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【54号】お菓子で笑顔を届けたい~感動を与える企業づくり~

2006年01月01日

(株)柳月 代表取締役 田村 昇 (音更)

 

お菓子は母の愛情

 

 当社は1947年に私の父が創業しました。父は終戦直前まで満州拓殖公社に勤めており、丁度東京へ書類を届けに戻ってきた時に終戦を迎えました。


 父は紋別の上渚滑町の農家の四男坊です。実家へ戻っても家を継ぐ事は出来ないと恩師に相談しに行くと、恩師に「世の中のためになることをしなさい」と言われたそうです。そうして東京から戻る汽車の中で泣き止まない子供に、近くに居たおじさんが、見るに見かねてキャラメルを一つ口の中に入れてあげたら、ピタリと泣き止みました、その様子を見て「お菓子は母の愛情と同じくらい素晴らしいものなんだ」と感じてお菓子屋になろうと決めたのだそうです。
 終戦直後、砂糖は配給制でした。当時帯広には東洋一の砂糖工場があり、そこに行けば何とかなるだろうと考え父は帯広に出て、共同でアイスキャンディ屋を開業し、そしてお菓子づくりを始めました。1947年のことです。


 素人のうえ、立地条件の良くない場所で開業しましたから、お客様に来店頂くために1)他店にない商品、2)買いやすい価格、そして3)絶対によいサービスをする、この3つを基本に据えたといいます。当初は、父が菓子を作り母が自転車で売り歩いていました。

 

日本人の美味しさの基準

 

 そうこうしているうちに、帯広にもイトーヨーカドーが出店しました。当時父は、大型店出店に反対し、頑固でしたから出店後も大型店へのテナント出店を断り続けていました。逆に特徴のあることをしようと、原材料をフランスから取り寄せフランス人講師による本格的なフランスケーキフェアーを開催しました。このフェアーは話題を呼びましたが、今ひとつ人気が伸びませんでした。悩みながらいろいろと考えて気がついたのは、味覚の微妙な違いです。日本人の主食がご飯に対し、フランス人はフランスパンであり肉が主食です。硬さが違えば好みにも違いがあったのです。これは私にとってはすごい発見でした。これはひょっとするとおいしさの基準も違うのではないかと疑問に思ったのです。


 どこかにおいしさの基準値があるはずだと、主食に視点を当ててみました。ご飯を口に入れたときの感覚と、パンを口に入れたときの感覚はまったく違うのです。パンはドライで舌にざらつきご飯はウエットでのど越しが滑らかです。両者はまったく違うのです。このように分析していくとおいしさの基準値が見えてきました。


 当社には三方六という代表的なお菓子があります。このお菓子はドイツのバウムクーヘンというお菓子をベースにしています。私は、フランスケーキフェアーやいろいろな経験を経て、日本人にとって一番おいしいお菓子の作り方になるように、このバウムクーヘンの配合やレシピを既存の商品とはがらりと変えました。生クリームやバターをふんだんに入れ、滑らかでウエットな食感になるように作ったのです。おかげさまで、三方六はモンドセレクションで最高の金賞を頂きました。ヨーロッパ人にも世界にもウエットな感じのバウムクーヘンを評価して頂いたと思っています。


より安全・安心・健康なお菓子作りを


 21世紀はおいしさはもちろんのこと、より安全・安心で健康になるお菓子を作らなければなりません。そこで当社では新しい時代への対応を考え、増築に次ぐ増築で能率も悪かった帯広市内の工場を移転し、2001年に新工場スイートピア・ガーデンを完成しました。この建物は帯広に隣接する音更町に建ち、敷地面積1万坪、地下1階、地上4階建てで4,200坪の床面積があり東京ドームよりやや広い位です。建物には運搬やお客様用にエレベーターが5台あります。駐車場は前庭だけで100台、予備用に100台、従業員用に200台用意致しました。


 10年前から工場を建てる計画を立て、5年前には建設地を選び、現在地に決定しました。洪水など防災対策を重視し、仮に十勝川が氾濫しても、大地震が発生したとしても被害を抑えることを考えました。また、商品の安定供給が出来るように、高速道路のインターチェンジに近い立地を選びました。


 お菓子はすべて農産物で出来ています。三方六はチョコレート以外全部十勝産の原材料でつくっています。また、当社仕入れ額の50%は十勝産の原料です。農業を巡る環境がどう変わってもこの十勝産の原材料でお菓子を作り続けたいのです。砂糖でも小麦粉でも国産と輸入物とは価格が3倍は違い、他の大手菓子メーカーは外国産の安い材料でお菓子を作ってくるでしょう。そうなっても絶対勝てるためにここに工場を建てて、安心、安全、健康なお菓子作りを目指しているのです。

