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【54号】社員共育は経営者育ちから~人間として成長する喜びを共有するために~

2006年01月01日

(株)伊藤塗工部 専務取締役 伊藤 雅彦(札幌)

 

同友会との出会い

 

 私の会社は建設業です。ある設計事務所の先生のご紹介で、今から16年前に入会しました。まずは青年経営者の部会である未知の会に所属し、次第に地区会にも顔を出すようになりました。まだ30代の若造でしたから、ベテラン経営者や幹部の皆さんに揉まれる経験は貴重であり、何と言っても重責を担う社長の生き様を学ぶことができました。

 

同友会大学にチャレンジ

 

 私には3歳年上の社長である兄がおり、常にセカンドとしての自分でありたいと思っております。そんなある日「同友会大学」の存在を知り、経営者として自らが成長することの大切さを体験することになります。かねがね同友会大学の厳しさは聞いておりましたので、最初は尻込みしておりましたが、事務局の勧めもあり、申し込みました。41歳の時でした。同友会大学は現在50期を迎え、卒業生は1,994名にのぼります。週2回、夜6時~9時までの3時間、全30講。経済、歴史、経営分析、法律、科学、教育と幅広いジャンルで学び、しかも単元ごとにレポートと卒論の提出が課せられております。大変な思いをして、私は何とか卒業することができました。

 

中堅社員研修会での出来事

 

 当社は、10年、20年選手の現場経験者が営業に配属になります。ところが、勝手が違い右も左もわからない。そこで研修会へ出すわけですが、同友会の中堅社員研修会に私も一緒に参加した時のことです。グループ討論の報告者に当社の社員Sがなったようで、前に出て話し始めました。まず「実はこの研修会に本当は来たくなかった」と前置きし、「目標達成に関する議論の中で、当社は価格が高過ぎて仕事が取れない、という話をしたら、オブザーバーで他県から参加していた経営者の方に『君は本当に価格が高いから仕事が取れないと思っているのか?』と聞かれた。その時、ハッとして赤面した。自分は安くする努力をしたのか? なぜ高いのかプレゼンも含めきちんと伝えていたのか? 何も考えていなかったのではないか。今日、自分に足りない点がはっきり分かった。」。きかん坊で自分をしっかり主張する社員でしたから、自ら気づいたことに、私はすっかり嬉しくなりました。


 私の卒業から数年後、今度は彼らが同友会大学の門をくぐることになります。

 

大人になっても勉強するの?

 

 働き盛りの彼らは、山のような仕事を抱えているので、大学での勉強はかなりハードです。しかし、全講受講し、無事卒業式を迎えました。達成感に満ちた、いい笑顔でした。成績はともかく、よく続けたなぁと思います。そして、学んだ後の本音を聞いてみました。「うわさ通り大変でした。凹みました。」「でもね、専務。家に帰ってレポート書きをしていたら、小学校4年生の娘がやってきて、『お父さん、大人になってからも勉強するの?』と聞かれ、そうだよと答えると『へぇ~。じゃぁ私もやろう!』と横へ来て、一緒に勉強し出しました。びっくりしました。母親にいくら言われてもやらなかった子が、自分から勉強を始めたんです!」。僕は、この一言で、同友会大学に行かせてよかったと思いました。

 

共育委員会は問題意識を継続させてくれる場

 

 私は札幌支部共育委員会に所属しておりますが、ある時中堅社員研修会の講師をお引き受けいたしました。ところが、いざ話し始めると誰も聞いていない。途端にシドロモドロになってしまい、受講生には申し訳ないことをしました。なぜそうなったのかと言いますと、自分の言葉で語っていなかったからです。充分理解もしていないのに、どこかの文献を引っ張ってきて話す。伝わるはずがありません。今度は、自分の身の丈に合った話を、わかり易くしたいと思いました。また押し付けや諭すのではなく、むしろ自分の失敗談をお話する方が、目を輝かせて聞いてくれます。これだ! と思いました。しかしいつまでも失敗談では困りますので、勉強していつかは皆さんの前でいいお話ができるようになればよいのだと気づきました。

