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【67号 特集1】とかちからアジアへ

豆類の卸売業から小麦の製粉事業へ進出。次は十勝ブランドを用いてアジア市場に挑む。常に新たな壁に挑戦する独自の経営理念と実践を語る。

 


 

㈱山本忠信商店 代表取締役 山本 英明(音更)

 



 山本忠信商店(ヤマチュウ)は、私の祖父である山本忠信が創業しました。祖父は満州からの引揚者で、1952年に一家8人で十勝へ移住、翌年創業しました。


 現在は、グループ会社4社を含め、社員数114名。「豆」で60数年の歴史がある会社です。小麦・米の集荷販売も行っており、それに必要な農業資材も販売しています。2011年からは小麦粉を製造するようになり、食品卸も始めました。


同友会で得た気づき


 同友会には、父が1978年に入会していました。私は父の勧めで1999年から同友会の会合に通い始めるようになり、小集団グループ「拓の会」で報告する機会を得ました。「わが社は農家にあてにされる会社になる」というテーマでした。収穫の時だけでなく、一年中農家とつながり、信頼される存在になっていく。そのために資材や肥料も取り扱い、未来永劫存続する会社にしていく、という内容でした。


 そのときある参加者から、「営業マンからすれば、なんでもいいから農家に行って売れるものを売ってこい、と言われているだけじゃないか」と指摘されました。ハッとしました。確かにそこには社員の気持ちに対する熟慮はなく、「今気づきました」としか答えられませんでした。そこで悩み抜いた末に、生産者と消費者をつなぐ存在となるべく、「農業をコミュニケーション産業にする」というミッションを立てます。


 しかし、今度は同業者から猛反発を受けます。豆は相場の世界ですから、消費地と農家の間に立って情報を遮断することが利益につながっているのです。それでもいつか状況が変わると信じ、社員に言い続けました。すると営業マンが、「畑までどれだけ本州のお客様を連れてこられるか」というKPIを設定し、競争を始めました。お客様が来ると畑をいくつか回った後に、バーベキューを囲みながら三者で酒を飲み、その場でお互いの売値、買値を開示しあうのです。社員の意識が変わり始めたと思いました。


ミッションから始まる
ヤマチュウの経営戦略


 現在、「農業をコミュニケーション産業にする」というミッションは、「つくるを食べるのもっと近くに」と表現が変わりました。かつて農家は、小豆をつくり、代金を受け取り、そこで終わりでした。今ではユーザーが喜んで食べているところをイメージしながら小豆をつくります。圧倒的にモチベーションは上がっています。


 雑穀商は相場で儲けるという商習慣がありますが、現在ヤマチュウでは、契約栽培を中心とした買い入れによる販売が、売り上げの50%を超えています。ビジネスモデルが転換されたのです。


 しかし、小麦に関してはもともと夏季の閑散期を埋めるという補助的な位置づけだったため、ミッションからは置き去りのままでした。シェアも増えてくる中、疑問を感じる社員もいたはずです。私もいよいよ放っておけなくなりました。


 まず、十勝産小麦を製粉工場で加工してもらい、地元に戻して売りました。しかし、不作の時は戻してもらえず、余った時は大量に戻されるなど、安定せずうまくいきません。そこでついに2009年の中期ビジョンで「製粉工場を建てよう」と発表しました。


 補助金が決まったのが2010年。大々的に「十勝で初めてのロール式製粉工場ができます」とプレスリリースしました。工場建設にかかった費用はスタートアップで10億円少々です。当初は投資の半額の5億円の補助を受ける予定で資金計画を立てていたのですが、事業仕分けにより上限が3億円に制限されたのです。通常、受けた補助金は途中で辞退できません。しかし、さすがに農水省からも「途中でやめて構わない」と連絡が来ました。専務が社長室にとんできて、「やめるなら今です」と言います。「やったとして勝負になるか?」。私が尋ねると、専務は「なると思います」。即答です。「じゃあ、やるって電話しろ」。威勢良く背中を押したのはいいものの、その日から眠れない日々が続きました。


 翌年、製粉工場が完成しました。「十勝夢mill(とかちゆめみる)」と名付けました。オープニングセレモニーで、十勝の小麦粉でつくった13種類の料理を出席者の皆さんに振る舞いました。会場内のあちらこちらに“おいしい”笑顔が溢れていました。私もひと口食べた瞬間、「いける!」と感じました。自社工場ができたことで、生産者から直接仕入れ、小麦粉にしてユーザーに流すという、ものすごくシンプルな形になりました。小麦でも、生産者とユーザーがお互いの顔が見える距離になったのです。


