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【67号 特集3】地域産品のブランド化戦略  -十勝のチカラー

2019年01月01日

温泉熱を利用した冬にとれるマンゴーづくり。地元の職人が結束してつくるラクレットチーズづくり。いずれも十勝に新しい産業をつくること、そして農業という基幹産業を守ることを目的にしています。本職ではない事業を、無償で手がけるお二人の熱い思いに触れて参ります。

 


 

㈱ノラワークスジャパン 代表取締役 中川 裕之(音更)
十勝品質事業協同組合 代表理事 佐藤 聡(音更)

 



報告1 中川 裕之


 9年前、私は農水省のイベントで宮崎県日南市のマンゴー農家の方と出会いました。彼が語った夢は、「真冬の12月にマンゴーを出荷する」ということでした。宮崎のマンゴーの出荷時期は5~6月で、消費者の購買意欲が高まるお歳暮、クリスマス、お正月の時分には出荷できません。しかしその生産者の方は、「北海道であれば冬のマンゴーの収穫が実現できるかもしれない」と言うのです。


十勝だからできる
冬のマンゴー


 彼との出会いに運命的なものを感じた私は、マンゴー栽培について勉強を始めることにしました。


 早速、地元の皆さんにも「北海道でマンゴーをつくるから協力してほしい」と話しましたが、「あいつ、とうとう頭がおかしくなったか」という反応です。町長にも交渉しましたが、「JAが冬にトマトをつくろうと頑張っているが全然できない。マンゴーができるわけがない」と取り合ってもらえません。でも、とりあえず挑戦してみようと思い、2010年11月から1年6カ月の間、毎月宮崎を訪れました。マンゴー生産者に会い、実際のハウスで栽培に立ち会い、それを半年後に地元で実践するという形で学びました。


 その結果、12月に収穫するためには、6~7月にハウス内の地温を下げ、10度程度にする必要があるということがわかりました。夏の気温が高い宮崎では冷却コストがネックになり、実現に至らなかったのです。その点十勝の気候は、6~7月の最低気温が低く、宮崎に比べて大変恵まれた環境です。また「十勝晴れ」が続く冬の日照時間の長さも果樹栽培に適しています。収穫に向けてハウス内を温める必要はありますが、何かを冷やすより温めるほうがエネルギー効率は良いのです。


自然エネルギーの利用


 温度管理の方法についても、十勝の自然の恵みが役に立ちました。貯蔵した雪と十勝川温泉の湯を有効利用するのです。夏は冬のうちに貯蔵した雪で冷やした不凍液を、冬は十勝川の温泉水を、それぞれ地中のパイプに循環させます。冬はさらに廃油を使った暖房機も使い、ハウス内を温めます。


 このように自然エネルギーを利用する事業を構想した私ですが、実は以前に燃料会社の経営者をしていたことでヒントを得ました。会社の石油販売部門は売却しましたが、次に事業を起こすときには、環境に配慮した仕事をしたいと考えていました。


 問題は資金です。私は、マンゴーづくりはこの地に役立つ事業だと思っていました。世界的にも珍しい冬のマンゴー生産が新たな産品として知られれば、十勝のブランド価値は高まり、雇用を創出できます。そこで2010年9月、宮崎の生産者の方を帯広に招き、仲間に話してもらったところ、ようやく「あ、できるかもね」と賛同者が出てきました。私はこの事業の価値を説き、地域の仲間に出資を募り、土地も無償で貸してもらうことができました。


 そこからは早かったです。11月にはハウスが完成していました。デスクワークが得意な役員が、ハウスが完成する前の10月に商標登録を申請し、翌年3月には登録されました。いろいろな人が役員として協力してくれた結果、翌年12月にマンゴーは完成し、試食会を行うことができました。試験販売の際に大手百貨店のバイヤーから1個5万円の値段をつけていただいたのです。


完熟マンゴー「白銀の太陽」


 実際に栽培を始めると、この土地でマンゴーをつくる利点がほかにもあることに気づきました。冬は害虫が発生しづらいため無農薬栽培が容易で、低湿度の環境で育てると、マンゴー特有の口に含んだ際のヤニ臭さがなくなるのです。


 十勝だからこそ栽培できるこの完熟マンゴーを、私たちは「白銀の太陽®」と名付けました。自然エネルギー、無農薬で安心安全、さらに真冬の12月に出荷というだけで価値が上がります。私たちは一度も営業をしていません。高級フルーツの老舗である千疋屋の社長は、「世界一のマンゴー」と称してくれます。現在はまだ収量が少なく採算が合わない状況ですが、数年先には木の成長で収量も飛躍的に増える見込みです。


 今後はパイナップルやライチなど、作物の種類も増やしていきたいと考えています。現在はマンゴーを温めた温泉水は捨てていますが、作物の種類を増やすことで再利用することができます。温泉水を3、4段階、効率的に再利用して作物を育てる「カスケード農業」をめざしていきたいのです。


 私は人口減少社会に危機感を持っていますので、十勝を若者が集まる魅力的な地域にしたいと考えています。そのためには地域に産業をつくり、雇用を創出しなければなりません。この思いに賛同してくれる仲間とともに、地域の活性化に努めていきます。

 


 

報告2 佐藤  聡


 十勝は開拓当初から現在に至るまで、農業を基幹産業とした原材料の供給基地でした。収穫と出荷だけで、その先のことは関知しません。しかし今後、TPP、EPAなど外的環境の変化を見越すと、従来の産業構造から脱却し、十勝を「原材料の供給基地」から稼げる「日本の食糧基地」へと転換することが求められていくと思います。


