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【67号 特集3】究極の企業戦略は「親切」 ―崖っぷちから100年企業への挑戦―

2019年01月01日

ある日、従業員が全員ライバル店へ。自社経営を見直す中で100年企業をめざす現在の「ねぎし」が誕生しました。永続性の鍵は経営理念を浸透させ、「何のために働いているのか」スタッフ全員が思いを共有すること。仕事を通じて共に成長できる仕組みづくり、モチベーションを高めるPDCAを回すなど、同友会で学んだ企業づくりとその経営哲学とは。

 


 

㈱ねぎしフードサービス 代表取締役 根 岸 榮 治(東京)

 



 当社の創業は1981年ですが、1970年代から多業態の飲食店を茨城、福島、宮城の3県にまたがる広範囲に20店舗、出店していました。


 70年代後半、仙台で商売を行っていたある日のことです。行列ができる程の店なのに、営業時間になってもシャッターが開きません。4名の従業員と5名のアルバイト、9名のスタッフ全員が出社してこなかったのです。20日程経って、近隣に商品もメニューも全く同じ形態の店がオープンし、ようやくスタッフ全員が引き抜かれていたという事実に直面しました。違っていたのは屋号だけでした。


「因は我にあり」


 引き抜き直後は眠れないほど腹が立ちましたが、自己反省しました。きっと私のどこかに「俺は経営者だ」という自負があったのでしょう。従業員は経営者を映す鏡です。私が従業員をモノのように扱っていたため、従業員も私をモノのように扱っただけの話で「因(もと)は我にあり」、これは私自身の問題なのだと反省しました。


 また、こちらも15年程前の話になりますが、お客様から苦情が来て店長に話を聞くと、「何回教えてもダメなんです」と弁解するわけです。その時に、「それはあなたの問題で、相手が実行するまで教え続けることが店長の仕事だ。何か問題が起こった時はアルバイトのせいではなく、店長に問題があるのだ」と伝えました。そして、店長の問題はさらに上の人の問題であり、それが廻り回って最後には社長の問題となります。「人を責めないで仕組みを責める」というのはそういうことなのです。


 では仕組みをどう変えていくのか。人のせいにするとその時点で成長はストップしてしまいます。自分で反省して改善策を考えると、その人が一番成長することになります。


 従業員全員が引き抜かれるまでの当社は、多業態・広範囲の「狩猟型経営」でしたが、これを機に同一業態・同一地域での「農耕型経営」に転換することにしました。


 商品に選んだのは、仙台在住の時に私が好きだった牛たんです。こうして1981年、新宿に「牛たん・とろろ・麦めし ねぎし」1号店を出店しました。それまで3県に出店していた多業態店舗は順次閉店していき、その後は新宿駅から30分前後の圏内に出店を続け、現在40店舗を直営で経営しています。


社員と共に成長する
仕組みづくりの実践


 以前の私は、利益だけを追求する会社経営をしていました。しかし、あの崖っぷちとなった出来事に直面してからは、180度、経営への考え方を改めました。
 当社のような飲食店は流行に左右され寿命が短い企業が多いため、100年企業をめざすことが最大の課題です。そのためには理念を共有するための仕組みづくりと「人財共育」が重要です。当社の人財の財は、材料の材でなく財産の財です。財産ですから共育に時間と費用をかけます。社員一人ひとりの人間的な成長が会社の成長につながっていくのです。


 共育は「共に育つ」です。日々仕事を通してお互いに学び合い、気づき合える仕組みをつくることです。別の言葉で言うと、経営理念やビジョンを具現化するための仕組みが大切だということです。


 その時に使う手法が「PDCA」です。大切なのは「P」から参画することです。DOから参加すると会社の指示命令ですから、仕事は「他人事」になります。プランから参加すると仕事を「我が事」として取り組むことになりますから、仮に失敗しても確実に自分の成長につながります。Pには2つの意味があり、プランともう一つのPはプロセスです。正しいやり方(プロセス)を学び、実行していく。そのプロセスで人は一番成長します。「終わりよければすべてよし」ではなく、失敗しても正しいプロセスを経ていれば人は必ず成長し、次は必ず成功します。ですから、当社ではプランから参加させ、「我が事」として仕事に取り組ませると共に、プロセスを大切にする考え方を持たせます。


