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【54号】会社は変われる~社員の共感を得る経営指針づくり~

2006年01月01日

清水勧業(株) 代表取締役社長 土屋 洋二(札幌)

 

 もともと私の会社は十勝に縁がありまして、十勝清水町で、電柱に使われる木材を納入していました。その後、本社を札幌に移転し、電設資材や電設工具の販売をはじめました。


 私は20年前に現会社に入り、創業者の父の後を継いで、入社5年後に社長になりました。


 電力の供給が重要であった時代は会社の業績も順調に推移したのですが、バブルが終わり、電力自由化によって、競争原理が導入されるようになると、ただ電設資材を納入しているだけでは、会社が先細りになってしまい、新しい事業の展開を考えていかなくてはなりませんでした。


 また、2代目社長というのは創業者から経営を引き継いでも、創業者の思い入れまでをそのまま全て引き継いでいるわけではありませんから、何かの折にふれて、何のために経営をやっているのか?と自問自答を繰り返してしまう時があります。


 そのため、昔から「経営の方針」という形で企業の理念は成文化されているものの、もう一度、創業者の思いに深く触れてみよう、経営指針を見直そうと思い、同友会の経営指針研究会に参加しました。

 

社内にも経営指針研究会

 

 経営指針を作成した先輩経営者から経営指針をつくるよりも社内に広めることの方が難しいと聞かされていました。経営指針をつくっても、社長の机の引き出しに経営理念を閉まったまま、社内で発表できないという方も結構いらっしゃるようです。


 そこで、同友会の経営指針研究会に参加しながら、同時進行で、部長以上役員6名と社内で経営指針研究会をつくり、社員とともに経営指針を作成しました。


 同友会の経営指針研究会で学んだことを、そのまま社内の経営指針研究会に持ち帰っていく。同友会で他の経営者から指摘されて帰ってくるので、社員からの疑問や批判にも応えやすく、理解されやすかったのです。


 もちろん社員にも経営理念のシートを書いてもらい、各々書いた理念を元に率直に議論し合いました。社員からは「社長の言葉は心に響きづらいですよね」と厳しい指摘も受けました。


 社内の経営指針研究会で特に議論になったのは、会社の社会的責任についてでした。会社の社会的責任という言い方をするときに、税金を納めることとか、雇用をすることが会社の責任だとの意見が出されました。そのような意見も確かにそうなのですが、何よりも地域社会に存在し続けるということが会社の社会的責任の最たるものではないかとの議論に落ち着きました。


 ただ経営指針づくりを社員と一緒にやってみて、皆の話を聞きながら、「会社の役割とは何なのか」などを必死になって議論してみたのですが、正直に言って、社員の考え方のレベルと私の考え方のレベルとは何か違うと感じました。


 実際に社員と経営指針をつくってみて、社長の熱い心をわかれというものがないと、経営指針を社内に浸透させることなんかできないと思いました。


 けれども、社長が持っている人生観などを社員にぶつけてみる。それに対して、社員から色々言われながら、社員とやりとりをしていくことで、社長も成長させてもらえるわけです。自分を磨く努力をするのが社長の責務に違いありません。


 なぜなら、社長の人格だとか価値観、人生観というのは重大な経営資源たるものだからです。


 そういう意味では、経営指針づくりを行うなかで、社長自身の生き方や人生観、価値観が大事だとつくづく思いました。

 

経営理念を浸透させるために

 

 こうしてできあがった経営指針ですが、今度は社内全体に浸透していくにはどうしたらいいのかということになります。


 非常に印象に残っているのですが、ユタカ商会の本郷社長のよく言う言葉に「会社は風で育てる」というのがあります。会社は社風で社員を育てるということです。


 実は経営理念や経営指針も同じで、社風や会社の雰囲気を織り交ぜていかないと、取って着けたものになっていて、なかなか社内に受け入れられない。
 社長の考えが会社の雰囲気に合っていると、社長の考え方が自然と浸透し、社風になる。


