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【67号 特集4】定着率95%以上!魅力ある職場環境づくり  ー人材育成・定着のマネジメントー

2019年01月01日

スタッフの成長の「育成力」、働きがいのある職場環境の「定着力」、奨学金制度や職場実習などの「発信力」を基本とした人材マネジメントに力を注ぐ。採用したスタッフの10年間定着率は95%と驚異的な数字を誇る。

 


 

社会福祉法人北海道友愛福祉会
特別養護老人ホーム静苑ホーム 施設長 市川 茂春(江別)

 



 江別市は現在、人口約12万人で、高齢化率は27・6%、要介護率は12%です。札幌市に隣接し、新千歳空港にも近く、生活に便利で快適なまちです。


 北海道友愛福祉会は1973年に設立された江別市に拠点を置く社会福祉法人で、視覚障害者の方が入居する老人ホームから始まりました。当時、治療が必要となった視覚障害者は、「家族やヘルパーが24時間介護できないのなら、入院させることは難しい」と一般病院で言われていました。視覚障害者に対する認識があまりにも低い時代だったのです。視覚障害の方たちが安心して過ごせるようにという願いから、短期の治療が可能な診療所を設立し、グループ法人の医療法人友愛会に発展していきました。


 現在は視覚障害者の老人ホーム、入居型老人ホームの他に、デイサービスや保育園など、道内6つの拠点で22カ所の福祉施設を経営しています。「静苑ホーム」は定員150名。職員180名が働く特別養護老人ホームです。


「和顔愛語」の理念


 私たちが大切にしている行動理念は「和顔愛語(わげんあいご)」です。和やかに笑顔を絶やさず、優しい言葉遣いで相手を思いやり、相手に先んじて行動するという仏教用語からきています。


 皆さんは老後について真剣に考えたことがありますか。平均寿命から健康寿命を引いた年数が介護を必要とする期間とされており、一般的に平均約7、8年と言われています。いわゆる「ピンピンコロリ」と言われるような介護の必要がないケースは、全体のわずか6%です。


 当ホームでは行動理念の実践として、入居者一人ひとりの人生を、できる限り最期まで看取ることをめざしています。今見せてあげないと来年は見られないかもしれないお花見や紅葉狩り。食事会、運動会、演奏会など、季節を感じられるイベントも大切にしています。


 和顔愛語の精神をたんなる接客の標語にするのではなく、職員に浸透させることが大切です。介護の仕事は職員の気持ちがサービスの質としてそのまま表れるからです。


 当ホームでは、この理念を実践している職員を「和顔愛語大賞」として表彰し、表彰された職員には国内旅行などの賞品をプレゼントしています。また、全職員に「和顔愛語手当」を与え、仕事へのモチベーションを上げています。モチベーションの高い職員たちは質の高いサービスを入居者へ提供し続け、仕事のやりがいを見つけます。こうしたささやかな“仕組み”をつくることで、職員に理念を押しつけることなく、“共感性”を持って働くことができる環境をつくっています。

 

職場環境改善のヒントは、
「お互いさま」


 現在、定着率が95%を超えている当ホームですが、13年ほど前までは離職率が大変高い職場でした。現場で働く先輩職員は、次々と早期離職していく新入職員の教育に疲弊し、「自分も辞めてしまいたい」とやりがいを失っていました。求人を出すと応募者は来る時代でしたが、採用してもすぐに辞めてしまいます。私はそれが悔しくて、職場環境の改善を行おうという気持ちが燃え上がりました。


 しかし、職員が辞めていく理由は様々で、改善を試みるも、どこから手をつけてよいのかと悩んでいました。ある日の幹部会議で、一人の職員から「悪い部分を探していても前には進まない。今ある良い部分から職場環境を変えるヒントを見つけよう‼」と前向きな提案がありました。


 考えてみると、明るく研修意欲の高い若手職員や、実習生の多さが当ホームの強みでしたが、多くの職員が結婚や出産のために退職していました。そこで、まずは職員のワークライフバランスを安定したものにするため、就業規則に記載されているだけで、誰も取得していなかった出産・育児休暇を積極的に取得するよう促しました。


 その結果、今では出産・育児休暇の取得率は100%となり、退職していく職員がぐんと減りました。さらに男性職員の育児休暇取得も奨励しています。ライフイベントは、誰もが通る道です。同じ職場で働く仲間が、「お互いさま」の意識を持てる環境が必要だったのです。


職員の向上心を形に


 当ホームでは、職員の「成長したい想いに応える人事考課制度」を採用しています。これは、評価ではなく「育成」を目的とした人事考課です。


 職員の異動については、面談で希望を聞いています。子どもがいるから違う部署に移りたい、ケアマネージャーの資格を取得するために違う部署に行きたいなど、社員の「働きたい」という向上心を優先します。18名の職員がこの制度で異動しました。上司や先輩からの指示を待って働くのではなく、自分の仕事に目標を持ち、自主的にモチベーションを維持する働き方を大切にしています。


