【わが人生わが経営 133】丸豊陸運（株）　専務取締役　埀石　勝美さん（74）（札幌支部）

2022年07月15日

経営指針の社内浸透　活発な意思伝達を心掛け

　好きな言葉は「一期一会」。「一期一会の中で、すごく印象に残ることや教えてもらうことがたくさんあった。出会いがないとそういうことはない。人の話を聞くことはいくつになっても大切。自分の知らない世界を知るきっかけになる」

　埀石さんは、1948（昭和23）年室蘭市に3人姉妹の長女として生まれます。学生の頃は妹たちの面倒を見るのに忙しく、部活動に励む時間もなかったと言います。66（昭和41）年に高校を卒業した後、北海道銀行に入行します。大学へ進学したいという気持ちもありましたが、障がいを持つ妹のこともあり就職の道を選択しました。

　同行では、お客様からの電話に対応しながら、お金を勘定するなどとにかく忙しく、常に頭はフル回転でした。また、社会人としてのルールや仕事のやり方を一からたたき込まれたと言います。「そのおかげで今の自分がある。ここで鍛えられたからこそ、それ以降の大変なことも乗り越えられた」と振り返ります。

　73（昭和48）年に同行を退職した後、結婚。3人の子宝にも恵まれます。90（平成2）年、父の横内富美雄さんが創業した丸豊陸運に、父を支えるため入社しました。

　入社当時は、資料がただ山積みにされているなど、社内の物が全く整理されておらず、どこに何があるのかも分からない状態でした。そこで、埀石さんはまず整理整頓から始めました。「最初は文句を言っていた父も、綺麗に収納したおかげで仕事がやりやすくなり、何も言わなくなった」と笑います。

　次に取り組んだのが、経営指針の成文化です。2006（平成18）年の経営指針研究会第3期に参加し、同じグループの参加者からの率直な意見やアドバイスを参考にしながら実践実行します。

　その後、経営指針を成文化しても従業員に浸透しなければ意味がないと思った埀石さんは、回覧板方式で周知させることを思い付きます。事務連絡と合わせての掲載や社内研修会での説明など、絶えず従業員が経営指針を目にしたり、耳にしたりするよう工夫し、根気強く続けました。

　この根気強さのきっかけは、埀石さんが長年続けている趣味の書道で師事する、中野北溟先生の一言だったそうです。―「諦めるのは死ぬときだよ」。

　それから仕事に対しても人生に対しても、諦めずに頑張ろうと心掛けるようになったと言います。

　さらに、09（平成21）年には第27回全道経営者〝共育〟研究集会（北見）に参加し、第3分科会で経営指針の発表者として講演します。自分の経験を自分の言葉で伝える大切さを学んだと言います。「たくさん伝えたいことがあって、原稿にもまとまりきらなかったけれど、堰を切ったように言葉が出た。良い経験をさせてもらった」と語り、普段一緒に活動をしている札幌支部東地区会から駆けつけてくれた仲間の応援が、とても嬉しかったと言います。

　サッポロビールの配送をメインに担う丸豊陸運も、昨年創業50周年を迎えました。埀石さんの娘婿の澤田豊崇さんが、19（令和3）年から3代目社長を務めています。

　現在は、サブ的な役割に回っている埀石さんですが、「従業員との意思疎通」を念頭に置いて業務にあたっています。コロナ禍で懇親会なども開けないため、〝伝える〟ということを意識し、より一層従業員とコミュニケーションをとるように心掛けています。

　「従業員の悩みやストレスのはけ口になってあげるのも、自分の役割。心境としては、自分の子どものような感じね」と、穏やかな表情で語る埀石さん。事業面は若い世代に任せて、見守る側に徹していると言います。

　同友会には99（平成11）年、ブラザー輸送の工藤勇社長（当時）から誘われ入会。2006（平成18）年から19（令和元）年までは札幌支部東地区会の幹事を、11（平成23）年から17（平成29）年までは副会長を務めました。

　同友会の活動で特に印象に残っているのは、07（平成19）年の「1000人例会」です。若くしてこの世を去った童謡詩人・金子みすゞの半生を描いた映画を、札幌市教育文化会館で上映するという企画でした。会場係だった埀石さんは、同地区会幹事だけでは手が回らなかったこともあり、全会員にお手伝いを呼び掛けました。「十数名が呼び掛けに応じ助けてくれたのは、本当にありがたかった」と振り返り、「みんなが一つにならなかったら成功できなかったと思う」と話します。