 宮城県同友会代表理事の佐元工務店佐藤社長が「先輩が後輩に自然と会社の理念や雰囲気を伝えていくのが一番いいのだ」とおっしゃっていました。


 そうなるには、会社の雰囲気や社風が理念を体現できるようにするのが、重要なのではないかとのことでした。とはいっても、それがなかなかできないので、皆さんも頭を悩ませていると思うのです。


 社風が理念を体言できるようにするためにはまず、社員に役立ち感や参画感、達成感を持ってもらえるようにすることが肝心だと考えています。


 今の若い人たちは役に立ちたいが、自分がどうやって役に立っていいのかわからない。だから、企業の仕事を通じて、社会の役に立つという言い方は若い人の心に響くようです。うちの会社は社会に対して、いいことをやっている、自分の仕事が社会に役に立っているという役立ち感を持ってもらえるように心がけています。


 また、社会に役立つ事業という感覚を全社員が共有し、皆で経営指針に参加するという参画感、さらに仕事を通して自分の努力が実っていくことができる達成感を味わう。このようなことが社員の心に根付くことで、経営指針を社内に浸透させるきっかけになるのではと思っています。

 

参加から参画へ

 

 私の会社でいろいろ取り組んだなかで、社風づくりに役立ったものがいくつかあります。社風づくりに活かすために取り組んだわけではありませんが、参加型の経営ということを意識して行ないました。


 なかでも、社内に委員会組織をつくり、誰でも会社を良くする一員であるという意識を具体的な形にするようにしました。


 最初にできたのは福利厚生委員会で、何を最初にやったかというと土曜日を休みにしようということでした。世の中の流れとしましては、土曜を休みにする流れがあったわけで、休みにしたいからということで委員会をやったのです。


 委員会で社員が自主的に議論を行っていくうちに、ただ土曜日を休みにするという要求を貫き通すのではなく、土曜を休みにするためには何が必要かと研究し始めました。


 同友会の例会などで、土曜を休みにするための勉強会に参加してみて、生産性を上げなければ、土曜日を休みにできないことが理解でき、生産性を上げながら、土曜休暇を増やしていこうということになりました。それも、会社に受け入れられやすいように委員会に所属している社員たちでカリキュラムを考えて提案しました。


 このように最初の頃は、土曜を休みにして欲しい、給料を上げて欲しい、勤務時間を短くして欲しいというただの要求だったのです。しかし、社員に具体的に取り組ませてみると、どうすれば会社のことを考えつつ、生産性もあげて、自分たちの要望をも実現できるか、しっかりと考えるようになりました。


 そのうち、勤務条件のことだけでなく、社員教育はどうするのか、社内のコミュニケーションをどうしようかとの話になり、社内報をつくるなどの取り組みが見られるようになりました。


 今でも、第一土曜日は委員会と会議の日として、全社員、それぞれの委員会に所属して、社内のことについて議論するなどの活動を続けています。


 委員会と会議の日を設けたことで、社内全体がまじめにかつ楽しい雰囲気で、わいわいがやがや活気あふれる会社になり、社内を活性化させた要因になりました。


 最近では、社内で新商品開発プロジェクトを立ち上げ、電材販売の会社が動く類のものではなかったのですが、カラスをゴミに寄せ付けないようにする巻取式ゴミステーション「カラスまいったー」や家庭用らくらくシャッター開閉器「シャ楽」という商品を開発しました。これからは電材販売だけではなく、会社の新たな核をつくらなければならないと考えていたのですが、会社の委員会活動などで、社員全員が会社の経営に参画し、会社をよくしようとする気持ちを醸成したことがベースになって実現したものです。


 社員と経営指針をつくり、経営指針について社内で勉強したことで、新商品開発の機運が会社全体に高まり、社員が自主的に取り組むようになって、新商品プロジェクトを立ち上げて、それらの商品が誕生していったわけです。


 私は会社全体が変われる予感を強く持ちました。このように経営指針を社内に浸透するには経営理念に共感してもらうための社風づくり、組織づくりが必要であり、そして、何よりも取り組むべきことはまず社長自身が変わっていくことが大事なのではないかと思います。

 

(文責 丸岡)

 


 

■会社概要
【設  立】 1947年
【資 本 金】 4,000万円
【社 員 数】 24名
【業  種】 電気機器、電気資材の卸販売。