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【53号】「麦の里えべつ」で地域経済活性化 ~「江別小麦めん」を核とした地域ブランドづくりの取り組み~

◆江別製粉株式会社 取締役営業部長 佐久間 良博 氏
◆株式会社菊水 常務取締役 杉野 邦彦 氏

 

 

江別を地域ごと元気に江別小麦を取り巻く状況

 

佐久間  「江別という地域を、地域ごと元気にする方法はないだろうか」。私と同様に江別に住み、仕事をし、生活する多くの人々が共通して持つそんな思い。「江別小麦めん」がプロジェクトとしてスタートしたとき、関わった多くの人々の基本にあったのは、多くの人が持っていたそんな思いでした。


 札幌のベッドタウンというイメージが強い江別ですが、実は面積の45パーセントは農地です。その中で1,800ヘクタールが小麦、1,100ヘクタールが米作という、小麦の栽培を中心とした、れっきとした農業都市です。


 皆さんご存知の通り、国内で流通する小麦のほとんどは輸入に頼っています。北海道でも、ホクシンやチホクといった品種は生産されていますが、高タンパクで需要の多い品種のハルユタカや春よ恋は栽培の難しさから、安定供給には今日でも程遠い現状です。


 そんな中、農業をベースにして、地域の企業や市民が一丸となった取り組みができないかという模索が始まることになります。生産者を中心に、JAや大学、研究機関などの協力も受けて「江別麦の会」が発足し、小麦の栽培に関わる様々な課題の克服を目指すことになりました。具体的な技術革新はもちろん、生産者をはじめ小麦に関わる多くの人々の意識に変化が起こり始めました。

 

地域資源の再発見と新たな出会い

 

佐久間 「農業をベースに江別を地域ごと元気に」という同じ目的を抱きつつも、そんな思いをもった人々が出会い、特に異業種の方々とのネットワークを継続的に構築していく作業は、なかなか広がらないというのが正直な感想でした。


 そんな意味で2002年は、ある種衝撃的な出会いの年だったのではないでしょうか。この時、私も杉野さんに、ある意味で「初めて」出会ったのです。

 

杉野  当社が札幌から江別に進出して、もう30年が経ちます。しかし今回の取り組みで、菊水は「初めて」江別に進出したような気がします。


 当社は札幌生ラーメンを中心に1億食を越える生麺類を全国に出荷している製麺企業です。江別からいつも全国市場に目を向けていたので、肝心の江別に向いていたのは背中ばかりで、地元の資源に目を向けることもありませんでした。


 経済が右肩上がりの時代は、量がすべてですから、圧倒的多数の消費者が相手です。しかし、経済の成熟化で、多様化した消費者の要望に応えるようになると、これまで目を向けていなかった江別のもつ資源が、あらためて価値のあるものに見えてきたのです。


 ラーメンの製造には高タンパクな小麦が必要です。全国で作られているラーメンのほとんどが輸入小麦を使っているのは、そもそもラーメンに適した小麦が国内に少ないからなのです。


 その点、「ハルユタカ」は品種改良によって日本で初めて、高タンパク質を身に付けた非常に優秀な小麦です。しかし、北海道で生産される小麦の1%とごくわずか。でも1%の3分の1が江別で作られているのです。


 このことを知ったとき、菊水が江別に存在している理由がここにあるかもしれない、と思いました。


 そんな中、2002年9月に江別市の経済部を中心に発足した産官学連携の「江別経済ネットワーク」という組織に参加し、どんな小さなものでもいいから具体的なプロジェクトを立ち上げたいという気運が盛り上がってきました。


 江別で取れた小麦を江別で粉にし、江別で麺にする。家庭用は江別で限定販売され、業務用は江別の飲食店でその店独自のレシピで調理される。これが「江別小麦めん」の取り組みです。

 

点から線へ、線から面へ広がる活動

 

杉野  それから我々は、江別小麦めんの実力を試そうと、東京で開催された「ラーメンカップ」に出品しました。全国選抜の有名店10店が、その日1日だけのオリジナルラーメンで味を競う真剣勝負。2000人の参加者にラーメンが振る舞われ、目隠しの審査が行われました。果たして江別小麦めんは全国に通用するのか…その結果は、なんと優勝。江別小麦めんの実力がまさに証明された瞬間でした。


 これを機に、経済ネットワークの中にラーメン部会が立ち上がり、いよいよ江別小麦めんが本格的に船出することになりました。

 

佐久間  その他にも「麦の里えべつ」はその実現に向けて着々と活動しています。


 江別小麦めんを出す飲食店は現在では25店を数え、市内の飲食店街には「麦の里えべつ」の幟をあちこちで見かけるようになりました。そして江別市内ほとんどのスーパーで江別小麦めんは扱われ、市民に親しまれています。


