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わが人生わが経営89 (株)どうしん厚別販売センター取締役会長 熊 敏彦さん(75)

2018年07月15日

オンリーワン目指す 読者の裾野広げる活動を

 

 「オンリーワンという言葉がありますが、世の中が目まぐるしく変化する中で必要な会社、仕事と認められるところは残っていくと思います。そのために何をすべきか日々、考えています」

 

 1942年、札幌に生まれた熊さん。生業としている新聞との関わりは今から約60年前、中学2年生で始めた新聞配達のアルバイトにさかのぼります。小遣い稼ぎと体力づくりが同時にできると考えて始めたアルバイト。次第に働く喜びや意義を肌で学んでいきます。

 

 「よく傍を楽にするから働くと言われますが、配達先の人からありがとうと言われるのが嬉しくて。誰かの役に立っていると実感しましたね」と懐かしみます。高校卒業まで札幌市西区の琴似にあった北海道新聞の販売店でアルバイトし、そのまま入社しました。

 

 就職した当時は高度経済成長期の真っただ中。人口増加、住宅建設ラッシュなどに伴い、新聞購読も伸びていました。「家が建てば新聞を勧めに行くのですが、お客さんが家にいなければ始まりません。そこで、冬であれば煙突からストーブの煙が出ていたら在宅中だなとか、いかに効率良く面談できるか工夫していました」

 

 30代に入り仕事に脂が乗ってきた頃、転機が訪れます。北海道新聞が100%出資する道新販売センターの設立メンバーとして声が掛かりました。このセンターは新聞販売店であると同時に、販売店経営者を養成する役割を担っていました。77年に同社に転職し、営業部長の立場で経営のノウハウを伝授していきます。

 

 センターに移り2年が経とうとした時、厚別区内の販売店が江別市に移ることになり、跡を継がないかと誘いが来ます。それまで経営者になることは考えたことがありませんでしたが、地下鉄が新札幌まで伸ばされることなどを踏まえ「将来的に発展する地域」と独立を決意。79年6月、36歳で創業します。

 

 以降、それまでの経験や柔軟な発想で経営を軌道に乗せていきます。携帯電話がない時代に、急な依頼にも対応できるよう無線機を導入。また、自社でチラシ作成を行い、前日の午前中までに広告原稿があれば、翌日の朝刊に折り込むサービスを提供し、地元の店に大変喜ばれます。

 

 また「この仕事は地域にどれだけ密着しているかが重要」とし、地域・社会貢献活動に力を入れていきます。85年から毎月、無料のミニコミ紙を発行。学校の運動会や町内会行事、少年野球大会と地域のニュースを掲載し、記事ネタの提供や取材を通して地域との絆を深めています。同社単独で始めた取り組みでしたが、今では厚別区内すべての道新販売店と共同で発行し、間もなく400号を迎えます。

 

 1996年には3階建てのイベントホールも建設しました。宅地開発により家が建ち、居住人口が増える一方、地域の人が集まれるような行政のホールが不足していたためです。文化教室やコンサートの会場などとして親しまれています。

 

 長い経営者人生のうちには苦労もありました。社員が増える中、能力を発揮できる人、できない人との間で軋轢が生まれてきたのです。「きちんと見ているつもりでも、知らないところで不平不満があるもの。経営理念をもう一度理解してもらい、そしてチームワークが育まれるよう、膝をつき合わせて話しました」

 

 後継者を育てるには10年かかると考え、13年に社長を息子に任せ、自身は会長として支援に回っています。

 

 同友会には84年に入会。理事や札幌支部幹事、白石・厚別地区会長などを務めてきました。「同友会に入ったおかげで社員教育、経営理念作成の必要性などを学ぶことができ、会社を形作れた」と振り返ります。

 

 その経営理念は社員から意見を募ってまとめ、時代に合わせて見直しているほか「会社を理解してもらうと同時に、自分たちも理念に沿って仕事ができるよう心掛けるため、名刺に書いたりして、お客さんにも知ってもらうようにしています」

 

 若者を中心に新聞離れが進んでいる昨今。熊さんは、社員と一緒に地下鉄に乗り、一斉に新聞を広げて読むといったパフォーマンスを試みるなど、読者の裾野を広げる活動に取り組んでいます。

 

 「新聞記事は記者がきちんと調べ、裏を取って書いたもので、信頼できる。そうした活字には訴える力があり、読者もそれを読み取ることで力が増す」と語る横顔は、信念に満ちています。

 


【プロフィール】

 くま・としひこ 1942年11月26日、札幌市出身。新聞販売店勤務を経て創業。13年から現職。

 どうしん厚別販売センター=本社・札幌市。1979年に創業。各種新聞販売、保険代理店など。資本金1000万円。社員10人、パート120人。