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【69号特集2】個人ビジョンの重要性と策定について

2021年01月15日

個人ビジョンの重要性と策定について

 

東洋産業(株) 代表取締役 玄地 学(宮城)

 

M&Aで引き継いだライバル会社の状態に愕然とした玄地氏。現状を打破すべく、入会したばかりの同友会で「経営指針を創る会」の受講生となります。その中で学んだ経営者の責任とは…。社員と共に経営指針づくりに取り組んできた玄地氏の実践事例から学びます。

 

 

 

 


 

 私は1966年、山形県生まれの53歳です。大阪の大学を卒業後、外資系のワックスや洗浄剤の製造会社に就職し、6年間、営業職でお世話になりました。ふるさとでケミカル産業という会社を経営していた父から「戻ってこい」と言われ、2代目として入社し、現在は東洋産業とケミカル産業の社長を兼任しています。


 東洋産業は1985年に創業し、売り上げは2億7千万円です。清掃用品の販売のほか、セミナーの開催やフードサニテーションという食の衛生管理に関連する洗浄剤、アルコール、殺菌剤、害虫駆除、フィルターの交換などもしています。さらにヘルスケアという位置づけで、コインランドリーのランドリーマシンと乾燥機、専用洗浄剤などを老人ホームやスーパー銭湯、温泉旅館などに卸売販売しています。


 ケミカル産業は私の歳と同じ創業54年目の会社で、業務内容は東洋産業と同様ですが、最近は2020年に食品の製造工程における衛生管理システム・HACCP導入に向けたコンサルティング業も行っています。売り上げは約4億7千万円、両社合わせると30名程の人数です。

 

社員の笑顔が見えない経営理念

 

 1999年、ケミカル産業は当時競合状態にあった東洋産業をM&Aをすることになりました。幹部からは「危ない会社を買って本体までどうにかなったらどうするのか」という意見も出ました。私は、今後ビルメンテナンス市場は縮小すると予測していましたので「ボリュームを上げるためにはM&Aは必要だ」と自分の意見を押し通し、再建に携わることになりました。


 私が初めて東洋産業に出社した日、驚いたのは会社の状況です。事務所が汚い。倉庫に棚がなく商品は直置き、日報も回収予定表もなく、電話がかかってきても「あの人じゃないとわかりません」。取引先メーカーも商品引き上げの準備をしているありさまでした。


 こんなところからスタートしたのですから何から手をつけてよいのかわかりません。1、2カ月遅ければ倒産していたかもしれない会社ですが、何とかして現状を変えようと必死で立て直しました。


 持ち直してきたと思っていた矢先、私は同友会に誘われました。おそらく「こいつ、危なっかしい」と思われていたのだと思います。入会してすぐ、私は同友会大学を受講しました。自分の中ではある程度再建してきたことに自信があったのですが、同友会大学を受講するうちに自社経営がものすごく危ないということに気づき、もっと勉強しようと「経営指針を創る会」を受講します。


 ここで私は、2つのショックを受けます。1つ目は「『科学性』『社会性』『人間性』の観点で理念を考えてきてください」という課題について、修了生の添削に「あなたの理念からは社員の笑顔が見えない」と書かれたことです。当時の私は「これほど社員のことを思っている経営者はいない」と思っていたので、どこを見てそう言われているのかわかりませんでした。


 2つ目は10年ビジョンを書いてくるという課題がさっぱり書けず、先輩経営者に相談したところ「玄地さんは転げ落ちていく会社が見えているでしょう。つぶれていく会社を見たくないから見えないと言っているだけ。つぶしたくないなら何をしないといけないの?」と指摘されたことです。確かに、それまでは先を見たくないために3カ年計画しか立てていませんでした。10年先を見据えた上の3年なら少しぶれても10年先に行き着きます。時代に乗っていたのではなく“流行り”を追っていただけ、時代に流されていただけでした。10年先を見据えた計画でなければならないと改めて気づきました。

 

社員の成長を後押しする

 

 私は半年かけて、ようやく経営理念をつくり上げました。今は毎年「経営指針書」を更新し、現在14冊目になっています。その中に必ず社員のページを1ページつけて、自分の経営指針書にしてもらっています。さらに3カ月間の計画のみを載せ、四半期ごとに振り返りをしてもらうというスタイルを7、8年続けています。


