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【67号 特集4】企業の成長を支える求人の取り組み

2019年01月01日

人材難や働き方改革が叫ばれる昨今、企業の採用状況はますます悪化してきています。さらに、運送業という人が集まりにくい業況のなかで、新卒採用にこだわり、社員の定着に向き合い続けてきた林会長の「社員が辞めない社風」を醸成している取り組みのお話を伺います。

 


 

㈱エース 代表取締役会長 林 博己(石狩)

 



 当社は北海道、東北、関東圏に営業所及び関連会社を持ち、車輌は合わせて506輌(2018年3月時点、タイヤショベル、軽車輌を含む)、従業員1133名(ドライバー514名、倉庫内作業員424名、管理/事務員195名)の会社です。


 私は大学卒業後、運送会社に入社しました。働く中で運送業というのは一般市民のインフラを守る、世の中になくてはならない大切な仕事だと、実感しました。そして、ドライバーのレベルアップと社会的地位を高めることができれば、荷主様からも喜んでもらえると考えました。私は7年間その会社で修業し、30歳の時にトラック7台で、エース運輸㈱を創業しました。


ドライバーは最後の営業マン


 当社は創業した1984年から、毎年「経営方針書」をつくり、社員、荷主様、銀行に公開し続けています。今では3、4月に、パートを含めた1200名の全社員に理解と納得をしてもらうため、「経営方針説明会」を開催しています。経営方針が定まっていれば社員が同じ方向をめざし、大きな力を発揮することができます。


 当社は「お客様の荷物を安全、安心にお届けする」。この当たり前のことをずっと愚直にやり続けてきました。これが今の評価につながっていると思います。


 私が営業に行くと「価格を安くして」とお客様に言われますが、はっきりとお断りします。「価格競争には参入しない」というのが私の考えです。もっと安い価格が出てきたとき、必ずそちらへ流れるからです。当社は、当社を気に入ってくれたお客様と一緒に成長していきたいと考えています。お客様の営業ツールの一つとして、配送があるのです。


 最近の荷主様はEOS(電子発注システム)などいろいろな方法で発注されますので、営業マンは直接お客様のところに伺いません。唯一、お客様と触れ合う社員が配送ドライバーです。そのドライバーが間違った対応をすると、迷惑を被るのは荷主様です。「我々は荷主様の最後の営業マンであり、最後の顔である。だからいい仕事をしなさい」とドライバーには伝えています。


誇りを持って働くためには


 30年前の弊社のドライバーは、人材としては合格点に満たない人ばかりでした。面接では、履歴書も運転免許証も持ってきません。社長の私は「いい会社だぞ!」と胸を張って言えるのですが、ぼろぼろのプレハブの会社に最初から優秀な人間は来てくれません。しかし、北海道一の運送会社になることが私の夢です。


 こういう人たちにどう働いてもらったらよいか考え、仕事が終わった夜、ドライバーを集めて勉強会を開くことにしました。みんな、知識は身につけたいと思っているのです。この勉強会では、人としての生き方や接遇の練習をしました。お客様のところへ行っても挨拶ができず、敬語も使えないドライバーばかりでしたが、ひたすらロールプレイングをしてもらい、弁当も用意して一所懸命勉強させました。


採用転換期


 1990年6月、当社は社名を変更しました。エース運輸㈱ではドライバーしか来てくれないからです。「総合物流企業 ㈱エース」と、社名変更を行いました。特に業務内容が変わったわけではありませんが、ドライバーでない方も応募してくるようになりました。応募者に「良い会社だから面接においで」と言って面接を行いました。そのうちの一人から「良い運送会社だってどうしてわかるのですか」と聞かれ、一瞬詰まりそうになりました。「社長が言っているのだから、良い会社に決まっているだろう」。私はそう答えました。


 1994年ぐらいになると、バブルでまったく人が集まらず、本当に儲かりませんでした。お客様の仕事を愚直に行い、バブルの誘惑にも目を向けず、当社を気に入ってくれたお客様を大切に経営してきました。そのおかげで、バブル崩壊後も何も困りませんでした。


 業績は、1980年からずっと右肩上がりで伸びています。浮気せず、正直にやってきて良かったと思います。そういう中でも、ただただ一所懸命、良い会社に、エクセレントカンパニーになろうとして、同友会や商工会議所で求人のブースを出しました。高いお金をかけても人が集まらず、「もったいない」と思ったこともありましたが、3年間続けました。最初は社長と専務でブースに出ていましたが、若い人や求職者の年齢に近い人にも座ってもらうようにしました。すると少しずつ、ブースに人が来るようになりました。しかし、1年後には辞めてしまいます。10数名が4月に入社し、12月には誰もいなくなった年は、悲しかったです。


社員を大事にする会社

 

 当社は創業当初から「社員を大事にしよう」を信条にしています。そこで、社員と同居している家族の誕生日にケーキを配り始めました。当初は年間十数個だったのが、現在は数百個もの数です。するとドライバーから、「俺たちにはないのか」と不満が出ました。そこで、1990年頃から誕生会を開催しています。会場にしているホテルの社長からも、「30年も続けている会社はないよ」と言われるぐらい長く続けています。毎月第1日曜の昼間に、その月に生まれた人の誕生会を行うのです。開始当初は社員もいやいや来ていましたが、この7、8年は「社長と話ができる」、「おいしいものが食べられる」と、喜んで来るようになりました。「時代の変化だな」と思っています。


