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【70号特集2】コロナ禍だからこそ 『人を生かす経営』で乗り越えよう!

2022年02月08日

コロナ禍だからこそ 『人を生かす経営』で乗り越えよう!
―時代を読み、社員と共に歩む―

 

(株)宮﨑本店 代表取締役会長 宮﨑 由至(三重)

 

清酒「宮の雪」、キンミヤ焼酎などの酒類製造・販売を手掛ける同社にとって、新型コロナの蔓延は、業務用の販売先である飲食店の売り上げがほぼ見込めない片肺(家庭用のみ)経営に陥る緊急事態でした。その状況下で同友会歴37年の宮﨑会長は『人を生かす経営』をどのように実践し、売り上げを伸ばすことができたのか。経営実践からじっくり学びます。

 


 

 私は三重県四日市市で175年続く造り酒屋の6代目です。同友会には1984年に三重同友会の設立と共に入会し、三重同友会代表理事、中同協副会長などを務めてきました。

 

 

 

人を生かす経営の本質とは

 

 事前の打ち合わせで『人を生かす経営』について話してほしい、とリクエストがありました。人を生かす経営という言葉は同友会では当たり前ですが、他団体ではほとんど聞きません。私は中同協で人を生かす経営推進協議会の代表を務めていたときに「人を生かす経営とは何ぞや」と、何度も議論してきました。そこで出た一つの結論が、人を生かす経営とは人間が中心の企業経営でした。


 人間が中心ではない経営はあるのか、ということですが、大企業と中小企業のカルチャーの違いを考えると良くわかります。

 

期間利益と未来投資

 

 大企業の経営者が気にするのは自社の株価です。株価によって時価株総額が変わり、そのことで企業再編などが行われます。大企業の経営者は、時価株総額をいかに上げるかを中心に据えた経営をしています。


 中小企業は株主のほとんどが経営者かその親族です。株が経営に関係してくるのは相続の時ぐらいです。中小企業の経営者は何を大切にして経営をするべきかとなると、社員かお客様ではないでしょうか。少なくとも株価ではないはずです。


 先ほど申し上げたように、大企業の経営者は在任期間中、時価株総額をいかに上げるかを考えて経営します。そうすると設備投資や採用を抑制したほうが在任期間の利益は上がります。『期間利益』を求めることが経営者の評価につながるのです。


 中小企業の経営者は在任期間より、後継者、将来を担う社員がいかに幸せで、企業が発展できるかばかりを考えているはずです。その考えを私は期間投資に対して『未来利益』と言っています。もし、社員の幸せを祈っていない中小企業経営者がいるのなら、経営者を辞めたほうが良いと思います。


 中小企業で数字に強くなるというのは、期間利益ではなく未来投資の数字に強くなるということです。例えば、損益計算書は売上と利益をみると思いますが、減価償却をみていますか。減価償却は未来のための設備投資です。

 

 

ゼロイチを生み出すのは人間

 

 将来を見据えた採用も未来投資です。経営理念がない会社に人は来ません。経営理念を掲げ、経営計画を作成し、将来を見据えた採用計画を実行することが大事です。一方で、これからは人工知能AIが人に代わるのではないかと言われています。AIは過去の書類や出来事から最適な状況を選択するという点では優れていますが、それは究極の前例踏襲だと思います。


 今日のように先が見えない時代、0(ゼロ)から1(イチ)を生み出す発想が企業には求められます。先日、アイリスオーヤマの大山健太郎会長の講演を聞きました。同社は園芸用品をつくり、従来の売り先と異なるホームセンターに売り込み、大成功しました。これこそゼロイチの発想だと思いました。商品開発だけではなく、売り方にもゼロイチ発想は必要です。それはAIからは生まれません。できるのは人間です。そのために定期的な採用活動・共同求人活動をやっていく、これは人を生かす経営の根本だと思います。

 

1億円の壁103万円の壁

 

 所得税の負担率は、年間所得が1億円を超えると低下しており、これを『1億円の壁』といいます。自民党総裁選で岸田文雄氏は、金融所得課税を見直すことで1億円の壁を打破し、中低所得者層への配分を増やすことを検討すると発言しました。この話は多くの中小企業には関係ありませんが、ワイドショーなどではずいぶん取り上げられました。


 先日新聞に、時給が上がることで貰う社員は笑顔、払う経営者は渋い顔というような記事がありました。私も渋い顔をした一人ですが、私が渋い顔をした理由は、払う金額が増えることではなく、パートタイマー社員の働く時間が短くなることを危惧したからです。その理由は『103万円の壁』です。ご存じのように、給与収入で103万円を超えると配偶者控除の対象外になります。多くのパートタイマー社員は給与が上がることで時間調整を図り、その結果、中小企業の現場は労働力不足に陥ります。その解決策は、103万円の壁を撤廃すれば良いのではないかと思います。この問題は、人を生かす経営の本質を突いた問題だと思います。同友会でももっと議論すべきではないでしょうか。

 

なぜ経営理念が浸透しないのか

 

 各地同友会で「経営理念は作成したが、社員に浸透しない」という悩みを聞きます。なぜ、経営理念が浸透しないのか、それは戦略と戦術の違いを理解していないからだと思います。


 当社のメイン商品であるキンミヤ焼酎は値引きをしていません。それはあるときから、値引きをしていたらブランドにならないということがわかったので、値引きをしないことに決めました。これが戦略です。しかし、それだけでは売れませんので、買っていただくための戦術が必要になります。


 キンミヤ焼酎は、東京下町の居酒屋さんから広がりました。居酒屋さんに置いてもらう際に、社内だけで共有されていた『物語(ストーリー)』をつけました。関東大震災の時に、当社の先祖が海路で物資を届けたというストーリーです。古くから営業している居酒屋さんは、そのことを覚えていてくれて取引につながりました。また、販売する容量サイズを見直すことも行いました。