 PDCAのCは、普通はチェックですが、当社ではコミュニケーションと考えています。現在ある40店舗の優秀な店長に共通しているのは、まず一にも二にもスタッフとのコミュニケーションを徹底しており、人間関係がすごくよいことです。よい人間関係の源は強い組織です。責任者やリーダーであっても、決して上から目線ではいけません。お客様の喜びを得ることは一人ではできません。スタッフにも協力してほしいという姿勢で取り組んでいます。


 Aのアクションはやりきるということです。こうしてPDCAを回していくわけです。


ピンチはチャンス


 当社では大切にしている言葉がもう一つあります。「ピンチはチャンス」です。お客様とのトラブルに始まり、課題や問題は必ず起こります。その時々のピンチこそ、自分を成長させる絶好の機会です。ピンチを「大ピンチ」にするか、「チャンス」にするかはその人次第です。自分を成長させるチャンスと感じれば、PDCAを回し始めることができます。


 2001年、日本国内で狂牛病が発生したとき、一度にお客様が来なくなりました。まだリスク対応を確立していなかったため、どうしてよいかわかりません。「社長、どうしますか」と聞かれても、「わからない」とは答えられませんので、「ピンチはチャンス!」と言うより仕方がなかったのです。売り上げが半減しましたが、牛たん以外の牛・豚・鶏肉のメニューを次々と開発し、発売しました。


 ようやく事態が終息したと思った2003年12月、今度はアメリカで狂牛病が起き、輸入が全面ストップしました。牛たんの仕入れ価格は4~5倍に高騰です。これもまた「ピンチはチャンス」で乗り切りました。ピンチが2度も来たことが私を鍛えてくれたのだと思います。


日本経営品質賞の
取り組みから学んだこと


 当社は2005年から「日本経営品質賞」に向けて取り組み始め、2011年に「日本経営品質賞 中小企業部門」、翌12年度には農林水産省の「優良外食産業表彰」農林水産大臣賞を受賞しました。「日本経営品質賞」は、1997年に受賞者の話を聞いて100年企業をめざす上でとても良い取り組みだと思い全社的に取り組んだ結果、6年目に受賞に至りました。特に経営品質賞の4つの基本理念である「顧客本位」「社員重視」「独自能力」「社会との調和」は、時代がどう変わろうと普遍的な価値だと感じ、勉強しようと思ったのです。この考えを従来当社がやってきたものに当てはめ、深堀りし、磨き上げていきました。


 「日本経営品質賞」から学んだことは、利益を上げることだけを目的化していた事実前提の考え方から、「ねぎしは何のためにあるのか」、「私たちは何のために働くのか」という価値前提の考え方に変わったことです。すると、すべての評価基準がいいかげんであり、目標と目的が一緒になっていたことに気づきました。これまでは一番売った店長が一番偉いということでしたが、売り上げが目的ではない、何のために売上利益が必要なのかということを学びました。いわゆる経営理念です。数字はあくまで目標であって、目的ではないということです。事実前提の時には利益を上げることが一番という考え方でしたが、価値前提になると大切なのは「働く従業員の幸せ」であり、「お客様の喜びと満足を得るため」と「社会のためにお役立ちする」という考え方になります。


 もう一つ学んだのは「逆ピラミッド型」です。普通は三角形のピラミッドで頂上に社長がいると思いますが、逆ピラミッドは顧客が一番上で、その下にアルバイト、社員、店長、ストアサポートマネージャー、部長など経営幹部や社長と続きます。ねぎしで一番偉いのはお客様がたくさん来店し、売り上げを上げている各店舗という考え方です。もちろんご利用いただいているお客様も大切ですが、まずは各店の店長をはじめとするねぎしのスタッフがお客様です。その人たちをどうサポートできるかがサポートオフィスの使命です。