 また、ドライバーは無事故100日を続けると、1万円がもらえます。500名のドライバーのうち、無事故賞は数百人も受け取っています。1000日無事故だと10万円、2000日無事故は20万円。表彰状も用意して、表彰します。きちんとできた人に報い、やる気を起こさせているのです。様々な布石があるからこそ、社員が辞めずに残ってくれているのでは、と思っています。


 今から13年前ですが、エルダー制度を作りました。社内のお兄さんお姉さん役の人が新入社員に四六時中寄り添い、指導するのです。続けた結果、6割から7割、定着するようになってきました。やはり、いつも自分を見てくれる先輩がいると安心するのだと思います。


 また、毎年1月頃に内定者と親を呼び、食事会を開催しています。親御さんは厳しい顔をしてやって来ます。その空気の中で登壇し、「私はお子さんたちをビシビシ厳しく育てます」と挨拶します。そして机の上に「経営指針の発表にあたり」を載せておき、「親を大事にするんだぞ」と言います。すると、親御さんの態度がガラッと変わります。当社はこの「経営指針の発表にあたり」を実践していますので、親御さんにも誕生日のケーキを贈っています。


 いまは、毎日朝礼の時に社員とハイタッチをしています。触れるのは零点5秒の時間ですが、その接触が社員との距離を縮めています。結婚式の仲人も14組やりましたし、スピーチは数えきれないほど行いました。社員に頼まれれば「全国どこへでも行くよ」と伝えています。社員と一緒にお祝いする。こういうことが、社員に伝わる社風になっているのかな、と感じています。

 


 

=経営指針の発表にあたり=
 当社は、迅速・確実・丁寧に、お客様のお荷物を輸送する会社である。
 そこには真心がこもっていなければ、何の意味も有りません。
 その真心を込めて輸送するには、優秀な人財が必要である。
 その人財とは、家族を大切にする心、家庭の暖かさが分かる人ではないかと思います。
 家族を大切に出来ない者が他人の財産を大切に扱う事が、出来るわけがありません。
 家族の中でも、最も大切なのは、ご両親です。
 親を大切にする気持が荷物を大切にする気持に連動すると言う事です。
 自分をこの世に生み、そしてこの年まで育ててくれ、そして守ってくれた親を今度は、皆さんが面倒をみて守ってあげる事です。
 この当然の事が分からない者は良い仕事が出来ない。
 この大切にする気持が『良い心』心のこもった仕事に連動するのです。
 利害なしに命をかけて守ってくれる人・それが親である。
 他人に言われるまでもなく、親を大切にして下さい。
 そして自分の家族も………
*親とは、生みの親・育ての親(お婆ちゃん・お爺ちゃんに育てられた・他人に育てられた)いづれを問わず大切にこの年まで一緒に生活してくれた人をいう。

 


 

エースの「普通」


 9月6日、「北海道胆振東部地震」が発生しました。自宅の寝室のタンスがひっくり返ったほど、ひどい揺れでした。


 私は7時に出社しました。すると、社員がみんな出社して、真っ暗な中で普通に仕事をしているのです。びっくりして「何しているんだ!」と聞くと、「仕事しにきたんですよ!」とあっさり言われました。


 当社には燃料タンクがあるため、近くの機械リース会社で発電機を2台借り、1台は燃料の汲みあげ用に、1台は事務所の電源に使い、携帯電話の充電などにまわしました。そして通常通り点呼を受け、ドライバーが出発して行きました。


 お客様には大変驚かれました。大手の運送会社は信号が停電で止まったため、規則上トラックを運行できません。当社は違います。信号の向こうに困っているお客様がいる。エースの理念である「お客様に最高の物流を提供して、発展のお手伝いをする」に沿って安全を遵守しながら行動しました。6日の地震発生から8日まで、当社は稼働していました。今は、いろいろな人から「あの時は助かった」と感謝されますが、普通のことを普通にしただけです。これが社員全員に浸透している。そういう社風です。


叱るときはきちんと叱る


 一朝一夕で社員が定着することはありませんが、挫折と失敗を繰り返しながら社員共育を行い、定着をはかっています。昨年、一昨年はようやく辞める人が出ませんでした。今年は一人退職しましたが、他の7名は残っています。本当に良かったと思います。


 社員は仕事が辛くても、苦しくても、目標や目的が明確で社風が良ければ、定着してくれるということを肌で感じてきました。社内ではあまり厳しくしたくないと思いつつ、だらしなさを目にすると、やはり口を出してしまいます。しかし本人と面と向かって話をすれば、すぐ理解し、納得してくれます。叱るときはきちんと叱る、ということです。


 入社して1、2年の時に私が叱った女子社員は、トイレで泣いていました。「泣くなら帰れ!」とまで言ったのですが、辞めていません。今は係長です。「なんで辞めなかったの?」と聞いたところ、「社長の言うことはよくわかる。できない自分が悔しくて泣いていた」そうです。今は大活躍です。そういう社員が沢山います。本日の報告が皆様の参考になればと思います。


(2018年10月19日「第35回全道経営者“共育”研究集会inとかち」第3分科会より 文責 岸川沙織)

 


 

■会社概要
設  立:1984年
資 本 金:8,000万円
従業員数:1,133名
事業内容:一般貨物自動車運送事業、付帯事業一式、センター運営管理事業