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【69号特集2】胆振東部地震! 発信し続けたマチのラジオ局  ―開局10年、自社の存在意義そしてコロナとの闘い―

2021年01月15日

胆振東部地震! 発信し続けたマチのラジオ局  

―開局10年、自社の存在意義そしてコロナとの闘い―

 

室蘭まちづくり放送(株) 代表取締役社長 沼田 勇也(室蘭)

 

 経理社員だった沼田氏が起こしたコミュニティFM(愛称「FMびゅー」)。開局当時より、ラジオを身近な存在にしておくことの必要性を訴えてきました。その想いは、2018年9月6日未明に発生した北海道胆振東部地震直後の60時間に及ぶ緊急放送の場でも証明されます。地域の魅力発信と災害に寄り添う想いなど、「FMびゅー」の存在意義を音で伝えています。

 

 


 

 私は1976年、千葉県君津市で生まれました。両親はそれぞれ室蘭と美唄の出身で、私が高校2年の夏、新日鉄君津製鉄所で働いていた両親の希望により、北海道に戻ることになりました。室蘭に引っ越し、地元の高校を卒業。日本製鋼所の関連会社に総務経理係として入社し、社会人人生をスタートしました。


 現在の私は、会社の代表をしつつ、放送局長とサポーターズクラブ『追い風』の代表をしています。『追い風』は、番組づくりに参加する市民ボランティア団体です。人手不足の我が社は協力、兼任が必須なのです。


 同友会には、開局した2008年に入会しました。おかげで無事12年目を迎え、同友会大学にも通っています。

 

コミュニティFMとの出会い

 

 室蘭を中心とした西胆振地域は、自然・工業・農業・商業・観光資源が豊富で住みやすい温暖な気候の町です。長年その地に住んでいると、ふるさとの良さに気づけないものです。その点、地方から来た人のほうがその良さに気づける場合もあります。私もよそ者の一人ですから、室蘭はこんなに良い町なのになぜ若者が出て行ってしまうのか不思議でした。もしかすると町の良さを伝える手段が不足しているのではないか、と感じていた2000年、人生の転機が訪れます。この町でコミュニティFMのラジオ局をつくりたい、という人に出会ったのです。


 当初、私は軽い気持ちでボランティア団体のスタッフの一員となりました。経理の仕事は規則的で自分の時間を調整しやすく、休みを活用してコミュニティFMについて調べようと思い、道内各地の放送局へ出向き情報収集をしました。休日には積極的に地域のイベントに参加し、市民とのつながりも持ちました。地域の情報を伝えるためにはいろいろなツールが必要です。新聞を読んでいる人やテレビを見ている人が100%いるわけではありません。西胆振には、コミュニティFM、ケーブルテレビ、フリーペーパーがありません。ケーブルテレビはお金がかかる。フリーペーパーは誰かやるだろう。コミュニティFMなら自分にもできるかもしれないと、取りかかることにしました。

 

ボランティア活動から起業へ

 

 2001年12月、「コミュニティFM開局準備ボランティア市民団体」が発足しました。私は翌年2月から参加し、パソコンを使用して録音、編集作業の練習をしました。YouTubeが当たり前の今と違い、インターネット放送はないに等しい時代です。10分も見ると大変な請求が来るネット環境しかありませんから、配信は非常に難しい状況でした。そこで、免許不要の近距離にしか届かないミニFM電波を使い、さまざまなイベント会場で公開放送を行いました。このころ始まった「いただきますごちそうさま」という番組は、15年近く経った今なお続く、超長寿番組となっています。
 市民にコミュニティFMが必要かどうかを聞くアンケート調査を行なったり、どんなラジオ局をつくろうか、地域の人をどんどん巻き込んで準備を行い、ようやく理解を得ていきました。


 2007年、室蘭市輪西《わにし》町で築30年以上の古い建物を安く借りることができました。ここが、当社のスタート地となり、2008年8月10日、社員5名、ボランティア約30名で開局しました。現在のクラウドファンディングのような便利な方法はなく一軒一軒、地域の皆さんのお宅を訪問し、一口5000円の協賛と一口5万円の株主のお願いをして歩きました。30前の若造が「ラジオ局をつくりたいのでお金をください」と突然伺うのですから、多くの人が「この詐欺師!」と思っていたはずです。それでも地域の皆さんと開局したいという想いに賛同いただき、約2000万円の資金が集まりスタジオも完成。創業コンセプトと経営理念は、地域の皆さんと勉強会の中でつくりあげました。当社にとって重要な一歩でした。


 当社は、生活環境をサポートする放送をラジオを通じて行い、みなさんの暮らしを応援し、楽しい生活を送ってもらいたいという想いでできた放送局です。愛称は「FMびゅー」。「びゅー」は、西胆振の美しい景観の「VIEW」と、室蘭独特の強い海風の音「ビュー」からきています。サポーターズクラブ『追い風』の名称も、この放送局を強く後押ししていただけるようにという想いを込めて付けました。

 

地域連携で20万人のエリアをカバー

 

 コミュニティFMは、「放送法」で一市町村に一局と割り当てられています。地域の特色を生かした番組づくり、地域に根ざした情報提供をするため、1992年に制度化されました。日本初の放送局は、函館の「FMいるか」です。


 また、空中線電力が20wと、少ない送信出力で放送エリアをカバーできるのもメリットの一つです。リスナーはラジオのスイッチを入れるだけで放送を聴けます。現在、北海道内には28局、国内には325局のコミュニティFM放送局があります。苫小牧でも近い将来、開局してほしいと願っています。


