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【67号 特集2】わが社の障がい者雇用の実践  ー全員が働く満足感を感じる会社づくりー

2019年01月01日

1985年に障がい者を採用し始め、現在4名が元気に勤務しているトーワラダンボール㈱。33年間にわたる障がい者雇用を行った会社づくりの実践と、全社員が働く満足感を感じる職場をつくるための経営理念、10年ビジョンの作成の実践に迫ります。

 


 

トーワラダンボール㈱ 代表取締役 大場 勝博(石狩)

 



 当社は、ダンボールの印刷、製函加工、化成品の断裁・製袋加工を手がけています。


 1954年に村守商店として小樽で創業し、55年に東ワラ商事㈱を設立後、ダンボール加工部門を独立させるため、74年にトーワラダンボール㈱を新会社としてスタートさせました。同時に本社・工場を札幌市手稲工業団地に移転、さらに12年前、石狩市に環境対応型工場を新設、創業45年目の会社です。


 従業員はパー卜を含め45名で、そのうち4名の障がい者が働いています。障がい者雇用のきっかけは、手稲工業団地に移転後、地域でお手伝いできることは何かないかと模索していた78年、北海道立星置養護学校から職場実習の打診を受けたことに始まります。


 1985年に初めて障がい者を採用して以降、白樺高等養護学校、小樽高等支援学校の卒業生、一般採用や当社の就労訓練を受けた方々を採用してきました。


障がい者と健常者との間に
壁はつくらない


 私は「障がい者と健常者との間に壁はつくらない」と考えています。障がいがあっても、自分ができる仕事に対して、すばらしい能力を発揮している社員を紹介します。


 まず勤続33年目のWさん。彼は照明スイッチON・OFFの責任者です。スイッチON・OFFは朝礼前後、休憩前後、終業時の3回ですが、彼は、業務が続いている部署の電灯は消さないという配慮ができます。メインの職務は、製品結束などの手作業と、底貼り部門で製函機への原材料シー卜をセッ卜する作業です。


 2人目は勤続11年目のMさんです。彼は製品の端数を管理する保管棚の管理責任者です。棚には数十種の製品や付属品がありますが、彼は種類や数量をすべて把握しており、製品の端数を合わせて出荷の単位としてまとめています。おかげで製品のロスがなくなりました。メインの職務は機械から出た製品の結束などの手作業ですが、先輩社員の指導のもと、糊の付き具合や貼り合わせの曲がり具合といった、製品の良し悪しを見分ける作業もできるようになりました。手が空くと、他部署の応援にまわるまでに成長しています。


 3人目は勤続11年目のYさんです。彼は右手の指がない身体障がい者です。メインの職務は2台の機械から出される製品の引き出しと、次工程への送り出しです。手先が不自由なことを除き、一般社員となんら変わりなく作業にあたっています。


 4人目は昨年入社したUさん。彼は当社での就労訓練実習を契機に、昨年12月に入社しました。真っ直ぐで几帳面な性格であり、安全第一、良品出荷という点では、妥協しない製品チェックでお客様の評価も上がっています。一時、上司に無視されたと思い込み、仕事が手につかなくなったことがありましたが、すれ違いが原因だと理解した後は、元気に働いています。メインの職務は、機械で行うことが困難な仕上げ作業を担う手作業部門全般ですが、専用器具で仕事をこなしています。


障がい特性を考慮する


 33年前に初めて障がいを持つ方を雇用した際は、大きな騒動がありました。お互いの気持ちが通じず、ストレスがたまってしまい、大声を上げたり、機械を思いきりたたいたり、トイレッ卜ペーパーをすべて便器に入れて詰まらせるなど、たびたびトラブルが起こりました。


 当時の工場は、職人肌でコミュニケーションをあまり取らない社員が多かったことも要因のひとつでした。障がいを持つ社員は、持っている障がいによって、どうしても制約が生じます。それは、作業スピードの場合もあれば、コミュニケーションが難しい場合、判断能力が伴わず作業に支障が出る場合など様々です。彼らの障がい特性がわからず、社員から「一緒に仕事はできない」との意見が圧倒的多数となる時期もありました。


 このため、配置される障がい者の特性を考慮し、様々な要素において安全作業が第一となるよう作業工程の組み立てを行いました。その結果、全社的な労災の抑止効果、良品生産体制の構築、そしてソフト面ハード面を問わず、職場環境の向上を実現するに至りました。


 また一般社員と共に、社内親睦会や社員旅行にも参加してもらっています。いつの間にか、皆が障がいを持つ社員へ気配りできるようになり、相手へ思いやりの気持ちを持てる社風が生まれました。


 また仕事に関する明確な指示と、「報・連・相」も徹底しています。曖昧な指示では障がい者は混乱します。やるべき作業を明確に示すことが重要で、同じ作業やルーチンワークでも、マニュアルをつくり、わからないこと、できないことはすぐに責任者へ報告・連絡・相談する体制を整えています。


