【67号 特集4】グローバル人材の活用と会社づくり
2019年01月01日
労働者不足が深刻化する地方において、海外人材の活用が注目されています。㈱イチマルは、東城氏から支援を受け、毎年3名ずつ技能実習生を受け入れ、1名を雇用しました。外国人雇用を通して浮き彫りになった社員教育や労働環境の課題改善に挑戦しています。
㈱ジェイセカンド 代表取締役 東城 敬貴(帯広)
㈱イチマル 代表取締役 石森 將敬(釧路)
報告1 東城 敬貴
私は大学在学中にイラン・イラク戦争の取材で現地に行くなど、国際情勢に関心が高い青年でした。大学卒業後、心配をかけた両親のそばに戻り、帯広市内の会計事務所に勤務していました。15年前に税理士登録をして独立開業し、同年経営支援のためのコンサルティング会社を設立運営してきました。
7年前に自社の国際業務の経営課題の解決と北海道のベトナム進出企業を支援する目的で、ベトナムのハノイに事務所拠点をつくりました。現在は、ジェイセカンドジャパンというベトナムのホアビン市に本社がある現地法人となっています。また、7年前から外国人を受け入れたいという企業からの依頼で、北海道に滞在するベトナム人技術者、国際業務、人文知識、技能実習生たちの日本語教育などの支援事業を行っています。
外国人就労者の実態
日本で就労する外国人は、2013年時点で約72万人でしたが、2017年には127万人に急増しています。実習生の国別では、以前は圧倒的に中国でした。3年位前からベトナムが45%を占めるようになりました。中国国内での中国人の賃金が上昇し、生活が豊かになってきたことが大きな要因だと思います。
日本で就労する外国人をカテゴリー分けすると、①就労目的で在留が認められる者 ②身分に基づき在留する者 ③技能実習 ④特定活動 ⑤資格外活動に分類されます。そのうち、①は、いわゆる「専門的・技術的分野」に該当する在留資格で、技術、人文知識、国際業務、企業内転勤、技能、教授、研究、医療などに細分化されます。ここ5年間で倍になり、13万3000人います。その中で、私が最初に直接採用したのは、国際業務、人文知識の分野の経理・会計で日本語を話せるベトナム人です。就労目的の外国人はこの分野がほとんどを占めます。
今後、皆さんに一番関係するのは、②の身分に基づき在留する者の場合です。日本人と変わらない権利を有し、定住者、主に日系人永住者が該当します。専門的分野などは、原則的には1年、3年、5年と日本での在留資格を延ばすことができ、5年経った後に永住権を得ることが可能になってきます。また、日本人と結婚した外国人は、日本人と同じように様々な仕事に就けます。道内でもこの数がかなり増えると思います。
私が今、一番力を入れて取り組んでいるのが③の技能実習です。約13万7000人おり、これも5年間で倍になりました。④の特定活動は、介護士、看護師を日本に入れる、EPA(経済連携協定)活動です。⑤の資格外活動とは、家族滞在や留学生のアルバイトなどです。申請をすると週28時間まで働くことができます。ただ、留学生については、初年度の入学金や学費が高額なため、その負担から来日した時の当面の生活費が工面できず、週に28時間を超えて違法にアルバイトせざるを得ない状況の留学生がかなり増えています。学業や語学の勉強がおろそかになり、結局日本で就職できずに帰国し、母国で安い賃金労働に就くという二極化構造になっているのが現状です。
外国人技能実習制度
技能実習制度は技術の移転を図ることが目的ですから、外国人がアジアから来て技能を覚え、母国に戻って技能を教えるというのが趣旨です。最長で原則3年間で、1年目を技能実習1号と呼び、2年目、3年目は技能実習2号です。2017年11月から制度が変わり、4年目、5年目まで延長が可能になり、技能実習3号と呼ぶことになりました。
受け入れの仕方ですが、従業員数が3人以上30人以下の企業の場合は、最初の年に3人まで受け入れができます。2年目にまた3人追加でき、さらに毎年追加できるため、3年目以降は9人まで受け入れ可能になります。
外国人実習生を入れる場合、ほとんどは外部の協同組合などに監理を委託する団体監理型となります。