 当社の放送エリアである室蘭、登別、伊達の3市で危惧されている自然災害に、有珠山噴火があります。20数年周期で起こる噴火に備えるため、伊達市、豊浦町、洞爺湖町、壮瞥町の1市3町は、共同でラジオ局を開設することを決めました。愛称はWi-radio(ワイラジオ)。一般公募で決まりました。しかし、独自でスポンサーを集め、番組を編成することは難しく、当社と2局で同時放送を行っています。それにより、およそ20万人が聴くエリアをつくり上げることに成功しました。サイマル放送と呼ばれるこの仕組みは、道内では初めてとなります。


 また、スマホやパソコンのアプリで世界中どこにいても放送が聴けるようになりました。出張先のインドネシアから「高校生の息子の野球中継を聴けた」と喜んでくれた方もいました。このように放送エリアを広げることによって、より多くの方に楽しんでいただいています。


 その他、存在感を外部に発信するという役割もコミュニティFMにはあります。他の放送局から室蘭に限らず、登別温泉や洞爺湖、伊達の新鮮な野菜まで一緒に売り出すことができるのです。

 

自家発電で60時間流し続けた緊急放送

 

 これまで「FMびゅー」では子育て世代が出演する子育て応援番組や、地元のお年寄りが童謡を紹介する番組、閉校となる小学校の卒業生インタビューなど、地域に密着したさまざまな番組づくりを行ってきました。日本製鉄の野球チーム「室蘭シャークス」の全国大会を中継したこともあります。


 昨年も全国大会進出の中継で東京ドームへ行ったついでに、生まれ故郷の千葉県にある「かずさFM」を訪問しました。その2カ月後、台風15号が千葉県を襲います。台風で電柱が曲がり、お店のガラスが吹き飛んだというニュースを聞き、私はじっとしていられず、夜0時の飛行機に乗り、深夜2時に現地に駆けつけました。着くと町は停電し、状況は一変していました。私は、臨時放送の応援にかけつけました。


 2011年3月、東日本大震災が起こります。この時は3カ月後に宮城県亘理町《わたりちょう》に行き、臨時災害FMを開設している方々の支援を行いました。


 翌年の2012年11月、西胆振暴風雪による停電が起きます。この時は3日間、停電が続きました。情報源はラジオだけです。防寒着と懐中電灯の明かりを頼りに、小さな発電機で放送機材を動かし、必死に放送しました。


 2017年、北海道主催の総合防災訓練には消防など関係各機関の他、全道9局のコミュニティFMも参加しました。災害時の機材立ち上げ、放送内容の決定などの訓練です。それから1年も経たないうちに、私たちは訓練の大切さを実感することになります。


 2018年9月6日未明、「胆振東部地震」が発生します。私たちは発生直後にスタジオに向かい、そこから60時間、自家発電で途絶えることなく緊急放送を流し続けました。そのようすはNHKの全国ニュース「ニュースウォッチ9」で15分という異例の長さで紹介されました。いま何が起きているのか、これからの生活はどうしたらいいのか、情報をリアルタイムで伝達、共有できるということが証明されました。日頃からラジオを身近な存在にすることで、聞き慣れた声が被災された方々の心を落ち着かせ、納得させてくれます。防災無線も大事ですが、心に響くラジオも必要なのです。

 

「情報のバリアフリー」をめざして

 

 しかし、ラジオも万能ではありません。聴いて終わり。形に残らないのです。そこをカバーするため、SNSの活用を開始しました。ラジオ局から発信する正確な情報です。「情報のバリアフリー」、それがコミュニティFMの最大の役割です。


 災害が起こると、人は間違った情報や噂に流されやすくなってしまいます。今のコロナ禍で、誰が悪いと言い合うのでなくみんなで助け合う。コロナに感染しても「大変だね」と気遣える町になってほしい。それがコミュニティFMの役割ではないか、優しい町づくりにつながってほしいとの思いで放送しています。


 今後起こりうる大地震、津波にも耐えられる放送局となるよう、事務所移転も行いました。さらにBCP(事業継続計画)も作成、今年2月の新型コロナウイルス感染症に伴う緊急事態宣言時に発動させました。私自身考えが整理され、社員も安心して放送を続けられたと思います。ラジオ局は医療機関等と同じエッセンシャルワークですので、住民の生活を守る放送を止められません。


 コロナ禍の今、無料で地域の企業を宣伝することもあります。スポンサータイアップのプレゼント企画や、運動不足解消のラジオ体操の放送も始めました。会社紹介動画の作成、就業規則の見直しなど、コロナのおかげで取り組めたこともあります。仕事が減り残業代が無くなった社員の生活安定を考え、特別賞与を支給しました。


 近年、インターネットの普及によりテレビも新聞も視聴者や読者が減っています。ラジオの広告収入は全体としては健闘していると思います。それはラジオが大事だとわかっているスポンサーが多勢いるということです。想いの伝わるラジオには、地域の人々と応援してくれるスポンサーが必要です。そして、地域のために日々奮闘する私たちがいます。地域の皆さんの想いをつなぎ、優しい気持ちで成り立っているコミュニティFMは、今日もあなたの笑顔のために放送を続けます。

 

■会社概要
設  立:2007年
資 本 金:1,030万円
従業員数:9名
事業内容:コミュニティFM放送

 

(2020年8月21日「苫小牧支部女性部会8月オープン例会」より 文責 深川えりか)