国際化をバネに、打って出る


 TPPに対しては攻めることを選び、「国際化をバネとした農業成長モデル」というミッションができました。「今後この国の農業は、必ず国際化の波にさらされます。これをネガティブに捉えるのではなくバネとして、十勝農業の実力を持って世界と勝負をします」。これは社内に向けた決意表明でもありました。


 海外向け商品は加工度を上げる必要があります。それは海外産との価格差を縮めるためです。原料だと3倍になります。加工品ならやり方によっては10%くらいまで差を縮められるのです。


 2013年8月、当社はシンガポールに商社をつくりました。きっかけは、同友会の農商工連携部会で行った見本市です。そこでつながった人脈をつなぎとめることが目標でした。社名はプライムストリーム。ミッションは「東南アジア進出を目指す北海道の一次生産者・販売者に対して、限りない簡便性を提供する」。現在はホタテ、うに、いくら、マッシュルーム(十勝マッシュ)、ソフトクリームなどを取り扱っています。


 昨年、ある社員にこう言われました。「社長、わが社は農産物の加工度を上げて、その品質で価格差を縮め、海外と勝負するのでしょう?ホタテとは何事ですか!」。私は「良く気づいたね。だから別会社なんだよ。プライムストリームのミッションにある『東南アジア進出を目指す北海道の一次生産者・販売者』。ヤマチュウはこれでしょ?つまりプライムストリームを使って、ヤマチュウのやるべきことをやるんだ」と答えました。すると彼は、その2、3カ月後に台湾へ年間80トンの契約であんこを売ったのです。「海外に打って出る」というミッションを持っていたため「当社が小豆をあんこにしてもらい、輸出します」という形になるのです。「社長、おかしいじゃないですか」と言った彼だからこそ、こういう組み立てができたのだと思います。

 

ヤマチュウ 次の一手

 わが社が次に何をするのか。まず商品の加工度を上げます。「チホク会」という小麦の生産者グループがあります。これを2012年12月に事業協同組合にしました。我々はここで6次化認定も受けました。6次化のいいところは、生産者が消費者の評価に直接触れられること。しかし、それを産業にして雇用を生み出すとなると、単体では時間がかかりすぎます。そこで、農商工連携という形をとりました。まずは、チホク会とヤマチュウが連携し、基礎的な食品加工を行う。ここをベースとして、さらに高度な食品加工ができる連携をつくる。そして国内・海外を含めた出口をヤマチュウがしっかりつかむ、という組み立てです。その第一弾は来年の3月に完成するミックス粉工場です。


 海外へもさらに打って出ます。昨年の暮れ、小樽商科大学が、わが社が優秀なタイ人を雇用したことを聞きつけ、タイで一緒にビジネスをやろうと訪ねてきました。タイでは、現地加工を中心に行おうと考えています。今考えているのはマンゴーです。年間1000トン生産されるうちの4割が、過熟で落果する畑が見つかりました。我々は落ちた方に興味があります。大学と一緒に現地へ行き、マーケティング調査をし、うまくいけばそこで工場をつくろうと動いています。


ヤマチュウは人でできている


 新しい事業を始める時は基本的に自社スタッフで行いますので、社員は大変です。それでも、なぜこの事業をやるのかというストーリーが理解できれば、ついてきてくれます。本質的で変わらない理念と、時代や立ち位置によって変わっていくミッション、ビジョンをしっかりと発信していく。私はひとえに、それが経営者の仕事だと思っています。


 ミッションとビジョンには、物事を実現させるための力があります。思い描いていると、チャンスに素早く反応できます。そして社員が「本当に社長の言う通りだ。それで行けるかもしれない」と思えるようになる。社員はモチベーションさえ上がれば、自然と動いていくのだと思います。当社の理念は「ヤマチュウは人でできている」。社員あってこその会社なのです。


(2018年10月19日「第35回全道経営者“共育”研究集会inとかち」第13分科会より 文責 立浪伸一)

 


 

■会社概要
設  立:1960年
資 本 金:2,000万円
従業員数:92名
事業内容:豆類、小麦を中心とする穀物の集荷精選及び卸販売、肥料の直輸入及び直接販売、小麦の製粉事業、飼料販売