【講演録】「働き方改革と幸福学」/慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野 隆司 氏
2022年07月15日
幸せの研究は1980年代から行われ、働き方改革に活用できる結果が出ています。企業経営で一番大切なことは儲けることでしょうか?幸せな社員は幸せではない社員より生産性が1・3倍高いという研究結果は、10時間の労働が7時間になる効果があるということです。幸せな社員は不幸せな社員よりも創造性が3倍高く、売上が30%伸びた研究結果や、幸せに働いている人は離職率・欠勤率も低く、ミスをしにくいというデータもあります。社員が幸せに働いた結果、利益も上がり、創造性の高い仕事に繋がる、つまり利益を目標にするよりも、働く人の幸せを目指した方が業績アップに繋がります。
これは会社経営の新しいトレンドで、働く人の心についての研究が盛んになり、様々なことがわかってきました。「明日までにやっておけ」という指示に社員が威圧感を感じると、生産性も創造性も低下し離職率にも繋がることが明らかになった訳です。社員に対して「一緒に頑張ろう」とやる気を出すような声掛けが必要で、働く人の幸せを第一に考えることが大切だと科学的に証明されたのです。
「社員を幸せにしないのはハラスメントだ」という時代が私は来ると思っています。私の考える幸せは「Well―being(ウェルビーイング)」です。ハピネスは楽しい、うれしいという幸せの感情です。一方でウェルビーイングを辞書で調べると健康、幸せ、福祉の社会が良好な状態全ての意味を含んでいます。真剣な表情で生き生きと働いている状態はウェルビーイングであるということです。
金、モノ、社会的地位など他人と比べられる「地位財」型の幸せは一時的で長続きしません。昔は右肩上がりで地位財型の幸せが供給され続けたので、幸せになれた時代でした。一方、「非地位財」型の幸せは長続きします。社会的(安全など環境に基づくもの)、身体的(健康など体に基づくもの)、精神的(心理的要因)に良好な状態を目指すことがより重要です。日本は安全、健康は世界一ですが、ワールドハピネスレポートによると、心の幸せは先進国中最下位、世界では54位です。
働き方改革で「無駄話をせずに早く帰れ、残業するな」というのは良くないパターンです。指示通り無駄話を省くと、社員同士フォローをしなくなります。先輩が後輩を手伝い、教えることで技術が伝承されます。仕事に関係ないことは一見無駄のようですが、雑談から生まれるイノベーションや、人間同士の関係を良くします。幸せな状態になれば生産性は3割上がるので、それこそが働き方改革です。人間はロボットではないのです。
幸せな人とは①自己実現と成長(やってみよう因子)②つながりと感謝(ありがとう因子)③前向きと楽観(何とかなる因子)④独立と自分らしさ(ありのままに因子)―がある人です。生きがい、やりがい、働きがいを高めることが重要です。まずは皆さん自身、そして皆さんの会社の幸せを考えていきましょう。
(4月27日、オホーツク支部オホーツクビジョン普及部会第3回定時総会記念講演より)
まえの・たかし=山口県出身。東京工業大修士課程修了。キヤノン、慶應義塾大理工学部を経て現職。専門分野は人間システムデザイン。 |