【70号特集3】 チャレンジできる仕組みづくり
2022年02月08日
チャレンジできる仕組みづくり
―退職者3割の会社から離職率0に―
(株)現場サポート 代表取締役 福留 進一(鹿児島)
創業4年後の2009年、離職率が27%となり、「将来を描けない会社では社員は頑張れない」と痛感した福留氏は、同友会の経営指針研究会に参加します。経営指針の成文化、社員への共有、新卒採用、社員共育と様々なことに取り組んだ結果、直近4年間の離職者はゼロ。理念から仕組みにまで落とし込む、その実践から学びます。
当社はクラウドサービスの企画開発を行うITの会社です。2005年、私が38歳の時、勤務していた会社がある事業から撤退することになり、独立開業したというのが起業の経緯です。同友会には起業して2年目に入会しました。
お客様は主に建設業で、公共事業も含め、鹿児島から全国に展開しています。社員数60名、平均年齢35・8歳の会社です。特にお話したいのは、新卒の離職率が8年間で0%だということです。内定辞退は11年前に新卒採用を開始して以来、一人も出ていません。
近年は色々なところで外部の賞を頂いています。外部評価にチャレンジする一番の理由は、自社にどんな課題があるのかを発見するためです。またもう一つ、ブランディングのためという理由があります。新卒の方が全く知らないBtoBの当社に、どうやって振り向いてもらうかということを考えています。例えば「ユースエール認定企業」(若者の雇用や育成に積極的で、若者の雇用体制が望ましい中小企業)は九州第1号、「鹿児島働き方改革推進企業」も第1号です。たまたま両方とも早く着手したので、第1号になれました。
最近では「働きがいのある会社女性ランキング」の小規模部門で1位になりました。100人以下の規模ですが、日本一になったことは非常によかったなと思っています。こういう外部評価を学生へのアピールとして使っています。
自社に適した人を採用する
当社は、2009年が離職率のピークで、なんと27%、3割近くの人が1年で辞めていくような会社でした。私たちの会社は戦略をもって売る仕組み(経営計画)はありましたが、めざすべき理念(ビジョン)がなかったのです。
そこで2009年、鹿児島県同友会の経営指針研究会に参加し、経営理念を策定しました。そして2020年には、「チームを活かす、だれもが活きる」という「私たちの理念」を新しく制定しました。経営者がつくった経営理念ではなく、社員全員で1年間かけてつくり上げた理念ですので「私たちの理念」と呼んでいます。
新卒採用は2010年から取り組み始め、2011年に初めて新卒を採用しています。しかし、最初の3年間で入社した4人のうち3名が退職してしまいました。
2011年に初めて採用した新卒の社員は5年間働いてくれましたが、他の仕事がしたいということで退職しました。私は、その人にチャレンジする機会や場を与えられなかったことを猛烈に反省しました。その後も退職が相次ぎました。
こういった反省を踏まえると、当社に合わない人は採用してはいけないということが分かりました。やはり「自分たちの会社に適した採用をする」ということが、一番の学びです。
採用に関する方針
当社では、GSポリシーと呼ぶ経営指針書の中に「採用方針」を掲載しています。学生側にも真っ先に伝えます。
1番目は、私たちの考え方に共感できる人を採用します。2番目に、学歴は参考程度に、資質テスト、能力テストを実施し、活躍できるステージを与えられるかどうかを検討します。活躍できる力があるかどうかが普通の採用基準だと思いますが、私たちは逆です。私たちがその人に活躍できるステージが与えられるかどうかで判断します。能力が高すぎると私たちのステージでは物足りないと感じる人が出てくるからです。3番目に、志望度の高い人を優先します。当社の内定辞退率が低かったのはここにヒントがあります。第1志望の学生しか採用しないということをかたくなに守っています。どんなに優秀でこの人に来てもらいたいと思っても、当社が第1志望でなければ採用しません。
新卒採用のプロセス
2019年までとそれ以降では、「新型コロナウイルス感染症」の影響で採用のプロセスは激変しました。2021年春の新卒採用では7月から12月までの期間でインターンシップを開催しました。例年のインターンシップでは地元の学校しか来ませんでしたが、直近では全国から応募があり、大変驚いています。その参加者を母集団として、1月に選考を開始し、3月初旬には採用が決まってしまいました。
採用環境が変わったため、合同企業説明会には積極的に参加しないという方針です。母集団形成はインターンシップで十分ですし、そもそもそんなにたくさん集める必要もないと考えています。新卒採用は一般的にまず母集団形成をしなければならないと言われますが、私たちは自社に適した人に巡り合いたいだけなので、母集団の数は気にしていません。
