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【70号特集3】共同求人活動は自社の不足に気づき 進化・深化・新化を決意すること

2022年02月08日

共同求人活動は自社の不足に気づき進化・深化・新化を決意すること
―採用する手段ではない!―

 

(株)レイジックス 代表取締役 敬禮 匡(札幌)

 

経営者が率先して変化を求めなければ、中小企業は何も変わらない。だから、求人活動は「人を生かす経営」とリンクし「良い人材を採用するための企業づくり」につなげる活動でもあります。共同求人・経営指針・共育を連動して捉え、「待ったなしの自社の実践課題」を見つけることで、よりよい企業づくりを一歩前へ進めましょう!

 


 

 当社は現在、札幌・新千歳空港・小樽で「どんぶり茶屋」という海鮮丼の飲食店を経営しています。従業員33名の小さな企業です。


 1996年に創業した当初は、インターネット販売を主軸に5億円近い売り上げを出すほど急成長しました。その後、ネットショップが乱立し、当社もそのあおりを受けます。売り上げは減少し、私は「社員の能力不足のせいだ」と、一人悩む日々でした。一からつくり上げた自負もあり、自分が自社の一番の理解者で正しいとうぬぼれていたのです。


 さらに「新卒は優秀で中途は癖がある」という言葉を鵜呑みにし、新卒採用を始めます。会社説明会を開催し、400名のエントリー学生のうち、7名に内定を出しました。優秀な新卒が7名も入社すれば、悩みの原因である既存社員は辞めていくと踏んでいました。不純な動機の新卒採用が始まります。

 

同友会でまっとうな経営をめざす

 

 2006年、同友会に入会しましたが、興味が湧かず会費を払うだけの幽霊会員を3年続けました。その裏で、当社の業績はネット販売の低迷により、債務超過に陥っていました。銀行からの返済要求に恐怖を感じていた時、ある銀行の支店長が突然訪ねてきて、「できる限り協力する」と言ってくれたのです。「但し、借金の返済に集中すること、そして真っ当な経営をすることが条件」と、起業して以来、初めて他人から真剣に説教されました。


 まずは、真っ当な経営をするために良い経営者になることを考えました。振り返れば散々な十数年です。良い経営者になるイメージが湧きません。


 そこで2009年4月、同友会大学への受講を決断します。仕事の傍ら受講するのは本当に大変でしたが、この時、地域と社員と共に生きる会社をつくる同友会型経営を学びました。卒業論文は「会社とは人生を共にするチームである。社長も社員も同じチームの一員である」とまとめました。自分が変わることで、社員に対する見方が変わっていく不思議な感覚を覚えています。

 

社員の提案が業態を変えた

 

 その頃、社内会議で新入社員から「お客様に美味しい魚を食べてもらいたい」という提案を受けます。インターネット販売の片手間として始めたどんぶり茶屋は、カウンター8席の小さな店で、500円程度の安価な海鮮丼を提供していました。その新入社員は「今の時代、こんな丼では通じない。期待を超えた感動する海鮮丼を提供したい」とはっきり言うのです。確かにメインは観光客です。北海道での海鮮丼は生涯たった一度の食事かもしれません。


 私たちは新入社員の「プチ志」に気づきをもらい、調理で食に付加価値をつけた海鮮丼のオンリーワンカンパニーをめざすことを決意しました。社員の中にはパソコンを包丁に変え、顧客が感動する海鮮丼を創作した者もいます。他の社員たちも真剣に、一生に一度の海鮮丼を模索してくれ、会社全体が変わってきました。私自身も通信販売事業から撤退することを決め、お金や地位を得るために会社を大きくするという、以前の考えを変えるきっかけとなりました。


 同じ頃、ニュースで大きく報道されていた三井アウトレットパーク札幌北広島の出店依頼が舞い込みます。社員たちは目を輝かせ出店を希望しました。試算しましたが、債務超過直後の当社には無理な話です。断念せざるを得ないと思っていた私の前に全社員が現れ、「自分たちが責任を持つのでやらせてほしい」と頭を下げるのです。私は社員の熱意に負け、一緒に人生をかけようと出店を決意しました。


 そこからの社員は驚くほど変化していきました。シェフの指導のもと、海鮮丼のイノベーションを開始します。2012年のオープン時には、和風以外のイタリアン、フレンチ、コリアンなどを融合したおしゃれな海鮮丼を10種類ほど開発していました。

 

数多くの海鮮丼を開発

 

わかっていなかった共同求人活動

 

 頑張る社員のためにも新卒採用をしたいと考え直し、2010年に初めて、同友会の合同企業説明会に参加しました。安価で参加しやすかったのですが、会場は地味で、企業側にもやる気のなさが見受けられたため、すぐさま事務局にクレームを入れました。すると、当時の専務理事の細川さんに、意見があるなら委員会で活動するようにと提案されます。


 早速、札幌支部の委員会に参加し、合説で感じたことを委員の皆さんにぶつけたところ、当時の山田委員長から「共同求人活動をわかってから、そういう意見を言いなさい」と諭されました。一時はショックと悔しさで委員会をやめようと思いましたが、自分はまだまだ甘い、もっと同友会を知り、学び直さなければならないと気づくきっかけになりました。

