011-702-3411

営業時間:月~金 9:00~18:00

同友会は、中小企業の繁栄と、そこで働く全ての人の幸せを願い、地域社会の発展のために活動しています。

【69号特集3】共に学び、共に育つ職場づくり  ―みんなが幸せを実感できる企業をめざして―

2021年01月15日

共に学び、共に育つ職場づくり
―みんなが幸せを実感できる企業をめざして―

 

(株)アイワード 代表取締役社長 奥 山 敏 康(札幌)

 

 同社は、1974年から①民主的な運営②自主的自覚的な行動③目標と計画を大切にするという経営方針を掲げ、倒産寸前の会社から道内有数の印刷会社へと発展しました。男女の性による差別や障がいによる差別をしない、全社員が日報で情報共有をはかる、ノルマも人事考課もない会社。「労使見解」を柱に据えた経営は、木野口功現相談役から、奥山敏康社長へと引き継がれています。現在、重度を含め15名の障がい者が生き生きと働いています。

 


 

 当社は、ブック印刷を本業とする印刷会社です。現在200名を超える社員が働いており、男女構成比は男性6割女性4割、障がい者の社員が15名います。北海道はもとより、全国から出版物の制作依頼を受けています。

 

一緒に成長していく会社

 

 当社は1965年の創業です。当時の会社は経営理念もなく経営者も出社しないような状態で、創業8年で倒産寸前の会社となりました。
 1974年に、北海道同友会の事務局員であった、先代社長の木野口功(現非常勤相談役)が経営再建を目的に常務取締役として入社することになりました。


 当時は平均年齢20代の社員が20名働いており、売り上げは年間5400万円。道内企業の平均給与が5万円に対し、当社は僅か3万円の給与で社員は働いていました。


 当時製本部門には、聴覚に障がいのある小畑さんという青年がいましたが、他の社員は彼を差別し、嫌な仕事を押し付けていました。木野口は「耳が聞こえなくても、それ以外の能力はまったく問題がない。他の人が配慮して一緒に成長していくのが本来あるべき会社の姿ではないか」と言い、人間としての在り方や、会社の方向性を20名の社員と徹底的に議論し、会社方針の作成を決意しました。


 木野口は「これから一年間で、給料も売り上げも倍にする」と社員に明言し、再建一年目にこれを達成することができました。


 一年目を終え、どのような企業づくりを進めていくかを考えていく上で力になったのは、中同協の「労使見解」です。「労使見解」からは①いかに苦しい状況でも経営者は会社を維持発展させる必要があること②経営指針を成文化すること③社員は最も信頼できるパートナーであり、共に育つ関係であることの3つを学び、最初の経営指針づくりに取りかかりました。


 はじめに「印刷を通して期待にお応えします」と一行の経営理念を掲げ、①民主的に運営すること。具体的には、情報の共有化をはかること、男女の性による差別、障がいによる差別をしないこと②自主的自覚的な行動を大事にすること③目標と計画を大切にするという3つの約束事を経営方針に決めました。これまで何の方向性もなかった会社の雰囲気はがらりと変わり、売り上げは急激に伸びていきました。


 ある時、宮下さんという耳が不自由な青年が布団を背負って会社の戸を叩きました。彼は、勤めていた他の印刷会社を辞め、ここで働きたいと言うのです。当社にいた小畑さんが「僕の会社は今、やりがいがはっきりと見えるとても働きやすい会社になったんだ」とろうあの仲間に語っていたのです。その後も一人、また一人と聴覚障がい者の仲間が増え、製本部は彼らが主体となって働くようになりました。

 

聴覚に障害のある社員が中心となって働く製本室

 

働くことの意味

 

 経営再建から4年目、1978年に私は入社しました。その5年後に、経営不振に陥った同業者の再建支援の話が持ち上がります。


 そこは老舗といわれている印刷会社ですが、古い機械ばかり並び、社員は印刷の新しい知識を持っていません。彼らは「辞める勇気がなかった俺たちに一体何ができるのだ」と言うのです。私たちは、指針を持たない会社の行く末というものを痛感しました。


 当社の製本部門の仕事はスピードと正確性があり、製品の精度は非常に高いものでした。主力を担っているのは聴覚障がいの社員たちです。仕事が終わると会社を綺麗に掃除します。そのようすを目の当たりにした再建先の社員は、働くということの意味を初めて理解したかのように、生き生きと仕事をするようになりました。

 

6万5千頁の社内報

 

 1983年3月から社員の日報を「フォーラム」という社内報で発行し始めました。


 初期の「フォーラム」に、木野口の文章が載っています。「800m級の登山と2000m級の登山では質的に違いがある。2000mの高い山を登る時は、装備を整え、天気やコースをあらかじめ調べ、パーティーを組む時は脱落者が出ないよう最も体力のない者に合わせ、最初はゆっくりと、一定のペースをつかんで頂上をめざすのだ」。


 この登山と会社経営をなぞらえた文章は社員の考え方に大きな影響を与え、情報共有のツールとしての「フォーラム」が確立しました。現在「フォーラム」は5500号を超え、積み上げると社長室の天井まで届きます。この計6万5千頁の「フォーラム」は私たちの辞書であり宝物なのです。

 

 

会社は社会の縮図

 

 当社にノルマはありません。会社が存続していくには会社の力となる「能力」と、障がいや病気、出産など仕事の制約となる「条件」を誰しもが持っていると、全社員が共通の理解をしなくてはなりません。会社は社会の縮図です。男女がいて、障がいの有無や高齢者などのライフサイクルを考慮した運営が求められます。


 能力の高い人だけ集めるとか、男性だけ集めるとか、それが良い会社経営と呼べるでしょうか。障がいのある人も共に活動していくことが「社会の公器」たる企業の役割だと思います。

 

全員が欠けてはならない社員

 

 当社のめざす社員像には、「やまびこ学校」で有名な山形県山元中学校の教諭だった無着成恭先生の言葉が影響しています。


 「いつも力を合わせていこう。陰でこそこそしないでいこう。働くことが一番好きになろう。何でも、何故?と考えよう。いつでも、もっといい方法はないか探そう」と、経営指針に明記しました。


 当社がめざす社員は「基本的な力を持つ人材」です。皆が目標に向かって自主的に考え、一所懸命に頑張ることが重要なのです。入社当時の私の教育担当者は、手足の不自由な脳性小児麻痺の女性でした。彼女の仕事に対する熱意は健常者を上回るほどで、自分にも他人にも厳しく、私に働くことの本質を教えてくれました。また、布団を担いで入社した宮下さんは、現在勤続43年目。高卒の新入社員の教育をし「基本的な能力」が備わっていない若手社員に、手取り足取り教えています。


 私は、当社で障がい者が働いているという特別な意識を持ったことがありません。全員が自社にとって欠けてはならない、必要な能力を持った社員だと考えています。

 

■会社概要
設  立:1965年
資 本 金:6,719万円
従業員数:202名
事業内容:ブック印刷、情報処理・システム開発、褐色写真復元、年賀状事業

 


(2019年10月17日「第20回障害者問題全国交流会in滋賀」報告集より転載 文責 大宮かなえ)