会社説明は動画配信で行っています。大切にしていることは、会社へ来てもらい学生に寄り添うことです。当社は伝統的に募集要項に書いてあることは一切説明しません。読んでもらえばいいからです。その代わり、私たちの考え方を説明するのに時間を使い、学生自身にこの会社は自分と合っているのか? 第一志望の会社にしていいのか?と考えてもらいます。
社員との座談会も開催しており、基本的に会社の実情はなんでも見せるというスタンスで行っています。入社してから当社と合わなかったと後悔するより、入社前に社員とコミュニケーションをとってもらい、判断してもらう方がお互いにいいという考え方です。
入社するまでに、内定者研修も開催しています。その中で一番頻度が高いのは、週1回の社内SNSへの投稿です。毎週1回、「Conne」というSNSに内定者は近況を報告しなければなりません。内定者が投稿すると、十数人もの社員がコメントを付けます。質問が飛び交うやりとりを毎週行い、入社する頃にはお互いによく知り合った仲になっています。
さらに、「内定者」と書いた名刺を渡し、身の回りの大人20人と名刺交換をして下さいという宿題を出します。まず名刺をつくるところで当社への帰属意識が高まり、名刺交換の動作を通じてここに入るんだなぁと実感が湧きます。
また、GSポリシー(経営指針書)の書き写しもあります。当社の経営指針書は150ページありますが、全部手書きで写してもらいます。大学ノート一冊を使っても終わりません。さらに「経営方針説明会」を上期・下期に開きますので、内定者も呼んで社員と親睦を深めます。この説明会もオンラインで開催せざるを得なくなり、リアルに会う頻度が減っています。
2022年度新卒内定者研修も、先週から始めたところです。社員3人と私、内定者5人で開催しています。ちなみに内定者のプロフィールが今年は本当にユニークです。鹿児島の大学に入学した県外出身者が2名、残りは全員鹿児島県の出身ですが、県外の大学へ進学した方です。人口の減少に歯止めをかけているのが面白い。オンラインでのインターンシップの効果だと思います。
「人を生かす経営」の実践
現在は学生向け就活セミナーの依頼を受けることも多くなりました。通称「社長カフェ」という名前の就活セミナーで、学生に「就活する上での評価軸を持ちましょう」という話をします。
待遇や仕事内容、職場環境ばかりにとらわれている学生に、働くことの意味、気づきを得る機会として話をしています。私たち中小企業にも自身の成長、働く環境など勝てるところがたくさんあります。完全に大企業との差別化を意識して行っています。
もちろん、待遇面にも堂々と向き合います。学生側は待遇面での質問は内定に影響しそうで質問しにくいとのことなので、私が自社の説明をする際は、待遇面(平均年収やボーナスも含めて)については先に話してしまいます。具体的な数字の話もしますが、会社を選ぶためには、その会社が社員に対してどういう考え方を持っているかということが、とても重要だと話します。
「社員に関する方針があればお聞かせください」。経営指針研究会で経営指針書をつくるときに一番に聞かれる質問です。学生にこの質問をされると張り切って説明します。私たちが採用する手段は、経営指針を熱く語るしかありません。
この図はGSポリシー(経営指針書)のフレームワークです。社員に関する基本的な方針のことで、私たちはこのように社員のことを考えています、ということを図で示したものです。
この中に「社員幸福」というキーワードがあります。ここを特に説明します。要するに幸福は満足度の上位なのではないか、そして他者への貢献があってはじめて幸福になれるのではないか、と社員と話しました。そういう考え方を社員と共有したのです。そのうえで社員幸福のキーワードを共育、貢献、幸福としました。社員は成長とよく言いますが、成長は他者への貢献のための手段であると私は話をしています。自らが何かを見つけたいだけの成長はいずれ止まる。他者への貢献でフォーカスすると成長は止まらない。そして私たちは幸福になることができる。という考え方です。
皆さん、『企業変革支援プログラム』はご存知だと思います。今日話をしたのは求人と共育についてですが、これは「人を生かす経営」の実践です。人がいなければ会社経営はできません。求人はとても現実的な問題です。そして人を採用するためにはやはり会社を良くすることが必要です。企業の理想の状態を描かなければいけません。そのためには経営指針が必要で、毎年毎年更新しながら実践していかなければなりません。それがきちんとできているかどうか、振り返るための『企業変革支援プログラム』です。同友会のしくみは、実によくできているなと思っています。
(2021年5月25日「企業変革学習会(人を生かす経営推進セミナー共催)」より 文責 岸川沙織)
(株)現場サポート 代表取締役 福 留 進 一(鹿児島)
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