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【70号特集2】中小企業の活路は“DX”にあり!

2022年02月08日

中小企業の活路は“DX”にあり!
―悩み解決から強みづくりへ―

 

(株)フレアサービス 代表取締役 西村 達一郎(旭川)

 

かねてより「お客様に喜ばれる、働きがいのある企業」をめざしてきたフレアサービス。しかし社内には生産性の向上、属人的な業務の解消、働き方改革の実現など様々な経営課題が山積していました。課題を解決し理念を形にするため、DX戦略を全社一丸となり推し進めます。フレアサービスの取り組みから、中小企業のDX戦略の在り方を学びます。

 


 

 私は2005年、同友会に入会しました。そのときは「経営とは何か、経営者とはいかに孤独か」と非常に悩み抜きました。15年経った現在も、多くの悩みを抱えていますが、その間同友会で学び続けたことで、経営者として進むべき道を確立することができ、現在に至っています。

 

 

 

偶然にも当てはまったDX戦略

 

 フレアサービスは2000年に創業して以来、主に高齢者向け給食など食品製造業を営んできました。従業員は140名ほどですが、グループ会社を含めると、約300名になります。「喜ばれる企業!幸せになる企業!」を経営理念に掲げています。


 グループには現在5つの会社があります。「商品・サービスは一緒だがお客様が違う」、もしくは「お客様は一緒だが商品・サービスが違う」という分業制を敷き、なるべくグループ間の競合リスクを減らしながら、隣接事業としてシナジーを発揮できるような構成になっています。


 我々の業界は、一つの商品を販売して数十円の粗利を得るという、非常に細かい仕事をしています。一円の差、人件費の一分の差をしっかり可視化しなければ容易に粗利が生まれません。それに加え、労働人口不足、最低賃金の引き上げも大きく経営を圧迫しています。いかに商品価値を高め、製造原価を抑え、粗利を確保するかということが近年の課題でした。そこで全社一丸となり取り組み始めた内容が、偶然にもDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略に当てはまっていたのです。


 経済産業省のホームページには、アナログをデジタルに置き換えることだけがDXではない、ということが書かれています。商品価値を高め、企業内の文化をDXで変えていく動きそのものがDX戦略なのです。

 

お客様に喜ばれる商品を提供するには

 

 当社のDX戦略には3つの柱があります。1つは、理念の具現化です。「働きがいがある会社」を実現するには、ルーチンワークや単純作業を軽減し、専門性の高い仕事をしてもらうために業務をシステム化していく必要がありました。2つ目は、課題解決のためのツールの導入です。生産性向上、売り上げアップ、働き方改革など様々な課題を多種多様なツールを使って解決し、競争力の高い事業を展開していくという狙いがあります。そして3つ目は、緊急性は低いが重要性が高い業務を行っていくことです。我々経営者が注力しなければならないのは、将来の仕事づくりや人材育成など、5年後・10年後には大きな差がついてしまう仕事です。


 しかしながら、私はクレーム対応、機械の故障、納期の迫った仕事に忙殺されていました。さらにメールの確認、スケジュール管理、会議用の資料の作成などの業務に時間を割かれ、本来の仕事に手が届きません。こうした業務にデジタルツールを導入し、経営者として最も重要な業務にかける時間を増やしていくことが必要でした。


 お客様にとっては、我々のつくる給食が人生最後の食事になるかもしれません。お客様一人ひとりが、毎日の食事を楽しみにしてくれています。だからこそ我々は商品に責任を持ち、専門性の高い仕事をし、より良い商品を提供することで、喜ばれる企業、働きがいのある企業にしていかなければなりません。しかし、現場では課題に直面していました。

 

 

栄養士の価値を取り戻す「AI献立作成システム」

 

 栄養士は献立作成の作業に忙殺され、食材・料理の被りが頻発していました。献立をしっかりつくり込む時間がないため、4月の献立を7月にコピーするなどして献立を回していたのです。その結果、お客様からは「フレアサービスの給食は飽きる」と言われ、失注することもありました。また、顧客により評価にバラつきがあり、社員に対する評価基準も曖昧でした。結果的にこの仕事についていけず、3カ月、半年で辞めていく社員もたくさんいました。


 栄養士の仕事とは、お客様の食への期待に応える献立をつくり、商品を開発し、健康になる料理を提供することです。しかし、実際には献立をコピーペーストし、作業に忙殺され、お客様の意見を聞くことができずにいました。私はこの状況を打破し、栄養士の価値を取り戻していきたいと考えたのです。


 そこで導入したのが「AI献立作成システム」です。今回当社が使用したのは、アルゴリズムという50年も前からある「組み合わせ計算方法」です。絶対に守らなくてはいけないという「制約条件」と、できるだけこの数値に近づけるという「目的関数」の2つのロジックを使って組み合わせを最適化しています。


 「AI献立作成システム」の活用により、すばらしい成果が出ました。これまで栄養士は、一つの食事に対して、2週間ほどかけて献立を作成していました。1週間が40時間ですので、80時間ぐらい作業していたことになりますが、システム導入後は15分でできるようになったのです。まだ実現はしていませんが、このシステムをすべての栄養士、すべての食事に適用すれば、業務時間が従来の50%に短縮できるという計算結果が出ています。非常に画期的なシステムだと思っています。この短縮できた時間を有効に使い、顧客の声を聞き、その要望に沿った献立・商品を開発する。そういう栄養士本来の価値ある業務に従事してもらいたいと考えています。

 

 

「IoT生産性可視化システム」で工場の生産性向上!

