【70号特集2】会社を存続させていく為に 取った選択は多角化経営
2022年02月08日
会社を存続させていく為に
取った選択は多角化経営
クリーンハウス(株) 代表取締役社長 渡辺 祐介(岩見沢)
経営環境が目まぐるしく変化する現代において、ビジネスを継続していくためには経営環境の変化に柔軟に対応していくことが不可欠です。多角化経営により自社の存続と発展を図るクリーンハウスの理念と事業ミッションを基にした経営実践から学びます。
当社は、1991年にデイリーフーズという社名で設立され、冷凍食品事業を行っていました。2001年に、不動産事業に事業転換を図り、社名をクリーンハウスに変更しました。現在は、介護事業、保育サービス事業、飲食業、温浴・ホテル業等、食品製造販売事業、ガソリンスタンド・洗車場事業、発電事業、職業紹介事業、不動産事業の9つの事業を展開。従業員数はパート、アルバイトを含めて509名です。
創業の精神
私の父である当社の会長はもともと、祖父が経営していた協栄クリーニングに勤務していました。三笠と岩見沢をはじめ札幌、旭川そして江別にも店舗をもち、売り上げが約8億円で道内では中堅のクリーニング企業でした。父は営業を担う専務でしたので、安定した生活を送ることができていました。それなのに父は突然、会社を辞めて岩見沢で「ビックワン」というレストラン経営を始めます。しかし、素人経営だったため思うように売り上げも上がらず、すぐに資金難に陥ってしまいます。借金をしながらなんとか続けるという状況でした。結局、レストランは1年で閉めることになります。それにもかかわらず今度は、仕出し屋を始めます。売り上げも好調で安定した経営をしていましたが1981年に事業を譲渡し、のちにクリーンハウスになるデイリーフーズを設立します。以降、数多くの新規事業の展開と撤退を繰り返しながら現在に至ります。
2021年5月には、祖父が設立した協栄クリーニングを岩見沢市内の同業者に譲渡しました。近年は店舗数を削減するなど事業を縮小しながら経営する状況でした。大変残念ではありますが、経営判断としては間違っていないと思います。このことを含め、会長が経験した事業の失敗と新規事業への参入の経験が現在のクリーンハウスの多角化経営の根幹にあります。
なぜ多角化経営なのか?
なぜ多角化経営かというと、同じ市場で同じ商品の販売だけだと売り上げの増加が見込めないからです。当社の主な商圏である岩見沢市の人口は約8万5千人、三笠市が人口約8千人です。今後さらに人口減少が進む地域です。この地域で企業を成長させるには、商圏を広げるか、新規事業を立ち上げるしかありません。地方は都市部に比べて競争が少ないことに加え、大手が参入してこないという利点もあります。そのため当社では、一貫してビジネスチャンスを見出すことができれば、特に業種にこだわらずに積極的にチャレンジしていく方針で取り組んできました。介護保険制度がスタートした2000年には介護事業に参入したほか、太陽光発電事業なども始めました。
個人的には、多角化経営にデメリットはないと感じています。反対に一番のメリットは経営が安定することです。特に、コロナ禍においては当社のホテルや飲食事業も多大な影響を受けています。しかし、グループ内には影響の少ない事業もあるため、資金の融通が利くなど、互いに弱点や課題を補完し合うことができ、大変助かっている状況です。
業種に関わらず経営の本質は同じですので、ひとつの業種でしっかりとした経営ができれば、異業種に参入しても問題なく対応していくことができると思います。むしろ衰退産業や市場が飽和している事業を継続することの方が難しいと思います。また、経営者の視点で考えると様々な経験ができるので、楽しみながら経営者としての経験値を上げることができます。
多角化経営の教訓と成果
一般的に多角化経営には3つのパターンがあります。1つ目は、商品開発戦略での多角化です。これは、現在の事業に新しい技術・ノウハウを付け加えて、既存の顧客に新しい付加価値を提供するケースです。2つ目は、市場開拓戦略での多角化。現在の事業をベースに、新しい市場を開拓するケース。3つ目が、異業種進出での多角化。これまでの事業と関連のない異業種に進出するケースです。
当社が異業種に進出したケースとしては、岩見沢市内で経営していたラーメン店「羅妃焚(ラピタ)」があります。売り上げが好調だったことからラーメン事業の拡大を進め、店舗を急速に増やしていきました。帯広に直営店を出したあとに、富良野、留萌、札幌にフランチャイズ(FC)店を開店。その翌年には青森と弘前にそれぞれ直営店を展開しました。しかし、この店舗数の拡大は、出店スピードと人材育成のスピードを合わせなければならないという教訓を残しました。加えて、会長が一人で管理していたため、それぞれの現場に責任者はいたものの、信頼関係の構築が不十分になり、責任の所在があいまいになるなど、ガバナンスが効かなくなってしまいました。結果、青森と弘前から撤退し、残りの店舗はすべてFC店にすることにしました。現在は直営店5店舗とFC店を展開しています。
