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【69号特集1】独自の「新北海道スタイル」で旅行業界を守る!

2021年01月29日

独自の「新北海道スタイル」で旅行業界を守る!

 

時計台バス(株) 代表取締役社長 木村 高庸(札幌)

 

 時計台バスの社長に就任して約3年。誰も経験したことのない「新型コロナウイルス感染症」に直面した木村社長は創業社長の20年前の経験をもとに、全社一丸となって困難に立ち向かいます。ピンチをチャンスに。時計台バス流の「新北海道スタイル」を掲げ、業界ナンバーワンをめざします。

 

 


 

 当社は1984年に観光会社の観光バス部門の経営とバス25台を継承し、設立しました。2017年に社長に就いた私は、コロナ禍で今までにない対応を迫られることになりました。

 

業界20年ぶりの大打撃

 

 今回のコロナ禍で全国・世界的に移動制限や外出自粛ムードになり、観光業界は大打撃を受けました。ホテルからはお客様が消え、飛行機には誰も乗らず、観光地では観光バスがまったく走らなくなりました。これまで社会経済に影響を及ぼしてきたリーマンショック、東日本大震災と比較しても、北海道の観光バス業界ではおそらく今回が一番の大打撃だろうと言われています。


 当社も4月から6月まではバスがほとんど走らず、一番酷いときで売り上げは前年比△99%まで落ち込みました。


 今回の新型コロナウイルス騒動は、北海道の観光業界では有珠山大噴火以来、20年ぶりの大災害だと思います。有珠山噴火当時、私はまだ当社に勤めていませんでしたが、資金繰りが厳しく、倒産寸前まで追い込まれたと聞いています。数多くの同業の仲間たちは債務超過で借入金の返済ができなくなり、業界から去っていきました。


 私は創業社長が苦労した経験をもとに、新型コロナが拡がる前から最優先で資金繰りに取り組みました。

 

コロナを乗り切るための3つの方針

 

 本州の同業他社では失業保険が出る方が従業員のためと考え、実際に解雇に踏み切った事例もありました。その中で私は、経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウを確保したうえで、長期化すると考えられるこの状況を乗り切るために3つの方針を掲げました。


 第一に、従業員の解雇は会社が存続できなくなったときまで絶対に行わない。


 第二に、自社のバスは絶対に手放さない。同業他社で資金繰りが厳しく、従業員の給料を支払うためにバスを売った会社もあります。ただ、観光バス会社にとってバスはメインの設備です。これを売るということは魂を売るのと同等であると考えます。


 第三に「アフターコロナに向けた情報発信」です。「明けない夜はない」という言葉があるように、いつか新型コロナ騒動が収まればV字回復するということを信じ、アフターコロナで大きな役割を担うと考える「情報」を大切にしています。社外への正しい情報発信や社内への方向性を発信する意識を高めました。

 

道外への営業活動に着手

 

 当社の観光バス利用者は、学校関係(本州からの高校の修学旅行、道内の小中学校研修・修学旅行等)、一般団体(企業の貸切研修等)、インバウンド(韓国、中国、台湾、香港、タイ、フィリピン)が主です。特に近年はタイからのお客様が多く、新千歳空港からの移動のほとんどを当社が担っていました。しかし、新型コロナ騒動でこれらすべてがなくなってしまいました。


 昨年は日韓関係悪化の影響で観光客が減っていましたが、中国からの観光客が増えたためカバーできていました。しかし、年明けに中国・武漢で発症したといわれる新型コロナの影響で中国からの観光客がまったく来なくなり、その1、2週間後にはすべての国際線がシャットアウトされてしまいます。


 このときに行った対応は、まず全国的な営業活動です。近年、当社の売り上げはタイを中心としたインバウンド増加により修学旅行の比率が下がっていたため、2月にアフターコロナに向けて修学旅行生への営業(特に西日本)を全国的に行いました。2月は「ダイヤモンドプリンセス号」について騒ぎが大きくなり始めていました。当社はこの段階で九州、関西、北陸、関東、東北に営業で回りました。

 

乗車前検温の様子

キャッシュアウト対策

 

 次に、キャッシュアウト対策です。新型コロナは1月末から国内でも少しずつ話題になり始めましたが、当社は2月の段階でいくつか手を打っていました。


 固定費用と既存の借入金の返済が滞らないよう、株主、金融機関と相談して速やかに資金の手当てをしました。無担保・無保証、当面無利子の政府系融資、民間金融機関からの融資、セーフティネット4号、これらすべてを早々に申請し、4、5月の段階ではほとんど資金の手当がついていました。この手当でバスがまったく走らなかったらどうなるかをシミュレーションした結果、約9カ月は維持できると分かりました。


