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【70号特集4】何としても雇用を守り、地域に観光客を呼び戻す

2022年02月05日

何としても雇用を守り、地域に観光客を呼び戻す
―コロナ禍で気付いた経営者の役割―

 

(有)利尻屋みのや 代表取締役 簑谷 和臣(小樽)

 

 創業以来、小樽観光の発展ならびに、歴史を感じる街並みづくりに貢献してきた利尻屋みのや。簑谷氏は事業を承継した翌年度末にコロナ禍に見舞われますが、観光客が激減する中で経営者としての役割を再認識したと語ります。逆境に耐え、再び地元に観光客を呼び戻すため、商店街を挙げて取り組んでいます。

 


 

 当社の商品は、道外からの旅行客に加え、年々増え続けてきたインバウンドにも好評で、国内客が減少する冬季には、売り上げの半分をインバウンドが占めていました。しかし2020年1月末、コロナの流行で中国が海外への団体旅行を禁止すると、翌月には状況が一変します。2月の売り上げは前年比7割に減少、それでも私は「コロナは遅くとも夏までには収束する」と高をくくっていました。しかし満足に営業ができなかった5月には、前年比20分の1まで売り上げが落ち込みます。


 6月以降は少しずつ客数が回復し、11月はGoToキャンペーンの影響で売り上げが前年比50%まで回復しますが、その後感染再拡大の影響もあり、2020年度の売り上げはコロナ前の4分の1弱でした。2021年度上半期も、売り上げはほぼ変わっていません。

 

コロナ禍で経営者の役割を再認識

 

 コロナが拡大した当初、観光客が消えた小樽で私は、「何のために会社を経営しているのだろう」と自問自答していました。そしてたどりついたのは、「従業員とその家族の生活を守るために何としても会社を存続させる」という経営者としての決意でした。金融機関と相談して速やかに資金を調達し、雇用調整助成金や小樽市の「がんばる補助金」をはじめ、利用できる支援制度は全て申請しました。「借り入れを増やしても会社が残っていれば何とかできる」という一念で、コロナ禍でも一人も解雇はしていません。


 資金手当と平行して、固定費を圧縮するために、小樽市内の5店舗を1店舗に集約しました。その後順次再開し、今は3店舗で営業しています。さらにテナントのウイングベイ店を除く2店は、店長が「売り上げが5万円を下回る」と判断した日は休業する権限を与えています。営業時間は短縮し、内勤や製造部門は週1回勤務にしました。


 それでも朝礼で前月の売り上げを発表するたびに、社員は「うちの会社は大丈夫か?」と不安顔です。社員を安心させるためにも、インバウンド需要が当面見込めない中で、新たな柱となる事業の種を蒔き続けています。

 

 

新規事業参入と初の道外出店

 

 当社は従来、ユーモアに溢れたネーミングの商品を、従業員が試食や説明を交えながらお客様へ対面で販売するスタイルを重視していました。当社の店舗前には『お父さん預かります』の看板がかかっています。観光地では、どちらかというと女性の方が買い物好きです。その間、お父さんをはじめとした同伴者の方に、休憩してくださいという意味で始めました。


 同伴者が待つ間に、当社の主力商品である北海道産昆布を粉末に加工した「アラジンの秘密」入りの味噌汁や「ホラ吹き昆布茶」を試飲していただきます。また、エビと昆布・黒大豆のおつまみ「赤と黒のブルース」など、当社の商品をお土産に購入いただけるよう、従業員が勧めていました。


 しかし、コロナ禍で来店者は減る一方です。いかに売り上げを補うかを考え、卸売業への参入に挑戦しました。2021年6月に初めて市内のホテルへ商品を出荷。その後も販路を開拓しましたが、思うようには売れません。原因は観光客の減少だけではなく、当社の販売戦略とパッケージデザインに関係があると気づきました。ユーモラスなネーミングの主力商品は残しつつ、一目見て特徴が分かりやすく道外客にも地元の方にも選んでもらえる視点で、新商品開発に着手しました。


 初めに小樽産の塩製造をめざしました。しかし、一足早く市内で事業化した企業があることがわかり、競合を避けるため「特殊用塩等製造業」の認可を取りました。当社の強みを生かし「天ぷら用抹茶こんぶ塩」など、コンセプトとパッケージにこだわった商品を近日中に発売する準備を進めています。


