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【67号 特集3】耕畜連携の強みを活かしたJAのブランド戦略  ー歴史的な台風災害を乗り越え、地域とともに新たな一歩を踏み出すー

2019年01月01日

 赤身肉の旨味が特徴の「十勝若牛」。バイオマス資源を用い、耕畜連携の基となる完熟堆肥「しみず有機」を使用して栽培される「とれたんと」。十勝清水町農業協同組合が手がける両ブランドの戦略から学びます。

 


 

十勝清水町農業協同組合 代表理事組合長 串田 雅樹(清水)

 



 清水町は十勝管内西部に位置し、人口約9500人の町です。農業者人口は約1000人、当組合の組合員数は346戸です。また、乳牛、家畜を含めた牛の数は約5万頭で、牛の数が人口の約5倍にもなります。生乳の生産量は十勝管内で第1位、道内第3位で、昔から酪農の町として広く知られています。


 農地面積は約1万4600ha。小麦、てんさい、馬鈴薯をはじめとする農作物の耕作面積と、デントコーン、牧草畑などの飼料面積が半々です。


 このように、清水町では酪農と畜産からなる畜種農家と畑作や野菜作などの耕種農家のバランスが良く、多様な農業生産が行われています。当組合ではこれらの特性を活かし、生産性の高い豊かな農地を未来につないでいくために、環境に配慮した持続可能な農業を推進しています。


秘密は14カ月の肥育期間
「十勝若牛」


 「十勝若牛」はホルスタイン種の雄牛の肉です。名前の通り、一般的に食べられている牛肉(成肉)より約6カ月短い「生後約14カ月」で出荷しています。14カ月という肥育期間がポイントで、これより若いと食感が落ちてしまい、肉の旨味が出ません。赤身肉のおいしさが一番ピークになるのが生後約14カ月なのです。反対に肥育期間を延長すると、牛肉特有のクセが強まり食味性が落ちます。加えて、経費も増加してしまいます。つまり、美味しいだけではなく生産性にも優れているのが「十勝若牛」なのです。最近、赤身肉は低脂肪・低カロリーでヘルシーだと話題になっています。そのため、レストランを含めた取引先を拡大中で、多くの方々に食されるようになってきています。


 「十勝若牛」は現在、5戸の生産者と協力しながらブランドづくりを進め、年間約5000頭を出荷しています。この5戸の生産者で「十勝若牛生産組合」を組織。統一管理の実現に向けて例会で勉強するほか、生産方法の共通化、肉色や肉質の標準化に取り組んでいます。


 加工は1992年に設立した当組合の子会社である㈱十勝清水フードサービスの北海道HACCP認証専用加工場で行っています。入荷した枝肉の解体、加工から梱包、発送に至るまで徹底した品質・衛生管理を実施しています。同社は加工品の販売を含め、年間約30億円の取り扱いがあります。


 2012年8月に滋賀県で開催された「牛肉サミット2012」では松阪牛など他のブランド牛肉料理を抑え、「十勝若牛のローストビーフにぎり」が優勝しました。「新・ご当地グルメグランプリ」においては「十勝清水牛玉ステーキ丼」が2013年から2015年まで3連覇を達成し、殿堂入りするなど高い評価をいただきました。


 また、当組合のネットショップではロースステーキやハンバーグをはじめ、「北海道十勝若牛カレー」や十勝若牛ステーキが丸ごと入った「北海道肉ソン大統領の肉デカビーフカリー」など、様々な加工品を販売しています。


耕畜連携を実現する
「しみず有機」


 酪農ならびに鶏卵が盛んな清水町では、多くの家畜排せつ物が発生します。当組合では、町内の畜産農家から出される家畜排せつ物などのバイオマスを発酵させ、ペレット状にした肥料「しみず有機」を製造し、耕種農家で活用しています。「しみず有機」は2009年に稼働を開始した家畜排泄物堆肥化施設で製造しています。180度の高熱発酵で雑草の種や作物に有害な病原菌類を死滅させます。窒素、リン酸、カリウム、マグネシウムといった肥料成分の他、亜鉛や銅など、ミネラルを豊富に含んでいます。また、完熟発酵させているので不快な臭いもせず、家庭菜園でも室内でも安心して使用することができます。