 私は㈱佐藤工務店という建設屋の社長です。2015年に設立された十勝品質事業協同組合の代表理事として、十勝におけるチーズの付加価値向上や雇用の創出をめざしています。私のライフワークは日本の食糧基地、十勝の応援団です。会社の社長室には常設の展示場で十勝の素材を十勝で加工し、十勝でパッケージされた商品130種類を飾っています。銀行、役所などのお客様が訪ねて来た時に、「ここ建設屋さんなのに何故飾ってあるの?」と言われます。その質問をさせるために飾っています。「十勝における食産業がダメになったらあなた方の仕事はなくなりますよ」ということを伝えるためです。


 皆さん、全国でつくられるナチュラルチーズのうち、実に7割が十勝でつくられていることをご存知でしょうか。つい最近まで、それぞれのチーズ工房は個別に営業努力をしていましたが、なかなか周知には至りませんでした。


十勝産ラクレット
「モールウォッシュ」が完成


 当組合の前身は、「十勝品質の会」という任意団体でした。目的は付加価値の高い加工食品の開発と、持続可能な産業構造を構築することです。


 参加企業は建設業を営む私の他に大学、地元新聞社、商工会議所など50社以上が集まり、幅広いメンバーで構成されています。業種を問わず基幹産業を応援し支えることが、地域の活性化につながるという共通認識を持っていました。


 2012年には農林水産省の「食のモデル地域構想計画」事業に応募、地元食材を主原料にした加工食品づくりに取り組みました。研究分野はチーズなど加工乳製品、パンやパスタなどの小麦製品、ハムソーセージなどの加工肉製品と多岐にわたりました。


 その中で最も成熟していたのがチーズであり、創業から30年以上の老舗工房他5つのチーズ工房が中心となり、企業の枠を超え、知識、技術、情熱を結集し、新たな商品の共同開発を実施しました。通常は、自分たちで開発したものは絶対外に出さず、商標登録をして一人勝ちするという考え方です。それを地域全体で最高のものをつくり、地域の産業にしようと各工房が団結しました。


 通常ラクレットチーズは、熟成過程において定期的に塩水で磨かれます。そのため、ヨーロッパでつくられるチーズは非常に塩辛いのです。そこで、塩水の代わりに北海道遺産でもある十勝川温泉の植物由来の温泉水、「モール泉」でチーズを磨いてみました。「モール泉」にはチーズの発酵を助ける成分が含まれているため、芳醇でマイルドな味わいに仕上げることができます。


 3年かけて努力は実を結び、十勝独自のラクレットチーズができました。モール温泉で洗っているので命名は「モールウォッシュ」。「ラクレット」とは「削る」という意味です。加熱して溶かしたチーズを芋や野菜・ハムソーセージや海産物にかけて食します。ラクレットはチーズの名前であり、料理の名前でもあります。フランスやスイスでは「今日は何のラクレットにする?」という表現の仕方をします。


地域の基幹産業を応援する


 商品のブランド化、品質管理の一元化など、事業範囲を広げるためには任意団体のままでは難しかったため、当組合が設立されました。


 利益の一部は地元の酪農家に還元され、酪農家の経営基盤強化にも貢献する仕組みです。組合の役員のほとんどは、チーズ関係者以外の人間で構成されています。同業者だけの集まりではなく、業種を超えて地域の産業を支援する姿勢が表れています。


 現在は、年間2万ホールの生産力を誇る共同熟成倉庫をつくり、職人たちが日々共通の品質のチーズを生産しています。熟成士の雇用と育成、チーズ工房からの受け入れと検査、GI認証(Geographical Indication=GI)の申請、新規参入者の受け入れ、PRと販路拡大。これが円滑に回り始めることが、最終目標です。


 中でもGI認証とは、その地域の地名と一般名称を合わせたものであり、認証されると「私もやりたい」という人に指導し、教えて仲間にしなさいという考え方です。商標登録とは逆で、仲間づくりのための認証です。


 経済効果としては新規工房の誕生、付加価値の高い商品の製造による工房の経営基盤強化、持続可能な酪農業を支援するための利益が還元されます。酪農なくしてチーズはあり得ません。


 大切なのは、夢を語り合い一歩を踏み出すことです。一企業の発展より、地域産業の発展の方が私は勝ると思っています。普段から言っているのは、「熱い志をもって夢を語れ」ということです。心にどんな大きな夢を持っていても、口に出さなければ誰にもわかりません。「この地域どうする? 将来どういう地域にしたい?」ということを一度口に出して表現しましょう。そうすると同じ夢を持った人が集まってきます。「時間はないが金を出す、金はないけど汗をかく、金も汗もないが情報とネットワークを持っている」という人たちが集まってきます。するとゴトンと大きな歯車が動き出します。動き出したら早いものです。


 人口減少は大きな問題ですが、その地域の基幹産業の衰退は、人口の急激な減少を招きます。結果としてその地域のすべての業種が衰退します。地域の産業を守り、雇用を維持・創出して人口減を食い止めなければあらゆる経営努力は無駄となり、企業の持続的な発展はあり得ません。行政に頼るのではなく、民間で知恵を絞り、夢や構想に賛同する人たちが協力し合い、産業や地域の活性化につなげていくことが大事だと、私は考えています。


(2018年10月19日「第35回全道経営者“共育”研究集会inとかち」第12分科会より 文責 加藤謙治)

 


 

㈱ノラワークスジャパン
代表取締役 中川 裕之
■会社概要
設  立:2011年
資 本 金:5,610万円
従業員数:2名
事業内容:果樹作農業

 

十勝品質事業協同組合
代表理事 佐藤 聡
■会社概要
設  立:2015年
資 本 金:110万円
従業員数:4名
事業内容:乳製品製造業