 

千葉での全国総会に参加して~部下に“あこがれ”を贈れるか~

 

 今年の8月、千葉で開催された中同協定時総会に参加しました。私が選んだ第8分科会「共に育つ(共育)とは何か」では、まず「こんばんは」という映画を鑑賞しました。東京墨田区にある夜間中学校が舞台です。そこには学校に通えなかった老人、日本語が不自由な在日のオモニ、不登校の少年など様々な人たちが通ってきます。そういう彼らと日々向き合う教師たちとの日常を、3年の年月をかけてカメラが追ったドキュメンタリー。感動を超えた何とも言えぬ熱いものが、込み上げてきました。この後講演に立たれた大田堯先生(東京大学名誉教授)は次のような言葉をおっしゃいました。『我が子を愛するとは、自分とは違う一個の人間として愛することであり、自分とは異なるその存在と生き方を愛することである。反発や拒否や抵抗をも愛することである。私たち大人が子どもにできることは、より良き人生への、まことの正しい人生への“あこがれ”を贈ることである。子どもの可能性(未熟さ)に、いま大人には計り知れない未来の創造を託すことである。』この言葉に出会い、自ら気づくことの大切さを学びました。果たして私は、部下に「あこがれ」を贈ることができるだろうか、考えさせられました。

 

息子とのエピソードから

 

 つい最近あった我が家での話です。私は高校、大学とフェンシングをやっていました。大学は1部リーグ優勝校で、社会人になってからも続けています。息子も小学校4年から始めて、今高校3年です。そこそこの成績で、本人も私の卒業した大学へ進学するつもりでいるように見えました。ところが、ある日妻から「本当は違う大学に行きたいようだ」と聞かされ、耳を疑いました。1日頭を冷やし息子と話すことにしました。大田先生の『自分とは異なるその存在と生き方を愛すること』という言葉が頭をよぎりました。


 私は「他の大学に行きたいんだって」と切り出し、本意を汲み取れなかったことを詫び、行きたい大学へ行くように薦めました。すると彼はしばらく考え、意を決したように、私の母校でフェンシングをがんばる、と言いました。そして「これは僕自身が決めたことだから」と言い、込み上げるものを押さえながら、自分の部屋へ駆け上がって行きました。この時の彼の胸の内は、わかりません。しかし大田先生の言葉に救われた思いがしました。もしこういうプロセスを経なければ、知らぬ間に我が子を傷つけていたかもしれない、と私は思うのです。

 

自分を育ててくれた人

 私は3歳年上の兄がおります。小中高を通して、生活のいたるところで随分鍛えられました。


 もう一人は大手から当社にきて19年間私を育ててくれた中村副社長です。営業を通して、自分を磨くことや、人間としての有り様を仕込んでいただきました。

 

自ら変わる力を信じて

 

 自分には能力があまりありません。でも、できることはあります。それは、誰にでもできる当たり前のことを、誰にもできないくらい当たり前にやってみることです。簡単にいうと、「継続は力なり」ということです。とにかく言い続けて、言い続けて、言い続ければ伝わるのではないかと思います。


 大田先生の言葉に出会いあらためて、教える、指導することよりも、自らが気づくことの大切さを痛感しました。上に立つ者は部下の可能性を信じ、部下は自ら気づくことのできる高い感性のアンテナが必要だと思います。人は、自らが納得し、やる気を出した時、周りが驚くほどの力を発揮します。これこそ、みんなが望む成長だと思います。成長は、恥をかきながら失敗の中から学ぶことです。成長は、自分自身の生きがいと誇りです。成長は、家庭を壊さず幸せにします。一人一人が成長することは、我が社の大きな“めあて”であり、戦力です。社員が成長し、家庭でも会社でもあてにされる存在になるならば、私は本当に嬉しく思います。


 何はさておいても、私自身、同友会での出会いと学びが大きな財産となっています。


(文責 細川恵子)

 


 

■会社概要
【設  立】 1918年
【資 本 金】 6,000万円
【従業員数】 60名
【業  種】 塗装工事、防水工事、壁画アート、色彩設計