 

社員の恩返し

 

 一方、三井アウトレットパーク札幌北広島の店舗運営には思いのほか苦戦しました。ラーメン、オムライスなどが人気な上、オープンから半年経つと、平日のフードコートが閑散とし始めたのです。少ない来客にどうしたら海鮮丼を選んでもらえるか、社員と模索する日々が続きます。


 そこに、新千歳空港のリニューアルに伴い、出店しないかという話が舞い込みました。空港での出店は長年の夢でしたので、即決しました。本社ビルを売却し、道外銀行の融資を受け、出店資金を何とか確保しました。その裏で、三井アウトレットパークの赤字がボディブローのように効いていたのも事実でした。


 さらに2011年3月11日、東日本大震災が発生します。新千歳空港のリニューアルオープンは4月から7月に延期となり、当社は空港店オープンを見ずにキャッシュアウト、不渡り倒産かという状況に追い込まれます。「何があっても雇用だけは命をかけても守るから、3カ月間休業させてほしい」と社員に頭を下げました。私は自分一人で何とか準備しようと焦っていました。しかし、社員たちもメニュー考案や業者との打合せなど、自主的に行動してくれていたのです。社員からは「三井出店の時に、社長が私たちを信じてくれたからその恩返しです」と言われ、思わず涙が出ました。

 

 2011年7月、どんぶり茶屋新千歳空港店がオープンしました。年末には50店舗の売り上げトップ3に入るなど、社員たちは努力してくれました。

 

先輩社員と談笑

 

新卒採用は自社を映し出す鏡

 

 社員数も10名からアルバイトを含めた40名まで増えた頃、偶然、社員の将来のキャリアに対する不安の声を耳にします。若い社員もいずれは家庭を持ち、子どもが生まれることを考えると、大黒柱としての立場、収入が必要になります。しかし、このままの事業規模では収益が増えません。そこで気づいたのは、全社員とその家族の幸福のために、会社を大きくしなければならないということです。そこで、企業理念を変更し、経営目的を明文化しました。


 それでも、新卒採用は非常に苦戦していました。飲食=ブラックという印象が新卒者に不人気の原因となっていました。どうすれば当社に目を向けてくれるのか再び悩みます。


 改めて同友会で学んだ結果、新卒採用は自社を映し出す鏡だと気づきました。学生はなぜ当社に目を向けてくれないのかを考え、①労働時間や休日、就業規則に福利厚生など、若者に魅力的な働く環境になっているか②キャリア形成や企業ビジョンを伝えきれているのか③社長の社員への思い、考え方は正しいのか。これらを鏡に映し出すのが共同求人活動の大切なポイントだと感じました。「人を生かす経営」の考え方です。


 まずは、飲食=ブラック=レイジックスというイメージを払拭したいと考えました。就業規則を見直し、労基法令の遵守を徹底、過酷な労働や休日返上は絶対に行わないと宣言し、有給取得を推奨しました。また、社員の誕生祝いもスタートさせました。

 

人間尊重の経営を胸に刻んで

 

 2013年、インバウンドの特需到来の兆しが見え、当社でも中国人2名を雇用し、インバウンド事業部を開設しました。さらに、外国人のお客様をおもてなしするにあたっては、全社員がグローバルな視点を持たなければならないと考え、海外社員旅行もスタートさせます。お客様の国へ行き、食や文化の体験をすることで接客に生かすことができます。


 また翌年からは、全社会議で年度方針の発表を始めました。社員が成功を実感し、モチベーションをアップしてくれれば結果は必ず出ると考え、数値目標は設定していません。社員を心から信頼しているからです。鋤柄修元会長(中同協)の「もし無条件に信頼して裏切られてしまったときは、経営者としての自分が悪いと腹をくくれないと人間尊重経営はできない」という言葉が胸に刻まれています。

 

チーム・レイジックス宣言

 

 この頃、業績はⅤ字回復しましたが、新卒採用は思うように進まず、中途採用者が多くなっていました。すると、背中を見て勉強しろと言う職人気質の社員や自分のポジションを取られないために、保守的思考の社員などが多くなり、苦労して採用した新入社員の3人に2人が辞めてしまう状況が続きました。


 そこで、後輩を育てることは自分と会社の未来を創造することであり、仲間と共に支えあい乗り越える感動があることを理解させるため「チーム・レイジックス宣言」を考案します。飲食店であるレイジックスは全社一丸でチーム戦に挑み「協力評価」でチームを評価します。社員一人ひとりに対する評価は、「成長評価」で行うと宣言します。


 協力評価を浸透させるために考えたのは、社員理念「チーム・レイジックス『5つの力』」です。①人の力を引き出してあげるリーダーシップ力②仲間の動きに気づき、見れる予測力③他人の仕事を手伝い、自分の仕事はやり切るアシスト力④モチベーションを保ち、仲間に笑顔で接する心の広さを持つ1.1力⑤4つの力をつなぎ合わせる気づき力。この5つの力を意識し行動すると、会社の仲間から「たまごち(魂のご馳走)」が貰えると提案しました。


