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【67号 特集4】採用は究極の営業活動  ー辞めない風土が会社を変えるー

2019年01月01日

19歳で創業し手探りのままに奔走するも、理念のない組織の限界に気づき、共同求人活動に参加する。新卒採用を契機に自社の問題を一つひとつクリアすることで辞めない風土をつくり上げた。採用難の中、学生から選ばれる企業をめざし奮闘し続ける定本氏の軌跡をたどる。

 


 

㈱ダイレクト 代表取締役 定本 康敬(兵庫)

 



 ダイレクトは私が19歳の時に起業したゴルフ場の集客・運営サポートを行っている会社です。


 私は高校卒業後、JRに勤めました。しかし多額の借金を抱えた印刷会社を引き継いだ父から「人が足りないから戻ってきてくれ」と言われ、1年あまりで退職します。気を取り直して入社したものの社内で窃盗事件があり、会社は倒産。私は前職を辞めてから、わずか1カ月程で無職になってしまいました。ダイレクトは、この時父が取り引きしていたゴルフ場関係の仕事を引き継ぐ形で設立しました。


計画性ゼロの
行き当たりばったり経営


 起業したのはよいのですが、経営どころか営業のやり方すらわかりません。がむしゃらに走り回っているうちに、少しずつ仕事をいただけるようになりました。


 中途採用でデザイナーを雇い、デザイン業が社業の主軸になってくると、売り上げの拡大が軌道に乗り、18年連続で増収になりました。寝る暇がないほど忙しく、社長の仕事など考えもしません。利益が出たときにも税金対策に何をしたらよいのかわからず、ベンツを買おうと思ったくらいです。減価償却すらも知らないままに突き進み、売り上げ7億円、社員数35名になったころ、いよいよ社内のおかしさに気がつきました。


「社長、この会社5年後
どうなるんですか」


 短時間で仕事をさばくことばかりを考え、経営理念も組織もない会社になっていましたが、それの何が悪いのかも思い当たらない。社員教育など考えたこともなく、会社の方針すらも存在しないため、社員から「社長、この会社5年後どうなるんですか」と聞かれると明確に答えることができず、苦し紛れに「そんなもん、5年後も忙しいに決まってるやろ!」としか言えず、社内の不安をあおるばかりです。急激な成長で人手も足りず、資金繰りも忙しい。何かがおかしいと思う毎日の中で出会ったのが、同友会でした。


 同友会への入会と同時に青年部にも出会います。自分よりも若い社長がものすごい話をしているのを目のあたりにして、徐々に自分のやっていることが間違っているのではないかと気づき始めました。学んだことを持ち帰り、社員に話してみましたが見向きもされず、社長と社員が真っ向から対立する形になってしまいました。当時の私はコミュニケーションや方針の共有、組織づくりなど、基本的なことが何もできていなかったのです。苦しみながらも何か変えられないかと思い、同友会のあちこちの活動を見ていたのですが、唯一参加していなかったのが共同求人委員会でした。


「社員の半分が新卒になっ
たら、会社が変わるよ」


 当時の私は「共同求人?新卒採用せえへんし、名前もだっさいなあ」と思っていました。しかし、他社の模擬会社説明を受けることのできるイベントに参加した際に、頭を殴られるような衝撃を感じました。説明している企業が本当に魅力的に見えるのです。社長がこんなに自社の未来や魅力を語ることができるのかと驚き、同時に自社の魅力など考えたこともない自分に気づかされました。


 その日の懇親会で先輩経営者に経営の悩みを相談すると、「定本君、社員の半分が新卒になったら、会社が変わるよ」と言われました。「これはまた壮大な話やなあ」と思いながらも覚悟を決め、急きょ新卒採用を始めることにしました。2012年のことでした。


 にわかに準備をして合同企業説明会に参加すると、不況による就職氷河期が要因で、初参加にもかかわらず55名の学生が来ました。2名が最終選考まで残り、どちらも良い学生だったのですが、業績や社内の状況を鑑みて1名のみの採用にとどめました。この判断が後に当社を大きく揺るがすことになります。


新卒採用が経営課題を
気づかせる


 この頃は社内環境も最悪で、2年のうちに20人の社員が退職します。「もう会社、解散した方がええかな」と思うほどでした。新卒の社員を迎えるのも初めてなので、何をするべきなのかもわかりません。同友会に相談して初めて、合同入社式や新入社員研修会の存在を知りました。合同入社式では社会人とは何たるかを学ぶ基本的な研修が行われていたのですが、新入社員が「学生」から「社会人」になっていく姿がはっきりとわかりました。率直に、同友会はすごいことをやっていると思った反面、自社を振り返ってみると私は社員に何の教育も受けさせてこなかったのです。大いに反省し、翌年社内研修会を行いました。社員全員が懸命にメモを取っている姿を見て、初めて気づかされました。人間は何歳になっても成長し続けたいものなのだと。私は新卒採用をしていなければ、そんな大切なことも見落とすところだったと思います。


