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【50号】革新なくして発展なし

2002年01月01日

 

株式会社三八 社長 小林 孝三(札幌)

 




 私どもの初代で創業者の小林弥三八は福井から北海道へ出てまいりまして、明治38年に札幌で創業いたしました。そして、大正3年に初めて三八という屋号をつけました。


 その後、昭和3年頃に、現在私どもの本社があります、南1条西12丁目に分店を置いたということでございます。ちなみに現在社長をやっております私は、小林弥三八の孫でございます。


 太平洋戦争が始まり、統制令が施行され、砂糖が配給によってしか手に入らなくなるという、お菓子屋さんにとって、大変な時代になりました。当時、行政指導によって、札幌の小さなお菓子屋さんは合同して商売をする事になりました。いろいろな方が参画して、昭和16年、有限会社三八商店を設立したのが現在の三八の発端でございます。以来三八は現在59期、来年で60期を迎える企業でございます。

 

新ブランド「菓か舎」誕生

 

 私どもは、京都のお菓子屋さんに負けない良いお菓子を作ろうというポリシーをもって、ずっと努力してきたつもりです。しかし、世の中はどうも変わってまいりました。お菓子についても何か新しい切り口で考える必要があるだろうと取り組んだのが新ブランドの「菓か舎」でございます。


 私どもは老舗企業とよく言われますが、老舗というイメージは信用があるとか、しっかりした商品を売っているとか、もちろん良いイメージもございます。しかし同時に、進歩がない、古いなどマイナスのイメージもあるのではないかと考えております。


 そこで菓か舎では、三八の商品はいっさい売らず、そして商品も全部新しい物に変えることにしました。ススキノの主力店舗においては大胆にも三八という名前さえも変えてしまいました。


 当時は、お客さんからどれだけの評価がいただけるか、非常に不安に思ったものです。しかし、その心配は全くの杞憂でした。今のお客さんは新しいブランド、そして新しい商品に対して、本当に好感を持って迎えてくれたと感じております。


 たしかに、古くからのお客さんからはずいぶん苦情もございました。「三八さんのあの商品はどうして置いてないの? なぜ三八さんと言う名前を捨てたの?」ということで責められもしました。親戚の叔母さんからは「親不孝者!」と言うことでだいぶ叱られもしました。


 しかしその時私が言ったのは、「それよりも企業をつぶしてしまうことの方が親不孝ではないですか」ということでした。古いものに固執するよりも、新しい切り口で商売する事が生き残る最善の道だろうと思ったわけです。

 

排他性のない街札幌~マーケットとしての特殊性~

 

 そんな中、私も札幌のマーケットについて色々と考えました。札幌はやはり全国でも非常に特殊な街であると思います。札幌のお客さんほど排他性のないお客さんは全国でもないのではないでしょうか。と言いますのは、札幌の人はどこのどんな商品でも、例えそれが関西だろうが東京だろうが、全く知らないブランドだろうが、良い物は良いと簡単に受け入れるのです。
 例えばそれがお菓子屋さんでも、札幌には道内各地のいろんなお菓子屋さんがありますが、「あのお菓子、おいしくて、安くて、可愛いわよ」と言われれば、すべて抵抗無く受け入れることができます。

 

老舗企業にこそ必要なベンチャー精神

 

 そんなこともありまして、頑固に良い商品を守りぬく姿勢だけでは、札幌では生きていけないのではないか、と思うようになりました。これはある意味では非常に残念なことですが、どんどん新しい商品を生み出し、新しい取り組みを率先して実践していく企業方針でなければ、札幌のお菓子屋さんは生き残っていけないと思っております。現在も、またひとつ新しいブランドでも出そうかな、ということを考えたりしているところです。


 仕事に真面目に取り組む姿勢、信用を大事にする姿勢、などの意味においては老舗というのは、とても大切です。私はそのベースの部分だけを大事にしたいと思っています。しかし、やることに関しては、初代の小林弥三八のもっていたベンチャーとしの気概を決して失ってはいけないと考えています。それを失っては、札幌の老舗は生き残っていけないと思うからです。


 とは言うものの、経営者、そして従業員がベンチャーの精神を持ち続けるのは、今の時代、大変難しいことではないでしょうか。歴史を重ねた老舗にとっては、それはなおさらです。


 私は小さな頃から、工場で祖父や職人さんたちと寝起きを共にしながら育ちました。その中で、創業時の祖父の情熱や苦労、ベンチャーの精神を肌で感じることができました。そういった当時の経験が今なお私の心の中に生きております。


 私が今日申し上げたかったことは、たとえどれほど古い歴史をもった老舗企業であろうとも、日々新しいビジネスに挑戦する気概を忘れては、あっという間につぶれてしまう時代だということです。


 それに加えて、老舗の企業は歴史を積めば積むほど、その分、負の遺産というものがつきまといます。


 例えば、私どもの会社では幸い良い社員と良い職人がたくさんおりますが、彼らが今どんどん高齢化して、定年退職者が続出する実態がございます。長い間共に働いてくれたことを喜びつつも、優秀な人材を一度に失ってしまうことは企業にとって非常に大きな損失でございます。そして新陳代謝で新しい人を育てていく、というのも大きな負担でございます。


 これは歴史のある企業にとって負の遺産であると思います。この負の遺産をいかに乗り越えて闘っていくか。非常に重いものが課せられているのではないでしょうか。


 ですから私は老舗と呼ばれても決して喜んだりはしません。日々、創業者である祖父のファイト、何事にもがむしゃらに取り組む姿勢を肝に銘じてこれからもやってきたいと思っています。

 

(2001年9月18日 札幌支部中央東地区例会より 文責 事務局 塩地)

 


 

プロフィール
 1941年設立、資本金3,900万円、従業員135名。年商14億円の菓子製造販売業。
 明治38年、「日ノ出屋」として創業。大正3年、屋号を「三八」として開業。平成2年、新ブランド「菓か舎」を開発し、「札幌タイムズスクェア」を主力商品に、すすきの店を「菓か舎」として開店。平成9年、小林孝三氏、6代目社長に就任。