 成長評価は、社員理念「5つのRAISE(レイズ)」を提案しました。自分が成長したと思う瞬間が社会人としての心の成長であり、成果として与えられるのがお金、休日、自分の時間だと伝えました。5つのRAISEを実践した社員は、投票され年間社員表彰を受けます。中には思わず感極まってしまう社員もいます。表彰の行動規範も高校生のアルバイトから正社員まで誰でもわかりやすいものにし、全社員を巻き込むイベントになりました。企業理念や社員理念の浸透にも一役かっています。


 新入社員メンター制度も始めました。直属の上司以外をお悩み相談できるメンターに任命し、月1回程度自主的に面談する仕組みです。今年の全社員面談でも、社員に本当に成長してもらいたいという思いを込めていろいろ話しました。社員の熱い思いに思わず涙する場面もありました。おかげさまで、直近6年間の中途入社のうち自己都合での退職者はゼロです。


 一昨年、これまでの集大成となる成長評価支援制度を始めました。個人面談を年6回に増やし、今まで以上に寄り添ったバックアップで社員の成長を支援します。目標を設定し、3カ月間のチャレンジ期間があります。中間で進み具合を確認し、目標をクリアすると点数が上がり昇給する仕組みです。この小さな目標一つひとつをクリアしていくことで、理想的な大人をめざしてもらいたいと考えています。

 

社員理念『5つのRAISE(レイズ)』

 

ピンチをチャンスに

 

 2020年3月、コロナ禍に突入し、売り上げは前年の5分の1まで減少しました。休業要請中は売り上げゼロです。すぐに全社員に「みんなの雇用は守るし、給料も全額保証する」と約束しました。


 会社を潰さないために、当面の資金調達も行いました。緊急事態宣言後の休業中、集まってもらった社員に「この状況はちょうどいい!」と伝えました。何を言いだすのかと驚いた社員もいたと思いますが、時間がある今こそ、どんぶり茶屋を次のステージに上げるチャンスだと「どんぶり茶屋2.0宣言」を実行します。


 2019年度は過去最高売り上げと過去最高益を予想するほど忙しい日々でした。時間が取れる今こそ、社員とゆっくり未来のビジョンを話し合いたいと思いました。なぜなら、レイジックスは社員とその家族のために次のステージへ進化し、事業を拡大させる必要があるからです。現在、社員は一丸となって海鮮そのもののイノベーションに取り組んでいます。これは、今年の冬にお披露目予定です。


 私がたどり着いた共同求人活動とは、採用する手段ではなく、会社を変革するための気づきの一つのパーツであると考えます。共同求人活動は自社の不足に気づき進化・深化・新化を決意する活動です。欠員が出てから補充し、人手不足から外国人雇用をしていたのでは、根本的解決にはなりません。合説ブースに学生が来ない、学生は自社に目を向けてくれない、これも時代に添った魅力的な会社になっていないからだと思います。私が一番重要視しているのは、経営者の社員に対しての思い・考え方です。しくじり先生のように馬鹿なことをした自分だから思う一番大切なことです。

 

「労使見解」から学ぶ

 

 皆さんは、採用を担当社員に任せたままにしてませんか。共同求人は経営者自らが参加し、自ら気づかなければならない活動です。中小企業は私たち経営者が率先して変革を実践しなければ、何も変わりません。


 「労使見解」から学び、生き方や学び続ける覚悟を我々経営者が持つということがスタートです。そして社員を認め、経営指針を成文化し、利益確保を進めることで働きやすい環境づくり、社員成長の仕組みが構築され、最終的に我々経営者が成長していることに気づくのです。経営指針、就業規則、評価制度、福利厚生などを見直し、変革していくと、同友会が目的の一つとしている「良い会社」になります。その先には社会から信頼される我々経営者と、そこで働く社員の生きがい、やりがいが得られます。


 数年前、ある会員経営者から「若い社員を雇用できない。役員も含め既存社員は40代以上。仕事のニーズはあるのに、このままでは10年後に企業が存続できない」という悩みを聞きました。地方では、若者の地元離れから企業の存続を不安視する声をよく聞きます。


 共同求人活動は地域を守り発展させるために、若者を地域に残すことをめざす運動でもあります。我々は一人でも多くの若者に、地元に残ってほしいと伝え続けなければなりません。


 採用だけではない共同求人活動の目的をご理解いただき、同友会運動の一つとして持続可能な企業と地域のために、まずは自社で実践、発信していきましょう。


(2021年9月9日「苫小牧支部9月例会」より 文責 深川えりか)

 

(株)レイジックス 代表取締役 敬禮 匡(札幌)

■会社概要
設  立:1996年
資 本 金:2,200万円
従業員数:33名
事業内容:個人旅行者向けの観光飲食店運営、訪日外国人観光対応コンサルティング

 

https://raisix.co.jp/index.html