例えばベトナムの建設会社から受け入れる場合は、その会社に在籍している人を、現地の人材会社である「送り出し機関」を通して派遣してもらいます。日本の企業が監理団体に申し込みを行い、人選します。その後、5~6カ月間かけ、監理団体で日本語の事前教育をします。この後、技能実習1号になります。
入国した時は22日間、国内で座学をしなければなりません。それから企業に配属になり、実質35カ月間、1号、2号の3年間会社に在籍し、実習を行うことになります。
技能実習生の数は、業種によってばらつきがみられます。機械、建設がかなりの伸び率になっています。実習生を受け入れる企業の50%が、従業員数10人以下の会社です。採用難の私たち中小零細企業にとっては、共育の観点から、非常に良い大切な制度です。
当社は全道の12協同組合の実習生受け入れ事業の一部教育、通訳の受託をしています。実際は各組合で通訳対応をしなければいけないのですが、札幌圏を除き、通訳の社員を協同組合自体に継続的に置くことが難しく、当社がサポートしています。
「特定技能」の創設
人出不足の深刻化を背景に、法務省は「新たな外国人材の受入れに関する制度」という在留資格の創設を発表しました。2019年4月の施行をめざしてこれから国会で審議されます。
特定技能1号、2号という資格名称で、実習生ではありません。各々、原則5年間ですので、新しい制度では合計で10年働いてもらえることになります。
現在、道内はおよそ18万円以上が基本ベースです。最低賃金で計算すると、14万6000円ぐらいです。特定技能の1号は18万円くらいの水準にしていかなくてはなりません。それ以上の給料で雇用条件書をつくる流れになります。
選ばれる会社づくり
実習生を受け入れた際の監査フォーマットがあります。監理団体が企業を監査し、外国人技能実習機構に監査項目を提出します。労務に関する項目があり、しっかり対応する必要があります。
トラブルが多いのは、休日の確認です。固定給ベースのときは問題ないのですが、有給を時間給で取得させた場合は、外国人にはわかりにくいため、しっかり説明しないと誤解が生じます。また、有給休暇は日本人にも外国人の彼らにも当然の権利ですので、当たり前のこととして認めてください。法律を守れる会社づくりをしなければなりません。
当社では、人手不足が深刻な建設業などの方の相談が多く、建設エンジニアなどに力を入れていました。しかし、定着率が悪く、7年前に入れたところで実習生が残っているのは別海と室蘭で1名ずつの2名しかいません。当社で最初に採用した人も、1年で経済条件が良い首都圏などの他の会社に行きました。早期の転職は当たり前です。
ただ、これからは違うと思います。中小零細企業では、確かに経済的な条件は良くないかもしれません。彼らに残ってもらえるような、社員が尊重され、誰もが働きやすい会社づくりをすすめることが必要です。
報告2 石森 將敬
私は、2013年に勤めていた会社から独立し、10名ほどで型枠事業を起業しました。現在は35名の会社です。15年くらい前までの当社を取り巻く環境は、釧路管内で官庁工事ができる大工さんが450人くらいと言われていました。しかし現在はその3分の1まで減少した上に、高齢化しています。国のインフラ予算の減少もあり、建設業全体として就労人数を大きく減らしてきたからです。ここ数年は農業の設備投資、建設投資が活発になってきており、逆に人手不足で顧客の需要にまったく対応できず、信頼を損ねる状況になっています。
人手不足で
外国人雇用を決断
10年前、当社は高校生の新卒と中途採用を行っていました。不景気でしたので、3名の募集に対し9名くらい応募がきました。次の年も6名ぐらいの応募に対し、3名ほど落としていました。今考えればもったいないことをしていたと思います。なぜなら、そのわずか数年後にはまったく新卒が来てくれなくなったからです。学校の先生にも、「建設業に行く人なんていませんよ」と言われる始末です。短期間で求人数が倍になる一方、生徒数は減少し、民間に就職する生徒が少なくなりました。そして5年前、ベトナム人実習生の受け入れを決断するに至りました。
採用のきっかけは、型枠資材の仕入れ先である木材会社が、1年前にベトナム人実習生を採用していたことです。受け入れの相談をすると、外国人採用の相談業務をしていたジェイセカンドの東城さんと知り合うことができました。