 

お菓子で家族団らんの場を

 

 残念ながら日本の家庭から団らんの場がなくなり、親子のコミュニケーションの時間も無くなってしまいました。人類のこの豊かな生活があるのは、親から子へ子から孫へ豊かな体験が受け継がれてきたからのはずです。その根本こそが大切なのです。だから私はお菓子を通じて家族のコミュニケーションの場を作りたいのです。お母さんが「ケーキを買ってきたよ」といえば絶対子供さんは部屋から出てきて一緒に食べるはずです。そうすればケーキを囲んで親子団らんの場が出来ると信じています。そこに私たち柳月の社会的使命があると思うのです。


 でも毎週買うには財布のことも気になります。毎週買って頂けるために、当店ではショートケーキ一個の平均単価を150円に設定しているのです。これなら500円玉で3個買ってもお釣りがきます。ところがお菓子の原材料は小麦粉も砂糖もバターも政府が価格を決めているため、たくさん使っても原材料費は安くなりませんし、卵や小豆は相場物ですからどこで買おうと価格は同じです。実際、全国のショートケーキの平均価格は大体300円前後から350円、銀座では一個500円です。150円でケーキを作るということは本当に大変なことなのです。

 

低価格・高品質を保つために

 

 原材料費が変わらない中でいかにして150円でお菓子を作るか。当社はそのカギは生産性にあると考えております。例えばお菓子を作っている時間を計り分析をすると、一歩歩くのに0.7秒かかっています。工場は広いので効率よく歩かないとロスタイムが出ます。ロスタイムを作らないよう工程管理をしながら、一人一日あたりの生産高が前年比を切らないよう努力しています。


 札幌に出店するときのことです。土地も高いし人件費も高く、交通費もかかるので、「正直この価格ではきつい。帯広の価格より10円高くしたい」と札幌に行く社員を集め話しましたら、「私たちが頑張るから札幌のお客様にも帯広と同じ価格で売りましょう」と社員が言ってくれたのです。この価格で提供してこそ柳月の価値がある、そうした他の企業に出来ない社会的使命を持つことが大切であることを再認識したわけです。

 

企業の目的は地域の人たちをより幸せにすること

 

 企業の目的は地域の人たちをより幸せにすることであると思っています。このスイートピア・ガーデンにエレベーターや庭を作ったり、店舗に喫茶コーナー、菓子づくり体験の出来る工房を併設したのは、地域の人たちにとってここを憩いの場にして頂きたいと願ってのことです。喫茶コーナーは50席程ございますが、コーヒーは無料です。日曜日などちょっと時間ができたときに足を運んで頂きたいのです。155円のショートケーキでも57円のシュークリームでもいい、わずかの出費で幸せになれるということは、お客様にとって大きなメリットになると考えています。商売というものは会社よりお客様に儲けて頂かなくてはいけないのです。


 こんな畑の中でと思われるかも知れませんが、出来立てのケーキが食べたいという声や、工場見学やお菓子作りの要望もございましたので、その場所としてご提供しております。結果として相乗効果を生み、多くのお客様にご来店頂いております。お客様が価格も含めて幸せを感じられる仕組みが出来ているから、足を運んでくださるのだと思います。

 

日本一を目指すために

 

 技術力では、工芸菓子の分野で、札幌で開かれた洋菓子コンテストに六名も入賞致しました。中でも札幌市長賞を受賞したのが入社4年目の若い社員でしたが、審査では創造性を高く評価してくださいました。すると他の社員たちも俄然張り切り、勤務時間を終えてから夜遅くまで約2カ月間、20名の社員がジャパンケーキショーに挑戦したのです。この賞はレベルが高い国内のコンテストですが、今回金賞1名、銀賞2名、銅賞1名と4名が入賞しました。社内が活性化し他の社員達も意欲的になり、技術的に日本の最高レベルに近づいてきました。


 サービスにおいても、当社の社員が多数、札幌のデパートやショッピングセンターで行われている販売コンテストで最優秀販売員に選ばれています。またポスフール釧路店の接客作文コンテストで1位を取ったりと、販売社員も各地でトップレベルになってきました。


 問題は私が日本一の経営者にならなければ日本一の柳月にはならない、ということです。私自身大変なプレッシャーを感じつつ、社員と共にさらに学び続けているところです。

 

(文責 小村)

 


 

■会社概要
【設  立】 1947年
【資 本 金】 5,000万円
【従業員数】 526名
【業  種】 菓子製造販売
直営店38店舗(帯広13店舗、道央地区16店舗、釧路地区9店舗)