 

 工場にも課題がありました。自社の商品の特性上、毎日つくる料理・商品が工場によって異なります。そのため、個人の技量に依存する属人的な作業が多くなっていました。またそれが毎日変わるため、作業の標準化が難しくなり、人手不足で人件費が高騰していました。人は辞めてしまう、喜ばれる献立はできない、それでも人件費が上がり粗利が毎年減少していく、という厳しい経営を強いられていました。


 そこで工場に対しては、IoT技術を活用した生産性可視化システムの開発を行いました。まず、生産性という言葉を準備・移動・作業という3つのカテゴリーに分け、作業者の工場での行動をそれぞれのカテゴリーに当てはめようと試みました。


 人間が行う作業の早さ、機械の稼働率を上げるには限界がありますが、人が物を取りに行き、何かを探すという移動時間と、機械を動かす、何かを計算するなどの準備時間なら短くすることができます。これで生産性が上がるのではないかと考えました。そして会社のKPI設定では、「生産性向上=準備時間短縮×移動時間短縮×作業時間延長」ということを作業員に提言し、実行に移しました。


 具体的には、工場の天井にロケーターというセンサーを取り付け、作業員が被る帽子の中にもタグを付けました。一人の作業員が一日、工場内でどういう動線で動いているのかということを観測したのです。次に作業員の一日の稼働に関する時間を可視化し、それをもとに準備時間・移動時間を効率化するためのあらゆる改善を行いました。その結果、準備・移動にかかる時間を8%削減し、作業する時間を8%増やすことができました。さらに、月あたりの労働時間は全体で約200時間、月額人件費は約20万円削減することに成功しています。


 これらのシステムはまだ導入したばかりですので、よりブラッシュアップしながら、今後出てくるであろう課題の解決にもつなげたいと考えています。生産性可視化システムについては、倉庫業や製造業など労働集約型で作業をせざるを得ない企業にとって非常に有効なシステムですので、他の企業等でも活用できないかと考えています。

 

中小企業におけるDX戦略

 

 システム開発にあたっては、様々な企業・機関が協力してくれました。補助金申請の際には専門家の先生が書類の内容を一緒に練ってくれ、システム開発プロジェクトでは複数の企業がパートナー企業として連携してくれました。その中で最も重要だと感じたのは、経営者自らが強い想いを持ってプレイングマネージャーを担い、しっかり関わっていくことです。そうしなければ、DX戦略の実現は難しいだろうと思います。


 中小企業のDX戦略でまず大切なことは、企業理念、ビジョンを明確化することです。何のために生産性を上げるのか、生産性を上げて何をしたいのか、それを明確にし、社員と共有することが大切です。そして、顧客満足・生産性向上の2つの視点を持たなければなりません。生産性を可視化すると製造原価に着目しがちですが、事務方の人件費という生産性の向上も、忘れてはいけない大きな経営課題です。


 そのうえで、緊急性・重要性のマトリックス分析を行います。重要度が低い業務については、デジタル技術を活用して生産性を高め、重要度が高い業務に注力する時間をつくり出すのです。


 様々な挑戦・改革をしていく企業に、人は感動し集まってきます。人が集まる企業であり続けるためには、時流適応が必要です。そして、自ら挑戦し始めたことに執着心を持ち、PDCAをしっかり回し、常に精度を上げる努力をし続けること。これが中小企業のDX戦略であると考えています。


 これまで当社のDX戦略の事例を紹介してきましたが、急に大金を使い、AIやIoTを導入したわけではありません。10年以上前からルーチンワークを減らし、専門性の高い仕事をする時間を確保する取り組みを続けてきました。これは当社の理念方針でも優先事項として掲げています。当社の文化としてそういう意識が根付いていたということも、今回のDX戦略が成功した一因かもしれません。
 皆さんの会社にもビジョンや経営理念があると思います。その実現のために、小さなことからDX戦略にチャレンジしていただければと思います。

 


(2021年10月8日「第36回全道経営者“共育”研究集会in苫小牧」第5分科会より 文責 中田大貴)

 

(株)フレアサービス 代表取締役 西村 達一郎(旭川)

■会社概要
設  立:1999年
資 本 金:2,600万円
従業員数:140名
事業内容:給食等の食品製造業及び食品加工販売

https://www.flare.co.jp/