【55号】北海道のものづくり~最高品質を求めて~
2007年01月01日
(株)カンディハウス 代表取締役社長 渡辺 直行 氏(旭川)
旭川から世界
当社の創業者である長原實会長は、かつて旭川市が実施していた青年技術者海外派遣制度により、1963年、28歳でドイツに渡りました。その際、現地の工場で日本では雑木として扱われている道産ミズナラが、最高級木材として使用されているのを目のあたりにし、大変なショックを受けたようです。帰国して1年半が経った1968年、「地域の材料で、地域の技術で作った製品を、東京で売り、いつかは世界でも売りたい。ヨーロッパに負けない家具を旭川でつくる」と会社を起こしたのが当社の始まりです。
設立当初は販売に苦戦しましたが、78年の東京営業所開設を契機に高度経済成長と日本の家庭生活の洋風化という追い風によって、売上を伸ばしてきました。
その後、海外にも販売網を広げようと80年に旭川・札幌の同業者と共同でアメリカのサンフランシスコに拠点となるショールームを作り、初代の駐在員として私が赴任しました。しかし、最初はアメリカ人への販売に苦労し、現地の日本人を相手に細々と売上を伸ばす程度でした。そこで、本格的な展開を図るために、アメリカ人にも受け入れてもらえる商品ブランドづくりに取り組むことになりました。82年ニューヨークでプロジェクトチームを編成し、1つのブランド名が誕生しました。それが現在の社名である「カンディハウス」です。
翌年にはアメリカでの本格的な展開にむけて現地法人「北海道デザインズインク」をサンフランシスコに設立しました。しかし、ブランド名と社名が異なっていることはお客様に混乱を招く結果となり、製品の売行きも芳しくありませんでした。そうしたことから、85年に社名をブランド名の「カンディハウス」に変更しました。するとバンクオブアメリカやアップルコンピューターなど有名企業からも仕事が来るようになり、展望が開けてきました。その後、85年のプラザ合意で急速に円高が進み、製品を値上げせざるを得なくなるなど厳しい場面も経験しましたが、今日まで売上は大きくないですが旭川で作った家具を輸出させていただいています。昨年はドイツ・ケルンに現地法人を設立しました。
良い製品づくりこそ国際競争力の決め手
日本では、つい最近まで1億総中流社会といわれていました。そうした中で、1番売れるのは、ボリュームゾーンの商品です。したがって、売れなくなると挙って売れ筋のものを作りたがりますが、そこは1番競争の激しい部分で、なおさら売ることが難しくなるという悪循環に陥っていました。
一方、ものをつくるコストや原価を考えると、日本は技術が高くても低くても、給与の差はあまりありません。旭川ではどんなに差が開いても最大で3割もないと思います。しかし、海外では技術の差は何倍もの給与格差になり、海外で高級家具をつくると価格は高くなるのです。
逆に日本では、腕の良い人を雇い、良い製品をつくってもそれほど価格の高い製品にはなりません。そうしたことを考えると、良い製品をつくることは、国際競争力のある製品をつくることになります。したがって、カンディハウスはハイエンド(高性能・高品質)なものづくりに挑んでいます。
ハイエンドなものづくりの条件
ハイエンドなものをつくるための条件として、素材が良いこと、デザインが良いことがあります。日産自動車(株)の中村デザイン本部長は、ものの価値を考えるときに、機能的な価値と情緒的な価値があると話されていました。機能的な価値は、パソコンの処理能力や自動車の速度など数値化出来るものです。情緒的な価値は、美しいとか優しい、かわいいなど感性に訴えるものをいいます。
家具には情緒的価値がとても大切で、その最たるものがデザインです。当社では社内はもちろん、海外のデザイナーとも頻繁に仕事をしています。ただ社内だけで行うと工場の生産性などの制約状況を考えすぎ、革新的なものが出来ない傾向にあります。ところが、海外のデザイナーは、そんなことは御構い無しに様々なデザインを提案し、結果として面白いものが生まれるのです。
もう一つはつくりが良いことです。これは技術や技能という言葉で言い換えられます。技術は数値に置き換えられたり、自動化出来たり、比較的継承しやすいものです。また、高度な先端機械なども指し、コストを下げるための重要な手段になります。一方、技能は数値化出来辛く、勘どころや経験に裏打ちされているものです。
家具は最終的に人間の手で仕上げなければなりません。また、材料を選ぶことも人間の技能です。品質の良し悪しを決定するのは技能によるところが非常に大きくなります。したがって、技術を磨くと同時に、技能も磨き、それを伝えていかければならないのです。
アイデンティティーが問われる時代
今、ヨーロッパは和食ブームで、ファッション業界でも日本がブームになっています。同じように家具インテリアの世界でもトレンドは日本です。例えばイタリアのミラノに、紳士服の有名ブランドであるアルマーニのビルがあります。その地下に、アルマーニ・カーサという家具インテリアショップがあり、そこの雰囲気はまさに日本です。非常に低いベッドには行灯のようなベッドスタンドやライトがあり、和風の雰囲気を演出しています。そうした状況はヨーロッパで大きな潮流になっています。
それはなぜでしょうか。少し大きな話になりますが、20世紀は物質文明、科学技術、経済市場主義といった言葉に象徴された時代だったように思います。しかし、21世紀になり、どうも我々の未来はこのままじゃ立ち行かないぞという認識が生まれました。それは人口問題や環境問題、エネルギー、リサイクル問題等々、20世紀には見落とされていたことがクローズアップされてきたからです。
日本は農業の国として歴史を積み重ねてきました。ですから日本人は、もともと自然と一体に暮らすのが得意な民族といえるのかもしれません。いま、そうした中で培われてきた生活様式が、アメリカやヨーロッパの人々から強い共感を得ていると思います。
彼らは我々に日本的なものを求めています。それも、短絡的なことではなく、深い日本性のようなものを。それがきちんと発見できないと我々の商売に展望はないと思います。中国やヨーロッパからこれまで以上に家具が入ってくることを想定すると、日本でもなかなか評価されない時代が来る。そうなったときに、我々、日本のメーカーとしてのアイデンティティーが最も問われることになるはずです。そうした状況下でも我々は地元の家具メーカーとして北海道・旭川にこだわったものづくりを続けていきたいと考えています。
【設 立】 1968年(2005年社名を(株)インテリアセンターから(株)カンディハウスに変更)
【資本金】 1億6,000万円
【社員数】 340名
【年商】 40億6,000万円(平成17年実績)
【事業内容】 木製家具製造販売業(一般家庭用7割、公共空間用3割)
【営業拠点】 国内12カ所、海外2カ所(アメリカ、ドイツ)