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【67号 特集3】松尾ジンギスカンのブランド戦略

2019年01月01日

2014年4月に味付ジンギスカンの老舗「松尾ジンギスカン」の4代目に就任。2012年、副社長時代に社内のブランド価値が漠然としていたことに危機感を覚え、様々なブランディングに取り組む。フードコートへの出店や、「松尾めん羊牧場」を開設するなど、次々に新ブランド戦略を展開し、北海道の羊文化を日本全国、世界へと発信しています。

 


 

㈱マツオ 代表取締役 松尾 吉洋(滝川)

 


 


 当社は1956年に祖父である松尾政治が創業し、コツコツと変わらぬ味を守り続け、今年で62年目を迎えます。祖父は破天荒・豪快・男気のある人で、幼い頃は怖くて近寄りがたい存在でした。ようやく話し始めることができたのは高校時代からで、大人になっても「世の中とは、常識とはこういうものだ」という漠然としたものしか教わっていません。しかし自分が4代目の社長に就任した今、少なからず祖父の影響を受けていると感じることがあります。


これは商売になる!


 祖先は香川県から新十津川町へ入植し、その後滝川市へ移住しました。当初、馬を使った運搬業や家畜商を営んでいましたが、転機が訪れます。ある正月に、祖父がめん羊組合の組合長から「おいしいものがあるから遊びにおいで」と家に招かれたのです。


 当時の滝川には道立畜産試験場があり、めん羊の生産が盛んでした。井戸に吊るしてあった羊肉を切って鉄鍋で焼いて食べさせてもらったのですが、「世の中に、こんなおいしいものがあったのか」と感動したそうです。祖父が「どうしてこんなにおいしいのですか」と尋ねたところ、「滝川はリンゴと玉ねぎの産地だから、その搾りかすに醤油や生姜のタレを混ぜて漬け込むことでおいしくなるんだ」ということでした。祖父はその瞬間、「これは商売になる!」と感じたそうです。


 その偶然とも言える出会いから10年、試行錯誤を繰り返し、羊肉の臭みを消し、驚くほど肉質が軟らかくなる独自のタレを完成させ、開業にこぎつけました。


「三方善し」の経営理念 

 

当社の事業は、道内10店舗、東京3店舗のレストラン事業と、パッケージ商品を販売するメーカーの2本が柱です。道内ほぼすべての大手量販店に『松尾ジンギスカン』が並んでいます。


 2014年、社長に就任するにあたり、私は全従業員に「大切にしたい考え方」をまとめた冊子を渡しました。それは、「買い手善し(お客様が幸せになる)・売り手善し(私たちマツオが幸せになる)・世間善し(社会が幸せになる)」の「三方善し」という理念で、この考え方を経営の中心に据えました。「三方善し」を達成することが、80年、100年と続く持続可能な会社になっていく一つの基礎になるだろうとの思いで、従業員に発信しました。


 実はこれには祖父の影響があります。直接「三方善し」という言葉で教わったことはなかったのですが、祖父は目先の損得を考えずに、常にお客様に喜んでもらえるサービスを提供し、地元の取引先をとても大切にしていました。「謝恩」という言葉で表現し、盆踊り大会や様々なイベントを企画し、滝川市民に利益を還元することを優先して考えていました。そういう行動こそが、まさに「三方善し」だったと思います。


ブランディングから
「ブランドプロミス」へ


 私が副社長時代の2012年、ブランディングチームを立ち上げました。当時『松尾ジンギスカン』のブランド価値は漠然としていて明文化されておらず、例えばロゴ一つをとっても、一貫性に欠けていました。私はブランドこそが最も必要な資産であると考えていましたので、一度立ち止まって再定義しよう、『松尾ジンギスカン』の持っている強みを生かしながらブラッシュアップすることにより、一層厳しくなる社会に勝ち残っていけるブランドをつくり上げていこうと、チームを立ち上げました。


 そのブランディングプロジェクトの成果物の一つが「ブランドプロミス(顧客に対してブランドがする約束)」です。


 『いつでも、どこでも美味しい道民のソウルフードとして、家族や仲間との思い出づくりに貢献し続けること。北海道が誇る食文化であるジンギスカンのおいしさを世界に向けて発信してゆくこと。これが松尾ジンギスカンの約束です』


 これは、松尾ジンギスカンの名前のもとに行うすべての行動が、ブランドプロミスを達成することにつながっているという思いで作成し、現在、全社員、朝・夕礼等で唱和しています。


 またSWOT分析や全従業員へのアンケートを行い、内部・外部すべての要因を抽出した上で1年近くの時間をかけて、『松尾ジンギスカン』のブランド価値規定に落とし込みました。ブランド価値規定は「ビジョン」「バリュー」「スタイル」で構成されています。


