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【70号特集2】コロナでも道外へ飛び出す!

2022年02月08日

コロナでも道外へ飛び出す!
―ブルーオーシャンの新戦略とは―

 

(株)内池建設 代表取締役 内池 秀敏(札幌)

 

2007年、創業者の父親から事業を引き継ぎ、社長に就任した内池氏。自社を取り巻く状況に危機感を抱き、拠点を本社の室蘭から札幌へ移して数々の事業に挑戦します。その経験を経て辿り着いた「戦略倉庫」は、自身の経営哲学「ハングリーであれ。愚か者であれ」の考え方があったからこそ生み出された事業でした。2代目としての覚悟が伝わる実践報告です。

 


 

 当社は1980年創業の、建築工事・設計業務を総合的に行う会社です。拠点は室蘭本社と札幌支店、それに加えて今年の4月から仙台と埼玉にそれぞれオフィスを開設し、現在は4カ所を拠点に活動しています。

 

 

 

私の経営哲学

 

 私は2007年に父親から事業を引き継ぎ、2代目経営者となりました。私自身、2代目とは次のようにあるべきと考えます。


 まず、行動して成果を出すこと。口だけではなく姿勢を見せることが大切であり、そうすることで周りはついてくると思います。また、何事も自分の責任であるということ。よく「先代経営者が自分のことを理解してくれない」という後継者の話を聞きますが、それは相手のことを納得させることができない、プレゼン能力の低い自分に責任があると思うべきです。


 後継者としてバトンを受け取った以上、しっかりと実績を残すことで創業者から信頼してもらえる関係をつくる。だからこそ2代目は「圧倒的なナンバー2であれ」と考えます。


 私は経営者になり、同友会での学びや様々な経験を通して、『ハングリーであれ。愚か者であれ』というフレーズに辿り着きました。アップル創業者のスティーブ・ジョブズが2005年に米国スタンフォード大学での卒業式で発した言葉です。『ハングリーであれ』は現状に甘んじるな、『愚か者であれ』は常識にとらわれるな。この2つのフレーズが15年間の経営を通して得られた哲学です。


 また、新型コロナウイルス感染症騒動を通して、経営に対する危機感を強く抱くことになりましたが、この「危機感」こそが私の経営の源泉であり、『ハングリーであれ』という哲学に通じると思っています。

 

直面した数々の危機

 

 私が経営者になる以前は、当社の売り上げのほとんどは本社の室蘭でした。1985年に札幌支店を開設しましたが、赤字が続いていました。


 当時、当社の事業の柱はいくつかあり、公共事業はそれなりに大きな柱の一つでした。しかし、私が経営者になった2007年、公共事業はすでに右肩下がりでした。住宅事業に関しても同様でした。


 また、室蘭市の人口減少も危機感を覚える大きな要因でした。ピーク時の1970年には18万人を超えていた人口が、2005年の統計では9万8千人、2020年末にはピーク時の半分以下となり、将来的にはさらに減少が進むことが予測されます。


 そして、さらに大きく危機感を抱く出来事が起こります。2006年、受注した工事物件の入金が行われず、1億3千万円もの不良債権を抱えることになったのです。資金は枯渇し、結果として私が1億円の借金の連帯保証人になりました。このまま室蘭を拠点に活動していても市場は縮小し、先行きは見通せません。そこで私自身の拠点を札幌に移すことを決断しました。


 しかし、当時札幌支店を取り仕切っていた支店長は「内池なんて札幌では誰も知らない。利益なんて出るわけがない」という言葉を残し、社員と顧客を連れて会社を辞めてしまいました。残ったのは3名の社員と顧客からのクレームでした。札幌での最初の仕事がクレーム処理だったことを今でも覚えています。

 

会長と中学生の私

 

試行錯誤を繰り返した事業展開

 

 当時、知名度のない札幌で事業を展開するにあたり、私は他社に真似ができない強みを持たなければ新規開拓はできないと考えました。つまり武器をつくるということです。


 まず、最初に取り組んだのがコンビニ事業です。同じ建造物を建てればよいので、効率化が図れると考えました。また、当社が営業を行った先は全国的には大手でしたが、道内では当時10店舗程で、伸びしろが期待できました。


 コンビニ事業は、ピーク時には年間10棟まで実績を上げましたが、今年はまだゼロです。詳細はわかりませんが、会社方針の転換があったのだと思います。また、業界が寡占化され、需給の変化が激しいといった要因が挙げられます。このことから、BtoBの事業は取引先の方針に大きく左右されるリスクがあることを学びました。そこでBtoCの事業を伸ばそうと取り組んだのが住宅事業です。


 元々、住宅事業は室蘭でも札幌でも行っていましたが、他社との差別化を図り、ブランド価値を高めることを考えました。何より私自身が前職でハウスメーカーの営業と設計をしていたので、この事業であれば勝負できると思いつきました。「ハウスクリエーション」というブランドで展開を進めた結果、平均単価を1700万円から2600万円まで上げることができました。ピーク時には札幌で約20棟の実績を上げました。