 今年も銀行や会計事務所、同友会の会員など外部の方をお招きし、経営指針発表会を行いました。発表会は社員の成長の場ととらえ、社員の表彰やグループ討論を行っています。最初は嫌がる社員もいましたが、社員にとっては最高の学びの場です。何のために経営指針発表会をやるのかと言われれば、社員のためです。ですから、業績が良かろうが悪かろうが必ずやります。社員の成長を後押しするのも、経営者の責任だと考えています。

 

「問題」を「課題」として

 

 当社では、個人ビジョン達成のために「経営指針の成文化」「理念の唱和」「経営指針発表会」「現状認識」などに取り組んできました。特に「現状認識」については社員を巻き込み『企業変革支援プログラム』を活用しながら行っています。この取り組みにより「自社の立ち位置が明確になった」「事業定義により事業領域が広がった」「問題解決のプロセスが分かってきた」など、さまざまな効果がありました。金融機関や会計事務所などからも評価を受けています。


 現状認識では、SWOT分析、5F3C分析、顧客満足度調査など、すべて書き出していきます。外部環境分析では、川上(取引先・仕入れ先)から川下(得意先)を見て、これからどうなるかなど、必要不可欠なものを書いていきます。


 内部環境は毎年9月に配達状況実態調査を一カ月間かけて行います。5F分析は、SWOT分析より取り組みやすいという社員の声を受けて行っています。市場ごとに分析することで流れが見えやすくなり、打つべき手が見えてきます。


 現状認識を行っている理由は、自社の課題を明確にするためです。問題と課題は混同されることが多いですが、問題のままでは何も解決しません。問題と課題を明確にし、課題を解決していくことが大切です。これは『企業変革支援プログラム』にも書いてあります。そのため、当社では全社員で『企業変革支援プログラム』を活用しています。


 具体的には毎年定点観測を行います。5つのカテゴリーに分けて社員に採点をしてもらい、平均点を出しています。そうすることで、ピンポイントで課題が出てきます。最初は社員から厳しい意見があり「社内の信頼関係ができていない」という問題も浮き彫りになりました。何でも言える社風づくりにするために『企業変革支援プログラムSTEP2』も活用しています。

 

強みを活かした第二創業

 

 我々は問屋ですので、価格決定権を持つためにはメーカーになるしかありません。どの分野でメーカーになるかを模索していたところ、同友会で「新しい仕事づくりは地域の困った探しから」と言われたことを思い出しました。その頃、入浴施設でレジオネラ菌が出るという話がありました。清掃を怠ると命に関わる感染症です。山形も温泉があるため2007年、今までの経験を活かし、自社ブランドの洗浄剤を開発しました。毎年感染症で亡くなる方は増えています。清掃を怠ることで人が亡くなったり、温泉を廃業するようなことがあってはなりません。現在では行政と一体となり、地域への啓蒙活動を行っています。


 また、業界の変化としては2020年6月に改正食品衛生法が適用となり、「HACCP」という工程管理・衛生管理システムが義務化されました。この変化に対応するため、当社ではHACCPコーディネーター資格取得のためのコンサルティングをしています。

 

強靭な会社は社員と共につくる

 

 私が経営指針を実践してから3年目に、売り上げが下がる時期がありました。ある時、同友会の例会で「経営指針」だけでなく「就業規則」「社員教育」「評価制度」を合わせた4つの柱に取り組むことの重要性について学びました。現在はこの柱を軸に、社員と思いを共有しながら強靭な会社づくりに取り組んでいます。


 2015年には、社長の決意として「働く環境づくりに取り組む」と宣言しました。以来、毎年就業規則を見直し、改定しています。手法としては、2月~4月に就業規則改定月間を定め、社員の方から意見を出してもらっています。


 評価制度も取り組み始めて4年目になります。働きがいのある会社にするため、人が育つ評価制度を意識し、上司との面談を重視しています。上司の役割とはどうすれば部下が目標を達成できるかを考え、後押しすることだと定義しています。


 こうして私の個人ビジョンは、「人を生かす経営」にたどり着きました。「経営者の責任の自覚」「経営指針の成文化と全社的実践」「社員を最も信頼できるパートナーと考える」「外部環境の改善に労使が力を合わせる」、これが私にとっての個人ビジョンだと捉えています。

 

■会社概要
設  立:1985年
資 本 金:1,800万円
従業員数:12名(役員、パート含む)
事業内容:清掃用品等の販売、コンサルティング業等

 


(2020年2月27日「函館支部青経未来塾2月例会」より 文責 土田あゆむ)