 従業員の給与については全額支給しながら全面休業状態だったため雇用調整助成金を申請しました。人件費が助成金で賄われたため、本来なら大出血するところが中出血程度で済みました。

 

バスは5分で換気できる

 

 また、ゴールデンウィークには役員が集まり「世間ではバスは密閉されており換気が悪いという誤った情報が流れている。このような時だからこそ正しい情報発信をしよう」と話し合われ、バス内の換気機能の実証実験を撮影し、5月9日にホームページで公開しました。テレビなどメディアでも紹介され、換気機能を使えば5分で車内の完全換気ができることを外部に向けてアピールできました。北海道が6月に発表した「新北海道スタイル安心宣言」に沿い、社内の施設やバス内の消毒等も徹底しています。


 緊急事態宣言解除に伴い、バスの換気や徹底した消毒など、社内体制を外部に向けて発信したいという従業員の要望がありました。休業期間が長かった従業員に久しぶりに出勤してもらい、さまざまな動画を作成しました。

 

 

トンネルの出口

 

 休業してほぼ半年が経つと、従業員には不安が広まってきます。給料は支給されているがバスが一台も走っていないため、「この先会社は持つのか? この先どうなっていくのだろうか?」と従業員本人はもちろん家族も不安を募らせていたと思います。そこで私が、社員や家族に向けたメッセージを動画配信しました。


 7月6日には社員ほぼ全員でバス4台に分乗し、「ウポポイ」の見学に行きました。状況が回復すれば必ず団体で訪れる機会が増えることを見越し、施設は未完成でしたが周辺状況の変化、オペレーションを現地の担当者に説明してもらいました。


 帰りは新千歳空港に立ち寄り、お客様のいない国際ターミナルを見学しました。多いときは32輌中20輌以上がタイの観光客に張り付いていたことを思い返し、これからに向けて強い決意を固めました。


 7月以降はどうなるのかという不安がありましたが、明るい話も出てきました。


 3密回避で小・中学校の研修バスは席を空けて座るため、発注台数が倍になりました。また海外への修学旅行が自粛となり、高校の修学旅行は国内旅行が多くなりました。これは大きな追い風になります。道内中学校は東北への修学旅行が多いのですが、都道府県をまたぐ旅行も自粛中のため、当社の観光バスがその一翼を担い、引き受けることになります。実際9月以降の予約はそれまで99%減であったところから50%減くらいにまで戻ってきました。

 

アフターコロナに向けた社内の変化

 

 今回のコロナ禍に対し、毎月さまざまな手を打ち、社内でも前向きな変化が生まれています。


 ひとつは、従業員と家族の生活を守る姿勢が安心感を生み、アフターコロナに向けて主体的に行動してくれるようになったことです。例えば、観光客が戻ってきたときに「こちらから『いらっしゃいませ』や『ありがとう』を言いたい」とタイ語の勉強を始めた従業員がいます。また、社内の情報共有方法について、今までのLINEグループよりBANDというグループコミュニケーションツールが良いと勧めてきた従業員もいます。おかげで社員同士の情報共有が便利になり、以前にも増して社内で活発に情報交換がなされています。このように社内のコミュニケーションが増えた結果、「今は大変だけれども、アフターコロナについて前向きに語っていこう」という雰囲気ができています。このような状況になったからこそ、従業員一人ひとりが大きく成長できたと思います。


 もうひとつの変化は、2月に行った本州への営業効果で、「あの大変な時に来てくれたので次のツアーをお願いしたい」と予約の問い合わせが来るようになったことです。また、作成した動画を大手旅行エージェントに送り、当社の徹底した新型コロナウイルス対策を知ってもらったことも大きな要因だと思います。常にお客様と向き合った結果、ここにきて成果が生まれてきています。


 この間の取り組みは従業員が自主的に考えて行動した結果です。大幅な売り上げ減少がありましたが、お金には代えられないかけがえのないものを得ることができました。それは従業員の成長、全社一丸の体制です。この「目には見えない経営資源」を武器に、コロナ禍に立ち向かい、今の当社の合言葉「V字回復の波に一番乗り、さらに突き抜けて業界ナンバーワンをめざす」を必ず実現してみせます。

 


(2020年7月13日「札幌支部会員応援連続企画(第1弾)第1回」より 文責 小西貫太)

 

■会社概要
設  立:1984年
資 本 金:9,000万円
従業員数:51名
事業内容:観光のシンボル「時計台」から社名をいただき、夢と希望を運ぶバス会社を目指しています。