 「ビジョン」は、当社としての夢・理想的な姿を表し、「家族や仲間との思い出づくりに貢献し続けること、ジンギスカンを世界に向けて発信してゆくこと」。


 「バリュー」は、当社のブランドとしての強み、お客様が得られるメリット、感じられる感覚や気分を表し、「道民と共に歩んできた歴史や、多彩な提供方法でお客様と接点を持つこと。そして、肉も野菜もうどんも美味しい。賑わいが生まれ、人と人とを結びつけること」は情緒的価値。


 例えば、当社のジンギスカンは漬け込みと鍋で煮るスタイルで、鍋の山の部分で肉を焼きながら、溝の部分で肉を煮ます。焼くと煮るを同時にできることは、一つの機能的価値と考えています。また、肉の処理については人の手で処理し、こだわりのタレは60年以上変わらぬ味を守り通しています。


 「スタイル」とは、当社の持っている個性、理想的な顧客像を表し、「まじめにコツコツ、ジンギスカンをつくりながらも、一方でおもしろみ、ユーモアもあるブランドパーソナリティ」と定義しました。


『松尾ジンギスカン』への強い思い


 2014年5月に、ロゴマークをリニューアルしました。当社の中核事業である、レストラン事業やメーカーとしての松尾ジンギスカンブランドのロゴマークと、それ以外の子会社事業を含めたコーポレートロゴマークで差別化を図ったのです。


 私は飛行機が大好きなのですが、JALが経営破綻から再生に向け、2011年4月から飛行機の尾翼マークを昔の鶴丸マークに戻したということを思い出し、当社も原点回帰という意味で、松尾ジンギスカン事業はマル松に統一しました。


 高級店と位置付けるレストラン店舗では、「まつじん」という名称を使用していましたが、16年4月、本当にブランド認知してもらいたいのは『松尾ジンギスカン』であるという強い思いから、名称を『松尾ジンギスカン』に統一しました。


 また創業60周年に合わせ、数年ぶりにテレビCMを復活、テーマソングもリニューアルしました。初代CMで使用していた曲をリメイクし、昔懐かしい世代の方からお子さんまで、耳に残る内容を心がけました。


羊肉の食文化を
日本から世界へ!


 今後、店舗展開をしていく上でもブランディングが重要と考え、店舗の類型化に取り組んでいます。まずは既存店の立地やターゲット、客単価などを分析し、どのような役割を果たし、何をめざしていくのかを明確にしました。そして、レストラン業態を3つに整理しました。


 「都市型レストラン」は大都市中心部に出店し、観光客やビジネスマンがターゲットです。ジンギスカンの店がおしゃれできれいというイメージがつき評価を上げてくれますが、出店コストが大きいことがマイナス面です。現在は、札幌駅前店、銀座店など6店舗が都市型になります。


 「地域密着型店舗」は長く愛される味を地域住民に食べてもらい、次の世代にも残していくことに主眼を置いています。現在は、札幌北24条店、琴似店、宮の森店などが位置づけられています。


 「フードコート型店舗」は当社にとって新たなチャレンジとして、3年前に新千歳空港に出店しました。同店舗は、ジンギスカン丼やジンギスカン定食などを調理して提供します。従来のお客様自らが焼く、というスタイルと異なるので最初は不安でしたが、時間がないお客様や、女性ひとりでも利用しやすいと非常に好評です。


 この業態への出店は当社にとって大きな自信になり、次の出店への意欲が大きくなりました。そこで第4の類型として、現在「調理提供型店舗」の開発に取り組んでいます。フードコート店舗の発展形として、定食屋あるいは食堂のような日常感、かつ女性も入りやすい清潔な座席を伴ったものです。


 店舗の類型化を行ったことで、ターゲットが明確になり、どの地域にどの店舗を出店するか、社内でも共有できるようになりました。目標達成のために、より一層大きな武器を得たと感じています。


 また、地域を大切にしたいという思いで、4年前から地元の小・中学校の給食にジンギスカンを提供するという取り組みを始めました。食材を提供するだけではなく、北海道の滝川でなぜ松尾ジンギスカンが生まれたのか、地域の歴史を子どもたちに知ってもらう「食育授業」も行っています。


 今後、当社が目標とすべきは羊肉の食文化の拡大です。2016年には「松尾めん羊牧場」を滝川に開設しました。出荷頭数は40頭程度とまだまだ少ないですが、他には真似できないサフォーク種を生産し、北海道でしか味わえない限定メニューを提供する羊肉の専門店を作りたいと考えています。そして、北海道における羊肉の食文化を日本全国、世界へと発信する企業をめざしていきます。


(2018年10月19日「第35回全道経営者“共育”研究集会inとかち」第9分科会より 文責 中村涼平)

 


 

■会社概要
設  立:1961年
資 本 金:1,100万円
従業員数:437名
(うちパート・アルバイト333名)
事業内容:食肉製造・販売・飲食