 私は経営理念は戦略だと考えます。その経営理念を戦術にどのように落とし込むか、社員と共に徹底的に話すことで光は見えてくると思います。

 

キンミヤ焼酎/清酒「宮乃雪」

 

老舗は革新の連続

 

 当社は175年経っていますが、常に革新を続け今日に至っています。革新を止めたときから堕落が始まります。100年経った酒蔵がありますが、綻びが出たら修繕することで現在も使用できる状況になっています。父に「由至、古いと汚いは紙一重だぞ」と言われました。古いものは何もしなければ汚くなり、手を加えることで初めて趣があるものになります。これは建物などにだけ当てはまることではありません。経営者のマインドも同様だと思います。


 当社では代々の社長が各々エポックメイキングな革新を行ってきました。私の代では、マーケティングとブランディングで革新を行いました。7代目がどのような革新を行うか楽しみです。企業30年説と言われていますが、企業が変化を恐れず、革新し続ければ不滅だと思います。

 

大正から昭和初期の古い酒蔵が貯蔵庫として利用されている

 

社長交代と事業承継は別

 

 私は4年前に事業承継しました。よく社長交代と事業承継を混同している人がいますが、全く別です。


 皆さん、自社の組織図を見て、社員の名前の下にカッコをつけ年齢を入れてみて下さい。例えば10年後、後継者に引き継ごうと思っているときに社員は何歳になっているでしょうか。未来の組織図はできていますか。そうしたことを考え、未来に向けた採用活動は行っていますか。


 事業承継は社長だけが交代するのではありません。各部門の社員の技術・文化・伝統の承継も必要になります。そのために採用活動が不可欠です。


 私は事業承継には4つの大切な承継があると思います。1つ目は歴史の承継。2つ目は理念、指針の承継。3つ目は資金の承継。4つ目は組織の承継です。これだけ捉えても事業承継は、社長交代だけではないことがわかるのではないでしょうか。

 

人の命を守る経営

 

 東日本大震災後にBCP(事業継続計画)が広がりましたが、捉え方が震災対応に偏っていたように思います。新型コロナウイルス感染症の拡大で、各経営者は本当の意味でのBCP、企業が持続的に継続できる仕組みの構築が問われました。


 人を生かす経営とは人間が中心の企業経営だと述べましたが、新型コロナでは『人の命を守る経営』の大切さを実感しました。そして、これを本当に実践できたのかも問われました。


 当社のBCPの基本は常に最悪を考えた対応です。東日本大震災後には、地震で建物が倒壊しても大丈夫なように敷地内にシェルターをつくりました。新型コロナでは、2020年3月14日に行動指針を作成しました。社員の出勤・欠勤の基準を定め、欠勤になっても給与を保障することを明確にしました。社員のためのマスクも早急に確保し、アルコールは自社で製造しているため、社員はもとより地元の医療機関に届けました。


 社員が濃厚接触者になると14日間の出勤停止と定めました。そのため工場の全社員が濃厚接触者になると、最悪14日間操業できなくなります。そこでラインの配置換えを行い、濃厚接触者になる範囲を3名に止めるようにしました。それでも会社が止まるかもしれないと、全ての商品在庫を14日分積み増しすることにしました。現在も同日数分の在庫は持っています。


 PCR検査キットも早い段階から確保していました。ありがたいことに出番はなかったのですが、成人式を迎えた社員に使用してもらいました。当時は成人式を開催する、しないという議論もありましたが、各企業でも出席させるかどうかの議論が行われていたと思います。当社では、一生に一度の機会だから出席してもらおうと、出社する前に念のためPCR検査キットで検査を受けてもらうようにしました。陰性と判定され出社した社員は、同級生から「お前の会社はそんなことをやってくれるのか。良い会社に入社したな」と言われたそうです。

 

困難な時こそ社員の力を信じて

 

 当社のマーケットは、業務用、家庭用、海外の3つです。業務用と海外は新型コロナの影響で壊滅的な状況になりました。減少分を支えたのが家庭用でした。コロナ禍で家飲みが増え、キンミヤ焼酎の紙パックの売り上げは4割増となりました。これは新型コロナ前から飲食店でキンミヤ焼酎のブランドづくりをしてきた成果と、量販店に置いてもらう努力をしてきた営業社員の力だと思います。


 新型コロナで営業社員は全員在宅勤務になりました。その間、各営業社員は自ら様々な取り組みを行いました。入社3年目の社員は、日本ソムリエ協会が認定する日本酒の資格『SAKE DIPLOMA(酒ディプロマ)』に合格しました。現在、彼は製造の社員と共に商品開発に取り組んでいます。


 今年、当社の大吟醸が一番売れたのは台湾のドン・キホーテでした。海外に行けなくなった台湾の富裕層が同店で日本製品を買い求めたのです。同店のバイヤーとオンラインで直接商談したのは、当社の台湾担当の営業社員です。彼は在宅勤務中に広東語を完璧にマスターし、通訳を介すことなく売り場を確保しました。彼らは困難な中でも自分の力で新たな可能性を切り拓いています。その姿はすごく楽しそうです。


 まだまだ困難な状況は続きそうですが、社員と力を合わせ、自らの力で困難を乗り越えるという同友会精神で頑張って参りましょう。


(2021年10月27日「とかち支部10月例会」より 文責 佐々木靖俊)

 

(株)宮﨑本店 代表取締役会長 宮﨑 由至(三重)

■会社概要
設  立:1846年
資 本 金:6,750万円
従業員数:74名
事業内容:清酒「宮乃雪」、キンミヤ焼酎などの酒類製造・販売

https://www.miyanoyuki.co.jp/