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【54号】十勝経済の現状とフードシステム構築に向けて

2006年01月01日

帯広畜産大学 教授 伊藤 繁(農業経済学)

 

十勝経済の現状

 

 産業間の取引関係が把握できる産業連関表(1995年作成)をもとに、十勝経済の現状を分析してみたいと思います。


 圏内生産額23,499億円に占める粗付加価値の割合は54.6%(12,830億円)で、全道平均よりやや低い数値です。つまり、十勝経済の付加価値は低いということがわかります。


 また、圏内生産額と輸移入9,012億円を合わせた額である十勝の総供給32,511億円に占める輸移入の割合は27.7%(9,006億円)です。全道平均が18%ということを考えると、かなり多くの財貨が輸移入されています。そして、定義上で総供給と一致する総需要における輸移出の割合の17.8%も全道平均の12.4%というように、輸移出も高い構造になっているのです。

 

十勝経済におけるフードシステムの現状

 

 フードシステムとは、生産から加工・消費に至る食品のプロセスを表します。十勝ではフードシステムが基盤産業であると思います。


 産業連関表から十勝経済におけるフードシステム部門を見ると、産業合計に対する割合で輸移出は59%と高くなっています。また、フードシステム部門の中間投入と付加価値の産業連関表で注目すべきは、産業合計に対する粗付加価値の割合(16.4%)と雇用者所得の割合(7.6%)が低いことです。フードシステムは十勝経済の中で大きなシェアを占めますが、雇用者は少なく、したがって雇用者所得の割合も少ないのが現状です。


 農業と食品製造業部門に限り他支庁と比較すると、畜産(酪農、肉牛)が1,460億円で全道最大の生産額、耕種農業も1,333億円と全道三位の生産額(1位は空知の1,666億円)を誇っています。農業と食品製造業の合計生産額は5,438億円と全道3位ですが、人口一人あたりの生産額は152万円と全道2位になります。特に畜産と耕種農業の水準はかなり高く、生産額の面だけみても、これが十勝農業の強さであることがわかります。もう一つの特徴は、農業・食品製造業の移輸出の割合が他の支庁と比べても非常に高く、移出経済が成り立っていることです。ただ、生産額全体に占める畜産の割合は高いのですが、畜産関連の粗付加価値は低くなっています。


 以上のことから十勝の産業構造をまとめてみると、耕種農業と畜産(酪農、肉牛)の生産規模がほぼ同額の水準であり、しかも他の支庁と比べてもかなり高い水準にあり、バランスがよいといえます。さらに畜産は産業連関効果が高く、フードシステムを強固なものにしてきました。その結果、十勝経済全体に占めるフードシステム部門への依存度は50%以上となったのです。しかし、粗付加価値は低く、移出経済の性格が強くなっています。移出経済の性格と粗付加価値の低さは、十勝農業のメリットである生産規模を活かしきれていないことを示しています。今後は同じ圏内で2次、3次の加工度を高めることが、これからの十勝のフードシステムを維持、発展させる大きなポイントとなります。

 

エコ・フードシステムの構築を

 

 今後の十勝経済を維持し発展させる戦略として、エコ・フードシステムの構築が必要であると考えます。


 エコシステムは、人間をとりまく自然環境と社会環境との相互関係をなすシステムと定義されます。これを産業の側面から見ると、モノの生産から流通、消費までを担う動脈産業と、消費後の廃棄物等を処理、再生産につないでいく静脈産業が円滑に循環し、バランスよく機能することがエコシステムを維持する大きなポイントです。しかし、残念ながら十勝では一円の生産額を得るために、全国平均の約3倍の2.9グラムの廃棄物を出しています。これは畜産や食品製造業の部門に特化している十勝経済の特徴であり、フードシステムが生み出す廃棄物です。


 また、今日、消費者は食の安全、安心を求めており、これを無視してフードシステムを維持することは出来ません。そのため、北海道で進めているクリーン農業などを十勝でもっと推し進める必要があります。しかし、このクリーン農業はコスト高になり、価格競争では勝てなくなります。


 そこで、エコシステムとフードシステムが連動するエコ・フードシステムが必要になります。農業技術の改善や十勝農業の特徴である規模の経済的優位性を両立できるシステム構築に、産官学が連携して取組むことが十勝経済に課せられた課題だと思います。


(文責 事務局 佐々木靖俊)