 また、コロナ禍をかねてから構想していた東京出店のチャンスと捉え、2021年2月に首都圏の商店街を回り、空き物件を視察しました。「お年寄りの原宿」と言われる巣鴨で、1年前まで北海道産品の小売店として営業していた物件に可能性を感じ、すぐに契約しました。この9月にオープンしたばかりです。客層は予想通り地元の年配者が多く、客単価は道内店よりも低いですが、来店客数は2倍近く。思い切って決断してよかったと感じています。

 

小樽へ観光客を呼び戻す

 

 試行錯誤していても、先ほど述べた通り目に見える成果にはつながっていません。ただ、小樽の観光自体が上向かないと業績が上がらないのは、当社だけでなく市内の多くの企業に共通する課題だと考えています。


 そして、地方都市の商店街は、どこでも「若者不足」が顕在化していますが、当社が加盟する小樽堺町通り商店街は、若手経営者が多く青年部の熱量があります。コロナ禍でも毎週会議を開き、多い時は毎日のように顔を合わせながら、いち早く商店街へ、小樽へ観光客を呼び戻そうと活動しています。

 


 2020年3月、商店街の専任マネージャーが企画した、商店街の窮状を訴える「自虐ポスター」を制作して発信したところ、Twitter上で爆発的に話題が広がりました。「さかいまち盛り下がってるぜーっ!!」をはじめ順次10種類作成しました。


 次に私を含む青年部の男性経営者3人で、堺町通り商店街が一方通行であることにちなんだ「アイドル一方通行」というグループを結成。YouTubeでの動画配信に取り組みました。


 「半年でチャンネル登録者が1000人に届かなければ解散する」と宣言し、毎週生配信を続けました。内容は、オリジナルソング、サイン会、オタルンピックと称した8時間ライブ、商店街メルヘン広場で開催した吹き替えヒーローショーなどです。
 リアルタイムで視聴する方は一回当たり多くて30人ですが、後から見る方も含めると一回で2~300人、長時間ライブでは4000人以上が視聴してくれました。熱心な視聴者の中には、商店街のイベントに現地参加してくれる方も出てきました。半年で登録1000人を達成し、活動は今も続いています。


 また、同じ3人組がモデルになり、2021年版カレンダーをつくりました。その名も「~心揺さぶられる十二月~全力中年カレンダー」です。真冬の堺町通りで、雪の中を裸足で上半身裸になりながら撮影しました。「少しでも明るい話題を提供しよう」と作成したものの、売れるかどうか半信半疑でした。それでも200部以上が売れ、堺町通りを応援してくれる方がいることを改めて実感しました。


 一見無駄に見えるようなことにも取り組む理由は、「コロナが収束したときには国内旅行ブームが来る」と予想しているからです。「そのとき皆さんに、一番先に“行きたい”と思い出してもらえるような記憶に訴える商店街になろう」と、商店街の経営者も従業員も声を掛け合い、協力して情報発信を続けています。

 

 

楽しみを提供し地域へ貢献する企業をめざして

 

 当社では2020年11月から、市内20カ所に「小樽おみおみくじ」という100円のおみくじ台を設置しています。名称は私のあだ名「おみおみ」にちなんだもので、大吉の上位に大々吉、大々々吉、超大吉、神大吉があり、3割が大吉以上です。


 コロナ禍でも小樽を訪れてくれる修学旅行生に、「少しでも楽しい思い出をつくってもらえれば」と考えて始めました。低価格で利益率も高くありませんが、時間だけはたくさんできたので、社員と一緒に折り紙を折ったり印刷したり、自分たちも楽しみながら制作しています。


 先の見通しが立てづらい厳しい外部環境は続きますが、経営者である以上諦めるわけにはいきません。また、「目先の売り上げをいかに上げるか」ということではなく、お客様も社員も楽しめる会社、社員が仕事を通じて成長できる会社、そして地域が未来に向けて存続・発展していくために貢献できる会社でありたい、と改めて考えながら日々奮闘しているところです。


(2021年9月27日「しりべし・小樽支部 小樽地区会9月例会」より(一部加筆) 文責 渡部典人)

 

(有)利尻屋みのや 代表取締役 簑谷 和臣(小樽)

■会社概要
設  立:1991年
資 本 金:500万円
従業員数:31名
事業内容:昆布・海藻小売