【54号】社員が主役の会社をつくる~熱血社長が語る人育て奮闘記~
2006年01月01日
丸成鈴木建業(株) 代表取締役 石森 将敬(釧路)
私の生い立ち
私は名寄市に生まれ、幼いころは本当に勉強が嫌いで、中学・高校では、試験の成績も後ろから数えた方が早く、常に劣等感を感じながら過ごしていました。
しかし、札幌の大学に入ると、今まで劣等感を感じていた自分に変化が訪れます。自分の周りの人間が、自分よりも勉強ができず、自分が教える形になりました。その中で、あてにされる、頼りにされる喜びを味わい、それが嬉しくて、試験の前には独自の予想問題集を作ったりしました。
知識を得るという勉強の本来の目的とは違いますが、「こんな自分でも人の役に立てるんだ」という、頼りにされることが嬉しくて楽しくて、勉強していたと思います。中学・高校の時には、常に成績が悪く自分に自信がもてず、何事も引っ込みがちでしたが、この大学での経験が今の私の会社づくりの基礎になっていると思います。
帳簿も就業規則もない会社に就職
この大学時代に、「簿記」の面白さに出会い、税理士を目指して、昼間は大学、夜は専門学校というWスクールという形で勉強をしていました。その専門学校で出会った彼女の実家に挨拶に行った時、彼女が「丸成鈴木建業㈱」という釧路にある建設会社の社長の娘だということを知りました。
ある時、彼女が「私は会社を継ぐために実家の釧路に帰らなくてはならない」と落ち込む状態が続き、悩みぬいた末に税理士の夢を諦め一緒についていくことを決心しました。
会社に入りすぐに、棚に並べてあった会社の会計関係の書類を見てみました。よく見ると、何も書類がない、つまり経理をしていない。不思議に思い社長の奥さんに「社員にどうやって給料を渡しているの」と聞くと、「何もしていない」と答えました。つまり、各工事毎に、現場の責任者にお金を渡し、そのお金を下の社員に分配するというやり方で、決算や財務の知識も社長や社長の奥さんですら全然理解していない。そんな状況の中、自分の大学で勉強してきたことが役立てることもあるのでないかと思いました。
ときには、経営に対する価値観の違いから、揉めごともありましたが、結局はお互い会社の繁栄を願っていることがわかり、現在では協力しあいながら会社づくりを行っています。
1994年、31歳で同友会に入会
入社してしばらくは経理として働いていましたが、会社や仕事の流れが見えないので、実際に現場に出て大工として働いていたときに、病気を患っていた先代の社長が亡くなりました。それに伴い、社内には不安や混乱も生じましたが、残された従業員や取引先の支えもあり、何とか危機を乗り越えることができました。
そして、これからは経営についての勉強もしていかなくてはと考え同友会に入会しました。同友会に入会する前は、目の前にある仕事をこなしていくという受身のような仕事の仕方をしていましたが、同友会に入会し他社の社員教育の取り組みなどを聞きながら、社員教育の大切さなどを学ぶ中で「人を育てる」という観点を教えられました。
それが今の自社での取り組みに繋がっています。
お互いに排除し合う社員達
当時、我が社では何十年も尽くしてくれた60歳を超えて体力的に衰えた社員に対して「モノを作れない人間はダメな人間。お前はもういらない。生産性が悪いから用済みだ。」という考えのもと、邪魔者扱いし、高齢の社員はもちろん、これから何年か後にそうなる中高年の社員も不安を抱えていた時期がありました。
我々の業界は、職人の集まりで、それぞれの職人が口を揃えて「俺は技術は誰にも教わらずに、盗んで築き上げてきたんだ」といい、下に下に技術を伝え教えていくことをしない。
それはなぜかといいますと、自分の立場がなくなるからなんです。それは、自分よりも体力もあり、伸び盛りでやる気もあり吸収する能力のある若い社員にどんどん教えるとどんどん吸収して、自分を超えていってしまう。その結果、技術を伝えずにいじめて社員を辞めさせていってしまうという悪循環が続きました。
共に学び育ち合う仕組みづくり
このような状態を何とかしたいと考えて、取り組み始めたのが新入社員研修でした。初めは私がカリキュラムを作って新入社員に教えていたのですが、社員にも「分かる人が分からない人に教えていく」ということを理解し、頼られる・あてにされる喜びを社員にわかってもらうために、私が作ったカリキュラムを叩き台として、社内でこの先生役を募集し、「自分の今までの経験を踏まえて、この時期にはこのような内容の勉強や実習が必要だと思ったら好きなように書き換えてみて。私よりみんなの方が、現場にいる経験も長いし、私の作った知識だけ与えればいいというカリキュラムの中に、現場にいるベテランとしての視点から書き換え、盛り込んでいって欲しい」と伝えて取り組んでもらっています。その取り組みを続けていくと面白がってやる先生役が一人また一人と増えてくるようになりました。
高齢の社員には、「とにかく若い社員に自分の全ての技術を伝えて、自分の体力のない部分は若い人間の運動量でカバーしてもらいなさい。その技術を教えた若い社員に「定年が来たけどもう1年、会社にいてくれ。もう1年いいでしょ。俺らにとってあんたは必要なんだ」と組織の中で言わせてくれと常に伝えています。
このような共に学び、育ち合う活動を社員だけでなく、その家族に知ってもらうために毎月発行している社内報【丸成新聞】があります。
我々の仕事は塀の中での仕事が大半で、社員が働いている姿を奥さんや子供に見てもらいたいと思い、今まで発行し続けています。
しかし、この写真入りの新聞ですら見てくれない社員もいる中、どう自社の歴史や理念を伝えていくべきか悩んだ末に、取り組んだのが自社の20周年の時に作製したDVDでした。これに自社の歴史や経営理念を盛り込みました。それは従業員も非常に感銘を受けてくれて、見て泣いてくれる社員もおり、このDVDを見た社員が、会社で支給している作業服に自腹を切って自社のマークをでっかく入れてくれるような嬉しい出来事もありました。このような取り組みを通じて少しずつ会社に愛着を持ってきてくれるようになってきたと思います。
社員が主役の企業づくり
昔は、社内で、技術の講習会ばかりを繰り返しやってきたのですが、一向に品質も生産性も上がらない。そうではなくてやはり愛社精神ですとか働くということの意味や意義、そして生きる上での喜びは、お金だけではないという所に気付かせるということが人を育てていく上での根底になるのではないかと感じています。
このような取り組みを通じて「会社の主役はみんな一人一人なんだ」というメッセージを発信し続けると共に、自社の社員教育の取り組みの中でそれぞれが自分達の後輩を育てる、そして、自分自身も育てられるという「共に育つ企業づくり」を目指して取り組んでいます。
私たちは、同じ山に挑戦する登山隊であり、会社はコンサートホールであって主役は従業員一人一人なんだ、主役になりたかったら、自らがその気になって主役になれということを常に伝えながら取り組んでいます。
これからも同友会で学びながら、社員が主役の企業づくりに取り組んでいきたいと思っています。
(文責 畠山)
■会社概要
【設 立】 1985年
【資 本 金】 1,000万円
【従業員数】 100名
【業 種】 建築、土木、舗装