究極の企業戦略


 「思い8割、スキル2割」という考え方があります。いくらスキルが高くても、思いのないスキルは活きません。思いがあってこそスキルが活きてくるのです。ですから経営理念を理解し、これを具現化するように努力する。そして毎日の仕事の目的は、お客様の喜びと満足を得るため。それをどう伝えていくか、その努力を絶えず行っていくことが重要です。この「思い8割、スキル2割」を実現させるため、「親切」という企業文化を定着させようと思いました。


 また、今後最大の問題は、少子高齢化、人口減少の時代にお客様も働く人も集まる組織づくりです。生き残るために当社は「多能工制」を取り入れ、人を育てた人が高く評価される人事評価制度の見直しに取り組んでいます。今まで人は育てて当たり前ということで、人を育てた人が評価される人事評価制度はありませんでした。自分をよく理解し、自分を成長させようと努力をしている先輩・上司がたくさんいる会社は、辞めようとは考えないと思います。つまり、離職率の低下につながります。


 店舗力向上のために、年に2回、店舗対抗の「クレンリネスコンテスト」を行っています。ただの掃除大会でなく、店長を中心にスタッフ全員でPDCAを回します。この大会で店長のリーダーシップ力と店舗のチーム力を知ることができますので、人の成長とチーム力アップ、店舗力アップにつながっています。サービス力向上にはロールプレイング大会も行っています。


経営理念の具現化と
独自の人事評価システム


 この他、常設アンケートの内容をもとに個人表彰を行っています。当社では、アンケートが大体月間2000通ぐらい来ます。一度表彰されると、また表彰されたくなります。また周りの人もそうなります。すると全員がお客様の方向を見て仕事をするようになります。マニュアルを超えたちょっとした言葉がけや気配りが、お客様の心に届くのです。この表彰を26年間、360回以上続けており、全社員が一堂に会する全体会議で表彰しています。そしてアンケートの評価を数値化して項目別に毎月店舗ごとの点数を出し、総合満足度を出します。そこで出た課題はPDCAを回していくきっかけとなります。総合満足度は10年前に平均84・1%だったのが、現在93・7%に上がってきました。これは私たちの人間的な成長と考えています。


 経営理念を具現化するための仕組みが大切だとお話しましたが、その一つが「私と経営理念」です。アルバイトを含めた社員に、経営理念についてのレポートを書いてもらっています。ここで共通する思いは、「迷った時には経営理念に立ち返る」ということです。これを12年前から行っています。


 経営指針書は年次のものを半年くらいかけて策定します。全店長が集まりSWOT分析会議から始まり、延べ10回程度の会議を行い、4月に製本化します。5月には140~150名の前で経営指針の発表会を行います。売上目標と実施計画はすべて店長が決め、自分でつくって自分で実行しています。また、様々なプロジェクトは店長も参画し、企画運営においても一緒につくっています。店長が参画することがルールとなっています。


 最後に、人口減少で働く人もお客様も減り続ける時代に取り組むことは、繰り返しになりますが、働く人からもお客様からも選ばれる会社になるために経営理念と共に人が育ち、定着し、人が集まる組織づくりです。それは、つまり「食事をするならねぎしにしよう」とお客様に思っていただけるような店をどうつくるかで、一番は店のレベルを高めることです。


 アルバイトの入店前研修を行うと、「ねぎしに食べに行くと、中の人たちも生き生きと働いている。自分もその中に入りたい」という話が多くなりました。今後はさらに離職率を少なくするために、育てた人を評価する評価制度をどう取り入れるか。100年続く企業をめざし、今年と来年は全力をあげて当社で取り組まなければいけない課題だと考えています。


(2018年2月23日「函館支部2月例会」より 文責 土田あゆむ)

 



■会社概要
設  立:1969年
創  業:1981年
資 本 金:5,000万円
従業員数:正社員135名、
アルバイト1,500名
事業内容:飲食業。「牛たん・とろろ・麦めし ねぎし」東京を中心に40店舗展開