その後も、焼鳥店や温泉施設の開業、個人経営のガソリンスタンドをM&Aで譲り受けるなど販売サービス業を中心に多角化を進めてきましたが、当社にとって大きかったのは、認定や権利が必要なグループホーム事業と太陽光発電事業に参入できたことです。これらの事業は自由度が低く、大幅に売り上げを上げることができないものの、事業自体に安定感があります。対して飲食業は自由度が高く、売り上げの増加も可能ですが、外部環境に大きく影響されてしまいます。つまり、多角化経営によって、グループ全体としてバランスを取ることができています。
これまでの経験から得た多角化経営のポイントが2点あります。1つ目は、判断を早くすることです。新しい商品の販売や異業種への参入では、準備に時間をかけ過ぎてチャンスを逃したこともあります。情報に基づき全ての判断を早くすることがとても重要です。2つ目が新規事業のスタートはトップダウンで行い、運営は社員に任せる。当社では、この2点を踏まえ、多角化を進めています。実績をつくることによって、周りから自然と案件情報が入ってくるようになります。
グループ企業としての取り組み
当社は、クリーンハウスホールディングスを構成する6つの持ち株会社の一つです。ホールディングス化する以前は、クリーンハウスがそれぞれの事業の経営方針を決定していました。しかし、事業所が増えるにつれ、対応が難しくなっていきました。そこで、グループ化することで各事業の経営決定権を各法人へ移行し、決定スピードの向上と組織としての健全化を図りました。
クリーンハウスは本社機能を担い、経理、労務、採用、教育などの一元化と強化を進めています。3年前には会計のクラウド化を行いました。当時、地元の会計事務所もクラウド会計に対応していなかったため、対応ができる札幌の会計事務所に切り替えました。管理者は他の事業所の財務状況も把握することができるため、自分の事業所だけではなく、グループ全体のことを考えるようになってきています。各事業部が切磋琢磨することでグループ全体のレベルアップにつながっています。このことが当社の多角化における最大のシナジー効果と言えるのかもしれません。
理念とミッションの共有でさらなる発展をめざす
実は、当社には10年ほど前までは経営理念がありませんでした。そこで私が南空知支部の経営指針研究会に参加し、経営指針を成文化しました。
【クリーンハウス 経営理念】
以降、この理念のもとに経営をしてきましたが、事業が増えるにつれ、この理念だけでは不十分であると思い、事業部ごとにミッションを策定しました。
【事業部ミッション】 |
各事業部がそれぞれのミッション経営を実現することで、社員一人ひとりが大きく成長できます。そのことが、結果として多角化のシナジー効果につながるのだと思います。
当社はこれまで、経営戦略や社員教育についてはしっかりと取り組むことができていませんでした。設立以来、長らく各現場任せの状況が続いていました。自分では変えなくてはならないことは十分わかっていたものの、変えることができずにいました。しかし、コロナ禍において、新規出店が抑制されたため、自社の課題についてじっくりと見つめなおす時間ができました。自社の経営戦略と評価制度の策定を決意し、取り組みを進めています。
策定に当たっては、①経営戦略上、どこのポジションに、どのような人材が必要かを分析する②評価面談で個人の適性や経験を社内で共有し、個人の学びを支援する。加えて、メンバーシップ型からジョブ型への移行も推進する③格付け評価ではなく育成評価をし、それぞれにあった育成をし、多様性を促進する④育成評価シートを基に、1年に2回、事業ごとの人材戦略を決める、の4点を重点課題としています。
私は、常日頃から前向きな姿勢で、理念と算盤で新たな道を示していくことを心掛けています。失敗のリスクより、やらないリスクの方が大きいと考え、チャンスがあれば積極的に新規事業に参入していきたいと思います。これからも理念を基にした全社一丸の会社経営の実現のため、それぞれの事業がミッション経営を推進できる環境整備を進めていきます。
(2021年7月15日「札幌支部江別地区会7月例会」より 文責 村井靖彦)
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