 しかし、住宅事業は競合が多く、高級路線で進めていたものの、私の力だけでは競争に勝ち抜けません。そこで、私より力を発揮できる社員を採用して取り組みましたが長続きせず、その社員が退職してしまったあと、属人的になっていた強みが消えてしまいました。さらに、高級住宅を展開する中で、より良いものを提供することと、それに見合う利益がついてこないという利益と工数バランスの不一致が起こりました。結果として札幌の住宅事業についても縮小することにしました。


 次に挑戦したのがリフォーム事業です。リフォーム事業は当時拡大すると見込まれ、そこに付加価値をつけるため、エコをデザインするというコンセプトを持った「エコアイズ」というブランドで事業を展開し、拡大をめざしました。ところが、住宅事業以上に競争が厳しく、市場が思ったほど活性化しなかったことなどもあり、結果的に3年前に廃止しました。


 2013年には別会社として「株式会社内池の不動産」を設立し、不動産事業を開始しました。きっかけは飲食店のテナント工事を手がけたときに、情報が不動産会社に集まることが分かったからです。建設との連携も視野に入れてスタートし、「オーナー&ブラザーズ」という不動産のプラットホームサイトも立ち上げました。サイトの名前とデザインを安心感のあるお洒落な内容にし、仲介料が発生しない直接取引のみのサイトにすることで、大手と差別化を図る自信がありました。


 しかし、このサイトも1年で閉鎖しました。「オーナー&ブラザーズ」というブランド名が分かりにくいということが大きな要因でした。時間とお金を投資しましたが、1年経過しても「札幌、不動産」というグーグル検索で、サイトに辿り着くことができなかったのです。

 

経験から生まれた「戦略倉庫」事業

 

 数々の経験を重ねた結果、「武器の条件」を見つけることができました。お客様にとって良い商品であることは大前提の上、①競合が少ないこと②顧客にとって分かりやすく、見つけてもらえること③成長する市場であることです。この3つの条件を“成功するための武器”と考え模索し、生まれたのが500㎡以上の大型倉庫工場建築に特化した建築事業「戦略倉庫」です。


 この戦略倉庫事業を3つの武器の条件に照らし合わせてみます。


 まず競合が少ないという点では、大型の設計施工ということで、技術力・資本力の小さい会社は参入できないため、競争相手が格段に少なくなります。今でこそいますが、当時はグーグルで検索しても競合らしい競合はいませんでした。また、顧客にとって分かりやすいという点では、ブランド名を「戦略倉庫」と名付けたことで多くの人に覚えてもらうことができました。実はこの名称を付けるにあたり、20程の候補名から社内投票を行いました。「戦略倉庫」には誰も投票しませんでしたが、悩み抜いた末に、社員の反対を押し切って「戦略倉庫」と名付けました。


 さらに、成長する市場であるという点について、昨今ECサイトで商品を購入する顧客が増えていることから物流ニーズが高まり、倉庫が必要とされていることが挙げられます。新型コロナの影響によりECサイトの利用が増え、今後終息してもさらに市場が拡大することが予想されます。実際に当社の戦略倉庫の実績としても、今期は3年前と比べ20倍程度に伸びる予定です。

 

戦略倉庫として2020年竣工したシンセメック(株)第5工場

 

愚か者であれ

 

 2020年1月15日、国内で初の新型コロナ感染者が発見され、2月28日に北海道独自の緊急事態宣言が、4月7日には全国で緊急事態宣言が出されました。


 そのような中でしたが、私は3月に戦略倉庫事業の設計を担当する部長を引き抜くために東京に行きました。また、4月1日に仙台準備室を開設し、5月にはプロモーションをスタートさせました。周囲からは「コロナ禍で簡単に成功するわけがない」、「なぜ、この時期に道外進出なのか」など、総じて私のことを「愚か者」と表す発言ばかりでした。


 しかし、こうした行動があったことで、今年の2月に仙台で初受注、4月1日には設計部長を迎え入れることができました。さらに5月には仙台と埼玉でオフィスを開設し、9月には仙台で2件の設計契約を結ぶに至りました。もし、コロナが怖くて行動に移していなければ、これらの成果を上げることはできませんでした。仙台を3年で今の札幌並の売り上げにする予定です。


 縮小する日本経済の中で、常識通りの経営では成長が難しいと感じます。だからこそ「愚か者」と言われる行動が大事だと思っています。


(2021年10月4日「札幌支部連続企画 コロナ時代の経営戦略!」第7回より 文責 中村涼平)

 

(株)内池建設 代表取締役 内池 秀敏(札幌)

■会社概要
設  立:1980年
資 本 金:10,000万円
従業員数:45名
事業内容:総合建設業

https://uchiike-co.com/