年後には追いつけるのではないか。そうすれば後継者として認められるかもしれない。自分にはまだまだできることがある」と気持ちが楽になりました。ようやく社長の言う「コピーになれ」とは、「まずは型を引き継ぐこと」だと、わずかながら理解できたように思います。

 

激動の中で刻一刻と変化する経営者

 

 2020年からのコロナ禍は経済活動を停滞させましたが、幸いにも「住」に特化していた当社には、直接の影響はありませんでした。むしろ周囲の管理会社の時短営業により、当社の仕事は増えるという状況でした。


 たまたま1週間ぶりに社長と会って打合せをすると、先週とは別人かと思えるほど、これまで聞いたことがないような話がどんどん出てきました。私もコロナ禍で外出自粛をしていたため、外部の情報から疎かったのかもしれません。そこでハッと気づきました。社長は変化のない社内ではなく、激動の最中に身を置いている。だから日々異常とも思える速さで変化し続けていたのです。少しずつ縮められていた社長との差は、一気に広がっていました。十数年間一緒にいましたが、これまでにない速さで一週間ごとに変化し、進化していく社長の姿を見せつけられました。またしても自分の力のなさを思い知らされました。


 約1年後には事業承継をする予定にも関わらず、本当に大丈夫なのかと感じながらも今、事業計画を作成しています。自分の中で全てを受け継ぐのは困難だと、ある意味で見切りをつけています。受け継ぐ上で何が最も重要なのかを判断していかないと、たんに名義が変わるだけで社長の思いを受け継ぐことはできないのではないかと危惧しています。


 限られた時間で自分が見なければならないことは、社長がどんな思考をし、どんな言葉を発し、行動しているかです。今までは、社長が「明日の飯担当」でした。「今日の飯担当」の私は、社長が明日に向かって走っている姿を社員にどう伝えるかを意識し、業務にあたっていました。社内に目を向けていないと、社員に方針を落とし込めないと考えていたからです。しかし今、急速に変化している社長を見失わないようにすることも仕事のひとつになっています。

 

 

理念と歴史を承継する

 

 私には社長からいろいろな課題を与えられながらも、これだけはしっかり守らなければならないという使命があります。それは創業時の社長が当社にかけた思いと、今までどのような経緯を経て理念経営に至ったのか、さらに、企業理念の土台になっている二つの思いを自分の中に落とし込むことです。


 その二つとは、人としての優しさと成長です。この思いを私は受け取り、深めていかなければなりません。後継者として、5年後から今を逆算して計画する力や財務知識など、まだまだ苦手なことはたくさんあります。しかし、創業時の思い、歴史、経営理念とその土台だけは絶対に承継していかなければなりません。そうすることで、1年後には社長が引退を選択できる状態にしておきたいと思います。


 私は他人承継で後継者候補、という不安定な立場にいます。そんな不安を抱える私を支えてくれた3つの言葉があります。


 一つは既に紹介した「今日が人生で一番若い日。今日からやろう」です。二つ目が「あなたも特殊能力をもっている」です。ある経営者に言われた言葉です。自分には特別な力はないと思っていましたので、自信をもらいました。最後に、ある方に社長になるための心がまえを相談したところ「経営者になったらその瞬間にわかる」と言われました。シンプルな回答に拍子抜けしましたが、同時に「なってみないと一生わからない」ことに気づきました。だから今、気構えを持とうと努力してもわからないのは当たり前なのだと開き直ることができました。


 今、私と同じようにもがいている後継者の方もいると思います。ぜひ多くの人に出会ってください。そして、自分の心に響く言葉を探してみてください。心が折れそうになった時に自分を勇気づけ、支えてくれる人や言葉にきっと出会えるはずです。


(2021年10月8日「第36回全道経営者“共育”研究集会in苫小牧」第4分科会より 文責 報告1 小西貫太/報告2 菅 尚広)

 

(株)リペアサービス 代表取締役 富田 訓司 (札幌)/専務取締役 岩泉 賢治

■会社概要
設  立:2009年(創業)
資 本 金:500万円
従業員数:30名
事業内容:賃貸物件向け24時間修繕受付及び修繕業務

https://www.repair-service.jp/