 また、より良い専門サービスを提供するために、「症例研究大会」を毎年開催しています。賞金をつけ、競争意識を強くすると互いを高め合う相乗効果が生まれ、良い環境となります。外部の専門職研修会も毎年行われていますが、発表者は上司が指定するのではなく、「この研修に行きたい人はいますか」と職員の自主性を重んじて立候補制で募集します。職員に強く伝えていることは「トライ&エラー」です。失敗を恐れて尻込みするのではなく、まずは挑戦してみる気持ちを重視しています。全国大会の場で、200人規模の人を前に発表する経験は、職員にとって自分に自信をつけるチャンスになります。


 入居者の部屋は個室の他、多床室と呼ばれる4人部屋がいくつかありましたが、それぞれにブースをつくって個室化しました。当ホームは日本で初めて施設の全多床室を準個室化した老人ホームとなったのです。これは職員たちのアイディアで、実際に寸法を測り、模型をつくって職員たちの手で完成させました。入居者が満足する空間、自分たちの介護しやすい空間を全職員で企画しました。「みんなでこの環境を良くした」という共感性が大切です。


 このように、自主性・向上心をかたちにすることで、職員の働きがいを増やしていくことが私たちの人材育成です。


魅力ある職場は
自らつくる!


 介護の場ではチームでの動きが多く、職員には自らの役割でチームに貢献する「メンバーシップ」の意識が必要です。主任やチームリーダーを選出する際は、メンバーシップがある人を指名しています。リーダーには、職員とのコミュニケーションに関して細かいマニュアルは必要ありません。個人ではなく、チームとして自然に仕事を考えられる人材を育て、リーダーの役割を自覚してもらいます。


 また、生き生きとした職場環境をつくり、定着力アップへのアプローチとして、「魅力ある職場環境づくり会議」を行っています。5~10年目の若手職員で構成し、全職員に実施したアンケートを使って議論します。魅力ある職場とは、自らがつくっていくものだということを理解し、共有することが目的です。上司が良いと思う職場が、職員にとって働きやすい職場であるとは限りません。自らの環境の問題点を探し出し、自分たちで職場環境を変えていく意識を育てます。


 さらに、職員のライフイベントをサポートするため、子育て支援の対策を充実させています。学童保育を施設内につくり、職場に子どもを連れて来ることができる環境づくりを進めてきました。自分の働いている姿を見せたくなければ連れてはきません。子どもを職場へ連れてくる職員の多さは、良い職場環境にあるかどうかを推しはかる一つの指標になります。


 職員の子どもたちは私たちにとって有力な助っ人にもなります。夏休みや冬休みは子連れ出勤を可能にし、お茶出しや掃除などを手伝ってもらいます。今回のような震災があった時も、家の中で余震を心配しているより、みんなで働いている方が安心します。そして365日、何があっても職員を守らなくてはいけない立場の私も、職員と過ごすことで安心することができるのです。


未来の福祉人材を育むために


 当ホームでは、地域の福祉教育へ積極的に協力するため、高校生対象のワークキャンプ、中学生対象の職場体験事業、小学校には出張授業でキッズボランティア体験を行っています。


 人材不足へのアプローチとしては、地域大学生の実習を受け入れる制度があり、年間約1000名の学生がボランティア研修に来ています。


 2017年からは、給付型の奨学金制度を始めました。対象者は、江別市で介護職を希望する学生です。学生の実習内容は、若手職員が企画しています。オープンカフェを設け、スイーツ食べ放題を催すなど、学生同士が交流できるイベントも実施しています。


 様々な情報を発信することで、福祉の魅力を可視化し、当ホームのファンをつくると共に、地域に「福祉人材の種」をまいているのです。


定着率の維持は「仕組み」を
つくり続けること


 当ホームの理事長は「遊ぶときは本気で遊べ」というタイプです。


 退職者を送る送別会は、「壮行会」とプラスの表現に変えて呼んでいます。壮行会では「高知式飲み(来た人から順に飲むというお酒の飲み方)」を導入しており、宴会を盛り上げ、コミュニケーションをつくる一つのしかけとなっています。壮行会には一度辞めた人も参加する場合があり、復職率も高くなっています。辞めた人がまた来たいと思えるほど魅力的な施設なのだということは、職員の自信につながります。再雇用した職員は辞めなくなり、実は定着率に大きく影響しています。


 当ホームの定着力のポイントは、働きやすい環境を自らが見つけて改善しようとする自主性を、職員たちが持ち続けていることです。しかし、職員のモチベーションを維持する環境は人それぞれです。勉強して自らのモチベーションを高める人、自分の好きなことをしてモチベーションを高める人もいます。私はそのような職員一人ひとりの声を拾い上げ、細かく様々な方向に「仕組み」をつくり続けることで、この定着率を維持してきました。


 介護は人に始まり、人に終わる仕事です。人を中心にしてお客様、スタッフ、地域、当ホームを皆が笑顔になる福祉拠点にしていくことが私たちの使命です。


(2018年10月19日「第35回全道経営者“共育”研究集会inとかち」第2分科会より 文責 大宮かなえ)

 


 

■会社概要
設  立:1973年
資 本 金:2,000万円
従業員数:411名(正社員
288名、パート123名)
事業内容:福祉事業、病院