 新卒採用をしたことによる気づきは、日々の業務の中にも随所にあらわれます。曖昧になっていた規定や社員教育、コミュニケーションや情報共有など、会社の基盤になる基礎的な土台が全くつくられていなかったのです。新卒の社員を教育しようにも、そもそも何を教えていいのかわかりません。幹部に指名した社員にも教育など行っていないため、幹部が人を育てられないのです。私の知らないところで状況が悪化し、新卒採用2年目の新人が辞めそうになって初めて、幹部社員から私に報告がありました。「なんですぐ言わへんの?」と叱責してしまいましたが、この時ようやく社長と社員の意思疎通が十全でないことに思いあたりました。次々とできていない部分が浮き彫りになっていきましたが、一つひとつに真剣に取り組むしかありませんでした。


辞めない風土が
会社を変える


 2年で20人の退職者を出してしまった際に、社員の退職は単純な労働力の減少ではないと感じました。社員は「会社の石垣」です。一人欠ければ土台がぐらつきます。会社の土台になっている部分がすっぽりくり抜かれるのですから、埋めるには膨大な月日がかかるのです。「辞めない会社づくり」は結局コミュニケーションしかない。社員が「いつも気にかけてもらっている」と感じられる会社をつくろうと考えました。その中の一つが、社内の「飲みュニケーション」推奨です。


 社員同士が飲みに行ったら報告書を作成してもらい、私が経営指針書にスタンプを押します。


 これをゲーム感覚で始めた結果、辞めそうな社員が出てきても、他の社員から「あの子辞めそうですよ」と私に報告が上がるようになりました。「退職したい」という赤信号になってから上がってきた報告が、黄色信号で出てくるようになり、社員同士で「あの人に声かけてみます!」とフォローし合える環境ができ上がってきました。


 社内の雰囲気が劇的に好転し、私の知らないところでも社内改革が始まるようになりました。来客があった時には挨拶を統一したり、玄関にウェルカムボードが出てきたりします。


 ある銀行の支店長さんから「うちの銀行でCS(顧客満足)を教えるときはダイレクトさんの事例を話している。お出迎え感があるし、本当にお客様を大事にしていますね」と言われました。私が大切にしたいと思っていた理念が確かに社員に浸透していることが実感でき、嬉しかったです。


新卒採用は究極の営業活動


 新卒採用を続け、昨年で5年が経過しました。この数年は急激に採用が難しくなり、同友会の合同企業説明会でも、普通のやり方では通用しなくなりました。共同求人委員会で同友会の強みは何かを徹底的に話し合い、私たちにできるのは「社長」のブランディングなのだと結論が出ました。社長自らが経営を真剣に学び合い、大学を訪問し、合同企業説明会にも必ず出向いて自らが学生たちに自社説明をします。


 当社のような田舎の小さな会社が大手と同じように自社をPRしても見向きもされませんが、「ブースに社長がいる」「社長から説明を聞ける」とPRすることによって、学生が話を聞きに来てくれるようになりました。これは本当にすごいことです。名前も聞いたことのない会社を、数ある企業の中から選んでもらえるのです。
 私は、新卒採用は究極の営業活動だと思っています。会社の知名度以外の部分で選ばれるのは、信頼関係や会社の強みで選んでもらうことと同じです。つまり、ライバル会社より高い価格で見積もりを出して、選ばれることと同じことなのです。共同求人委員会はこの部分を強く推し進めていくことで、2014年の参加企業数15社に対して来場学生数が16名という危機的状況から、翌年には参加企業数30社に対し、来場学生数は450名となりました。


共同求人が会社のすべてのベースを作る


 当社も地道に新卒採用を続けてきましたが、2017年に新卒1年目に採用した社員が退職しました。幹部候補として育てていたのですが、結婚を機に通勤が不可能になったのです。私はこの時初めて、過去の採用ミスに気がつきました。あの時私は業績や人育てへの躊躇のために、最終選考に残った2名の学生のうち1名だけを採用しました。もしも2名の学生を採用していたら、現在の当社には新卒の幹部社員が残っていたかもしれません。


 新卒社員が抜けた穴は、中途採用では賄いきれません。社風や会社の方針をしっかりと理解してくれている土台は、簡単には埋まらないからです。当初、新卒採用は中途採用の代替えとして着手しましたが、5年後10年後の自社を見据えた新卒採用は、人員補充を目的とした場当たり的な人材戦略の中途採用とは全く意味が違います。


 新卒採用は会社の成長を考えたとき、必ず自社の軸として必要になります。新卒採用を毎年継続して積み重ねなければ、会社の土台は潰れます。共同求人委員会は新卒採用に興味を持っている会社だけが集まる場ではありません。会社のすべてのベースを形づくる重要な委員会だと思っています。


 当社は2018年に正社員の半分が新卒採用になりました。7年前に先輩経営者に言われた通り、以前とはまったく違う会社になりました。共同求人をやっていて良かったと心の底から思っています。当社を選んでくれた社員の皆が定年退職を迎えるころには、私はおそらく生きていません。新卒採用はそれほど壮大な計画です。だからこそ、会社の未来と成長計画をしっかり考え、学生やお客様から選ばれる会社をつくらなければなりません。


 私は社長として、社員が人生を終えるときに「あの会社で働いていてよかった」「あの人たちと働けてよかった」と思えるような会社をつくっていきたいと考えています。


(2018年8月29日 札幌支部共同求人委員会「共同求人学習会」より 文責 渋川巴留菜)

 


 

■会社概要
設  立:2001年
資 本 金:1,000万円
従業員数:30名
事業内容:ゴルフ場・ホテル用品販売、集客・運営のコンサルティング、各種グラフィックデザイン・WEBサイト構築。