実習生に対する
従業員との温度差
事前面接は5回行いました。そのうち3回はベトナムで直接会い、2回はスカイプ(ビデオ通話)で話しました。彼らは活発で明るく、素直ないい子たちでした。こちらが答えるのに大変なくらい質問をしますから、日本語もいち早く覚え、ある程度の会話もできるようになりました。実習受け入れ当日、空港に迎えに行くと、3名のベトナム人実習生が到着していました。彼らの人懐っこい笑顔を見てホッとしたものです。
私は、彼らがお客様の需要に応えられる技術を覚えるまで、始めは荷役をやってもらうことにしました。人手不足で忙しい従業員の役にも立ち、喜ばれるだろうと考えたからです。しかし、それは従業員の考え方や感情と一致せず、思い通りの結果にはならなかったのです。
私は実習生の入社後、自宅に招いて食事会をするなど、仕事以外でもコミュニケーションをとり、良好な関係を築いていたつもりだったのですが、半年ぐらい経つと行き違いが生じるようになりました。
実は1カ月に1回、ジェイセカンドのベトナム人通訳であるリエンさんが来社し、困りごとなどのヒアリングをしてくれていました。9カ月目のあるとき、実習生とリエンさんが大声で言い合いをしているのです。私に言えないくらいの不満が溜まっていたようです。それまで事務所側にあがってくる不満は、15分間くらいの残業など、小さな案件でした。ただ、その不満の背景には一緒に働いている従業員との関係性の悪化があったのです。外国人と接することに慣れていない従業員が、彼らを非常に下に見て、「徹底的に使ってやる」という社風になってしまい、嫌気がさしてしまったのだと思います。
11カ月ぐらい経ったとき、彼らが「私たち、もうここにいません。東京へ行きます」と言っていると社員から聞きました。実際に3名のうち1名が1回目の在留カード更新で失踪してしまいました。
共に育つ
国が制度改革の大きな舵をきり、2017年11月に実習生の受け入れ期間が3年から5年に延期になり、2019年4月には、期間を10年まで延期、更新をすると、実質は永住できるような制度が予定されています。当社も1期生に対する失敗から社員教育を見直していますし、長く勤めてもらえると考えると社員教育に張り合いが出てきたのも事実です。
私は実習生の受け入れで、いかに自社の社員教育が不十分だったかに気づきました。そもそも教えていないこと、伝え方が明確でないことなど、いくつもの反省点があります。それは日本人であっても同じです。どんなに単純で当たり前に思っていることでも、相手によっては非常識であるということを意識しなくてはなりません。また、当社も職人の多い会社ですから「技術は盗んで覚えるもの」という社風でしたが、実習生受け入れも5年目です。管理職も少しずつ意識が変わり、動作や指示の言葉を一覧表にするなど、教え方を工夫し始めています。
そして、管理職の方から「勉強会をやりたい」という要望があり、日曜日に会社に出て勉強会をすることになりました。5年経ち、ようやく社員の方から前向きの話がありました。共に育つという環境が少しずつ動き出したと思います。会社の変化もあり、2期生は、今年8月に3年を満了して帰国しましたが、聞くところによると2年延長を希望しており、来年また戻ってきてくれることになりました。
文化の違いで小さなトラブルもたくさんあります。ベトナム人はよく舌打ちをします。ただの癖なのですが、日本人は「何か気に入らないことがあったのではないか」とネガティブに受け止め、コミュニケーションの障害になってしまいます。日本人の従業員にも、このような文化風習の違いを説明しています。当たり前のことですが同じ人間です。差別意識をなくし、よりよい環境で働いてもらえるよう、共に育つ企業づくりをさらに進めていきたいと思っています。
(2018年10月19日「第35回全道経営者“共育”研究集会inとかち」第7分科会より文責 菅尚広)
㈱ジェイセカンド 代表取締役 東城 敬貴
■会社概要
設 立:2004年
資 本 金:1,000万円
従業員数:16名
事業内容:通訳・翻訳・教育業務・データー処理・BPO事業
㈱イチマル 代表取締役 石森 將敬
■会社概要
設 立:2013年
資 本 金:500万円
従業員数:35名
事業内容:型枠工事・外構工事・左官建築土木資材販売