 当社は障がい者だからといった特別扱いはしません。健常者だから100%できるかと言われればそうではありませんし、障がい者だからできなくて当たり前ということも通用しません。障がい者であっても決められたルールは守ってもらうことが大切です。


適材適所の人員配置は
全社員の負担も軽減


 近年、少子高齢化がますます進み、就業可能人口の減少が加速しており、地域や産業を問わず人手不足という言葉をよく耳にします。特に我々中小企業の製造業では、大手メーカーでは請けることが難しい小ロットの製品や、細かな仕上げ作業が必要な製品の依頼も多く、そのすべては手作業でこなしていかなければなりません。こうした軽作業や単純作業が多い工程に障がい者を充てることで、効率的な人員配置を行うことが可能となります。


 先ほどご紹介した4名の障がいを持つ社員は、機械のオペレーターを任せることはできませんが、補助業務や軽作業は一般社員と変わらぬ仕事ぶりです。適切な部署へ適切な人材配置を行うことにより、社員・パー卜社員の負担軽減にもつながり、顧客からの依頼に対しても、より細やかな対応が可能となります。


 就業可能人口が減少を続ける中で、何らかの障がいを持っている人々の雇用を確保するだけではなく、会社を支える一翼として貴重なマンパワーとなり、活躍が期待できる存在であると思います。


就労に必要な準備と
環境づくり


 当社では、1978年から毎年3校、職場実習を受け入れています。職場実習は、工場での作業が初めての生徒さんがほとんどですので、安全面を考え、工場内ではなく、工場2階の製造事務所で行っています。事務所ですが外からの大きな音や警報音が聞こえ、工場内にいる雰囲気は伝わります。最終日には、当社工場長と手作業部門の責任者が同席した反省会を開いています。


 また、生徒の保護者を対象とした職場見学も行っています。障がいをもつ子どもが社会へ出て仕事をするのは、容易なことではありません。会社は学校とはまったく違う環境であることを、保護者の方にもしっかりと理解していただかなければなりません。


 そのほか、就労移行支援施設からの就労訓練も受け入れており、本日の分科会座長である吉岡所長の就労移行支援事業所「あるば」さんからも、工場での訓練を受け入れています。


全員が働く満足感を
得られる会社に


 私は「札幌支部第14期経営指針研究会」に参加して、経営指針をつくりました。策定に当たっては、一般社員、パート、役職者などすべての社員とのヒアリングを行い、当社が置かれている業界の状況や今後の展開も踏まえ、経営理念と10年ビジョンを成文化しました。


 経営理念は、「一、お客様の要望に応えられる企業作りを目指します。一、地域社会から必要とされる企業を目指し仕事を通して社会に貢献します。一、安全を第一に、社員一人一人がモノ作りに生き甲斐の持てる会社を創ります」の3つを掲げています。


 10年後のありたい姿を描いた10年ビジョンには、①他社には出来ない商品を武器に、10年後一緒に働いている全員が人間として、社会人として、家庭人として豊かな暮らしを送っていける会社を創る。②少子高齢化が進み、機械設備の自動化が予想されます。全員が経営者の気持ちになり、良い仕事、安全と健康を主眼とし、全員参加型の会社を創る。③商品開発部門と営業体制の確立をし、独自販売路線の確立、それに伴い生産ラインの増設、4色印刷機導入、大型ボトムケース対応機、自動搬送ラインの増設で企業基盤を強固な会社にすることを掲げました。


 中期経営計画では、2024年に創業50年の節目を迎えるにあたり、ラインの見直しや、生産体制の確立と少子高齢化に伴う自動化、ロボッ卜化への生産基盤の整備と企画開発及び営業力の強化に取り組みます。


 ビジョンと中期経営計画をつくるにあたっては、『会社は、障がいを持つ社員も含めて社員の生活がかかっている場である』ことを根幹に据えました。
 一つ屋根の下で仕事を始めたその日から、全社員が理解を深め合い、その人の一番良いところや強みを活かした仕事に取り組めるよう、支え合うことが大切です。そのためには同じ方向、目標や見通しを持たなくてはなりません。


 今後も「働く満足感を得られる会社を実現する」という強い思いを持ち、当社のあるべき姿、社員の意見や志、これらを反映させた10年ビジョンと中期経営計画の実現に向けて、まい進したいと思います。


(2018年10月19日「第35回全道経営者“共育”研究集会inとかち」第5分科会より 文責 清水大地)

 


 

■会社概要
設  立:1974年
資 本 金:2,000万円
従業員数:43名(正社員32名、パート11名)
事業内容:ダンボールケース印刷製函・化成品断裁及び製袋