 「しみず有機」の製造には大量の原料を発酵させるための広い敷地が必要な上、時間も手間も経費もかかります。しかし、「しみず有機」によってバイオマスの地域内循環ができ、より効果的な耕畜連携を促進することにより、農地がもつ生産力を引き出し、持続可能な農業の実現に近づくのです。


「とれたんと」


 「しみず有機」を使って生産された農作物の総称を「とれたんと」と言い、元気な土を育てる取り組みこそが「とれたんと」ブランドです。「とれたんと」という名称は「とれたて」と「たんと(たくさんの意)」を組み合わせた造語で、JA十勝清水町の登録商標です。消費者の間で国産志向が強まっている中、「とれたんと」ブランドを販売することは、消費者へのアピールになり認知度を高めることになると思います。


 現在、アスパラガスとにんにくは、全量「しみず有機」を使用して生産し、「とれたんと」ブランドで出荷しています。現時点で「とれたんと」ブランドとして出荷されているのは、小豆、ブロッコリー、馬鈴薯、にんにくなど全11品目です。徐々に作物数を増やし、使用面積を広げていきたいと考えています。


 農作物にも、どのような付加価値をつけることができるのかが問われています。「とれたんと」ブランドの商品には農業の原点である土づくりという付加価値があります。世界的に有機栽培への関心が高まっています。ヨーロッパにおいては、有機栽培のシェアが増加していますので、日本においても需要が高まることを見込んでこの取り組みを進めています。


2016年台風被害を経験して


 清水町は2016年8月に4つの台風に見舞われました。町内の至るところが甚大な被害を受け、想像を絶する光景が広がりました。


 畑の冠水や土砂の流入が多く発生し、先人たちが築き上げた肥沃な土壌が一瞬にして流出してしまいました。多くの橋や道路にも被害が及び、山間部にある3つの取水口が壊滅的な被害を受け、町内世帯の3分の2が断水してしまいました。


 牛は1日に大量の水を消費するため、断水は畜産農家にとって牛の生死にかかわる重大な問題です。そこで、北海道中から空いているミルクローリーをかき集め、1日に計1000トンの水を町内の家畜農家に供給しました。最終的に断水から復旧するまでに2カ月程度かかり、大変な状況でした。過去に例を見ない被害でしたので当組合職員も対応に苦慮しましたが、ミルクローリーの貸し出し協力では連携の大切さを痛感させられました。


これからの農業について


 「農協改革」という言葉を耳にされたことがあると思いますが、時代の変化に合わせて農業も農協も変わっていかなければなりません。もちろん、守るべきものは守りますが、変えるべきところは変えていく。当組合も自ら販売を手がけるなど、消費者に寄り添った取り組みを強化しています。利益だけではなく、自分たちが誇れる生産物、ブランドがあることによって、組合員の皆さんが意欲的に農業に取り組むことができます。今まで以上に安全・安心な農作物を生産することに責任をもち、消費者との距離を近づけて「顔の見える農業」を実現していきたいと思います。


 様々な課題の中でも人材不足は大きな課題の一つです。当組合は現在、155名の職員で運営しています。今後、優秀な人材を確保するには、仕事のやりがいや、誇りを持てる仕事かどうかが重要になると思います。その点からも、当組合が進める「十勝若牛」と「とれたんと」のブランド戦略は極めて意義のあることであると考えています。これまで以上に生産者ならびに関係者との連携を強化し、当組合がめざす環境に配慮した持続可能な農業の実現に向けて、取り組んでいきたいと思います。


(2018年10月19日「第35回全道経営者“共育”研究集会inとかち」第15分科会より 文責 村井靖彦)

 



■会社概要
設  立:1978年
資 本 金:16億2,800万円
従業員数:155名
事業内容:農業協同組合