 色々な意味で広がりと厚みを増してきたこの取り組みですが、小麦を栽培して粉や麺にして市民に食べてもらうだけでは、本当の意味での地産地消ではありません。それが地域の誇りと活力になり、将来へつながるものでなくてはなりません。


 2002年に開催された「菓子祭り」や「ものづくりフェスタ」の中で、同友会の江別地区会がバックアップして実現したフォーラムには二つのテーマがありました。ひとつは「江別・見渡せるエリア」。一声かければ、企業・行政・大学・市民が集まり、共同してすぐにでも何かができる町。


 もうひとつは「食=農」教育の問題。子供に対する教育。この2つのフォーラムから、江別の、そして我々の進むべき方向性が見えてきた気がします。

 

杉野  2002年4月24日、江別市民会館を借り切って「麦の里えべつ」発表会が開催されました。そこでは麺だけでなく、パンやお菓子など、江別小麦を素材にした食材が並びました。報道陣もたくさんお見えになり、200名を越える市民が1,000円の試食券を買って会場にお見えになりました。まさに「見渡せるエリア」です。


 いまや、江別小麦めんは学校給食へも取り入れられています。さらに、地元の小学生が実際に小麦畑へ足を運び、製粉工場を見て、それが小麦麺になる過程を体験する機会も設けられています。


 教育の分野で、食と農のあり方を考えるきっかけにもなっているのです。

 

江別小麦めんは何をもたらしたのか

 

杉野  地域ブランドづくりの取り組みの中で、作る側・消費する側の責任と義務があると感じるようになりました。品質に責任を持ち、安定して作り続ける作る側の責任。食べ続け、ブランドを支え育てる消費者の義務。それぞれの立場で、果たすべき役割があるのです。

 

佐久間  そういった意味では、まず小麦を生産する農家の意識が大きく変わったように思います。補助金に頼るこれまでとは違う道を歩き始めました。


 以前だと、収穫前の麦畑は倒れたり、病気になったりして、あまり見栄えの良いものではありませんでした。それに比べて現在の麦畑は見違えるようにきれいになりました。美しくなった麦畑の風景が、農家の意識の変化を象徴しています。

 

杉野  江別産の小麦粉、パン、麺、お菓子などを1つに包んだ「江別包(えべつつみ)」という商品も生まれ、江別をひとつのブランドとして江別以外にも発信していくようになりました。


 そもそもブランドとは、牛に押す焼き印のBurnedが語源で、他との区別のためのものでした。それが現代では、製品だとかサービスを他の物と差別化することに変わってきたのです。


 江別をブランド化するために徹底して江別を差別化することを、我々は「江別化」すると呼ぶようになりました。

 

佐久間  こうした様々な取り組みは、決してひとりではできなかったことも事実です。これまで点でしか存在しなかった財産が、線となり、そして面(麺)となって次々と具体的なものを生み出していく原動力になっていく。本当の意味でのネットワークが機能し始めました。

 

地域を元気にする真のブランドとして

 

佐久間  それでは、今後我々はどのような形でこの取り組みを進めていくべきなのでしょうか。


 外発型(企業を外から誘致して)ではなく、地域の資源を掘り起こし活用すること。もっともっと自らの足下を見つめる必要があると、私は考えています。


 当社では1時間に500キロか1トンくらいの製粉能力をもつプラントをスタートさせました。500キロというと、小麦畑がちょうど1反ほどの量です。


 これまで取り組んできた江別ブランドからさらに一歩踏み込んで、例えば、個人の農家のブランドを確立するなど、よりフォーカスされた独自で特徴的なブランドを育てていくことも大切なのではないでしょうか。


 「江別の○○農園のラーメン」が、現実の商品として我々の口に入る日もそう遠くないのかもしれません。

 

杉野  私はいつも、3つのEが大切だと言っています。1.Easy 2.Enjoy 3.Effort。難しく考えず、自ら楽しみ、しっかり努力する。そんな人が何人か集まると、そこから何か新しいものが生まれてきます。最近では、周りから「江別って元気な町だね」と言われることも多くなりました。


 この1年半プロジェクトに関わってきて、様々な人と出会い、何よりも私自身が1番育てられたと感じています。


 今回は、この間の江別の取り組みについて具体的にお話させていただきましたが、今度は皆さんがそれぞれ自分の会社や地域に置き換えて、もう1度考えていただけると幸いです。

 

佐久間 このプロジェクトはまだまだほんの入口で、最終的に目指すところはあくまでも、「江別が地域ごと元気になること」です。


 今後も、地域資源の再発見と他地域との連携がますます必要になるはずです。そして何より、自らの地域や企業をもう一度見直して、その価値をあらためて考えてみようという、1人ひとりの心の持ちようと、そういう人を地域ぐるみでどう育てていくことができるかが大きな課題になるのではないでしょうか。

 

(第23回全道経営者「共育」研究集会 第7分科会での報告より 文責 事務局 塩地)